初版の序 (渡邊佐武郎名誉教授、三橋公平名誉教授)

解剖実習の心得

1. 人体を解剖するということは、医学を学ぶ者のみに許された行為である。

遺体は生前から ” 自分の体を正しく解剖することによって、諸君が立派

な医師になって欲しい ” という希望を抱いていた篤志家のものである。

したがって、遺体には常に敬虔の念を持って接し、丁重に取り扱わねばな

らない。

  1. 実習に当たっては、予め充分に予習をしてくる必要がある。準備なしに実

習を行うことは、解剖体を冒涜することである。

  1. 一つの遺体を数人で解剖するのであるから、互いに協力し、自分の分担部

に責任を持つことは言うまでもないが、同時に全体の観察も怠ってはなら

ない。

  1. 実習台の上は常に清潔に保ち、同時に実習室の保清、整頓を心掛ける。間

違っても、実習室に土足で入るようなことがあってはならない。

5. 遺体は乾燥しやすいから、頻繁に防腐液を散布する必要がある。

  1. 実習の進行は、本指針の記載に沿って行う。筋、血管などの切断及び除

去、内臓の摘出などは、必ず指針の指示に従い、順序良く行うこと。

  1. 遺体から除去した脂肪、結合組織、器官の一部などは、備付けの容器の中

に入れること。

8. 破格を発見したときは、直ちに教員に報告し、指示を仰ぐこと。

9. 実習室内での喫煙、飲食などは固く禁ずる。

  1. 実習室の白衣および上履きは、解剖実習室専用とし、室外では使用しない こと。
  1. 遺体は充分に固定、防腐されているので、手の負傷など特別な理由のない

限り、手術用手袋の使用は認めない。(素手で触れてこそ畏敬の念がこもる

という考え方があった。現在はどの大学でも手袋が許可されている:村上)

12. 許可なくして学外の者を実習室に入れることを禁ずる。

13. 納棺は教員と技術員の指示にしたがって行い、間違ってもメスや

ピンセットなどの金属品が混入することがないように注意する。

本書の使用方法

本書は、30 回程度で実習を行う場合の解剖の手順を解説したものです。第 2 章以降は、基本的にはどこからでも始められるように作られていますが、別途配布する予定表に概ね準拠して下さい。臨床の医師たちによって実習中に行われる研究の予定も、後日配布します。

本文中の Fig.○○ は、Carmine D. Clemente, ANATOMY, the regional atlas of the human body, 4th ed., 1997 の Fig. 番号を示しています。

小節 (例えば、1.2.3) の見出しにある (Fig. ○○) は、その小節に関する Fig. の中でもキーとなる Fig. の番号です。本文中にある (Fig. ○○) は、解剖を進める際に参考にすべき Fig. です。

本文中にはまた太字で書かれているノミナがあります。これらはノミナの整理としてまとめてあります。ノミナ確認、クレメンテ参照の際にご利用下さい。 ノミナ整理の各ノミナには Fig. 番号が添付されています。これは本文に沿って解剖を進め各ノミナの組織を確認する際に参照すべき Fig. で、各ノミナに対して最も適切な Fig.が添付されています。○○ はクレメンテの Fig. に記載のないものを、○○はクレメンテ各 Fig. の解説文中に記載のあるものをそれぞれ示しています。*の付いたノミナは、和訳を求めることはありますがスペルは書けなくてもかまいません。なお、さらに他の Fig. を参照されたい場合はクレメンテの索引をご利用下さい。

この実習マニュアルとクレメンテだけでは、知識が体系化できません。自分にあった参考書 (○○系というように系統的に書かれた本) をみつけて、必ず通読して下さい。

■付図 ピンセットの名称 (オリジナルの図)

 

目 次

第 1 章 皮膚と皮下 8

  1. 剥皮作業 8

1.2 各部の剥皮と皮下の剖出 13

1.2.1 頭部    (Fig.634,729) 13

1.2.2 顔面   (Fig.728,729) 14

1.2.3 頚部   (Fig.696,699) けいぶ 14

1.2.4 胸部   (Fig.15,17) 15

1.2.5 腹部    (Fig.248,269) 16

1.2.6 背部・殿部  (Fig.504,628,634) 17

1.2.7 上肢   (Fig.44,45,58,59) じょうし 18

1.2.8 下肢   (Fig.489,504,520,538) かし 19

1.3 深部の触診 20

第 2 章 頭頚部 25

2.1 頚部浅層から頚部の導通路へ 25

2.1.1 胸鎖乳突筋  (Fig.699,700) きょうさにゅうとつきん 25

2.1.2 舌骨下筋群と頚神経ワナ (Fig.701,706,707) ぜっこつかきん 26

2.1.3 深頚リンパ節鎖の剖出 (Fig.716) しんけいリンパせつさ 28

2.1.4 頚動脈鞘と頚部の大血管 (Fig.702,711) けいどうみゃくしょう 28

2.1.5 頚神経叢   (Fig.699,701) けいしんけいそう 29

2.2 頚部から顔面 31

2.2.1 顎下三角   (Fig.699,724,726) がっかさんかく 31

2.2.2 舌骨上筋群 (Fig.727,853,854) ぜっこつじょうきんぐん 33

2.2.3 外頚動脈の枝 (Fig.702,746) がいけいどうみゃく 34

2.3 頚部内臓 35

2.3.1 甲状腺   (Fig.712,715) こうじょうせん 35

2.3.2 咽頭・喉頭 (Fig.890,896,899,906) いんとう,こうとう 35

2.4 顔面 43

2.4.1 顔面の血管・神経 (Fig.736,748) 43

2.4.2 耳下腺と顔面神経 (Fig.856,736) じかせん 44

2.5 眼窩内容 がんかないよう 45

2.5.1 生体観察   (Fig.819) 45

2.5.2 眼窩の開放  (Fig.780,787,790) がんか 45

2.5.3 眼窩内容   (Fig.803,805,807,808) 46

2.5.4 眼球   (Fig.819,823) 48

2.5.5 眼窩から頭蓋底 (Fig.780,807) とうがいてい 49

2.6 頭蓋底   (Fig.767,770,777,780) 49

2.7 頭部離断   (Fig.890) 51

2.8 後頭下の関節   (Fig.645,653) こうとうか 52

2.9 頭部正中切半   (Fig.826,843) せいちゅうせっぱん 53

2.10 副咽頭間隙   (Fig.859,892) ふくいんとうかんげき 54

2.11 口腔壁   (Fig.850,855,857) こうくうへき 56

2.12 咀嚼筋と側頭下窩 (Fig.733,740,751) そしゃくきん,そくとうかか 57

2.13 鼻腔・副鼻腔・翼口蓋窩 (Fig.790,826,835) びくう,よくこうがいか 59

2.14 外耳・中耳・内耳 (Fig.921,926,935,937) がいじ,ちゅうじ,ないじ 61

2.15 頭頚部の脈管神経路の総括  とうけいぶ,みゃっかんしんけいろ 65

2.16 頭頚部の自律神経系の総括 65

第 3 章 上肢・上肢帯 じょうし、じょうしたい 66

3.1 体壁背部に付く上肢帯筋 たいかんはいぶ 66

3.2 腋窩から上肢へ えきか 66

3.2.1 腋窩前壁:胸筋の処置 (Fig.18,21,29) きょうきん 66

3.2.2 鎖骨の切断   (Fig.702,703) さこつ 69

3.2.3 腋窩の内側壁:前鋸筋の処置 (Fig.252,253,630) ぜんきょきん 69

3.2.4 腋窩から上腕屈側 (Fig.23,28,48,50) じょうわんくっそく 71

3.2.5 腕神経叢と腋窩動脈枝 (Fig.23,32) わんしんけいそう 73

3.3 上腕伸側・肩甲部 じょうわんしんそく、けんこうぶ 74

3.3.1 上腕伸側から腋窩へ   (Fig.52,54,57) えきか 74

3.3.2 肩甲部から頚部へ   (Fig.34,46,52) 76

3.3.3 肩関節の固定性と可動性 (Fig.101,102) かたかんせつ 77

3.4 前腕と手 ぜんわん 78

3.4.1 肘から前腕へ   (Fig.48,60,69) ひじ 78

3.4.2 手背   (Fig.75,79) しゅはい 79

3.4.3 手掌の浅層   (Fig.80,82) しゅしょう 80

3.4.4 手根管   (Fig.89,112) しゅこんかん 80

3.4.5 前腕屈側   (Fig.60,62,65,82) ぜんわんくっそく 81

3.4.6 手掌の深層   (Fig.82,89,90) しゅしょう、しんそう 83

3.4.7 前腕伸側と関節の開放   Fig.69,74,112,119) 84

3.5 上肢の総括 87

第 4 章 体壁 91

4.1 腹壁 91

4.1.1 腹直筋   (Fig.253) ふくちょっきん 91

4.1.2 鼡径部   (Fig.251,265,269) そけいぶ 91

4.1.3 側腹筋   (Fig.254,258,373) そくふくきん 94

4.1.4 後腹壁   (Fig.360,366,367) こうふくへき 94

4.2 胸壁 きょうへき 96

4.3 骨盤底 こつばんてい 99

4.4 体壁背部の上肢帯筋 たいへきはいぶ 99

4.4.1 僧帽筋 (Fig.629,634) そうぼうきん 99

4.4.2 広背筋 (Fig.629) こうはいきん 100

4.4.3 菱形筋 (Fig.52,629) りょうけいきん 100

4.4.4 肩甲挙筋 (Fig.629,708) けんこうきょきん 101

4.4.5 後方から上肢帯の遊離   (Fig.630) 103

4.5 深背筋 ↓しんぱいきん、せきずいしんけいぜんし 103

4.5.1 脊髄神経前枝 (肋間神経) に支配される 2 筋 (Fig.630) 103

4.5.2 後頭部・項部 (Fig.630,632,636,638) こうとうぶ、こうぶ 104

4.5.3 胸部   (Fig.631-633,663) 105

4.5.4 腰部   (Fig.631,671) 108

4.6 脊髄と脊髄神経   (Fig.13,238,626,681) せきずい 108

第 5 章 胸部 111

5.1 胸腔へ きょうくう 111

5.1.1 開胸   (Fig.163) かいきょう 111

5.1.2 横隔膜の前部   (Fig.162) おうかくまく 114

5.1.3 頚胸移行部と上縦隔 (Fig.190,192,710) じょうじゅうかく 114

5.2 肺と胸膜腔 はい、きょうまくくう 117

5.2.1 胸膜腔   (Fig.164-166) 117

5.2.2 肺の摘出   (Fig.189) 118

5.2.3 肺の外景   (Fig.176,177) がいけい 120

5.2.4 肺区域   (Fig.174,175,178-180) はいくいき 120

5.2.5 選択スケッチ課題 : 肺区域 (Fig.180,181) 121

5.3 心臓と心膜腔 しんまくくう 126

5.3.1 心膜腔   (Fig.170,194) 126

5.3.2 心臓のオリエンテーション (Fig.206-218) 126

5.3.3 冠状動脈   (Fig.201-205) かんじょうどうみゃく 133

  1. 選択スケッチ課題:冠状動脈と心臓の立体構造 (Fig.201-205) 137

5.4 縦隔 じゅうかく 137

  1. 大動脈弓   (Fig.233,710) だいどうみゃくきゅう 137

5.4.2 後縦隔   (Fig.234,236,238) こうじゅうかく 138

第 6 章 腹部・骨盤部 ふくぶ、こつばんぶ 143

6.1 腹膜 ふくまく 143

6.1.1 腹膜腔を開く   (Fig.286,299) ふくまくくう 143

6.1.2 大網を現位置で   (Fig.282-286) たいもう 144

6.1.3 大網を上方に反転 (Fig.287,325,327) 145

6.1.4 網嚢下壁を開放  (Fig.303,333,334) もうのう、かへき 145

6.1.5 骨盤内臓の観察   (Fig.395,439) こつばんないぞう 147

6.1.6 後腹膜の生理的癒着、ゲロータ腎筋膜 (Fig.334,343) 150

6.2 肝臓とその周囲 ↑こうふくまく、ゆちゃく、じんきんまく 150

6.2.1 カロー三角、胃小弯 (Fig.292,295,308) い、しょうわん 150

6.2.2 肝の摘出   (Fig.298,309-311) 152

6.2.3 肝区域   (Fig.309-311) かんくいき 153

6.2.4 選択スケッチ課題 : 肝区域とグリソン系脈管 155

6.3 腹部消化管 ふくくうどうみゃく 158

6.3.1 腹腔動脈、上腸間膜動脈 (Fig.293,295,326,365) 158

6.3.2 消化管の内景   (Fig.296,318,335) ないけい 165

6.3.3 下腸間膜動脈 (Fig.331,334) かちょうかんまくどうみゃく 167

6.4 後腹膜臓器 こうふくまくぞうき 168

6.4.1 腎臓・副腎・尿管   (Fig.343,348,355) じんぞう 168

6.4.2 横隔膜起始と裂孔 (Fig.229,360,365,369) きし、れっこう 170

6.4.3 大動脈枝   (Fig.365,367) だいどうみゃくし 172

6.5 骨盤内臓 こつばんないぞう 174

6.5.1 原位置の骨盤内臓   (Fig.368,399,426,450,456) 174

6.5.2 原位置の骨盤内臓 : 女性 (Fig.394,401,410,419) 175

6.5.3 原位置の骨盤内臓 : 男性 (Fig.441,468) 180

6.5.4 消化管の摘出と内腔の観察 (Fig.345) ないくう 181

6.5.5 腰部離断と骨盤切半 (Fig.396,445) りだん、せっぱん 181

6.5.6 骨盤内臓の導通路 (Fig.404,441,444,456) どうつうろ 182

6.5.7 骨盤底   (Fig.421,427,461) こつばんてい 184

6.5.8 骨盤壁   (Fig.410) こつばんへき 185

第 7 章 下肢・下肢帯 かし、かしたい 188

7.1 殿部 でんぶ 188

7.1.1 殿筋群   (Fig.511,513) でんきんぐん 188

      1. 坐骨直腸窩へ (Fig.427,465,506) ざこつちょくちょうか 190

7.1.3 股関節の固定 (Fig.511,567) こかんせつ 191

  1. 大腿 だいたい 192

7.2.1 大腿三角   (Fig.494,498) 193

7.2.2 大腿の伸筋群   (Fig.497) しんきんぐん 193

7.2.3 内転筋群   (Fig.497,501) ないてんきんぐん 194

7.2.4 大腿動脈とその枝 (Fig.501,513) 195

7.2.5 膝蓋骨と膝蓋靭帯 (Fig.570,574) しつがいこつ、−じんたい 195

7.2.6 大腿後面 (大腿の屈筋) (Fig.500,510,513,574) 196

7.3 下腿 かたい 197

7.3.1 伸筋区画   (Fig.522,523) しんきんくかく 197

7.3.2 腓骨筋区画   (Fig.525,527) ひこつきん 197

7.3.3 浅屈筋区画   (Fig.515,543) せんくっきんくかく 198

7.3.4 深屈筋区画   (Fig.544,545) しん− 199

7.4 足 あし 199

7.4.1 足背   (Fig.535,537) そくはい 199

7.4.2 足底   (Fig.552,554,604) そくてい 200

7.5 上下肢の総括 じょうかし 203

第 8 章 骨学実習 205

8.1 総論 205

8.1.1 方向と各部 205

8.1.2 骨の部分名称について 206

8.1.3 骨の結合様式 206

8.1.4 骨の分類と骨化 206

8.1.5 骨標本を手にしたら 206

8.2 頭蓋骨 (とうがいこつ、ずがいこつ) 208

8.2.1 頭蓋冠 (Fig.756,758) 208

8.2.2 前方から見た頭蓋 (Fig.752) 208

8.2.3 外側から見た頭蓋 (Fig.754,691) 210

8.2.4 下方から見た頭蓋 (外頭蓋底) (Fig.781) 211

8.2.5 頭蓋腔から見た頭蓋底 (内頭蓋底)(Fig.779,780,777) 214

8.2.6 下顎骨 (Fig.867-870) 215

8.2.7 歯 Tooth (Fig.866-887) 217

8.2.8 その他 218

8.3 脊柱と肋骨 (Fig.655-657、155-157) せきちゅう 218

8.3.1 胸椎 (Fig.658-661) きょうつい 219

8.3.2 肋骨と胸骨 (Fig.153,155) 220

8.3.3 腰椎 (Fig.668-670) ようつい 222

8.3.4 仙骨と尾骨 (Fig.675-678) せんこつ、びこつ 224

8.3.5 頚椎 (Fig.639-646) けいつい 224

8.4 上肢骨 (自由上肢骨) と上肢帯骨 じょうしたい 226

8.4.1 鎖骨 (Fig.150) さこつ 226

8.4.2 肩甲骨 (Fig.92-95)(肩関節を含む)けんこうこつ 227

8.4.3 上腕骨 (Fig.103-107) じょうわんこつ 228

8.4.4 尺骨 (しゃっこつ) 230

8.4.5 橈骨 (とうこつ) (Fig.110,111) (肘関節を含む) 230

8.4.6 手の骨  (Fig.112-115,125) 232

8.5 下肢骨 (自由下肢骨) と下肢帯骨 かしたい 234

8.5.1 骨盤、寛骨  (股関節を含む) (Fig.376-385) 234

8.5.2 大腿骨(膝関節、膝蓋骨を含む)(Fig.560-561)しつがいこつ238

8.5.3 脛骨 (けいこつ) (Fig.589-594) 241

8.5.4 腓骨 (ひこつ) (Fig.592,593) 242

8.5.5 足の骨   (Fig.596-59,607) (足関節を含む) 242

付録 245

リンパ管系総論 245

筋膜総論 247

脳神経のまとめ 250

参考書に関するコメント 252

本学における人体解剖学研究業績(最近の論文から) 253

さまざまな関節(可動域の検討) 254

索引 260-268

第 1 章 皮膚と皮下

1.1 剥皮作業

剥皮作業は重労働である。皮膚が人体最大の、しかも多様な機能を担う器官であることを認識してほしい。また、その後の解剖で何を観察するかに応じて、後述のごとく剥皮手技を選ばなくてはならない。いずれの手技においても、皮膚側を手で強く外方に引きながら、メスの尖だけをシヒト (剥離層) に軽く当てる。切れないメスは役に立たない。皮膚側を傷つけることはあっても、本体側 (皮下組織側) にメス跡を残さないようにできるだけ注意する。

自班のライヘ (解剖体) で表皮 Epidermis・真皮 Dermis・皮下組織 Subcuteneous tissue・筋膜 Fascia (狭義の筋膜) について、作業初めに示説を受けよ (標準組織学各論 VIII 章参照)。表皮は外胚葉由来。真皮はいわゆる靴や鞄の皮革になる部分で、固く、1-3mm の厚さ。皮下組織は典型的な疎性結合組織で、緩く、厚さは部位によってさまざま。「標準組織学総論」の p.122 には 「解剖実習の仕事の大半は疎性結合組織を取り除いて、それに埋まっている諸器官を露出する作業 (=剖出) に他ならない。」とある。筋膜については筋膜総論 p.247 参照。これら 4 層の状態は、各ライヘによって、また部位によって大きく異なる。特に学生は最初のひとすじのメスが深くなるので注意する。

ノミナの整理

Skin 皮膚  Haut

Vessel 血管 Vasa

Artery 動脈  Arteria(e)

Vein 静脈  Vena(e)

Nerve 神経  Nervus(Nervi)

Cutaneous nerve 皮神経、皮枝

*Superficial vein *皮静脈

姿勢を示す用語

Supine 仰臥位 (背臥位) ぎょうがい、はいがい

Prone 伏臥位 (腹臥位) ふつがい、ふくがい

RAO(right anterior oblique) 右斜位、右を前にした斜位 (臨床用語)

LAO(left anterior oblique) 左斜位、左を前にした斜位 (臨床用語)

Anatomical position 解剖学的正位、前腕は回外位(p.230)=手掌が前を向く

注: 他に臨床で用いる多くの体位がある : 例、砕石位 (会陰切開: 付図p.179下)、側臥位、トレンデレンブルグ体位 (IVH: 付図p.67)

位置と方向を示す用語

Lateral - Medial 外側 - 内側 がいそく、ないそく

Anterior - Posterior 前 (方) - 後 (方)

Dorsal - Ventral 背側 - 腹側

Superior - Inferior 上 (方) - 下 (方)

