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収蔵標本解説


 第38号(2010年 3月1日発行)

河邨式脚延長術

標本館運営委員  内山 英一
札幌医科大学保健医療学部理学療法学科 基礎理学療法学講座教授

はじめに
 ポリオの大流行は1960年、北海道に起こった。炭礦の夕張市に始まり、爆発的に全道に広まり、1602人の子どもが罹患し、127人が死亡、830人に四肢や体幹の障害を残した。道立整肢学院の河邨文一郎らは1963年河邨式脚延長器および延長術式を開発し1987年までにポリオ罹患による下肢短縮を中心とした300例以上に臨床応用してきた。
 延長術は骨折の修復過程を巧みに利用している。人工的に骨折を起こし、血行が豊富でよく保存された骨膜に囲まれた骨片間に新生骨(仮骨、callus)が形成されるのを待って(waiting period)、仮骨を一定の速度(1mm/day)で引き離すことにより延長。形成された仮骨は柔らかいため歩行などによりサイクリックな軸荷重をかけることによって(dynamization)、物理的に重力に耐えうる強度をもつ骨組織に変わる。
 河邨法はロシアのイリザロフ法、イタリアのバスチアーニらの方法とともに、骨延長術のパイオニアであり、札幌医大が世界に誇る仕事の一つである。

延長器および手術方法
1963年から1989年に使用した延長器(写真1):チタン合金製で2本の支柱が2個のアーチ状のアームで連結されている。支柱の中央部はねじによる延長構造を持つ。支柱の近位部及び遠位部にはそれぞれ最大3本のピンをクランプできる。ピンの直径は3−5mmのスタイマンピンである。


写真1.下腿用延長器


1992年に開発した新型脚延長器(写真2):延長器はチタン合金とステンレスを組み合わせることにより、旧型と比べ軽量コンパクトだ。下腿用は両側支柱で、直径5mmまたは4mmのねじ付き貫通ピン4〜6本により骨を固定する。大腿用は片側支柱で、直径6mmのねじ付きハーフピン4〜6本により骨を固定する。主ロッドとスケール付きの副ロッドの組み合わせでボックス構造にすることにより支柱の剛性を高くした。術中、術後の延長中に3次元的な骨アライメントの補正を可能にし、延長中の歩行に耐えられる強度を実現した。


写真2.大腿用延長器(新型)

下腿延長術式
大腿と下腿の骨延長術のうち、下腿延長術式を紹介する。

皮膚切開:腓骨骨切りのための皮膚切開は、足関節腓骨外果部より近位約5cmのところを中心に縦に3cm加える。脛骨前方部の皮膚切開は、予定骨切り部の前縁に約5cm加える。骨切り部は、脛骨の上・中1/3付近が選ばれる。

腓骨骨切り術:腓骨は足関節の安定性を維持するために外果下端から6cm以上中枢部で約1cm切除する。スクリューで腓骨と脛骨を固定する。

脛骨の骨膜処理:まず、指先で脛骨を皮下に確かめ、一気に皮膚上から脛骨皮質骨外基礎層板までメスを入れる。次に骨膜剥離を行うが、皮下組織や脂肪組織を骨膜から分離してはならない。また、骨膜を保護するように心掛ける。骨膜は皮質骨外層板を削り取るような感じで剥離し、外側の軟部組織につけておく。剥離は前方内側面を脛骨後面とのなす角状部まで上下に広く行い、外側面も同様に行う。更に先端部が彎曲して半円形になっている骨膜剥離子(飯野式骨膜剥離子)を使用し脛骨後面の骨膜を剥離する。脛骨延長を3cm以上する予定のときは、皮膚切開および骨縦切開を更に上下に拡大して骨膜を剥離し、その骨膜を内面から、上下両端の近くでZ状または≠状に横に切開する(図1)。


図1. 脛骨骨膜の減張切開


延長器の固定と脛骨骨切り術:脛骨骨切りに移る前に延長器を脛骨に装着する。脛骨の近位及び遠位骨端軟骨線から1cm以上離した位置でピンを脛骨軸に直行するように支柱の穴を通して骨を貫通させる。脛骨近位部と遠位部にそれぞれ2〜3本ずつピンを貫通させる。
 次に脛骨の骨切りであるが、直径2mmのキルシュナー鋼線で斜線状に6〜7カ所骨孔をあける(図2)。骨髄はなるべく損傷しないように注意する。骨孔間を小さなノミで骨切りし最後に徒手的にて骨折させる。延長器を装着し、時間をかけてゆっくり、5mm延長する。骨膜、皮膚縫合を行う。


図2. 脛骨の斜め方向骨切り

 

脛骨の延長法:手術後は軟部組織の修復と仮骨の形成を待つために1週間安静にし、8日目から延長を行う。1回に1mmの速度で時間をかけて延長し、これを毎日おこなう。この方法は痛みがないので麻酔の必要はなく、合併症も少ない。

後療法・臨床成績
 予定の延長が得られるまでは、車いすの移動を許可し、かつ機能訓練として、各関節の自動、他動運動を行う。延長を達成した後は両松葉杖による移動を許可し、機能訓練を続ける。X線上骨癒合が完成したら、延長器を除去し、患肢に1ヶ月間プロテクターをつけておく、1ヶ月後には、両松葉杖もはずし正常生活にもどす。

症例および成績判定
 延長部の骨癒合度で成績判定したところ、下腿延長術ではExcellent とGoodを合わせると86%(表)。また、ポリオ以外の8例15肢(1988〜1995年)の延長量は、平均6cm(4.4〜10.1cm)だった。

表. 1963年から1989年までの305症例の成績

さて
 標本館には、河邨らが開発した、下腿用初期モデルと、著者らが開発した大腿用モデルが展示されている。是非、足を止めてほしい。


 


 

 

 

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