Proximal - Distal 近位 - 遠位

Central - Peripheral 中枢側 - 末梢側

External - Internal 外 (そと)がわ - 内 (うち)がわ

Radial - Ulnar 橈側 - 尺側 とうそく、しゃくそく

Flexor - Extensor 屈側 - 伸側 くっそく、しんそく

Oral - Anal 口側 - 肛門側 こうそく、こうもんそく

Cranial (Rostral) - Caudal 頭側 (吻側)- 尾側 とうそく、ふんそく、びそく

Parietal - Visceral 壁側 - 臓側 へきそく、ぞうそく

Superficial - Deep 浅(側)- 深(側)せん、しん

断面の方向を示す用語

Sagittal section/plane 矢状断/面 しじょうだん

Coronal section/plane 前額 (冠状) 断/面 ぜんがくだん

Horizontal section/plane 水平 (横) 断/面

  =Transverse, =Axial(臨) <解剖では axial=体軸性の>

以下このマニュアルで用いるノミナは他学よりも少ない。他学のマニュアルには、諸君が一度も見聞することのない血管・神経が多数登場する。しかし、ここに整理された用語は、essential minimum である。外国語のスペリングも含めて一度は暗記してもらう。なお、ノミナに*がついているものは和訳を求めることはあるが、スペルは書けなくてもよい。また、ここで用いるノミナは臨床用語を優先しており、解剖学者が眉をひそめるものも少なくない。しかし、言葉が使い手によって変化していくのはやむをえない。

皮下および皮神経の剖出については大学によって大いに手技が異なる。以下、やや詳しく説明する。なお、ライヘにガーゼやテープが当ててあれば、その傷口がどのような臨床手技によるものか、スタッフに確認しておく。

1. 皮下組織で皮神経を詳細に観察する場合

厳密に皮下組織 (いわゆる皮下脂肪) と真皮の間に、時間をかけてメスを進める必要がある。しかし慎重のあまり、白い真皮が本体側に多量に残ると、後で再びメスでその部分を剥がさねばならない。黄色の皮下組織が、ごくわずか皮膚側に付着するくらいのシヒト (剥離層) でも、後に皮神経の末梢分布はかなりよく観察できる。こうした皮下の剖出から、近年でも未記載の皮神経が発見されることがある。

2. 皮神経本幹の走行だけを観察する場合

1. よりも深いシヒトを選ぶ。常に皮下組織を皮膚側に若干付着させながらメスを進める。皮下組織の厚いライヘでは、例えば脂肪層が 10mm あれば、5-6mm は皮膚側に付けて除去する。白い網目状の真皮は、当然剥がした皮膚側に付かねばならない。真皮が網目状に残ると、もう一度剥がす手間がかかる。剥がしつつある皮膚 (皮弁) が広くなるに連れて、次第に厚く剥がれるようになり、ついには筋膜と皮下組織の間で剥離してしまう傾向がある。これは避けたい。特に、胸腹部ないし背部の外側で厚くなりやすいので注意。いつもシヒトの深さを確認しつつメスを進めること。

3. 皮神経については本幹が皮下に出現する部位だけを確認する場合実習に対する考え方や時間的な制限によってこの方法を選ぶ場合がある。筋膜のすぐ浅側をシヒトとする。そのためには、浅層の筋配置をある程度理解していなくてはならない。やせたライヘでは、浅層の筋を皮膚側に付けて剥がさないように注意する。剥皮作業と皮下の解剖を 1 日で終了させる場合に行なう。

剥皮の際に損傷を受けやすい筋としては、背部の僧帽筋・広背筋(Fig.628,629)、大腿前面から内側にかけての縫工筋・薄筋 (Fig.493)、頚部の広頚筋 (Fig.698) などがある。広頚筋については、皮膚側に付けて剥がした後に確認する方法も 1 つの見識であろう。皮下組織がゆるいライヘでは、メスをごく軽く当てるだけで厚い皮弁をめくることができる。その際に皮神経が突っ張るので、皮膚側からなるべく長く引抜いて本体側に保存しておく。

皮弁の形と大きさを指示することがある。特に次のような場合である。

o スケジュールの都合から皮膚を縫合して深部の挫滅を防ぐ。

o ライヘの乾燥防止に皮膚を常時はりつけておく。

o 特定の皮神経の走行を意識して末梢部位を後で剥がす。

o 外生殖器などを意識的に隠すように皮弁を形成する。

本学では特に希望なくば 2. の方法で行う。皮弁の形と大きさにはこだわらない。皮弁をあまり広くすると能率が下がる。皮膚は本体から自然に落ちるので、逐次容器に入れてよい。皮弁を縫合して張りつける大学も多いが、本学実習では、手足以外はあまり乾燥しないので行なわない。

本学では内臓に時間を配分するため、残念ながら皮下の解剖には最大 3 日目までしか時間を裂けない。しかしこの実習は、通常の手術では切断してしまう皮下の血管・神経をじっくり見ることができる唯一の機会である。神経内科や整形外科で重要な分節的支配様式 (デルマトーム) だけは、今後の深部の解剖を通じて少なくとも理解してほしい (Fig.2,14,35,36,482,484,625,734)。発生学で用いるデルマト−ム(体節という構造が分化したもの)とは意味が全く違うことに注意。

Head 頭     Gluteal region 殿部

Neck 頚      Arm 上腕

Cervical region 頚部      Elbow 肘

Thoracic region 胸部      Forearm 前腕

Abdomen 腹      Hand 手

Abdominal region 腹部      Thigh 大腿

Lumbar region 腰部      Knee 膝

Inguinal region 鼡径部      Leg 下腿

Back 背      Foot 足

Shoulder 肩

注: より細部の名称は Fig.1,623 参照

 

 

■付図 剥皮の方法(皮弁の作り方)(オリジナルの図)

 

 

1.2 各部の剥皮と皮下の剖出

1.2.1 頭部   (Fig.634,729)

脳を取り出した縫合があれば、それを切断して頭蓋冠をはずす。すでに脳出しの際に、皮下組織と頭蓋冠外面の骨膜の間にある程度メスがはいっている。脳出ししていないライヘであればメスで皮膚の厚さを探る。頭皮の皮下組織には、帽状腱膜という芯があるので他部位の皮膚とは感触が違う。帽状腱膜は後頭前頭筋の付着になる (Fig.728,729)。毛根はできるだけ皮膚側に付くようにする。頭部外傷の際にすぐ分かるように頭皮下は血管が密である。しかし血管・神経に注意すべき範囲は、眼窩のすぐ上方と後頭部に限りたい。

Skull Cranium 頭蓋 752o,754o

*Calvaria *頭蓋冠 756o,758o

Periosteum 骨膜 731,733

Scalp 頭皮 729

*Galea aponeurotica *帽状腱膜 729

*Occipitofrontalis muscle *後頭前頭筋 729

Orbita 眼窩 753

後頭部から項・肩にかけては、皮膚を弁状に剥がしにくいことが多いので、断片的に除去する。皮膚を剥がしたら外後頭隆起を触診し、その左右やや下方で大後頭神経と後頭動脈を捉える (Fig.634)。大後頭神経は頭痛の一因になる神経で、皮神経としては例外的に、しばしば麻酔科における神経ブロックの対象になる。大後頭神経ブロックは後頭動脈のすぐ内側で穿刺する (上図)。かなり深いが、できるだけメスを用いずに剖出する。血管と伴走することが手がかりになる。余裕があれば小後頭神経と第 3 後頭神経も皮下で見つけ出す (Fig.634)。以上の神経の正確な同定は、頚部および背部の解剖が進んでからになる。

External occipital protuberance 外後頭隆起 635,691

Greater occipital nerve 大後頭神経 634

Nervus occipitalis major

*Lesser occipital nerve *小後頭神経 634

Nervus occipitalis minor

Occipital artery 後頭動脈 634

Third occipital nerve 第 3 後頭神経 637o,638

眼窩のすぐ上方で、眼窩から上方に出てくる皮神経と血管を捉える (Fig.736,791)。後に眼窩の解剖の際に名称を確定する。脳出し時の縫合を開いて前頭部の皮膚をめくりおろすと、眼窩上の骨面に皮神経が容易に見つかる。

 

 

1.2.2 顔面   (Fig.728,729)

表情筋は皮膚に停止している。表情筋の輪郭を彫り出すつもりで皮膚を剥がす (Fig.728)。血管・神経の末梢を損傷するが時間的にやむをえない。後に、表情筋を剥がしながら血管 ・神経を剖出する。皮膚は断片的に除去していい。広いシート状の皮弁にする必要はない。眼輪筋口輪筋は機能的に重要であるし、特に薄いので注意して温存する。眼輪筋と口輪筋だけは、どの哺乳類でもよく発達している。諸君の中に、口輪筋の律動だけで乳を吸う吸啜反射ができる者がいたら報告せよ。

下顎底では顔面動脈が浅く走るので注意する (Fig.726,736)。自分で脈を触れて位置を確認してみる。鼻根部でも顔面動脈の末梢が浅く走行する。大頬骨筋、口角下制筋、上唇鼻翼挙筋など主な筋を同定する (Fig.728)。美容外科の皺のばしの際に重要な皺眉筋は、前頭筋の深側にある (Fig.728)。哺乳類の特徴である頬筋は深いので、側頭下窩の剖出の折でよい (p.59)。

Facial muscles 表情筋 (顔面筋) 728

Orbicularis oculi muscle 眼輪筋 728

Orbicularis oris muscle 口輪筋 728

Base of mandible 下顎底 かがくてい 754

Facial artery 顔面動脈 735,736,746

*Zygomaticus major muscle *大頬骨筋 だいきょうこつきん 728,729

*Depressor anguli oris muscle *口角下制筋 728,729

*Levator labii superioris alaeque nasi muscle *上唇鼻翼挙筋 728,729

*Corrugator supercilii muscle *皺眉筋 すうびきん 728

*Occipitofrontalis muscle *前頭筋 728

Buccinator muscle 頬筋 きょうきん 728,733

1.2.3 頚部   (Fig.696,699)

広頚筋が皮下組織内に広がる (Fig.696,698)。最初は鎖骨の高さで皮膚を剥がして筋の深さを確認し、広頚筋の表面からメスで皮膚を剥がす。広頚筋を貫いて出てくる末梢の血管・神経を損傷するがやむをえない。皮膚には適当に横方向の割を入れて、ベルト状に外側ないし上方にめくり上げて行く。頚部の外側から後方にかけては、皮膚を厚く剥がしやすいから注意する。だからと言って真皮を本体側に残してはいけない。皮弁状に剥がすのが困難ならば断片的に除去する。皮下組織を剖出すると、鎖骨の前面で鎖骨上神経が数本見つかる (Fig.699)。鎖骨上神経を中枢側に追及して、深側にはいる手がかりにする。前頚部と側頚部に皮静脈が見つかるが、外頚静脈だけはきちんと温存する (Fig.699)。外頚静脈に近接して胸鎖乳突筋の外面で太い大耳介神経を捕らえる。最後に、広頚筋を上方に反転しながら鎖骨上神経と大耳介神経を深側に向けて剖出する (Fig.699)。

Platysma muscle 広頚筋 こうけいきんPlatysma 698

Clavicle 鎖骨 Clavicula 700

Supraclavicular nerves 鎖骨上神経 699

External jugular vein 外頚静脈 Vena jugularis externa 699

Sternocleidomastoideus muscle 胸鎖乳突筋 きょうさにゅうとつきん 699

Great auricular nerve 大耳介神経 699

1.2.4 胸部   (Fig.15,17)

前正中線に入れる割が深くならないように注意する。一度に長い割を入れようとしないこと。皮膚はベルト状に外側に向けて剥がす。外側後方に行くにつれて、剥がす皮膚が厚くなりがちである。厚くなったと思ったら、そこで皮弁を一度落としてしまう。落とした部位から、もう一度正しい厚さで剥がし始める。

第 2 肋間胸骨縁 2-5cm 位の範囲で、皮下組織をピンセット 2 本だけで剖出し、最初に肋間神経前皮枝とその伴走血管を見つける (Fig.15)。有名な DP フラップ (delto-pectoral flap, 頭頚部悪性腫瘍摘出術後の再建術の一つ) は、この伴走血管で移植皮弁を養う (ビデオ供覧)。皮下の剖出の際に深側の筋をあまり損傷しないようにする。以後、同様に下位肋間で剖出する。外側皮枝が出現するラインと深さは示説を受けないとむずかしい (Fig.17)。脊髄神経前枝 (例えば肋間神経)(Fig.13,15) の外側皮枝は、あらゆる脊椎動物に存在すると考えられる。

乳房の主体は皮下組織である。乳房が発達している場合は、乳輪部をくりぬくように残して皮膚を剥がす。乳房の mass も本体側に残す。乳房に分布する血管は大切だから、残しておく (p.69)。腋窩の皮膚は薄い。深部にメスがはいらないように注意しながら、しかしきれいに剥がし取る。いずれ腋窩の解剖が進んでから (p.68付図)、乳房の mass を腋窩に向けて胸壁から剥がす (Fig.6,8)。今の段階で 乳房の mass を除去してしまうと復習の機会を失う。腋窩から側胸部では、胸腹壁静脈他の皮静脈が剖出される (Fig.18,19)。

Sternum 胸骨 147

Intercostal nerve 肋間神経 13

Nervus intercostalis

Anterior/Lateral cutaneous branch 前/外側皮枝 ひし 15,17

Spinal nerves 脊髄神経 13o

Breast 乳房 にゅうぼう 9

Mamma ,die Brust

Areola 乳輪 8

Axilla 腋窩 えきか 19

Thoracoepigastric vein 胸腹壁静脈 17,19

 

1.2.5 腹部   (Fig.248,269)

皮膚の剥がし方は胸部に準じる。臍はくりぬくように残しておく。皮下組織が厚いライヘでは臍が茎のように立上がる。下腹部の皮下組織内で、膜状の脂肪層であるカンパー筋膜と、同じく膜状の結合組織であるスカルパ筋膜の 2 層を区別することがあるが (Fig.267,268)、日本人ではスカルパ筋膜の同定がむずかしい (付録 「筋膜総論」 p.248 参照)。皮神経探しは、白い腱膜様の腹直筋鞘前面と外腹斜筋腱膜を露出させながら行なう (Fig.15,248)。肋間神経およびその類似神経の前皮枝が見つかる。外側皮枝は急がなくていい。側腹部で脂肪が厚い場合はピンセットだけを用いてできるだけ除去しておく。

Camper's fatty layer カンパー筋膜 267o

Scarpa's fibrous layer スカルパ筋膜 268o

Umbilicus 臍 へそ、さい 247,248

Rectus sheath 腹直筋鞘 ふくちょっきんしょう 249

*Aponeurosis of external oblique m. 外腹斜筋腱膜 がいふくしゃきん 248

Intercostal nerve 肋間神経 N. intercostalis 13,15

Anterior/Lateral cutaneous branch 前/外側皮枝 248

外陰部・鼡径部の皮膚は、脂肪組織をできるだけ本体側に残して薄く剥がす。男性鼡径部では、皮下に精管が走る。精管は血管・神経と共に束ねられ、精索という小指ほどの太さの索状物を作る (Fig.248)。精索は後日きちんと解剖するので (p.91)、皮下組織を残しておく。陰茎陰嚢の皮膚は薄く剥がす (Fig.267)。陰嚢縫線を確認する。陰嚢の皮下には肉様膜という皮膚をよじらせる赤い平滑筋組織 (Fig.267,271) がある。一側で精巣を包む外精筋膜を剥がして、精巣を陰茎から分離し、精索でぶらさげる。この状態では、精巣は内精筋膜に、陰茎は深陰茎筋膜に覆われている (Fig.269)(精巣周辺の層構成: p.93付図)。よく考えると分からなくなる?が、陰茎の背側 dorsalとは上から見える面を言う。

女性では精索に代えて子宮円索があるが、通常の結合組織と鑑別がむずかしいので助言を受ける(Fig.265,266)。恥丘のふくらみを確認:奥は恥骨結合だ。女性の外尿道口の位置は女性でもよく理解していない?(後日きちんと確認: p.177)。

側腹部から鼡径部には浅腹壁動静脈が出てくる (Fig.248)。臍の周囲に皮静脈が累々と浮き出ていれば、メズサの頭と呼ばれる門脈側副路の 1つだ(p.153)。

Ductus/Vas deferens 精管 271

Spermatic cord 精索 248,270

Penis (Shaft of penis) 陰茎 466

Scrotum 陰嚢 いんのう der Hodensack 466

Raphe of scrotum 陰嚢縫線 −ほうせん 267,463

Dartos layer 肉様膜 Tunica dartos 267,268

Testis 精巣 die Hoden

Round ligament of uterus 子宮円索 Ligamentum teres uteri 265

Mons pubis 恥丘 ちきゅう 423

External/Internal spermatic fascia 外/内精筋膜 271

Testis 精巣 せいそう die Hoden 267,273

Fascia penis (Buck's deep fascia) 深陰茎筋膜 269

Superficial epigastric artery/vein 浅腹壁動/静脈 248

Caput Medusae メズサの頭 248

1.2.6 背部・殿部   (Fig.504,628,634)

背部の皮膚は厚い。しかし、後正中線に入れるメスが深くならないように注意する。筋の発達が悪いライヘでは、皮下組織と僧帽筋・広背筋の区別がつきにくい。皮膚と一緒に筋を剥がすことがないようにする。脊髄神経後枝は外側枝と内側枝に分れるが (Fig.626)、例外的神経を除くと肩甲骨より下方では後枝外側枝が、上方では内側枝が皮下に分布している。ここではまず、肩甲骨の下方で後枝外側枝とその伴走血管を見つける (Fig.628,634)。

Trapezius muscle 僧帽筋 そうぼうきん 629

Latissimus dorsi muscle 広背筋 こうはいきん 629

Spinal nerves 脊髄神経 626

Lat./Med. cutaneous br. of posterior(dorsal) ramus

後枝外側/内側枝 626,634

Scapula 肩甲骨 41

殿部では時間の都合、ある程度厚く皮下脂肪を皮膚側に付けて剥がしていい (Fig.504)。股に隠れる部位も忘れずに皮膚を剥がしておく。肛門のすぐ周囲だけは、皮下にも括約筋があるので薄く剥がす (Fig.426)。陰嚢後面の皮膚もできる限り剥がす。殿部では、腸骨稜を乗り越えるように下方に向かう上殿皮神経を見つける。上殿皮神経は後枝外側枝の末梢である。できれば仙骨後面で中殿皮神経も見つけたい (Fig.504,628)。仙骨後面は褥創Decubitus(じょくそう:いわゆる床ずれ) のできやすい部位だ。例があれば供覧するので報告すること。

External anal sphincter muscle 肛門括約筋 こうもんかつやくきん 426

Anus 肛門 426

Iliac crest 腸骨稜 376,377,628,629

Sacrum 仙骨 655

Superior/Medial cluneal nerve 上/中殿皮神経 −でんぴしんけい 504

後頭部から項部については前述の頭部参照。肩甲上部から項部にかけては非常に皮静脈の多い部位だが、前腕のように外からは見えない。皮下組織が固いので皮膚を剥がしながら静脈を観察する。その血液うっ滞が肩凝りの原因だったかも知れない。

1.2.7 上肢   (Fig.44,45,58,59)

上肢の皮静脈は、ライン確保(静脈穿刺)の場所として長いつきあいになる (Fig.44,45,58,59)。まず、外側筋間中隔橈側皮静脈、内側筋間中隔で尺側皮静脈肘窩肘正中皮静脈を確認する (Fig.37,44)。後者はワンショットのいわゆる静注でよく用いる(p.22図:エラスタ−はより末梢から)。手背静脈網に始まり前腕の皮静脈を経て肘正中皮静脈が形成される経過を観察する。残念ながら前腕の皮静脈の名称は本により異なる。切開して弁も観察したい (Fig.22,25)。

Lateral intermuscular septum (上腕の)外側筋間中隔 42

Cephalic vein 橈側皮静脈 とうそくひじょうみゃく Vena cephalica 37

Medial intermuscular septum (上腕の)内側筋間中隔 46,60,61

Basilic vein 尺側皮静脈 Vena basilica 37

Cubital fossa 肘窩 ちゅうか 40

Median antebrachial vein 肘正中皮静脈 ちゅうせいちゅう− 37,44

Dorsal venous network of the hand 手背静脈網 しゅはい− 76

肘がまっすぐ伸びていれば、外側前腕皮神経 (Fig.44,58) が上肢の皮神経の中で最も見つけやすい。上腕二頭筋停止腱のすぐ外側から肘窩に出現する。いわゆる静注(上述)の際に接触すると患者が逃げる。さらに末梢まで追求、手に至ることを確認する。この過程で前腕尺側に内側前腕皮神経も見つかる (Fig.44,58)。

内側上腕皮神経と後上腕皮神経はどの教科書にも出ている有名な神経で、比較解剖学的にも興味深い内容を持つ (Fig.44,45,58,59)。これらの神経は上腕内側と言うよりも腋窩から上腕伸側にかけて分布するため、時間をかけないと腋窩の剖出中に切れたり剥がれたりすることが多い。これに対して、内側前腕皮神経は誰でもきちんと温存できるから、その根部で内側上腕皮神経の痕跡を探すことになるかも知れない。肩甲部から上肢伸側の皮神経は、腋窩の剖出が進んでから行なった方が分かりやすいが (p.74)、もちろん今調べても差し支えない。前腕伸側では肘頭に近く後前腕皮神経が見つかるだろう (Fig.45,59)。

手の皮膚を剥がしたら、帰る前に乾燥防止のため、5 %フェノールで十分湿らした軍足を 折り重ねるようにして(スタッフに聞く)手にかぶせる。

Biceps brachii muscle 上腕二頭筋 M. biceps brachii 46,48

Lat./Med. antebrachial cutan. n. 外側/内側前腕皮神経 44

Post. antebrachial cutan. n. 後前腕皮神経 45,59

Med./Post. brachial cutan. n. 内側/後上腕皮神経 44,45

Axilla 腋窩 えきか 19

Olecranon 肘頭 ちゅうとう 45,59

1.2.8 下肢   (Fig.489,504,520,538)

大腿前面の大腿三角 (スカルパ三角)(Scarpa's Fig 494参照)(縫工筋、鼡径靭帯、長内転筋で囲まれた場所)(Fig.494) の皮下には、リンパ節とリンパ管がよく発達している。浅鼡径リンパ節群とこれらを連絡するリンパ管 (Fig.369,490) を丁寧に剖出して、リンパ管網とはどのようなものか確認せよ。リンパ管系はどの科に進んでも重要だ (付録 「リンパ管系総論」 p.245 参照)。いずれ除去しなくてはならないので、今のうちにじっくり観察すること。

Femoral triangle 大腿三角 494o

Sartorius muscle 縫工筋 ほうこうきん 494

Inguinal ligament 鼡径靭帯 そけいじんたい 494

Adductor longus muscle 長内転筋 494

Lymph nodes/vessels リンパ節/管 369,490

Superficial inguinal (lymph) nodes 浅鼡径リンパ節 369,490

丈夫な大腿筋膜をあまり損傷しないように皮下組織を除去して、皮下の血管と神経を剖出する(Fig.489,492)。鼡径靭帯を確認する。大腿内側で太い大伏在静脈を見つけ、上方に追求して伏在裂孔という大腿筋膜の弱い部分を確認する。そこには、浅腹壁静脈・外陰部静脈なども流入する(Fig.489,495)。皮神経は大腿神経の前皮枝(多数)の他に、上前腸骨棘に近接して太い外側大腿皮神経が出現する (Fig.489,495)。大腿神経の前皮枝を内側に向けて丁寧にたどると、閉鎖神経の皮枝に吻合するかも知れない。大伏在静脈は静脈弁の観察に好適(スタッフに聞く)。

Fascia lata 大腿筋膜 492

Great saphenous vein 大伏在静脈 489,492,520

V. saphena magna

Saphenous opening 伏在裂孔 ふくざいれっこう 489o, 491

Hiatus saphenus

Superficial epigastric artery/vein 浅腹壁動/静脈 489

External pudendal artery/vein 外陰部動/静脈 489

Ant. cutan. br. of the femoral n. 大腿神経の前皮枝 489

Inguinal ligament 鼡径靭帯 492,494

Anterior superior iliac spine 上前腸骨棘 −きょく 247,499

Lateral femoral cutaneous nerve 外側大腿皮神経 −ひしんけい 489

Cutan. br. of the obturator nerve 閉鎖神経の皮枝 489

大腿後面では、ちょうど中央に浅くメスで割を入れて大腿筋膜をめくり、後大腿皮神経を剖出する (Fig.504)。下腿後面下部では、ピンセットで腓腹神経が容易に剖出できる。腓腹神経の命名法には系統解剖学上の約束があるが、ここでは総腓骨神経から来ても脛骨神経から来ても、総称で腓腹神経と呼んでおく (Fig.538)。剖出しながら、両神経に由来する枝 (現段階では確定できない) が様々な変異を示して合流し、腓腹神経を形成することに気付くだろうか。小伏在静脈がしばしば伴走する。この静脈を静脈瘤を含めて引抜く抜去術 stripping をすると末梢神経障害が起こることがあるのも分かるだろう。伏在神経は、大腿三角と内転筋管の解剖を終えて本幹をつかまえてからの方が分かりやすい (p.193)。その時に備えて、膝蓋骨下方の皮下はあまり破壊しないでおく。

Posterior femoral cutaneous nerve 後大腿皮神経 504,538

Sural nerve 腓腹神経 ひふく− 538

Common fibular(peroneal) nerve 総腓骨神経 525

Tibial nerve 脛骨神経 けいこつ− 544

Small saphenous vein 小伏在静脈 538

Saphenous nerve 伏在神経 ふくざい− 538

Adductor canal 内転筋管 498

Patella 膝蓋骨 しつがい− 492,497, 520

足背皮下では浅腓骨神経の末梢が見つかる (Fig.531)。第 1-2 指の間付近には深腓骨神経の末梢が分布するが (Fig.531)、下腿の筋を剖出してからの方が時間の節約になる。これら腓骨神経枝については、現段階では腓骨頭直下でいきなり総腓骨神経を捉えるだけに留めておいてもよい (Fig.527)。肘の内側(尺骨神経)と共に、ぶつけて痛い部位の代表である。

足の皮膚を剥がしたら、帰る前に乾燥防止のため、5 %フェノールで十分湿らした軍足を 2 枚重ねで足にかぶせる。

Superficial/Deep fibular(peroneal) nerve 浅/深腓骨神経 531

Fibula 腓骨 ひこつ

Head of the fibula 腓骨頭 Caput fibulae 527

Common fibular nerve 総腓骨神経 527

1.3 深部の触診

1. 皮下の剖出が一段落したところで全身の触診を行なう。ライヘの固い皮膚に邪魔されずに深部に触れることができる。本当は諸君を裸にして生体で触診すればいいのだが、ライヘのように遠慮なく触れることは困難であろう。

o 体 表 観 察     体幹(Fig.1,623)、胸部(Fig.2-5)、上肢(Fig.40)、

(付図 p.207を活用) 会陰えいん(Fig.422,423,425,463,466)、背部(Fig.624)、

下肢(Fig.481,483,485,488)、頚部(Fig.692)、

眼(Fig.783,784)、口腔(Fig.843,847)、耳(Fig.915)

o 骨に触れてみる=その骨の部分名称は ? (第8章の復習として)

o 筋と腱に触れてみる=その筋・腱の名称は ?

o 内臓に触れてみる=肝、顎下腺、甲状腺、腎、脾、膀胱 ぼうこう(Fig.282)

o 脈に触れる部位 (全身の動脈は Fig.225) =動脈にコリコリ触れるライヘもある。

o 末梢神経に触れてみる=総腓骨神経 (Fig.527)、尺骨神経 (Fig.50)、

鎖骨上神経(Fig.699)、大耳介神経 (Fig.698) ・・・

o 人体の柔らかい部位=腋窩 (Fig.19)、鼡径部 (大腿三角)(Fig.494)、

大鎖骨上窩 (外側頚三角)(Fig.693) ・・・

o 皮静脈と皮下リンパ管が深側にはいる部位を整理する

(Fig.241,243,489,716)

o 頚部で固い部位と柔らかい部位を明確に分ける=胸鎖乳突筋(Fig.692,693)

をはさんで

2. フィンガーディセクション (指先による解剖)

四肢の筋間中隔に手を突っ込んである程度裂いてみる。最初は内側上腕筋間中隔 (Fig.46) と大腿三角 (内側大腿筋間中隔)(Fig.494)。自然に指を動かさないと筋をむしり取ってしまう。指先で太い動脈や神経に触れたら、それらをえぐり出してみよう。次いで、後大腿筋間中隔 (p.196) の中で坐骨神経を探ろう (Fig.513)。人体のどこが柔らかいか、どこが緊張して固いか、それは何があるからか、切れば著しく QOL(Quality of Life) を損ねる構造あるいは致命的な血管・神経がどこを通るか、それは柔らかい部位を通るのか固い部位を通るのか、深いか浅いかといった原始的な感覚を養うことは、今後大いに役立つと信じている。今回は体表から分かる範囲で行なうが、深部に進んでも同様にフィンガーディセクションを大切にする。

Intermuscular septum(septa) 筋間中隔

Medial brachial - 内側上腕筋間中隔 46

Medial femoral - 内側大腿筋間中隔 614

Posterior femoral - 後大腿筋間中隔 614

Sciatic nerve 坐骨神経 Nervus ischiadicus 513

特に下記の部位で必ずフィンガーディセクションを実施する :

o 上縦隔の大血管と筋膜→ p.114

o 後腹膜の生理的癒着と腎筋膜→ p.150, 付図p.149

o 骨盤内筋膜、特に子宮支帯→ p.175, 付図p.173,178

3. 体表からの臨床基本手技

以下の臨床基本手技を模してライヘに行ってみる。解剖の進行状況によってそのつど指示する。

o ヤコビー線 Jacoby's からスパイナル針でルンバール (腰椎穿刺 p.23) を

行う。背部の剖出中、遅くとも深背筋の剖出 (p.103) までに行なう。

ヤコビー線は腸骨稜の最高点を結ぶ線で、4-5 腰椎間付近を通る。

手技説明はビデオで行なう。刺した針は当日内に返却する。

骨に当たらずスッと針が脊柱管に入る時の感触を知る。

ルンバールは麻酔目的の他に診断でも用いる基本手技である。

o 神経ブロック:星状神経節ブロック p.139、その他のブロックp.13,216

麻酔科医の研究のため頚部から白いゴム液を 3-4ml 注入してある。

o 鎖骨下静脈穿刺 IVH の模擬→ p.67

基本手技中の基本手技。

長期絶食の場合、生存に必要な栄養 (高カロリー輸液) を皮静脈から

は投与できない。静脈炎をおこし激痛をともなうからである。そのた

め、鎖骨下静脈から上大静脈へカテーテルを通して高カロリー輸液を

流す。

o 気管内挿管→ p.40

意識のない患者の気道を確保し、レスピレーター (人工呼吸器) につ

なぐため、気管内にチューブを挿管する。喉頭鏡を用いて確実に喉頭

展開しないと、食道挿管という失態をおこす。

o 胸腔穿刺 トラカールの模擬→ p.112

トラカール針という太い管を用いて肋間から胸膜腔にチューブを通す。

胸膜炎は高齢者や末期にしばしば見られ、抗生剤投与だけではなかな

か改善しない。体位交換によって胸水を穿刺部位に集める必要がある。

o ボスミンの左室内注入→ p.23付図

心停止時にボスミンを直接心腔内に注入する手技は、現在救急現場で

はほとんど行われない。しかし、全国的に市中病院では死亡確認のた

めしばしば行われている。実際には、刺しやすい右室に注入している

ことが多いと考える。

■付図 静脈穿刺(しばしば行われる外側前腕皮静脈へのエラスタ−挿入を例に)

(エキスパ−トナ−スの図を改変)

 

 

■付図 ルンバールの模擬(ビデオ供覧)

(エキスパ−トナ−スの図を改変)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■付図 心腔穿刺

(救急医学 19:1608-1611, 1995 を改変)

 

 

■付図 各部の触診:甲状腺、虫垂、心尖拍動、腎、肝、脾、手と足の脈診

(エキスパ−トナ−スの図を改変)

 

 

 

 

 

第 2 章 頭頚部

2.1 頚部浅層から頚部の導通路へ

2.1.1 胸鎖乳突筋   (Fig.699,700)

広頚筋はすでに上方に反転されているだろうか (p.14)。大耳介神経などの本幹を残しながら、浅頚筋膜を除去して胸鎖乳突筋の輪郭を明らかにする (Fig.699)。起始を切断して上方に反転する。Fig.701 のように筋を切断除去してはいけない。胸鎖乳突筋を深側から剥がして遊離する作業はピンセットで行なう。外頚静脈と大耳介神経その他の皮神経が、胸鎖乳突筋の浅側にあって邪魔をするので、これら血管・神経の深側をくぐらして筋をさらに上方まで反転する。動脈の筋枝は、もし緊張して反転を妨げるなら切断してよい。大耳介神経・鎖骨上神経など皮神経を中枢側に追及すると、胸鎖乳突筋後縁から深部に入り込むところがある。胸鎖乳突筋後縁のこの部位を Erb's point (神経点) という (Fig.699)。

鎖骨上神経は体表から触れやすい神経の1つだ:トライしてみよう。

Sternocleidomastoideus muscle 胸鎖乳突筋 Musculus 697

sternocleidomastoideus

Platysma muscle 広頚筋 Platysma 696

Great auricular nerve 大耳介神経 Nervus auricularis magnus 698

Superficial cervical fascia 浅頚筋膜 696

External jugular vein 外頚静脈 Vena jugularis externa 699

Supraclavicular nerves 鎖骨上神経 699

Erb's point 神経点 Punctum nervosum 699

胸鎖乳突筋の支配神経である副神経の確認は、上方まで反転した筋の裏面で行なう。また、背部の解剖がすでに進んでいれば、僧帽筋の裏面で見つけた副神経を頚部で再確認する (付図p.102)。その 副神経をさらに中枢側にたどり、胸鎖乳突筋の神経と連続させる (Fig.701)。その過程で、頚神経叢と副神経の交通枝 (Fig.699)、例えば頚神経叢の僧帽筋枝が見つかる。まだ教科書的ではないが、この交通枝は深部感覚成分ばかりでなく、運動成分も含むと考えられている。

最近は、根治的頚部郭清術(p.28)の際に誤って副神経を切れば医事訴訟になりうる。解剖でも切ってはならない(切れていたらタコ糸でつなぎなさい)。

Trapezius muscle 僧帽筋 そうぼうきん Musculus trapezius 701

Accessory nerve 副神経 (XI: p.50) Nervus accessorius 701

Cervical plexus 頚神経叢 −しんけいそう Plexus cervicalis 700

 

2.1.2 舌骨下筋群と頚神経ワナ   (Fig.701,706,707)

舌骨下筋群とは次の 4 つの筋を指し、いずれも頚神経ワナから神経を受ける。

Infrahyoid muscles (Strap muscles) 舌骨下筋群 707

*Sternohyoideus muscle *胸骨舌骨筋 707

*Sternothyroideus muscle *胸骨甲状筋 706

*Thyrohyoideus muscle *甲状舌骨筋 706

*Omohyoid muscle *肩甲舌骨筋 707

甲状軟骨舌骨を触診した後、胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、甲状舌骨筋を同定する (Fig.700)。肩甲舌骨筋は前腹と後腹からなり、鎖骨上神経を中枢側に追求した際にすでに剖出されていると思う (Fig.701)。胸骨舌骨筋と胸骨甲状筋の外側縁で支配神経を探し、これを上方にたどると頚神経ワナに到達する (Fig.701)。ワナとは輪や弓状を呈する解剖学的構造につける用語で、頚神経ワナは第 1、2、3 頚神経の線維が吻合してループを作る(下図)。内頚静脈をループ状に囲まない型では、ワナは著しく上方に位置する。舌骨下筋群と頚神経ワナは臨床では軽視されがちだが、独特の形態から解剖学的な興味を集めてきた。頚神経ワナと横隔神経との交通枝が見つかることがあり、横隔膜と舌骨下筋群の発生と進化の上での近縁関係が指摘されている 。頚神経ワナを上方に追及する際に、舌骨のすぐ上方に近接して舌下神経を確認したい (Fig.701)。

Ansa cervicalis 頚神経ワナ 701

Thyroid cartilage 甲状軟骨 706

Hyoid bone 舌骨 Os hyoideus 706

Phrenic nerve 横隔神経 701

Diaphragm 横隔膜 190

Hypoglossal nerve 舌下神経 (XII) Nervus hypoglossus 701

■付図 頚神経ワナ

(内頚静脈を囲まない内側型では、ワナの所在は図より高く分かりにくい)

(オリジナルの図)

■付図 胸鎖乳突筋の反転

(浦実習書の図を改変)

胸鎖乳突筋を反転して頚神経叢に至る実習は、多くの大学では、学生が最初に深部を見て感動する場面である。それは、多くの口腔外科医にとっては、大学に残っていつか自分も頚部郭清を執刀してみたいと思う場面でもある。

 

2.1.3 深頚リンパ節鎖の剖出   (Fig.716)

鎖骨下静脈内頚静脈が合流する外側の角を静脈角と呼ぶ (Fig.715)。太い内頚静脈を包んでいる血管周囲の結合組織を血管鞘 Vascular sheath という。その外側縁やや後方に沿って、下方は静脈角から、上方は下顎角後方、顎二腹筋中間腱の高さまでの間に、深頚リンパ節が鎖状に存在する (Fig.716)。頭頚部外科における根治的頚部郭清術 radical neck dissection の主要な郭清対象である。多数のリンパ節が連続していることもあれば、太い集合リンパ管が走るだけのこともある。5cm 程度でいいから、きちんと剖出して観察する。左右の静脈角近傍では、頚リンパ本幹や胸管を観察するため、リンパ節どうしの分離や除去は慎重に行なう (Fig.711)。ここでは無理をしないで、縦隔の解剖の際に縦隔から胸管をたどっていけばよい (p.115,139)。

リンパ管系については巻末の総論を参照せよ (p.246)。胃癌末期の転移で有名なウィルヒョウリンパ節 Virchow's nodes、肺疾患で穿刺する斜角筋リンパ節 Scalene nodes などを確認する。ここでは下深頚リンパ節内側群・鎖骨上リンパ節、やや外側だがハルステッドリンパ節 Halsted's nodes など、専門分野に応じて同じ領域に多数の名称が重複している。やがては相手の意図に応じてさりげなく使い分けたいものだ。

Jugular (node) chain 頚リンパ節鎖 716

Deep jugular (lymph) nodes 深頚リンパ節 716

Internal jugular vein 内頚静脈 Vena jugularis interna 716

Venous angle 静脈角 715

Angle of the mandible 下顎角 Angulus mandibulae 740

Digastric muscle 顎二腹筋 M.digastoricus 708

Jugular trunk 頚リンパ本幹 716

(Cervical lymphatic trunk)

Thoracic duct 胸管 715

2.1.4 頚動脈鞘と頚部の大血管   (Fig.705,711)

頚動脈鞘とは、内頚静脈・総頚動脈・迷走神経を一括して包む血管鞘である。血管鞘という構造をここで認識する。これを除去して大血管と迷走神経を剖出し、これら血管・神経が完全に前方に持上がるまできれいにする。迷走神経から分れる上喉頭神経は確認できたか (Fig.702)。さらに深側で頚部交感神経幹といくつかの神経節を求める (Fig.703)。線維だけのいわゆる 「神経」 と異なり、神経節細胞を含むために神経節はやや灰色がかっている。

頚部交感神経幹の上頚神経節は、舌下神経や顎二腹筋中間腱などが観察できるようにならないと直視下には見えない。副咽頭間隙の解剖の際に必ず見つける (p.54)。中頚神経節は小さい。下頚神経節は、通常は胸部の最上位の交感神経節と癒合して巨大化し、星状神経節 (頚胸神経節) と呼ばれる (Fig.238)。下頚神経節の名は臨床では用いない。前斜角筋の前面から内側方にかけて、慎重に血管・神経を剖出していく。星状神経節は上端しか見えない。その本体は第 1 肋骨頚の内面に前後方向に張りついているので、縦隔の解剖の際に再び剖出する (p.138)。星状神経節は治療目的 (頭、頚、上腕の疼痛及び循環の改善) でしばしば針を刺す場所である (付図 p.139)。

他に頚部には交感神経幹から分れる心臓神経が縦走している。大血管の後内側方でこれら心臓神経が複数見つかる。心臓神経の末梢の追求は開胸後になる。

Carotid sheath 頚動脈鞘 けいどうみゃくしょう Vagina carotica 705

Internal carotid artery 内頚動脈 702,719

Common carotid artery 総頚動脈 702

Arteria carotica communis

Vagus nerve 迷走神経 (X: p.50) Nervus vagus 702

Superior laryngeal nerve 上喉頭神経 702

Sympathetic trunk 交感神経幹 Truncus symphaticus 703o

Superior/*Middle/*Inferior 上/*中/*下頚神経節 かしんけいせつ

Cervical ganglion 703,892

Stellate ganglion 星状神経節 238

(Cervicothoracic ganglion) (頚胸神経節)

Scalenus anterior muscle 前斜角筋 ぜんしゃかっきん 703

(Cervical) cardiac nerves 心臓神経 711

2.1.5 頚神経叢   (Fig.699,701)

深頚リンパ節を理解してから頚神経叢の解剖にはいる。鎖骨上神経を中枢側に追求してC4 前枝の根を確認する (Fig.701)。さらに大耳介神経・頚横神経なども中枢側にたどってC2・C3 の根を探す。必要の範囲で深頚リンパ節を除去していく。 胸鎖乳突筋の上方への反転が不足していれば、さらに反転作業を追加して視野を広げ、C2・C3 の根を探す。下頚部深側では最初に前斜角筋を同定する (Fig.701)。同筋の前面で横隔神経を確認し、下方で鎖骨下静脈の深側に消えるまで追求する。今まで出てきた神経の中で横隔神経はとりわけ、損傷すれば大きな傷害を残す神経だ。また発生学的にも比較解剖学的にも興味深い神経である (ラングマン p.162)。複数の根を有するが、C の何番から始まるか。鎖骨下静脈の浅側を交差する根が後の実習中に見つかるかも知れない。前斜角筋の前面では太い頚横動脈も見つかる (Fig.703)。頚横動脈は、大鎖骨上窩を経て背部(p.99)と肩甲部に至る動脈の総称ないし親動脈であり、浅頚動脈、下行肩甲動脈など、多くの変異と名称がある。(横隔神経:臨床医がよく使う誤まった用語)

Cervical plexus 頚神経叢 700

Supraclavicular nerves 鎖骨上神経 699

Great auricular nerve 大耳介神経 Nervus auricularis magnus 699

Scalenus anterior muscle 前斜角筋 701

Transverse cervical nerve 頚横神経 699

Phrenic nerve 横隔神経 おうかくしんけい Nervus phrenicus 701

Subclavian vein 鎖骨下静脈 710

Transverse cervical artery 頚横動脈 702

Greater supraclavicular fossa 大鎖骨上窩 704

■付図 頚神経叢、腕神経叢

(岡嶋解剖学の図を改変)

 

2.2 頚部から顔面

2.2.1 顎下三角   (Fig.699,724,726)

顎下三角とは、顎二腹筋の前腹・後腹と下顎底がつくる三角である (Fig.724)。広頚筋を上方に下顎骨まで完全に反転する。反転した広頚筋の内面で顔面神経頚枝が見つかる (Fig.699)。深側の構造を傷つけないように注意しながら、 顎下三角を覆う浅頚筋膜を除去する。

Submandibular triangle 顎下三角 がっかさんかく 724

Digastric muscle 顎二腹筋 M.digastoricus 726

Anterior/Posterior belly 前腹/後腹

Base of mandible 下顎底 Basis mandibulae 754

Platysma muscle 広頚筋 Platysma 699

Facial nerve 顔面神経 (VII:p.50) Nervus facialis 699

Cervical fascia (Superficial layer) 浅頚筋膜 726

顎下腺の輪郭を明らかにする (Fig.726)。顎下腺に埋没するように蛇行上行していく顔面動脈とその枝を損傷しないよう注意する。ピンセットで浅側にえぐり出すように顎下腺の剖出を進める。無理をすると顎下腺管や血管が切れてしまう (Fig.855)。顔面動脈枝のオトガイ下動脈を温存しながら、顎下リンパ節を丁寧に剖出する (Fig.716,726)。深頚リンパ節鎖との連絡が確認 (想像) できたら最終的にはリンパ節をすべて除去する。舌癌の臨床などで重要になるリンパ節だ。

外頚静脈の根をできれば残しながら、耳下腺の輪郭を剖出していく (Fig.735)。特に下部では皮下の固い結合組織を除去するのに難渋する。メスを小刻みに用いて大耳介神経を助ける。この機会に胸鎖乳突筋をさらに上方まで反転し、合せて副神経を上方まで剖出温存しておくと、後で大きな時間的節約になる (Fig.701)。

Salivary gland 唾液腺

Submandibular gland 顎下腺 726

Facial artery 顔面動脈 Arteria facialis 726

Submandibular duct 顎下腺管 855

Submental artery オトガイ下動脈 727

Submandibular nodes 顎下リンパ節 726

External jugular vein 外頚静脈 699

Parotid gland 耳下腺 Glandula parotidea 699

Great auricular nerve 大耳介神経 Nervus auricularis 699

magnus

Sternocleidomastoideus muscle 胸鎖乳突筋 Musculus 699

sternocleidomastoideus

Accessory nerve 副神経 (XI) Nervus accessorius 701

 

■付図 顎下三角 (図の解剖体左側より右側が深いことをまず確認)

(浦実習書の図2場面を左右に分けて合成)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆担当者指定課題 リンパ節実習 (詳細は配布プリント参照)

実習の進行に応じてリンパ節を採取し,整理箱(工具ネジ箱)の所定の区画に入れる。採取リンパ節は下記の通り (ABC ・・ は整理箱の区画名)

(深頸リンパ節はp.28、腋窩リンパ節p.67,71、胸部のリンパ節は付図p.122,123、腹部はp.151,170,171,176,付図160などを参照、講義等でも説明:付録p.245)

  1. 気管前リンパ節+前縦隔リンパ節 (肺癌 3a 番:ほぼ腕頭静脈周囲)

B. 右気管傍リンパ節 (肺癌 2 番) + 右気管気管支リンパ節 (肺癌 4 番)

C. 左気管傍リンパ節 (肺癌 2 番) + 左気管気管支リンパ節 (肺癌 4 番)

D. 前縦隔リンパ節 (肺癌 3p番:ほぼ大動脈弓周囲、左総頸動脈根部)

E. 気管分岐下リンパ節 (肺癌 7 番) (F は E より下方で食道に接する)

F. 傍食道リンパ節 (肺癌8番) + 肺間膜リンパ節(肺癌9番)(食道癌108,110番)

G. 腸間膜根部リンパ節 (胃癌14番) (上腸間膜動静脈根部の周囲)

H. 肝十二指腸間膜内リンパ節 (胃癌 12番)

  1. 腹腔動脈幹リンパ節(胃癌9番) + 左右胃動脈幹リンパ節(胃癌8番) + 脾動脈幹リンパ節 (胃癌11 番)
  1. 大動脈周囲リンパ節 (胃癌 16 番) (腹腔動脈、上腸間膜動脈根部を除く)

K. 上深頸リンパ節 (肩甲舌骨筋・内頸静脈交叉部より上方)+(顎下リンパ節)

L. 下深頸リンパ節 (肩甲舌骨筋・内頸静脈交叉部より下方)(食道癌102,104番)

  1. 閉鎖リンパ節 (大腸癌282 番) + 内腸骨リンパ節(閉鎖動脈根部から内腸骨動脈周囲)(大腸癌 272 番)
  2. 狭義の腋窩リンパ節 (鎖骨下縁より遠位)

2.2.2 舌骨上筋群   (Fig.727,853,854)

舌骨上筋群とは次の 4 つの筋を指す。

Suprahyoid muscles 舌骨上筋群 854

Digastric muscle 顎二腹筋 854

M. digastoricus

Anterior/Posterior belly 前腹/後腹

*Stylohyoid muscle *茎突舌骨筋 854

*Mylohyoid muscle *顎舌骨筋 853

M. mylohyoideus

*Geniohyoid muscle *オトガイ舌骨筋 853

舌骨上筋群は、口腔底を形成する一種の 「横隔膜」 であると同時に、開口筋・嚥下筋である (Fig.854)。まず、顎二腹筋の前腹と中間腱が最初に確認できる。中間腱の浅側に密着して、大きなリンパ節がしばしば観察される。頚静脈二腹筋リンパ節という。 頚部リンパ節鎖の最上部に位置しており、医師がルーチンに触診で検索する。また顎二腹筋中間腱には、後方から茎突舌骨筋が巻きつくように合流している。茎突舌骨筋は、後に茎状突起を探す手がかりになる (Fig.859)。顎二腹筋中間腱のすぐ下方には太い舌下神経とその伴走静脈があり、必ず見つけて温存する (Fig.727)。

顎二腹筋前腹を下顎底から切離して下方に反転すると、外側から来る支配神経 (顎舌骨筋神経) が見つかる (Fig.727, 付図解剖体左)。後の側頭下窩の解剖の際 (p.59) に中枢側 (下顎神経) とつながるから温存しておく (Fig.751)。顎二腹筋前腹を舌骨レベルまで下方に反転し、顎下腺を適当に上方に反転すると、口腔底の主体をなす顎舌骨筋の広がりが分かる (Fig.727)。支配神経は浅側 (外面) を走る。顎二腹筋前腹と同じ下顎神経枝 (V-3) である。前正中線付近で顎舌骨筋を下顎骨から一部剥がして深側を剖出すると、強力なオトガイ舌骨筋が見つかる (Fig.855, 付図p.32の解剖体右)。

以上の剖出過程で同定しがたい神経を発見することがある。例えば、顎舌骨筋神経の皮枝 ・舌咽神経の皮枝など。これより先の口腔底の解剖は、頭部を切半してから舌・咽頭などと同時に行なう (p.56)。

Floor of the oral cavity 口腔底 855

Styloid process 茎状突起 859

Hypoglossal nerve 舌下神経 (XII) 727

N. hypoglossus

Accompanying vein of hypoglossal nerve 舌下神経伴行静脈 727

Base of mandible 下顎底 754

Mylohyoid nerve 顎舌骨筋神経 727

Mandibular nerve 下顎神経 (V-3) 751

Hyoid bone 舌骨 854

2.2.3 外頚動脈の枝   (Fig.702,746)

総頚動脈外頚動脈内頚動脈に分れる部位を確認する (Fig.702)。2 動脈にはさまれた股の部位には、頚動脈小体 (肉眼的には不明)など重要な血圧受容体と感覚性神経が存在するから、動脈をツルツルにしてはいけない (Fig.769)。まず、現在分かる範囲で外頚動脈の枝を下から順に確認する (Fig.746)。

External carotid artery 外頚動脈 746

Common carotid artery 総頚動脈 Arteria carotis communis 702

Internal carotid artery 内頚動脈 Arteria carotis interna 702

Carotid body 頚動脈小体 769

1) 第 1 枝である上甲状腺動脈を下方にたどり甲状腺まで追求する (Fig.702)。周囲には頚神経ワナの枝や上喉頭神経などがある。上甲状腺動脈から上喉頭動脈が分れているだろうか。上喉頭神経と上喉頭動脈は、甲状舌骨膜を貫通して喉頭に入る (Fig.711)。

2) 外頚動脈の第 2・3 枝である舌動脈顔面動脈の根部には、自律神経叢が固く巻きついている (Fig.892)。この 2 つの動脈の根部には共同幹形成などの変異が見られる。

Superior thyroid artery 上甲状腺動脈 702

Ansa cervicalis 頚神経ワナ 702

Superior laryngeal artery/nerve 上喉頭動脈/神経 702

Lingual artery 舌動脈 701

Facial artery 顔面動脈 702

3) オトガイ下動脈は、顎下リンパ節を観察しながらすでに剖出している (Fig.727,付図p.32)。舌動脈は舌骨舌筋の深側を走行して舌に向かうので、舌下神経とは伴走しない (Fig.724)。舌下神経はすでにきれいに剖出されているだろう。舌骨舌筋を少しずつ舌骨から剥がして上方に反転し、舌動脈の走行を確認する (Fig.897)。

以上 3 本の外頚動脈枝は、口腔・咽頭の運動のためか根部で迂曲蛇行している。

4) 後頭動脈と上行咽頭動脈は深くてまだ確認できないかも知れないが、いずれ副咽頭間隙の解剖の際に確認したい (p.54)。後頭動脈の末梢は、背部 (後頭部) の皮下で大後頭神経の剖出に苦労した折にすでに観察している (Fig.698, p.13)。

Submental artery オトガイ下動脈 727

Hypoglossus muscle 舌骨舌筋 724

Occipital artery 後頭動脈 748

*Ascending pharyngeal artery *上行咽頭動脈 892

 

2.3 頚部内臓

2.3.1 甲状腺   (Fig.712,715)

舌骨下筋群を胸骨から剥がす (Fig.706)。開胸していればすでに剥がれている。支配神経を付けたまま舌骨下筋群を上方に反転し、甲状腺を露出させて輪郭を明らかにする。この際、甲状腺の後外側方で反回神経の末梢を損傷しないよう注意する (Fig.715)。甲状腺の手術では、反回神経との近接関係が常に問題になる。手術時に反回神経を損傷すると著しく QOL を損ねる。甲状腺に錐体葉はあるだろうか (Fig.163,715)。さらに甲状舌管の遺残を思わせる索状物はないか (ラングマン p.295-296)。甲状腺の辺縁から周囲に向けて上・下・最下 (変異) の甲状腺動脈上・中・下の甲状腺静脈を同定して知識を整理する (Fig.710,715)。中甲状腺静脈は半数程度に存在し、内頚静脈に直接注ぐ。すでに切れているので断端を確認する。

最後に、甲状腺を気管から剥離して上方へ反転し、裏面でアズキ大のリンパ節のような副甲状腺を探す (付図p.37, Fig.713)。甲状腺の左右の葉はどちらが大きいか、どちらが後方まで広がるか、さらに一部で断面を観察し、濾胞の巨大化したものがないか確認する。褐色に凝固したサイログロブリン (濾胞上皮細胞からの分泌物の主成分) が分かるだろうか (標準組織学各論 p.303-305)。

Thyroid gland 甲状腺 712

die Schilddruse

Left/Right lobe 左/右葉 712

Thyroid follicle 濾胞 ろほう

Pyramidal lobe 錐体葉 715

Thyroglossal duct 甲状舌管

Recurrent laryngeal nerve 反回神経 はんかい− 715

Superior/Inferior thyroid artery 上/下甲状腺動脈 か− 715

Thyroid ima artery 最下甲状腺動脈 さいか− 715

Superior/Middle/Inferior thyroid vein上/中/下甲状腺静脈 710

Trachea 気管 715

Parathyroid gland 副甲状腺 713

2.3.2 咽頭・喉頭   (Fig.890,896,899,906)

開胸を行ない (p.111)、上縦隔の解剖が終了してから (p.115)、 咽頭・喉頭(のど)の解剖にはいること。左右の反回神経が、甲状腺周囲できちんと剖出されていなければならない。左右切れば声門(後述)が閉鎖して死に至ることもある。

Pharynx 咽頭 der Rachen いんとう 890o

Larynx 喉頭 der Kehlkopf こうとう 890o

咽頭・喉頭の区分について知識が整理されているだろうか。咽頭は頭蓋底 (蝶形骨の前下方) から第 6 頚椎付近まで上下に延びる管である (Fig.890,893)。下方は食道に続く。前方 3 か所に窓があり、鼻腔、口腔、喉頭にそれぞれ続く。鼻腔の後方を上咽頭、口腔の後方を中咽頭、喉頭の後方を下咽頭と呼ぶ。

喉頭の骨格を作る軟骨を理解する。外面から甲状軟骨輪状軟骨 (Fig.899)、そして輪状甲状筋 (臨床名 : 前筋) の輪郭を明らかにする (Fig.712)。気道確保の一つ、気管切開tracheotomy の場所を確かめよ。この際に反回神経上喉頭神経を再確認し (Fig.703,896)、さらに喉頭に出入りする血管を剖出する。喉頭 5 筋の中で輪状甲状筋だけは上喉頭神経支配であり、現状で観察できる。残り 4 筋については p.43 を見よ。鰓弓由来の軟骨 (骨格)、筋、及びその支配神経についてはラングマン 表p.283、図p.288を参照せよ。

Thyroid cartilage 甲状軟骨 899

Cricoid cartilage 輪状軟骨 899

*Cricothyroid muscle 輪状甲状筋 (前筋) 712

Recurrent laryngeal nerve 反回神経 896

Superior laryngeal nerve 上喉頭神経 896

■付図 気管切開 (Fig.694,695)

(「エキスパ−トナ−ス」の図を改変)

 

■付図 副甲状腺の位置

(「日本人のからだ」の図を改変)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■付図 頚部内臓の剥離

(「浦実習書」の図を改変)

 

 

 

以下、頭部離断 (p.51) の準備作業を兼ねて以下のように解剖を進める。

1) 喉頭・咽頭への枝を切らないように注意しながら、総頚動脈・内頚静脈・迷走神経を気管・食道から若干引き離す。頚横動脈の枝である下甲状腺動脈が緊張したら、適当な場所で動脈の内外両側に色糸を付けて間を切る (付図p.37)。

2) 食道・咽頭と脊柱の間に指を入れて頚部内臓を前方に浮かし、咽頭後隙を開放する (Fig.890)。挿入した指の前方では咽頭筋膜を触れ、後方では頚筋膜椎前葉に覆われた頚長筋と椎体に触れる (Fig.717)。

3) 舌骨の高さ付近で、左右の迷走神経・副神経・頚部交感神経幹を色糸でラベルして区別する (Fig.892)。切断されても下方の断端はすぐに同定できるものと期待する。総頚動脈と内頚動脈は切断してもすぐに同定できる。反回神経だけは、喉頭の解剖の際に切れていても今のうちに確認し、輪状軟骨の高さで上下両側に色糸を付けて間を切る (Fig.898)。

4) 輪状軟骨のすぐ下方で気管・食道を切断する (Fig.890)。同じ高さで頚部-頭部を結ぶ血管・神経を切断する。頚神経叢・腕神経叢には特に処置をしない。後日、2-3 頚椎間に鋸を入れるために頚神経叢と頚神経ワナが破損するので、余裕があればこれらも根に糸で印を付ける。頚部内臓とそこに付く血管・神経を大きく上方に反転する。切断した頚部内臓の後方に指を入れて、できるだけ上方まで咽頭後隙の剥離を進める。

気管・咽頭を切断して持ち上げたら、最初に後方 (脊柱側) から咽頭を観察する。まだ咽頭筋膜に覆われているので咽頭縫線は不明瞭かも知れない (Fig.891)。

Common carotid artery 総頚動脈 Arteria carotis communis 892

Internal carotid artery 内頚動脈 Arteria carotis interna 892

Vagus nerve 迷走神経 (X) Nervus vagus 892

Inferior thyroid artery 下甲状腺動脈 892

Esophagus 食道 890

Pharynx 咽頭 890

*Retropharyngeal space *咽頭後隙 890

*Longus colli muscle *頚長筋 717

Vertebral body 椎体 646

Accessory nerve 副神経 (XI) Nervus accessorius 892

Sympathetic trunk 交感神経幹 Truncus symphaticus 892

Recurrent laryngeal nerve 反回神経 898

Cricoid cartilage 輪状軟骨 898

Trachea 気管 890

*Pharyngeal raphe *咽頭縫線 −ほうせん 891

 

 

ここで、気管内挿管(経口挿管)の演習を行う(頚部離断後に行った方が容易な場合がある)。

1) まず、口腔内の綿や入歯を除去する。

2) すでに側頭下窩の解剖は進んでいるだろうか: p.57(1)- p.58(5)。顎関節が動かないと開口しない。大きく開口しない時はスタッフの指示を受ける。

3) 舌をできるだけ前に引く。ライヘの舌根は必ず沈下しており、視野を妨げる。挿管チューブの位置が後方からわかるように、食道と咽頭の後壁を正中切開する。まず指を挿入してみて、喉頭蓋の位置を体験する。さらに、咽頭後壁を正中線で切開して、後方から咽頭を見る。喉頭後壁はまだ正中切開しない。

4) 喉頭蓋をいかに避けて喉頭展開 (口から喉頭内をみること) を行うか。後方から指でガイドしながら、喉頭蓋の側方の梨状陥凹を経由して気管チューブを挿入する。梨状陥凹は、嚥下時に食物が流れ落ちる経路である。

5) それでも気管に入らない時は、さらに喉頭を後方からハサミで正中切半して(軟骨で硬い)、その内腔を見ながら、あるいは中から指でガイドしながら挿管を試みる。声門が閉鎖しているために入らないことが分かる(生体でも、喉頭浮腫や神経損傷のため声門が閉鎖していれば入らない:気管切開の適応になる)。

次のようにしてもいい:喉頭の軟骨と舌骨を大きなハサミと鋸で前からも正中切半し、その他の軟部はメスで正中切半して、下顎骨下方の咽頭・喉頭の内腔を完全に開放する (Fig.893,896)。

(毎日のように挿管しているベテラン救急医に頼んで、ライへで上述のごとく25体に挿管をやらせたことがある:ただの一体も挿管できない。挿管は理論ではなく反射運動だということがよく分かった。)

頭部正中切半 (6.5.5) の際に頭部だけをまず切半して喉頭を残し、喉頭を下咽頭と共に摘出して剖出する方法もある。いかにも 「のど笛」 を解剖している感じがする (Fig.898)。この方法では、まず舌下神経と上喉頭動脈・神経を確認、舌下神経は口側 (舌側) に、上喉頭動脈・神経は摘出する喉頭に付ける。甲状舌骨膜を横断し、喉頭蓋を摘出喉頭に付けるように注意しながら舌骨下方で咽頭を切断する。このため梨状陥凹は破損する。上喉頭動脈 ・神経は色糸を 2 か所に付けて間を切断。下方はすでに輪状軟骨の下で切断しているはず。摘出後は、喉頭に後方から切開を入れ、下咽頭をはずしながら解剖を進める。

Temporomandibular joint 顎関節 740o

Epiglottis 喉頭蓋 893

Hypoglossal nerve 舌下神経 (XII) Nervus hypoglossus 897

Superior laryngeal artery/nerve 上喉頭動脈/神経 898

Piriform recess 梨状陥凹 りじょうかんおう 893

 

■付図 気管内挿管

(「エキスパ−トナ−ス」の図を改変)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一側の喉頭の解剖と観察に入る (Fig.897-914)。以下の手順で行う。

1) 喉頭の内腔で喉頭蓋仮声帯 (前庭ヒダ)声帯 (室ヒダ)声門を同定する (Fig.908)。

2) 声門裂には、声帯にはさまれた膜間部と、披裂軟骨にはさまれた軟骨間部を区別する。膜間部が振動し、軟骨間部が声門裂の幅を調整する (Fig.910)。

3) 喉頭蓋の側方で食物が流れる梨状陥凹を確認する (Fig.893)。

4) 喉頭蓋の前方付着を確認する (Fig.909)。

5) 左右どちらか一側だけで喉頭の内面で粘膜を剥がし、甲状軟骨輪状軟骨の輪郭を内面から明らかにする (Fig.907)。粘膜をきれいに剥がすと、以下の筋や軟骨の同定がはかどる。粘膜下には、喉頭弾性膜という厚い組織がある (除去してよい)。喉頭弾性膜の上部は四角膜と呼ばれ、下縁が仮声帯にあたる。又、下部は弾性円錐と呼ばれる。

6) 披裂軟骨と喉頭 5 筋を同定する (Fig.906)。視野が狭くて剖出できない部分は、頭部まで正中切半してから残り一側とともに解剖する。

外側輪状披裂筋 (臨床名 : 側筋)、横披裂筋 (横筋)、後輪状披裂筋 (後筋)、甲状披裂筋と声帯筋 (内筋) の中で、声門の開大筋は後筋だけである。これらの筋には、反回神経に続く下喉頭神経から筋枝が来る (Fig.898)。反回神経を失ってはいないか(不明なら応援を求めよ)。今日剖出している一側では、甲状軟骨の外側部を必要に応じて切除してもいい。これで視野が広がる。上喉頭神経は甲状舌骨膜を貫通して喉頭に入る。神経を筋につなぐ作業は、頭部を離断して完全に正中切半してからでいい。その際は下喉頭神経と上喉頭神経の吻合も剖出したい (Fig.898)。

喉頭の解剖は、後日、さらに予習復習した上で残る一側を用いて行なう。

Epiglottis 喉頭蓋 こうとうがい 908

Vestibular fold 仮声帯 (前庭ヒダ) 908

Vocal fold 声帯 (室ヒダ) 908

Glottis 声門

Rima glottidis 声門裂 (膜間部、軟骨間部) 908

Piriform recess 梨状陥凹 りじょうかんおう 893

Arytenoid cartilage 披裂軟骨 ひれつ− 901

喉頭 5 筋 906

*Cricothyroid muscle *輪状甲状筋 (前筋)

*Lateral cricoarytenoid muscle *外側輪状披裂筋 (側筋)

*Transverse arytenoid muscle *横披裂筋 (横筋) おうひれつ

*Posterior cricoarytenoid muscle *後輪状披裂筋 (後筋)

*Thyroarytenoid muscle/Vocalis muscle *甲状披裂筋/声帯筋 (内筋)

( )は臨床名

* 甲状軟骨のことを「アダムのリンゴ」とか「ノドボトケ」と呼ぶ。しかし、火葬場では軸椎のことを「ノドボトケ」と呼ぶ(p.53 参照)。男性は「ノドボトケ」が出てくる頃に声変わりが起こる。主に3つの軟骨からなる喉頭の骨格の形と大きさが変化する結果であろう。

 

■付図 喉頭筋の作用と披裂軟骨の動き:通常の発声、高音発声、低音発声、強制呼吸

(オリジナルの図)

 

 

 

2.4 顔面

2.4.1 顔面の血管・神経   (Fig.736,748)

表情筋の解剖はすでに触れた (p.14)。皮下組織内で、表情筋を剥離除去しながら深側の血管・神経を剖出する (Fig.736)。顔面動脈は表情筋の剖出の際にすでに下顎底で捉えているだろうか。自分で拍動を触れて、生体における位置を確認する。顔面動脈と言っても、主な分布域は口の周囲である。上唇動脈、下唇動脈を剖出する。キーセルバッハ部位Kiesselbach に分布しそうな上唇動脈は見つかるだろうか。キーセルバッハ部位とは、鼻中隔最前部の鼻出血の好発部位である (Fig.830)。さらに顔面動脈を上方にたどる。顔面動脈の終枝である眼角動脈には個体差が多い。弱い場合は、浅側頭動脈枝の顔面横動脈が代償している。

Facial muscles 表情筋 (顔面筋) 728

Subcutaneous tissue 皮下組織

Facial artery 顔面動脈 746

Base of mandible 下顎底 754

Superior/Inferior labial artery 上/下唇動脈 じょうしん/かしん− 736

Kiesselbach's (Little's) area キーセルバッハ部位 830

Locus Kiesselbachii

*Angular artery *眼角動脈 がんかく− 736

Superficial temporal artery 浅側頭動脈 736

*Transverse facial artery *顔面横動脈 がんめんおう− 735

眼窩上動脈・滑車上動脈を、眼窩口上縁内側部で、同名の神経と共に剖出する (Fig.791) 。まずは正統的に皮下組織をほぐして剖出してみよう。頭蓋冠をはずし (付図p.12)、頭皮を帽状腱膜ごと前頭骨から眼窩に向けて剥離していくと、これらの血管・神経を速やかに捉えることができる。眼窩上動脈・神経滑車上動脈・神経の識別は、眼窩内容の解剖が始まるまで待つ (p.46)。両者は親動脈 (あるいは神経の根部) が異なる。

Supraorbital artery/nerve 眼窩上動脈/神経 791

Supratrochlear artery/nerve 滑車上動脈/神経 791

Orbita 眼窩 がんか 787

Frontal bone 前頭骨 787

眼窩下動脈・神経は学生の予想よりも深い部位で枝分れする。眼窩口下縁から眼輪筋を下方に剥がしながら深く掘り下げ、上顎骨体に接して動脈・神経を捉える。眼窩下神経は本来は ヒゲ (重要な触覚) の神経だが、上顎歯前部の支配神経としても重要である (Fig.866)。

 

 

Infraorbital artery/nerve 眼窩下動脈/神経 がんかか− 791

Maxilla 上顎骨 787

Upper teeth 上顎歯 じょうがくし 866o

オトガイ動脈・神経はオトガイ上方で下顎骨に接して表情筋を剥がしながら見つける。予想外に深い。この神経は、後に下顎骨を砕いて下歯槽動脈・神経を剖出する際に指標とする (Fig.748)。

Mental artery/nerve オトガイ動脈/神経 736

Mandible 下顎骨 754

Inferior alveolar artery/nerve 下歯槽動脈/神経 かしそう− 748

2.4.2 耳下腺と顔面神経   (Fig.856,736)

頬部で耳下腺管をあらかじめ温存しておく (Fig.856)。耳下腺管に沿って独立した副耳下腺があるだろうか (Fig.731)。耳下腺をくずしながら、顔面神経根部に近い耳下腺神経叢を剖出する (Fig.736)。耳下腺手術の際には温存に苦慮する。耳下腺と下顎骨の位置関係に注意して、生体で耳下腺を触診してみる。広頚筋と顎下三角の剖出の際に顔面神経頚枝が見つかっていれば (p.31)、これを顔面神経根部までつなぐ (Fig.736)。

顔面筋 (表情筋) を剥離しながら顔面神経の分枝を剖出する (Fig.730)。上顎神経・下顎神経・頚神経叢などの末梢と細い交通があるはずだ (Fig.699,736)。こうした交通を介して感覚成分を受けている。ただし、耳介側頭神経 (下顎神経枝) との交通は耳下腺分泌の副交感神経成分を運ぶ (Fig.240,732)。1 か所でも見つけたいところだ。この交通を見つけるためには、耳下腺くずしを丁寧に行なわねばならない。耳介側頭神経は、浅側頭動脈が現段階で同定できればその近傍を走行する枝から下方に追求することができる (Fig.736)。顔面における顔面神経枝については興味があれば詳細に剖出してほしい。耳下腺くずしの最中に温存すべき構造として、神経の他に下顎後静脈がある (Fig.716,747)。変異に富み知名度は低いが、頭部と頚部を結ぶ静脈路の要をなす。剖出しながら顔面静脈、外頚静脈、内頚静脈などと連絡させる (Fig.748)。なお、耳下腺は後方までピンセットできれいに除去されているほど、後の解剖がはかどる。

Parotid gland 耳下腺 じかせん 856

Glandula parotidea

Facial nerve 顔面神経 (VII) 730

Nervus facialis

Parotid duct 耳下腺管 856

Accessory parotid gland 副耳下腺 856

Parotid plexus 耳下腺神経叢 736

Maxillary/Mandibular nerve 上顎/下顎神経 (V-2/V-3) 835

Branches of the cervical plexus 頚神経叢の枝 699

Auriculotemporal nerve 耳介側頭神経 736

Superficial temporal artery 浅側頭動脈 736

Retromandibular vein 下顎後静脈 736

Facial vein 顔面静脈 736

External/Internal jugular vein 外/内頚静脈 736

2.5 眼窩内容

2.5.1 生体観察   (Fig.783,798,819)

結膜涙点を学生どうしで観察する。隅角眼底の生体観察は眼科外来にて希望者 10名程度の小グループで行なう。

Conjunctiva 結膜 783

Iridocorneal angle 隅角 819

Fundus of the eye 眼底 822

Caruncula lacrimalis 涙丘

2.5.2 眼窩の開放   (Fig.780,787,790,803)

眼窩はとても複雑なので図譜などでよく予習せよ。特に外眼筋の位置関係と神経の走行は必須で、何も分からないままに進むとすっかり破壊してしまい、眼窩の解剖がただの思い出作りになってしまう。

眼の解剖は、まず一側で行ない、さらに復習をしてから残り一側を解剖する。一度に左右とも解剖してはいけない。

頭蓋底を再度よく観察した後に (p.53、及び第8章)、前頭蓋窩の硬膜を剥がす。前頭蓋窩を作る前頭骨、篩骨、蝶形骨の縫合を確認する (Fig.780)。

Orbita 眼窩 がんか 787

Anterior cranial fossa 前頭蓋窩 ぜんとうがいか 779

Dura Mater 硬膜  767

Frontal bone 前頭骨 780

Ethmoid bone 篩骨 しこつ 780

Sphenoid bone 蝶形骨 ちょうけいこつ 780

頭蓋底から慎重にノミを当てて、眼窩上壁を一部開放する。強靱な眼窩骨膜が見えたら (Fig.808)、それを破らないように押込み、リューエルで眼窩上壁を割りながら除去し、広く開放する。眼窩上壁に進入した前頭洞 (Fig.837) が眼窩と一緒に開放されることがある。眼窩口上方に前頭骨が残るので、これもリューエルと鋸で除去する。眼窩上神経(後述の前頭神経の枝)・滑車上神経(後述の鼻毛様体神経の枝)は、眼窩内容側に付けて温存すること。篩骨篩板を含む眼窩内側壁 (Fig.789) も温存する。

 

Periorbita 眼窩骨膜 808

Frontal sinus 前頭洞 837

Supraorbital nerve 眼窩上神経 791

Supratrochlear nerve 滑車上神経 791

Cribriform plate 篩骨篩板 しこつしばん Lamina cribrosa 780

続いて眼窩の外側壁を開放する。開放された眼窩上壁からピンセットを入れて、眼窩骨膜に包まれた眼窩内容を内側上方に寄せる。この際、眼窩外側壁との間に緊張する細い神経が見つかれば、涙腺に副交感神経成分を運ぶ涙腺神経-頬骨神経の交通枝である (Fig.240,797)。側頭筋を側頭骨から剥がして下方に反転しながら、眼窩外側壁 (Fig.790) をリューエルと鋸で除去する。眼窩内容、特に涙腺を損傷しないように注意する。涙腺が分からなければ早くスタッフに聞く。

Lacrimal gland 涙腺 797

Communicating branch between ↓きょうこつしんけい

zygomatic and lacrimal nerve 涙腺神経-頬骨神経の交通枝 797

Temporalis muscle 側頭筋 733

Temporal bone 側頭骨 790

2.5.3 眼窩内容   (Fig.803,805,807,808)

1) 眼窩内容を覆う眼窩骨膜を上方と外側から除去する。筋や血管・神経を温存しながら、眼窩脂肪体をひたすら除去していく。

2) 上斜筋は最も壊れやすい。最初に輪郭を明らかにする (Fig.809)。その後部上縁で細い滑車神経を確保する (Fig.803)。上斜筋の滑車は、周囲の解剖を進めないとスルスル動いてはくれない。

3) 涙腺、上眼瞼挙筋、上直筋、外側直筋、内側直筋を同定する (Fig.809)。ここでいきなり深部に進もうとすると、すっかり破壊してしまうので注意すること。眼窩上神経に続く前頭神経を上方に浮していく (Fig.803)。

Superior oblique muscle 上斜筋 809

Trochlear nerve 滑車神経 803

N.trochlearis(IV)

Levator palpebrae superioris muscle 上眼瞼挙筋 −がんけんきょきん 809

Superior/Inferior rectus muscle 上/下直筋 808,809

Medial/Lateral rectus muscle 内側/外側直筋(内/外直筋: 臨床名) 809

Frontal nerve 前頭神経 803

4) 上眼瞼挙筋上直筋だけを前端で切断して後上方に反転する (Fig.803,804)。他のすべての外眼筋は最後まで切らずに温存する (下斜筋は (5) の作業ではがれる)。注意深く脂肪を除去して視神経に至る。視神経の剖出を急ぐと、細い鼻毛様体神経長・短毛様体神経 (Fig.805) を切ってしまう。くれぐれも無理しないで、詳細は眼窩内容を脱転して視野を広げてからの方がいい。長・短毛様体神経を後方にたどり、外側直筋の内側面に接して小さな毛様体神経節を探す。

5) 眼窩内容を内眼角・外眼角からメスではずして、上方に脱転する。内眼角上方で骨ぎりぎりに眼窩内容を剥がせば、上斜筋の滑車は眼球側に温存される。眼窩内容を骨から剥がし取るように上方に脱転する過程で、下斜筋が骨から剥がれる。下斜筋の輪郭を明らかにすると、太い動眼神経下枝が容易に見つかる (Fig.806)。下方で眼窩下動脈の枝が緊張することがある。外側壁で涙腺に至る細い神経が緊張したら、糸をかけてラベルしておく。

上記の作業で眼瞼靭帯が切れる。内眼角・外眼角では、眼瞼の芯を作る瞼板内側・外側眼瞼靭帯によって 眼窩に固定されており、そのすぐ深側後方では眼窩隔膜という結合組織が眼窩口を塞いでいる (Fig.792,796)。

Optic nerve 視神経 (II) Nervus opticus 803

Nasociliary nerve 鼻毛様体神経 びもうようたい− 805

Long/Short ciliary nerve 長/短毛様体神経 805

Ciliary ganglion 毛様体神経節 805

Medial/Lateral angle of the eye 内/外眼角 783,784

Superior/Inferior oblique muscle 上/下斜筋 808,810

Infraorbital artery 眼窩下動脈 806

*Palpebral ligament *眼瞼靭帯 がんけんじんたい 796

Superior/Inferior tarsus 上/下瞼板 か−けんばん 796

6) 内眼角を切断す際、時には鼻涙管も切断されるのでその断面を確認する

(Fig.799,800)。しかし多くの場合、眼輪筋に続く丈夫な膜に覆われたまま涙嚢は眼窩側に残っている。この膜をメスで切開すると初めて涙嚢の広がりと鼻涙管が見える。鼻涙管からゾンデを下方に挿入し、鼻腔側から観察する。

7) 上下左右あらゆる方向から、神経と血管を剖出する。繰り返すが、上眼瞼挙筋と上直筋以外の筋を切ってはいけない。眼窩内容を覆う眼窩骨膜は全周にわたり除去されただろうか。眼窩内側に緊張する動脈があれば前篩骨動脈であろう (Fig.806)。動脈を鼻骨内面まで追跡してもいい。

Nasolacrimal duct 鼻涙管 びるいかん 800

Lacrimal sac 涙嚢 るいのう 799

Anterior ethmoidal artery 前篩骨動脈 ぜんしこつ− 806

8) 脂肪を完全に除去して、神経を筋から後方にたどる。眼球の後方も清掃して、細い血管・神経を剖出する。眼球と眼筋停止部の間にあるヌルヌルしたテノン鞘 Tenon's(Fig.801,802) は、その気でいないと除去してしまう。

9) 次の神経 (枝)、神経節、動静脈を確認せよ。眼動脈以外では、中硬膜動脈が眼窩内容に分布することも多い。眼窩の静脈還流は上眼静脈が主流である。

Ophthalmic artery/nerve 眼動脈/神経 806

Middle meningeal artery 中硬膜動脈 ちゅうこうまく− 803

Oculomotor nerve 動眼神経 N. oculomotorius (III) 806

Abducens nerve 外転神経 N. abducens (VI)(p.50) 805

Lacrimal artery 涙腺動脈 るいせん− 804

Superior ophthalmic vein 上眼静脈 777,807

2.5.4 眼球   (Fig.819,823)

  1. 外眼筋や眼窩の血管・神経を温存したまま、上方から下方に向けてよく切れるメスを眼球に入れ、眼球と視神経の一部を直線的に矢状断する。ジグザグしてはいけない。硬いレンズがころがり落ちるかも知れない。
  2. ドロドロの硝子体を慎重に除去する。黒い網膜色素上皮層脈絡膜と共にはがれてくる。強膜、脈絡膜、網膜色素上皮層、網膜神経部の 4 層を区別する (標準組織学各論p.436-437)。眼球の発生はラングマン p.322-330 参照。

3) 虹彩・瞳孔水晶体 (レンズ) を観察する (Fig.819) 。コリコリした

レンズをはずしてもいい。網膜の光受容部と非受容部の間の鋸状縁を見て、

これを虹彩と誤解しないように。

4)鋸状縁に接して後方から網膜を除去しながら毛様体を観察する (Fig.823)。前眼房角膜の間の隅角について、希望者は隅角鏡の示説を受ける。隅角は、緑内障を理解する上でポイントになる。隅角から前眼房内の眼房水を吸収するシュレム管Schlemm's については Fig.823 及び標準組織学各論 p.419,422,425 参照。

Eyeball 眼球 Bulbus oculi

Vitreous body 硝子体 しょうしたい 819

Sclera 強膜 きょうまく 819

Chorioid 脈絡膜 (ブドウ膜) みゃくらくまく 819

Retina 網膜 819

Iris 虹彩 こうさい 819

Pupil 瞳孔 どうこう 819

Lens 水晶体 すいしょうたい 819

*Ora serrata *鋸状縁 きょじょうえん 819

Ciliary body 毛様体 もうようたい 823

Anterior chamber of eye 前眼房 ぜんがんぼう 819

Cornea 角膜 819

Iridocorneal angle 隅角 823

2.5.5 眼窩から頭蓋底   (Fig.780,807)

外眼筋が後方で付着する総腱輪 (Fig.815) を観察する。と言っても、切開しないと理解できないかも知れない。総腱輪の中を視神経眼動脈が通る。視神経に進入する眼動脈枝は何本見つかったか。細いが重要な栄養動脈だ。その 1 枝は、眼底で見る網膜中心動脈になる (Fig.821,822)。上眼窩裂を剖出しながら、そこを通る神経 (III、IV、V-1、VI) を同定する (Fig.780)。下眼窩裂は下眼静脈が通る(しかし主流は上眼静脈と考えている)。眼窩の下壁で眼窩下動脈・神経を見つけ、骨を慎重に割りながら長く剖出する (Fig.807)。余裕があればノミを用いて上顎 1-3歯の歯槽まで追求する。

頭蓋底の解剖と脳外科の研修が終了してから、動脈・神経を眼窩から海綿静脈洞 (Fig.773) まで連続させる。総腱輪は最後にメスで開放する。前後の篩骨動脈 (Fig.806) は、鼻の解剖に支障が出るので末梢までは追及しない。

*Common tendinous ring *総腱輪 815

Optic nerve 視神経 (II, p.50) Nervus opticus 815

Opthalmic artery 眼動脈 803

Central artery of retina 網膜中心動脈 821

Superior/Inferior orbital fissure 上眼窩裂/下眼窩裂 787

*Inferior ophthalmic vein *下眼静脈 747,807

Infraorbital artery/nerve 眼窩下動脈/神経 807

Cavernous sinus 海綿静脈洞 773

Anterior/Posterior ethmoid artery 前/後篩骨動脈 806

2.6 頭蓋底   (Fig.767,770,777,780)

脳出し後の頭皮縫合を切断して頭蓋冠をはずす (Fig.756)。頭蓋腔に血液などが残っていれば、洗い流してスポンジや布できれいに拭取る。硬膜が付いた状態で前頭蓋窩、中頭蓋窩、後頭蓋窩、大孔を確認する (Fig.777,780)。脳付きの班があれば必ず見学しておく。第8章(骨学実習)も参照。

Skull base (Base of the cranial cavity) 頭蓋底 とうがい−、ずがい− 777

Anterior/Middle/Posterior cranial fossa 前/中/後頭蓋窩 779

Foramen magnum 大孔 だいこう 780

  1. 脳神経の切り口を確認・同定する (Fig.767,773,777)。脳神経は ( ) のごとくロ−マ数字で略記する。
  2. Olfactory nerves 嗅神経 (I) きゅうNervi olfactorii 777

    Optic nerve 視神経 (II) Nervus opticus 777

    Oculomotor nerve 動眼神経 (III) Nervus oculomotorius 777

    Trochlear nerve 滑車神経 (IV) Nervus trochlearis 777

    Trigeminal nerve 三叉神経 (V) Nervus trigeminus 777

    Trigeminal ganglion (Gasserians ggl.) 三叉神経節

    Ophthalmic nerve 眼神経 (V-1) Nervus ophthalmicus 777

    Maxillary nerve 上顎神経 (V-2) Nervus maxillaris 777

    Mandibular nerve 下顎神経 (V-3) Nervus mandibularis 777

    Abducens nerve 外転神経 (VI) Nervus abducens 777

    Facial nerve 顔面神経 (VII) Nervus facialis 777

    Vestibulocochlear nerve 内耳神経 (VIII) Nervus 777

    vestibulocochlearis

    Glossopharyngeal nerve 舌咽神経 (IX) Nervus 777

    glossopharyngeus

    Vagus nerve 迷走神経 (X) Nervus vagus 777

    Accessory nerve 副神経 (XI) Nervus accessorius 777

    Hypoglossal nerve 舌下神経 (XII) ぜっかNervus hypoglossus 777

    ライヘによっては IV と VI の同定が少々難しい。近所の班でも確認する。

    三叉神経節はMeckels caveという硬膜とクモ膜のポケットに包まれている。

  3. 硬膜と硬膜静脈洞を観察する (Fig.767,768)。多くの班では脳出しの際に切れているから復元しよう。まず、そのまま硬膜を観察する。
  4. Dura mater 硬膜 こうまく 767o

    Dural sinuses 硬膜静脈洞 767o,768o

    Falx cerebri/cerebelli 大/小脳鎌 767

    Tentorium cerebelli 小脳テント 767

    Diaphragma sellae 鞍隔膜 あんかくまく 774

  5. 適宜メスで内腔を開きながら、以下の静脈洞を観察する (Fig.767)。クモ膜顆粒 (Fig.766) という粒々の集合に注目する。脳脊髄液の吸収装置である。

Dural sinuses 硬膜静脈洞 767o,768o

Superior/Inferior sagittal sinus 上/下矢状静脈洞 しじょう− 767

Straight sinus 直静脈洞 ちょくじょうみゃくどう 767

Transverse sinus 横静脈洞 768

*Confluence of sinuses *静脈洞交会 −こうかい 767

Sigmoid sinus S状静脈洞 768

Arachnoid granulation クモ膜顆粒 766

4)鞍隔膜を除去して下垂体を摘出する (Fig.774)。

5)下垂体窩の左右で、海綿静脈洞を剖出する (Fig.770,777)。海綿静脈洞も

当然、硬膜に囲まれている。大脳の動脈の切り口を確認して内頚動脈を求め、

海綿静脈洞内の内頚動脈の走行を確認する (Fig.773)。

内頚動脈は海綿静脈洞に入ってから、さらに上方に向けてS字状の走行を呈す。これをかつて頚動脈サイフォンといった (Fig.771)。同部の内頚動脈は、Posterior bend → Horizontal part → Anterior bend → Superior part→Vertical partと続き、全体としてIntercavernous portionと呼ぶ。

Pituitary gland 下垂体 Hypophysis 773

Pituitary fossa 下垂体窩 774

Cavernous sinus 海綿静脈洞 773

Internal carotid artery 内頚動脈 771

6) 頭蓋底の硬膜を剥離する。クモ膜・軟膜は摘出した脳の側に付いている。

骨に溝を付けて走行する中硬膜動脈枝を剖出しただろうか (Fig.777)。

脳神経根の部分では、硬膜を剥がす際に神経を損傷しないように注意する。

特に三叉神経根では、硬膜を小さく砕きながら剥がしていく。側頭骨錐体

前面には、後に内耳の解剖で必要な大・小錐体神経があるから、

今は剥がさない (Fig.777)。

Arachnoid クモ膜 765

Pia mater 軟膜 765

Middle meningeal artery 中硬膜動脈 777

Pyramis of temporal bone 側頭骨錐体 780

Petrosal part of temporal bone(岩様部): p.213

Greater/Lesser petrosal nerve 大/小錐体神経 777

骨標本と対照させながら次の孔を確認する (Fig.780)。

Jugular foramen 頚静脈孔 780

Foramen ovale 卵円孔 780

Foramen rotundum 正円孔 せいえんこう 780

Foramen spinosum 棘孔 きょくこう 780

Foramen lacerum 破裂孔 780

7)眼窩に出入りする神経 (II,III,IV,V-1,VI) を海綿静脈洞の外側壁で

確認する (Fig.770)。骨を削ってこれら神経を全長に渡り剖出する。

2.7 頭部離断   (Fig.890)

すでに、背部は後頭下筋まで剖出が進み、脊髄は摘出され (p.112)、頚部は頚神経叢の観察が (p.32)、咽頭・喉頭では一側で観察が (p.37)、終了しているはずである。迷走神経、副神経、頚部交感神経幹などはラベルし終わっているか。

頚部内臓とそこに付く血管・神経を大きく上方に反転する。脊柱と頚部内臓の間のゆるい咽頭後隙をできる限り上方、外頭蓋底まで剥離開放する (Fig.890)。

簡単のため第 2・3 頚椎間で脊柱と周囲の筋・靭帯を以下のようにして切断する (Fig.717)。

ライヘを prone (伏臥位) にして、強大な C2 棘突起を再確認する (Fig.637)。背部からC2-3 間に鋸を入れ、一気に脊柱と周囲の筋を切断する。すでに脊髄が摘出されていれば切断は容易である。上方に反転した頚部内臓と血管・神経を損傷しないように注意する。以上の作業により、頚部内臓とその血管・神経を付けた状態で、頭部が頚部背柱から離れる。背柱側で横突孔を開放して、脊髄神経根と椎骨動脈を剖出する (Fig.719,721)。

頭部離断の方法としては他に、環椎後頭関節を剥がす方法や、後頭骨を鋸で切断して大孔・後頭顆を脊柱側に付ける方法などが行なわれている。いずれも頚神経叢全体を温存することを目的とした手技であるが、IX-XII を破損しやすい。

*Retropharyngeal space *咽頭後隙 890

Spinous process of axis C2 棘突起 636

Transverse foramen 横突孔 641

Spinal root 脊髄神経根 688

Vertebral artery 椎骨動脈 719

Atlanto-occipital joint 環椎後頭関節 648

Occipital bone 後頭骨 757

Foramen magnum 大孔 757

Occipital condyle 後頭顆 757

2.8 後頭下の関節   (Fig.645,653)

時間が足りない時は、第 1-2 頚椎も含めて頭部を正中線で切半して、環軸関節は切断面で観察する。時間に余裕があれば、第 1-2 頚椎を順番にはずしながら関節を観察する。その場合も、切断面を観察している班に加わり、軸椎の動きを見ておくこと。

1) すでに脊柱管は脊髄摘出のため開いてあるはずだ。まず第1-2脊椎の椎弓をリューエルで除去する。ついで、後方から後縦靱帯をメスで除去し、歯突起の先端を確認する。ここで環椎後頭関節をはずす (Fig.647-650)。開放した脊柱管の中で後縦靭帯を確認する。内頭蓋底から見て、後縦靭帯に続く強靱な結合組織を大孔周囲からメスで除去する (Fig.649)。斜台からすべり台を降りるようにメスかノミを進める (Fig.893)。舌下神経管温存のため、後頭骨を割らないように注意する。軸椎歯突起に付く靭帯も切除し、歯突起の先端を掘り出す(Fig.650,651)。外側と大孔内から靭帯を切断し、後頭骨から環椎を剥がす。椎骨動脈がどうなったか、まず確認しておく (Fig.719)。

Lateral/Median atlantoaxial joint 外側/正中環軸関節 648

Axis 軸椎 641

Atlanto-occipital joint 環椎後頭関節 648

Posterior longitudinal ligament 後縦靭帯 674

Foramen magnum 大孔 だいこう 780

Clivus (クレイバス) 斜台 893

Hypoglossal canal 舌下神経管 780

Occipital bone 後頭骨 780

Dens (Odontoid process) of axis 軸椎歯突起 −しとっき 651

Atlas 環椎 639

Vertebral artery 椎骨動脈 719

2) 環椎と軸椎がはずれたら、環軸関節 (Fig.649-653) を回旋させながら、メスで歯突起の先端を露出させていく。この過程で翼状靭帯が切れる (Fig.650)。環椎十字靭帯を除去し、正中環軸関節を開放する (Fig.650,652)。ここでも基本構造をなす後縦靭帯は脊柱管の前面で椎体後面をつなぎ、肥厚して蓋膜と呼ばれる (Fig.649)。蓋膜の前に接して環椎十字靭帯がある。

*Alar ligament *翼状靭帯 よくじょうじんたい 650

*Cruciform ligament *(環椎)十字靭帯 650

*Tectorial membrane *蓋膜 がいまく 649

3) 最後にメスを外側から入れて、外側環軸関節に平面的に進入する (Fig.647)。軸椎はノドボトケと呼ばれて火葬後の骨拾いの際に重要視される。道内では特に重視するので、北大では学生が軸椎を損傷しないように注意している。

4) もう一度 2 つの骨を後頭下にはめこんでみて、その前に頚部内臓の何が位置するか確認しておく。口腔の後方にある椎骨は何番か (Fig.890)。

2.9 頭部正中切半   (Fig.826,843)

すでに頚部内臓が下顎骨下方で切半され内腔の観察を終えているだろうか(p.41)。

下顎骨を鋸で切半する時は、インレイや入れ歯の金属床があると鋸の歯が欠けてしまうことがあるので、あらかじめ確認する。これら金属はリューエルで剥がす。鼻腔・口腔に詰められた綿を早目に除去する。上顎を含む頭部は、骨は鋸で、軟部はメスを用いて正確に正中線で切半する。ここでも歯科関係の金属に注意する。頭蓋底を力ずくで無理に割ってはいけない。篩骨洞 (篩骨蜂巣) など弱い部分が破損する (Fig.837)。

Mandible 下顎骨 854

Nasal/Oral cavity 鼻/口腔 826o,843o

Skull base (Base of the cranial cavity) 頭蓋底 780

Ethmoidal sinus (air cells ほうそう) 篩骨洞 (篩骨蜂巣) 837

切半後、切断面のオリエンテーションを行ない、以下の部位を確認する。

Hard/Soft palate 硬/軟口蓋 Palatum, der Gaumen 826

Auditory tube 耳管 921

Pharyngeal opening of the - 耳管咽頭口 826

Epiglottis 喉頭蓋 こうとうがい 826

Nasal septum 鼻中隔 829

Paranasal air sinus 副鼻腔  837

(臨 : Paranasal sinus)

Sphenoid sinus 蝶形骨洞

Ant./Post. ethmoidal sinus 前/後篩骨洞

Frontal sinus 前頭洞

Nasolacrimal duct 鼻涙管 826

Glottis 声門 890

Supratonsillar fossa 扁桃窩 843

Uvula 口蓋垂 こうがいすい 843

Tongue 舌 ぜつ die Zunge,Lingua 860

Palatine tonsil 口蓋扁桃 843

*Palatoglossal arch *前口蓋弓 (口蓋舌弓) 843

*Palatopharyngeal arch *後口蓋弓 (口蓋咽頭弓) 843

Pharyngeal tonsil 咽頭扁桃 (Adenoid アデノイド) 846

*Torus tubarius *耳管隆起 846

Lingual tonsil 舌扁桃 ぜつへんとう 860

Lingual papillae 舌乳頭 860

Vallate papillae 有郭乳頭 ゆうかくにゅうとう 860

各部の配置が確認できたら、軟口蓋から耳管咽頭口扁桃窩、さらに喉頭蓋の基部まで咽頭粘膜を剥がし、筋層を露出させる。扁桃窩では粘膜下を剖出して舌咽神経舌枝を見つける (Fig.833,862,898)。舌咽神経は、茎突舌筋・茎突咽頭筋の下縁でつかまえてもよい (Fig.891,892)。この 2 筋は、後方 (外面) から茎状突起(起始)を手がかりに咽頭壁を剖出して探す。

Glossopharyngeal nerve 舌咽神経 (IX) ぜついんしんけい 892

Lingual branch 舌枝 833,898

*Styloglossus muscle *茎突舌筋 けいとつぜっきん 859

*Stylopharyngeus muscle *茎突咽頭筋 859

ここで4つの扁桃をまとめて観察する。口蓋扁桃(俗に言う扁桃腺)は、高齢者ではしばしば扁桃窩というへこみに過ぎない。わずかに粘膜の凹凸が扁桃組織を感じさせる。口から見て<突き当たり>(咽頭後壁)にある咽頭扁桃(俗にアデノイド)および耳管咽頭口周囲の耳管扁桃は、いずれも高齢者では完全に退縮している。有郭乳頭より後方の舌根に見られる多数のデコボコに注目:これは舌乳頭ではなく、中年以降に発達してくる舌扁桃の構造単位(舌小胞)だ。

2.10 副咽頭間隙   (Fig.859,892)

解剖学書では副咽頭間隙を咽頭側隙と呼ぶ。頭部と頚部を結ぶ最大の脈管神経路である。今までに見つかった太い血管・神経を、咽頭の後方側で外頭蓋底までひたすら上方に追及する (Fig.892)。まだ環椎・軸椎がはずれていなければ、まずこれらを頭部から除去する。これによって副咽頭間隙の解剖が容易になる。

茎突舌筋・茎突咽頭筋は茎状突起から一束のごとく起こるので、茎状突起の触診から求める (Fig.859,863)。茎状突起からは、茎突舌骨筋も起こる。茎突舌骨筋は実はすでに顎下三角で見ている (未記載)。3 筋の中では茎突舌筋が強い。ここでに外舌筋 (口蓋舌筋、オトガイ舌筋、舌骨舌筋、茎突舌筋など) の確認をする (Fig.859,865)。

Parapharyngeal space 副咽頭間隙 ふくいんとうかんげき

*Styloglossus,*Stylopharyngeus muscle 茎突舌筋,茎突咽頭筋 859

Styloid process 茎状突起 859

*Stylohyoid muscle *茎突舌骨筋 859

*Palatoglossus muscle *口蓋舌筋 こうがいぜっきん 859

*Genioglossus muscle *オトガイ舌筋 865

*Hyoglossus muscle *舌骨舌筋 ぜっこつぜっきん 865

迷走神経・副神経・交感神経幹には、頭部離断の折に糸を結んだ。交感神経幹の上頚神経節をきれいに剖出する (Fig.892)。外頚動脈・内頚動脈・内頚静脈は、容易に分かるだろう。舌下神経もすでに剖出されている部分から後頭骨に向けて追求する。後頭動脈、上行咽頭動脈、顔面動脈枝の上行口蓋動脈 も太い部分が見つかる (Fig.892)。これから自律神経系の解剖が増えてくる。知識は整理されているか (Fig.240, p.65,142,250,251参照)。 IX、X の神経節は見つかったか。

この機会に、咽頭壁の構成を解剖する (Fig.888-896)。咽頭壁固有の筋、つまり咽頭収縮筋にとって外側の有力な付着は舌骨だけである。まず舌骨大角の輪郭をきちんと剖出する (Fig.888)。上咽頭収縮筋と中咽頭収縮筋の間には隙間があり、そこから茎突舌筋茎突咽頭筋が内方に進入する (Fig.891)。茎突咽頭筋は咽頭収縮筋の内面にはいりこんで停止する。さらに粘膜下を喉頭蓋に流れる筋束はないか観察せよ。咽頭壁の隙間から進入する舌咽神経舌枝・上行口蓋動脈を確認する (Fig.892)。輪状軟骨の後方で、咽頭・食道境界部後壁の脆弱部を確認する (Fig.713)。この脆弱部を内視鏡検査などの際に損傷することがある。

Superior cervical ganglion 上頚神経節 892

Hypoglossal nerve 舌下神経 (XII) ぜっか− 892

Occipital artery 後頭動脈 896

*Ascending pharyngeal artery *上行咽頭動脈 746,892

*Ascending palatine artery *上行口蓋動脈 746,892

Superior/Middle/Inferior

pharyngeal constrictor muscle 上/中/下 咽頭収縮筋 888,889,891

Greater horn of Hyoid bone 舌骨大角 ぜっこつだいがく 888

Epiglottis 喉頭蓋 896

Glossopharyngeal nerve 舌咽神経 (IX) Lingual branch 舌枝 833

2 .11 口腔壁   (Fig.850,855,857)

顎下三角 (p.33) で剖出した口腔底を内面からも解剖する。

  1. 外面から顎舌骨筋オトガイ舌骨筋を確認し (Fig.855)、剖出が不足していれば追加する。顎舌骨筋神経を再確認する。
  2. 2) 顎下腺を外方に脱転しながら、深側に顎下腺管を追及する。顎下腺管沿いに

    顎下腺の外側突起と言う部分が長く伸びていることがある。顎下腺管を

    口腔粘膜近くまでたどると舌下腺が見つかる (Fig.855)。この過程で舌神経

    も見つかるはずだが、口腔側からすぐ見つかるから今は無理しなくていい。

    Floor of the oral cavity 口腔底 こうくうてい 850

    Mylohyoid muscle 顎舌骨筋 855

    Geniohyoid muscle オトガイ舌骨筋 853

    Mylohyoid nerve 顎舌骨筋神経 727,751

    Submandibular gland 顎下腺 がっかせん 857

    Submandibular duct 顎下腺管 857

    Oral mucosa 口腔粘膜 835

    Sublingual gland 舌下腺 ぜっかせん 857

    Lingual nerve 舌神経 ぜつしんけい 850

  3. 舌下神経舌動脈を外方から剖出して舌根まで追及しておく (Fig.855)。舌動脈を追うために舌骨舌筋を上方に反転する。舌下神経には静脈が伴走している。舌動脈、舌神経、舌下神経、舌咽神経がそれぞれ異なるコースから舌に到達していることを確認する (Fig.751,833,897,898)。扁桃窩で見つけた舌咽神経を、今日の作業中に切らないように注意する。

4) 下顎骨を口腔内から触れながら、骨に近接する口腔粘膜をピンセットで除去

する。臼歯部 (臼後三角) の粘膜を剥がし、口腔内から下顎骨と舌の間で

舌神経を剖出する (Fig.850)。驚くほど粘膜の近くを走る。下顎角近くで、

舌神経に接して顎下神経節があることを念頭におき、下顎骨と口腔壁を徐々

に引き離しながら、舌神経を上方まで追求する (Fig.751)。

5) 再び外面から口腔底を剖出する (Fig.751,855)。顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、

オトガイ舌筋が、まだ下顎骨に付いていれば骨から剥がし取る。舌を下顎骨

から引き離しながら、舌下神経と舌神経の吻合を明らかにする。

  1. 顎下腺に接して顎下神経節を舌神経の走行を追いながら探す。顎下腺と舌下腺への 副交感神経路の中継点である (Fig.240,751)。

Hypoglossal nerve 舌下神経 (XII) 855

Lingual artery 舌動脈 855

Root of tongue 舌根 ぜっこん 860

*Hyoglossus muscle *舌骨舌筋 863

Glossopharyngeal nerve 舌咽神経 (IX) 833

Tooth 歯 Dens, der Zahn

Molar/Premolar 大/小臼歯 847

Submandibular ganglion 顎下神経節 855

*Genioglossus muscle *オトガイ舌筋 855,864

7) 舌・口腔壁の感覚を整理する (Fig.848,849,861)。舌の発生はラングマン

p.294-295 参照。余裕があれば、内舌筋 (上・下縦舌筋、横舌筋、垂直舌筋)

の錯綜した走行を確認する (Fig.864)。下顎底に囲まれた口腔底という構造が

理解できただろうか。

2.12 咀嚼筋と側頭下窩   (Fig.733,740,751)

顔面の血管・神経を適宜寄せながら深部の解剖にはいる。血管・神経が邪魔になる時は、名称を同定しながら末梢側からはずして中枢側に反転しておく。まだ頭頚部を切半していなければ、5) までの範囲で咀嚼筋と側頭下窩を解剖する。

1) 咬筋を下顎骨からメスで剥離して上方に (必ず、下から上に) 反転する (Fig.748)。下顎切痕から筋に進入する咬筋動脈・神経を温存する。下顎骨筋突起関節突起の間の下顎切痕という大きな窓を骨標本で確認する (Fig.869)。三叉神経は卵円孔のすぐ内側で、3 本の枝を出す (Fig.777)。ここを通って下顎神経が頭蓋の外に出たところを下顎切痕中央部から穿刺針を刺入してブロックすることがある (付図p.216)。咬筋を頬骨弓からも剥離し、側頭筋と咬筋の移行筋束と血管・神経だけでぶら下げる。咬筋と頬筋の間の頬脂肪体を除去し、頬筋 (口腔壁) の輪郭を明らかにする。

2) 頬骨弓を鋸で広く切除する。深側を損傷しないように注意 (Fig.733)。

Masticatory muscles 咀嚼筋 738

Infratemporal fossa 側頭下窩 そくとうかか 750

Masseter muscle 咬筋 こうきん 748

Masseteric artery/nerve 咬筋動脈/神経 748

Coronoid process 筋突起 869

Condylar process 関節突起 869

Mandibular notch 下顎切痕 かがくせっこん 869

Zygomatic arch 頬骨弓 きょうこつきゅう 733

Buccinator muscle 頬筋 きょうきん 733

3) 顎関節の輪郭を明らかにする (Fig.740,742)。外側面だけ関節包を切除して関節円板を露出させる。ライヘによっては、下顎骨を動かして咀嚼運動を再現することができる。どのような運動の際に関節窩の後方に乗り上げるか。臼歯の擦り合わせはどのような関節運動か、よく観察せよ。

4) あらかじめ筋突起の下部を鋸で切断して顎関節周辺を温存する(場合により関節突起の下部も切断)。

5) 側頭筋を起始から剥がして下方に反転する (Fig.733)。最初に側頭筋膜を除去し、側頭筋の輪郭を明らかにする。前方ほど意外に厚い。側頭筋に分布する深側頭動脈・深側頭神経は、筋側に付けて剥離し、筋と共に下方に反転する (Fig.750)。下顎骨筋突起から下方に腱性に停止する部分をメスで注意深く切除し、筋突起をリューエルで割る。先に温存した咬筋動脈・神経を切らないように注意する。側頭筋の停止部も浮す。最終的に側頭筋と咬筋は血管・神経だけでつながる。下顎枝も割ってよいが、深側の神経、血管の温存に注意 (Fig.749)。

Temporomandibular joint 顎関節 がく−、がっ− 740o

Articular capsule 関節包 742

Articular disc 関節円板 742

Temporalis muscle 側頭筋 733

Deep temporal artery/nerve 深側頭動脈/神経 750

Ramus of mandible 下顎枝 かがくし 868

6) 頭部切半後、口腔底の剖出で見つけた舌神経と顎舌骨筋神経を上方に、下顎骨と口腔壁を徐々に引き離しながら追求する (Fig.751)。あまり引き離すと神経が切れる。下顎骨内面で下顎孔の位置 (Fig.869) と下顎に隠れていた頬筋の広がりを確認する (Fig.750)。 顔面動脈枝の上行口蓋動脈が副咽頭間隙 (p.54) を経て、口腔壁に分布しているだろうか。

7) 下顎管を開放して下歯槽動脈・神経を剖出するため、下顎骨 (下顎枝) をノミとリューエルで慎重に砕いて除去する (Fig.866,750)。有歯顎ならば、歯槽に出入りする細い血管・神経を観察する。できれば下歯槽神経がオトガイ神経に連続するまで骨を除去する (Fig.748)。

Lingual nerve 舌神経 751

Mylohyoid nerve 顎舌骨筋神経 751

Mandibular foramen 下顎孔 752,869

Mandibular canal 下顎管 749

Ascending palatine artery 上行口蓋動脈 751

Inferior alveolar artery/nerve 下歯槽動脈/神経 かしそう− 750

Mental nerve オトガイ神経 748

8) 下顎神経枝と顎動脈枝を確認する (Fig.751)。舌神経を注意深く上方へ追求して、まず鼓索神経を剖出・温存する。鼓索神経は味覚線維と副交感神経成分を運ぶ重要な神経だ(VII:p.250,251)。意識していないと切りやすいので、注意する。

9)内側翼突筋外側翼突筋の輪郭を明らかにする (Fig.750)。外側翼突筋が顎関節近傍に付着していることを確認する。顎動脈枝の中では中硬膜動脈が圧倒的に有名である。最初に外側翼突筋を浮し、次いで筋束を除去しながら、下顎神経枝を剖出していく。頬神経耳介側頭神経は同定したか (Fig.751)。耳下腺が残存していれば顔面神経を残して耳下腺を完全に除去し、外頚動脈が浅側頭動脈顎動脈の 2 終枝に分れる部位を清掃する。側頭下窩で中硬膜動脈と蝶口蓋動脈は確認できたか。下顎神経根部の内側面には耳神経節がある (Fig.835)。深いので、 中耳・内耳の解剖を終えた時期に剖出した方がいい。

Mandibular nerve 下顎神経 751

Maxillary artery 顎動脈 750

Chorda tympani nerve 鼓索神経 こさく− 751,835,932

Chorda tymani

Medial/Lateral pterygoid muscle 内側/外側翼突筋 750

Middle meningeal artery 中硬膜動脈 750

Arteria meningeamedia

Buccal nerve 頬神経 きょう− 750

Auriculotemporal nerve 耳介側頭神経 750

Superficial temporal artery 浅側頭動脈 750

Sphenopalatine artery 蝶口蓋動脈 751

Otic ganglion 耳神経節− 835

2.13 鼻腔・副鼻腔・翼口蓋窩   (Fig.790,826,835)

1) 切半した頭部を内側から再度観察する (p.53-54)。切半して鼻中隔は左右いずれに残っただろうか(時には鼻中隔の中央で切半されている)。鼻中隔を構成する骨 (軟骨) を確認してからそれを徐々にリューエルで除去する (Fig.829)。上・中・下鼻甲介上・中・下鼻道を確認する (Fig.827)。

Pterygopalatine fossa 翼口蓋窩 よくこうがいか 790

Nasal septum 鼻中隔 ↓−こうかい 829

Upper/Middle/Lower nasal concha 上/中/下 (鼻) 甲介 827,832

Upper/Middle/Lower nasal meatus 上/中/下鼻道 −びどう 827

2) 顔面から上顎洞を開放する。頬骨弓が残っていれば、それをリューエルか鋸で除去するつもりで上顎骨外側部を削り落とす (Fig.788,790)。わずかでも上顎洞が開いたら、あとは指が入る程度に孔を拡大する。この作業で、眼窩下神経枝の後上歯槽神経が切れるかも知れない。光に透かして、上顎洞の内側壁の厚さを確認し、開口部を探す。外側から慎重にゾンデを通す。ゾンデが中鼻道に出てくるだろうか (Fig.826,832)。鈎状突起と中鼻甲介に隠れて見にくいが、上顎洞自然口を確認せよ (Fig.828)。必要に応じて中鼻甲介と下鼻甲介をリューエルで除去し前頭洞蝶形骨洞の開口を同様に確認する (Fig.685)。

上顎洞と視神経の近接関係に注意する (Fig.836)。上顎洞・篩骨洞 (篩骨蜂巣) の広がりは、粘膜の付いた状態で確認した後、骨標本 (当日供覧) を観察する (Fig.840,841)。

3) 口蓋粘膜を剥がし、硬口蓋後部の外側縁で大口蓋神経をつかまえる (Fig.845)。口蓋粘膜と口蓋腱膜を一緒に骨から剥がしながら見つけると早い。リューエルとノミで慎重に骨を削りながら大口蓋神経、下行口蓋動脈を上方に追及する (Fig.833-835)。

Maxillary sinus 上顎洞 790

Posterior superior alveolar nerves 後上歯槽神経 836

Uncinate process of ethmoid bone 鈎状突起 こうじょう− 828

Frontal sinus 前頭洞 828,837

Sphenoidal sinus 蝶形骨洞 828

Ant./Post. ethmoidal sinus (air cells) 前/後篩骨洞 (篩骨蜂巣) 837

Great palatine nerve 大口蓋神経 835,845

Descending palatine artery 下行口蓋動脈 834

4) 同時に、眼窩下壁を削って眼窩下神経の全長を剖出する (Fig.866)。頭蓋底で正円孔を通る上顎神経を確認する (Fig.777,836)。眼窩下神経と大口蓋神経が直角に合流して上顎神経に続く (Fig.835)。そのすぐ下方に翼口蓋神経節がある。後方から翼口蓋神経節に至る翼突管神経は、蝶形骨洞外側壁を削って剖出する (Fig.836)。翼口蓋神経節が位置する翼口蓋窩には、側頭下窩から蝶口蓋動脈がはいる (Fig.751,834)。蝶口蓋動脈はすでに側頭下窩で顎動脈枝として同定している (p.59)。

5) 口蓋の後方では、耳管隆起耳管咽頭口を確認する (Fig.826)。中耳の剖出が終わっていれば、耳管咽頭口から慎重にゾンデを入れてみる。口蓋腱膜 (骨に接してかなり深い) をたどって翼突鈎の滑車にかかる口蓋帆張筋の腱を剖出する (Fig.859)。挙筋隆起の粘膜をはがすと口蓋帆挙筋が見つかる (Fig.739,888)。口蓋帆張筋と口蓋帆挙筋は嚥下において重要な筋だが、位置関係が分かりにくい。掘り過ぎると外側翼突筋が出てしまう。

Infraorbital nerve 眼窩下神経 がんかか− 866

Foramen rotundum 正円孔 せいえんこう 780

Maxillary nerve 上顎神経 836

Pterygopalatine ganglion 翼口蓋神経節 835

Nerve of pterygoid canal 翼突管神経 よくとつかん− 836

Sphenopalatine artery 蝶口蓋動脈 834

*Torus tubarius *耳管隆起 890

Auditory tube 耳管 じかん 921

Pharyngeal opening of the - 耳管咽頭口 890

Pterygoid hamulus 翼突鈎 よくとつこう 741,859

*Tensor veli palatini m. *口蓋帆張筋 こうがいはん− 739,859,888

*Levator veli palatini m. *口蓋帆挙筋 739,859,888

6) 残り一側の眼窩の剖出をこの機会に行い、眼窩に出入りする神経 (II-VI) を確認しよう。脳外科の研修がまだなら、一側の海綿静脈洞は温存する。

2.14 外耳・中耳・内耳   (Fig.921,926,935,937)

左右どちらか一側で行なう。もう一側は本学医師が耳科手術の練習に用いるので手をつけないで欲しい。諸君の協力があれば、いずれ本学でも耳科手術の同門会研修が定期的に開催できるようになるだろう。

  1. 耳介は先天異常の多い部位であり、へこみやでっぱりの名称をさらりと一度は確認しておきたい (Fig.915)。耳の発生はラングマン p.312-321 参照。耳介を動かす筋や耳介の軟骨も、余裕があれば剖出する (Fig.916-918)。耳介の観察を終えたら、メスで耳介を側頭骨から剥がし取る。必ず、外耳道の切断面を確認しておく。この機会に、乳様突起に付く筋 (胸鎖乳突筋、顎二腹筋、頭最長筋、頭板状筋) を確認したい (Fig.717,888)。また、茎状突起の根部で顔面神経が茎乳突孔にはいるところを必ず確認しておく (Fig.836,936)。

External/Middle/Internal ear 外耳/中耳/内耳 921o

Auricle 耳介 921

Temporal bone 側頭骨 919,921

External acoustic meatus 外耳道 921

Mastoid process 乳様突起 920

Styloid process 茎状突起 920

Facial nerve 顔面神経 (VII,p.50) Nervus facialis 936

Stylomastoid foramen 茎乳突孔 けいにゅうとつこう 936

  1. 内頭蓋底で側頭骨錐体を確認する (Fig.780,937)。錐体上面を5mm程度削る高さ、しかも外耳道が上方から開放される深さまで、ほぼ水平に鋸を入れて側頭鱗と錐体上面を落とす。あまり大胆に深く切りこんではいけない。
  2. さらに錐体上面を外側から根気良くノミで削り落としていく。乳突蜂巣が蜂巣状に彫り出される (Fig.920)。錐体外側部 (正確には乳突部)では、乳突蜂巣が次第に露出・拡大していく。やがて乳突洞がパカッと開く (Fig.937)。さらに外耳道の皮膚を切除し、上壁前壁から外耳道を開放する。鼓膜は近い。鼓膜は予想外に斜めに付いている(スタッフに教わるべし)。慎重にノミを追加して鼓膜を露出させる。鼓膜の扱いが悪いと、続く耳小骨も破損してしまう (Fig.926,928)。鼓膜に緊張部と弛緩部を区別する (Fig.924)。
  3. Petrosal part of temporal bone 側頭骨錐体 Pyramis 779,937
  4. Mastoid antrum (Mastoid air cell) 乳突洞 (乳突蜂巣) −ほうそう 920

    *Squamous part of temporal bone *側頭骨鱗部 −りんぶ 919

    Tympanic membrane 鼓膜 921,924

    Pars tensa/Pars flaccida 緊張部/弛緩部 924

    Auditory ossicles 耳小骨 Ossicular chain 925,926o

  5. 錐体前面内側部に溝を付けて走行している大錐体神経を確認する (Fig.937)。硬膜と共に神経がはがれていても、溝だけは分かるはずだ。この神経は直線的に顔面神経膝 (内耳) に続いている。錐体前面内側部をノミで削る際は、必ず大錐体神経を保存する。ガンガンとノミを叩いて先を急ぐ学生は必ず失敗するから供覧標本を見て一息入れる。
  6. 上咽頭で耳管の外口(咽頭口)を確認し、そこからゾンデを挿入しておく (Fig.826,921)。耳管は、概ね蝸牛の前下縁を経て鼓室に至るので、大錐体神経と共に今後の作業の目安になる。ただし耳管にそって骨が割れやすいので注意。

Greater petrosal nerve 大錐体神経 937

Genu of facial nerve 顔面神経膝 931

Upper pharynx 上咽頭 890

Auditory tube 耳管 921

Cochlea 蝸牛 921

Tympanic cavity 鼓室 927

7)3の作業にもどる:外耳道を開放する過程で鼓膜が露出する以前に、錐体内側部で突然、鼓室の上陥凹という部分が開放されることがある (Fig.922,924)。今までの乳突洞とは様子が違うことを感じ取れるかどうかが勝負だ。それらしい腔所が開いたらスタッフを呼ぶ。ピンセットでそっと中を探り、耳小骨の有無を確認する (Fig.926)。鼓膜が露出してから鼓室上壁を開放すると、覚悟ができていて確実である。鼓膜に近接して鼓索神経を確認する。

慎重に作業しないと、耳小骨がはずれたり飛んで行ってしまう。そうなると、ツチ骨に密着して鼓室を横切る鼓索神経も切れてしまう (Fig.927)。耳小骨はむやみにはずしてはいけない。後の作業中に耳小骨がはずれないように、原位置のままゼリー状アロンアルファで軽く固定しておく (Fig.926,927)。ツチ骨には柄と頭を区別する。キヌタ骨には体・長脚・短脚がある。アブミ骨は内耳の剖出が進んでから見た方がいい。繰返すが、耳小骨をはずさないように注意する。

*Epitympanic recess *鼓室上陥凹 (上鼓室) 922

Auditory ossicles 耳小骨 Ossicular chain 925,926o

Malleus ツチ骨 926

*Manubrium of - *ツチ骨柄 926

*Head of - *ツチ骨頭 926

Chorda tympani nerve 鼓索神経 Chorda tympani 927

Incus キヌタ骨 926

*Body of - *キヌタ骨体 926

*Long/Short crus of - *長脚/短脚 926

Stapes アブミ骨 926

付図 上方からアプロ−チする耳の解剖の最終段階:右側

(錐体の外側から乳突部にかけて骨はほとんど除去されている。この絵はアブミ骨,蝸牛,岬角が離れてしまった。Fig.937,938も類似の方向から見ているので参照)

(浜本ら、日耳鼻 102:825-834, 1999の図3に加筆修正)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乳突洞を外側からノミでクレーター状に削って、鼓室を後下方から開放する方法もある。見えにくかった岬角やアブミ骨が直視下に見える (Fig.922)。外耳道骨壁をできるだけ温存しながら鼓室のすべての部分を直視下に見えるようにする。これは耳鼻科でしばしば行う posterior tympanectomy という手術アプローチである。顔面神経を温存するためクレーターをあまり拡大してはいけない。

8)顔面神経内耳神経を損傷しないように、内耳孔から内耳道をノミで慎重に開放する (Fig.937)。ノミで削りながら顔面神経を追跡し、大錐体神経と合流して直角に方向を変える部位を見い出す(Fig.929-935)。そこを顔面神経膝と呼び、膝神経節がある(Fig.931,937)。示説標本を何度も見て位置を確認する。顔面神経を膝から末梢側に注意深く追求するにつれて、鼓室の上からの視野が広がり、岬角アブミ骨が上から見えるようになる(Fig.931)。岬角表面に微細な鼓室神経叢が分かるか:その線維は小錐体神経に続く(p.251, IX)。

Promontory of tympanic cavity (鼓室の) 岬角 こうかく 920,922

Vestibulocochlear nerve 内耳神経 (VIII) N. vestibulocochlearis 938

Opening of internal acoustic meatus 内耳孔 937

Internal acoustic meatus 内耳道 937

Greater petrosal nerve 大錐体神経 937

Geniculate ganglion 膝神経節 ひざ−、しつ− 937

Lesser petrosal nerve 小錐体神経 932

9) 以上の過程で三半規管の断面が見えるので、前・後・外側いずれの半規管か 同定する (Fig.937-939)。蝸牛は、大錐体神経と内耳道の顔面神経が作る鋭角の中で、 2神経がはさむ面よりも下方にある。ノミは薄片を削るように用いる。アブミ骨は蝸牛の前庭窓に付着している。ドリルを用いて骨内の膜迷路やアブミ骨筋も剖出できる (Fig.930,932,939)。

Anterior/Posterior/Lateral 前/後/外側半規管 937,938

semilunar canals (duct)

Vestibular window 前庭窓 920

Membranous labyrinth 膜迷路 939

Stapedius muscle アブミ骨筋 930

内耳の観察が一応終了したら、内頭蓋底の海綿静脈洞の中で内頚動脈を確認し (Fig.771,938)、これを下方にたどって、頚動脈管をノミで開放する (Fig.920)。p.51の内頚動脈の記述を復習。内頚動脈は三叉神経根の下方から蝸牛のすぐ内側を通る。顔面神経や鼓室と近接していることも確認する。さらに余裕があれば、茎乳突孔から内耳までの顔面神経管、錐体鼓室裂(付図p.212)に至る鼓索神経の掘出しなどに挑戦して欲しい (Fig.928)。鼓索神経は側頭下窩で舌神経への合流を再確認(p.58)しておく (Fig.835)。耳管とそれに並行する鼓膜張筋の掘り出しは、慎重にやらないと頭蓋底骨折を起こす。

Cavernous sinus 海綿静脈洞 770

Internal carotid artery 内頚動脈 770

Carotid canal 頚動脈管 920

Facial canal 顔面神経管 936

Tensor tympani muscle 鼓膜張筋 928

失敗したからと言って直ちに対側に手を出さないこと。

2.15 頭頚部の脈管神経路の総括

各血管の位置や伴走する神経に注目しながら総頚動脈からの枝をまとめよ (試験によく出すところ)(Fig.746)。

総頚動脈┬内頚動脈┬眼動脈─ (主な枝を整理せよ。顔面・鼻にいく動脈もある。)

    │    └中大脳動脈・前大脳動脈 (神経解剖学の知識)

    │

    └外頚動脈┬上甲状腺動脈 (下甲状腺動脈はどこからくるか ? )

         ├舌動脈 (伴走する神経はあるか ? )

         ├顔面動脈───上唇動脈・下唇動脈・オトガイ下動脈

         ├顎動脈───┬中硬膜動脈 (しばしば涙腺動脈と吻合する。)

         │      ├蝶口蓋動脈-下行口蓋動脈・鼻の動脈

         │      └鼓膜に分布する動脈・咀嚼筋の動脈 ほか

         └浅側頭動脈

2.16 頭頚部の自律神経系の総括

全体像 (Fig.240) を整理した上で、副交感神経系の節後ニューロンの神経細胞体が存在する神経節を再確認する。交感神経幹の上頚神経節も確認する (Fig.892,p.57,148,256)。

毛様体神経節 (Fig.804,805)

膝神経節 (Fig.937,938)

翼口蓋神経節 (Fig.834,835)

耳神経節 (Fig.835)

顎下神経節 (Fig.751)

■付図 頭部の交感神経系(上頚神経節より上方)

(金子「日本人体解剖学」の図を改変)

 

第 3 章 上肢・上肢帯

3.1 体壁背部に付く上肢帯筋

→ 解剖手順の都合で 「第 4 章 体壁」 へ

3.2 腋窩から上肢へ

3.2.1 腋窩前壁 : 胸筋の処置   (Fig.18,21,29)

腋窩の定義については Fig.29 の説明文を参照のこと。

大胸筋の 3 部=鎖骨部、胸肋部、腹部を確認する (Fig.16,18)。大胸筋鎖骨部と三角筋の境界を作る三角胸筋溝には橈側皮静脈が走る。胸骨の外側縁に沿って、内胸動脈穿通枝 ・肋間神経前皮枝が大胸筋を貫通して出現する。各肋間でこれら血管・神経を確認し、以後も温存する。

Upper extremity 上肢 40o

Axilla 腋窩 えきか 29

Pectoralis major muscle 大胸筋 18

Deltoid muscle 三角筋 Musculus deltoideus 18

Cephalic vein 橈側皮静脈 とうそくひ− 18

Sternum 胸骨 154

Internal thoracic artery 内胸動脈 23

Intercostal nerve 肋間神経 Nervus intercostalis 18

Ant./Lat. cutaneous branch 前/外側皮枝 −ひし 18

大胸筋の浅側 (表面) には、タテ方向に延びる胸骨筋という変異筋がしばしば出現する。この筋は胸筋神経支配なので、(大) 胸筋の一部と考えられ、腹直筋の続きではない。乳頭がまだ残っていれば、除去してよい。

大胸筋を肋骨起始から外側 (停止) に向けて剥がす (Fig.146)。胸骨にそって血管・神経が出現するラインのすぐ外側で胸肋部を切断し、メスで肋骨から剥がしながら外側方に反転する。大胸筋腹部の切断はあまり下方で行なうと外腹斜筋を損傷する (Fig.30)。鎖骨部はメスで内側から外側に向けて鎖骨から剥がす。鎖骨外側半分には深側に太い血管・神経があるのでくれぐれも慎重に行う。

大胸筋を外側方に反転すると深側に小胸筋が見える (Fig.21,30)。小胸筋と鎖骨の間に張る鎖骨胸筋筋膜を確認する (Fig.18,20)。橈側皮静脈がこの筋膜を貫く。鎖骨の深側下方で第 1 肋骨に接して鎖骨下静脈が確認できるだろうか。この角度で皮下から静脈に細いチューブを挿入する手技、いわゆる IVH(=和製英語 Intravenous hyperalimentation の転用) は、医師が最初に慣れなくてはならないルーチンの手技だ (p.22)。付図を参照に刺入してみよ。刺入した針がどこに達しているかは、後日解剖しながら確認する。

大胸筋・小胸筋の間には、進行乳癌の際にロッターリンパ節 Rotter という有名なリンパ節腫張が認められる。解剖体で発見されたら報告すること。小胸筋を貫通して 大胸筋に至る神経があまり緊張しないうちに、今度は小胸筋も肋骨から剥がして、大胸筋と一緒に外側方に反転していく。これら 2 つの胸筋に至る血管・神経が緊張して断裂しない程度に、できる限り外側まで 2 筋を反転する (Fig.30)。以上で腋窩が開放された。

Sternalis muscle 胸骨筋 145

Pectoral nerves 胸筋神経 703

External oblique muscle 外腹斜筋 30

Clavicle 鎖骨 30

Pectoralis minor muscle 小胸筋 30

*Clavipectoral fascia *鎖骨胸筋筋膜 20

Cephalic vein 橈側皮静脈 18,20

First rib 第 1 肋骨 710

Subclavian vein 鎖骨下静脈 710

■付図 IVH (鎖骨下静脈穿刺)

(「エキスパ−トナ−ス」を改変)

■付図 胸骨筋

(オリジナルの図)

 

■付図 腋窩の開放

(「浦実習書」の図を改変)

 

 

3.2.2 鎖骨の切断   (Fig.702,703)

鎖骨下筋を確認する (Fig.707)。この筋の支配神経 (鎖骨下筋神経) は非常に細いが、これまで丁寧に解剖をしていれば残っている。筋の上縁と肩甲舌骨筋の間を剖出すると、横隔神経の根に近接して始まる神経が見つかる (Fig.703)。鎖骨下筋は、鎖骨から剥がして神経と肋骨付着だけでつなげて遊離させる (鎖骨切断中に完全にはずれてしまったらやむをえないが)。鎖骨下筋は横隔膜の成立を考える手がかりになるのだが、小さな筋にこだわらずに先に進もう。

周囲の構造を傷つけないように、鎖骨の表面ギリギリにメスを入れて鎖骨の内側 2/3 を露出させる。ノミで鎖骨の骨膜を剥がす方法もある。鎖骨をえぐり取るように鎖骨後方にぐるりと指が入ることを確認してから、露出した鎖骨に鋸を入れ、ノミの助けも借りて中1/3 ないし内側 2/3 を除去する。鎖骨後方まで鋸が入らないように注意する。内側端の処理には、胸鎖関節で脱臼させる方法もある。はずした鎖骨は、解剖台の角のすぐ分かる所に置く。この機会にノミやリューエルで胸鎖関節を開放して関節円板を確認する (Fig.148)。鎖骨は第 1 肋骨にも靭帯で固定されている。

*Subclavius muscle *鎖骨下筋 707

Subclavius nerve 鎖骨下筋神経 703

*Omohyoid muscle *肩甲舌骨筋 けんこうぜっこつ− 707

Phrenic nerve 横隔神経 703

Sternoclavicular joint 胸鎖関節 148

Articular disc 関節円板 148

3.2.3 腋窩の内側壁 : 前鋸筋の処置   (Fig.252,253,630)

背部の解剖で菱形筋の剖出と起始切断が終了していれば (p.100)、今やライヘの肩甲帯の動きを制限する構造は前鋸筋だけである (Fig.630)。肩甲挙筋はまだ肩甲骨に付いていてもよい (Fig.629)。前鋸筋の外面を清掃しながら、肋間神経外側皮枝やタテ方向に走る血管を剖出する (Fig.29)。胸腹壁静脈の他にもタテに走る太い静脈がある。乳房が大きい場合は、難渋するが、メスは使わない。

Rhomboid muscle 菱形筋 りょうけいきん 629

Serratus anterior muscle 前鋸筋 ぜんきょきん 252

Levator scapulae muscle 肩甲挙筋 けんこうきょきん 629

Thoracoepigastric vein 胸腹壁静脈 29

Breast 乳房 にゅうぼう Mamma, die Brust 6

乳房の血管 (Fig.15) を整理しておく。乳房の動脈は外側乳腺枝と内側乳腺枝に分けられる。内側乳腺枝は主に内胸動脈の穿通枝由来で、肋間神経前皮枝と共に前胸壁に出現する。外側乳腺枝は、一般には外側胸動脈 (Fig.19) の枝と理解されている。しかし確かに乳腺枝も出すが、前鋸筋に接して走行する深い外側胸動脈の他に、腋窩動脈から直接分れる枝 (下胸筋動脈、浅胸動脈) や胸肩峰動脈枝が乳房に分布している (Fig.23,30)。乳房の所属リンパ管系はこれらの血管に伴走する。したがって、腋窩に至る経路と内胸動脈沿いに上縦隔に至る経路(p.115)がある。解剖の過程で乳房が剥離・除去されても差し支えない。最後に、乳頭を含む矢状断を行ない、内部に管腔が存在するか、乳腺が残存しているか、クーパー靭帯および乳房を区切る結合組織索(付録 筋膜総論p.252 参照) の存在を確認する (Fig.8-10)。

Lateral/Medial mammary (arterial) branch 外側/内側乳腺枝 15

Internal thoracic artery 内胸動脈 23,162

Lateral thoracic artery 外側胸動脈 がいそくきょう− 23,24

Axillary artery 腋窩動脈 23

Thoracoacromial artery 胸肩峰動脈 きょうけんぽう− 23,30

Nipple 乳頭 9

Mammary gland 乳腺 9

前鋸筋の外面がある程度きれいになったら、ライヘを傾けながら前鋸筋の広がりを改めて確認する (Fig.21)。この筋と外閉鎖筋は、解剖しながら確認しないとイメージが浮かばない。多くのライヘでは背部からの作業の際に (p.100)、前鋸筋と広背筋を一緒に動かしていると思うが、今のうちに前から、前鋸筋広背筋の境界 (噛み合い) を明らかにする。背部からの作業を終えていれば、広背筋は胸背動脈・神経と共に腋窩にぶら下がるはずだ (Fig.29)。

最後に前鋸筋の外面に張りついて走行する支配神経 (長胸神経) を剖出する (Fig.29)。昔は乳房切除に伴う腋窩リンパ節郭清の際に、この神経を切断して障害を残すことがあった。今なら言語道断であろう。同神経を確認できたら、神経の経過よりも前方、つまり肋骨付着に近い部位で前鋸筋を切断する。視野が悪いが、できれば前鋸筋の上部筋尖も第 1・2肋骨から剥がしておく。なお、作業中に神経よりも後方で前鋸筋が裂けてしまったら、わざわざ筋を肋骨から剥がさずに肩甲骨から剥がせばよい。

Serratus anterior muscle 前鋸筋 ぜんきょきん 21,29

Latissimus dorsi muscle 広背筋 こうはいきん 21,29

Thoracodorsal artery/nerve 胸背動脈/神経 きょうはい− 29

Long thoracic nerve 長胸神経 ちょうきょう− 29

Axillary (lymph) nodes 腋窩リンパ節 19

現在、世界の乳腺外科は Sentinel node(見張り役のリンパ節)という概念に夢中である。センチネルノ−ドとは、乳腺の所属リンパ節の場合(巻末付録のリンパ管系総論を参照)、患者の乳房に注入した色素によって最初に染まる腋窩リンパ節のこと。そこに癌が転移していなければ、リンパ節転移はほぼ無視できると考えられている。しかしこの考え方には、跳躍転移 Skipped metastasis(リンパ節をバイパスするリンパ管を経由する転移)や腋窩リンパ管系以外の径路が想定されていないため、特に日本では慎重に扱う傾向にある。

3.2.4 腋窩から上腕屈側   (Fig.23,28,48,50)

以下、上肢の解剖は一側だけで行い、残る一側では保健医療学部 OT、PT 科 1 年生が週 1 回実習するので助言して欲しい。

1) 鎖骨下動静脈に続く腋窩動静脈をまず確認する (Fig.701,703)。腋窩の動脈と神経を丁寧に剖出していく。静脈はある程度は除去してよい。鎖骨下動脈は第 1 肋骨のレベルで腋窩動脈と名を変える。鎖骨下動脈は前斜角筋の深側を交叉し、同静脈は浅側を交叉する (Fig.717)。

2) 小胸筋と鎖骨の間に張る鎖骨胸筋筋膜を除去すると、胸肩峰動脈胸筋神経が明らかになる (Fig.23,30)。胸筋神経は、胸肩峰動脈の根部に遠位から引掛かる形で胸筋神経ワナを形成する (Fig.703)。ワナの内側部から始まるのが内側胸筋神経で、外側部から始まるのが外側胸筋神経である。しかし医師にとっては、末梢経過で命名した方が便利かも知れない。小胸筋を貫通してから大胸筋に分布する中間胸筋神経、小胸筋上方を走る上胸筋神経、下方を走る下胸筋神経、と 3 つに区分できる。多くの哺乳類では下胸筋神経がよく発達して皮下の薄い筋 (皮幹筋) を支配している。

Subclavian artery/vein  鎖骨下動/静脈 Arteria subclavia 701

Axillary artery/vein  腋窩動/静脈 Arteria axillaris 30,703

  ↓ぜんしゃかっきん

Anterior scalene muscle  前斜角筋 703,717

*Clavipectoral fascia  *鎖骨胸筋筋膜 20

Thoracoacromial artery  胸肩峰動脈 きょうけんぽう− 23

Lateral/Medial pectoral nerves  外側/内側胸筋神経 703

3) 腋窩リンパ節とリンパ管を除去する (Fig.11,19)。繰り返すが、これは乳癌の所属リンパ管系として重要なものである。静脈角近傍では、リンパ節 (鎖骨上リンパ節) の除去は慎重に行なう。鎖骨下静脈浅側に鎖骨下リンパ本幹を観察できるかも知れない (Fig.716)。

Axillary lymph nodes  腋窩リンパ節 19

Venous angle  静脈角 710

Supraclavicular (lymph) nodes  鎖骨上リンパ節 さこつじょう− 11

Subclavian lymphatic trunk  鎖骨下リンパ本幹 11 ,716

4) 肋間上腕神経は、肋間神経外側皮枝から伸び出している (Fig.19,24)。肋間上腕神経は腋窩を横切るように胸壁と上腕内側を結ぶので、解剖中に緊張して切れやすい。早めに同定しておきたい。腕神経叢から来る皮神経と腋窩で交通・吻合していないか。肋間上腕神経は臨床的な重要性は低いが、「肋間神経外側皮枝の発達したものが肢帯部神経叢 (例えば腕神経叢) である」 という仮説に根拠を与えている。

腕神経叢にいきなり入ると分かりにくいので、上腕の主要な導通路である上腕内側筋間中隔 (Fig.48,132) の解剖を先行させよう。

1) 腋窩動脈を遠位にたどり上腕動脈に至る (Fig.50)。伴走する正中神経は容易に剖出できる。

2) 狭義の上腕内側筋間中隔は、注意しないと分からない薄い筋膜である (Fig.48)。この膜を隔てて伸側に尺骨神経を同定する。尺骨神経を遠位にたどり、上腕骨内側上顆伸側の肘部管にはいりこむことを確認する (Fig.50,56)。自分の肘でここに尺骨神経を触れるよう練習しておく。患者に神経というものを説明する時に役立つ。尺骨神経に伴走する、(上 ・下) 尺側側副動脈は、上腕動脈の枝だったか (Fig.51)。

3) 腋窩の外側壁において、上腕二頭筋の内側上部に接して烏口腕筋を同定し、この筋に進入する太い筋皮神経を同定する (Fig.51)。伴走する血管はない。

4) 筋皮神経と尺骨神経を近位にたどり、両者の根の一部が正中神経に合流するのを確認する。腋窩動脈をまたぐワナ (正中神経ワナ) から正中神経が始まる (Fig.51)。正中神経ワナは、腕神経叢の構成を理解したり腋窩動脈枝を命名する上で基準になる。

Intercostobrachial nerve 肋間上腕神経 24

Brachial plexus 腕神経叢 わんしんけいそう 28

Medial brachial intermuscular septum 内側上腕筋間中隔 48,132

Brachial artery 上腕動脈 50

Median nerve 正中神経 せいちゅう− 50

Ulnar nerve 尺骨神経 しゃっこつ− 50

Humerus 上腕骨 55,104

Medial epicondyle 内側上顆 51,104

Cubital tunnel 肘部管 ちゅうぶかん 56

*(Sup./Inf.) ulnar collateral a. *(上/下) 尺側側副動脈 51

Biceps muscle 上腕二頭筋 48

*Coracobrachial muscle *烏口腕筋 うこうわんきん 51

Musculocutaneous nerve 筋皮神経 きんぴ− 51

Medianus ansa 正中神経ワナ 50,51

5) ついでに肩甲上動脈・神経を同定したい (Fig.32,34)。腕神経叢の浅側で最上部に位置するので見つけやすい。肩甲上動脈は甲状頚動脈の枝で、前斜角筋前面で分岐する (Fig.30,703)。

斜角筋リンパ節 Scalene nodes が邪魔をしたら相談して欲しい。Scalene nodes には反回神経周囲から太いリンパ管が到来する(気管支縦隔リンパ本幹の1つ:p.116)。しかし、必ずしも前斜角筋前面にリンパ節が発達しているとは限らない。体表から診る医師はおそらく、静脈角 (内頚静脈と鎖骨下静脈が作る上向きの角) 近傍の深頚リンパ節群を含めて、広く斜角筋リンパ節と呼んでいるのだろう。P.246も参照。

Suprascapular artery/nerve 肩甲上動脈/神経 32, 34

*Thyrocervical artery *甲状頚動脈 こうじょうけい− 30,703

Anterior scalene muscle 前斜角筋 ぜんしゃかっきん 30 ,703

3.2.5 腕神経叢と腋窩動脈枝   (Fig.23,32)

腕神経叢の後部に入るが、とかく血管が邪魔になる。しかし動脈はできるだけ温存する。あらかじめ、Fig.43 などで腋窩動脈を確認してから始めること。上肢をあまり引っ張ると神経が緊張して剖出しにくい。腰仙骨神経叢→ p.97

1) 前鋸筋外面で確認した長胸神経を再び同定して近位に追求し温存する (Fig.29)。

2) 上腕内側で尺骨神経よりも伸側を剖出すると、非常に太い橈骨神経が見つかる。上腕深動脈が伴走している (Fig.51)。

3) 腋窩の後壁を作る広背筋がすでに背部で解剖してあれば、胸背神経をここで再確認して近位に追求する。胸背動脈が伴走している (Fig.29,30)。

4) 腋窩後部の動脈は、とりあえず肩甲下動脈と総称できる (Fig.23)。肩甲下動脈はきわめて変異に富み、解剖学者の間で肩甲下動脈変異の体系化が試みられてきた。胸背神経をたどると、多くの肩甲下筋枝 (肩甲下筋神経) が見つかる (Fig.32)。

最後に残る太い神経は腋窩神経であるが、次節の上腕伸側で腋窩隙の解剖が進んでからでよい。以上の過程で、頚部から腋窩を経て上肢に至る導通路(脈管神経路)が見えてきただろうか。

前鋸筋の支配神経である長胸神経は温存されているかくり返し確認せよ (Fig.29)。第 1 ・2 肋骨からも前鋸筋がはずれているか。前鋸筋が体幹からはずれていれば (あるいは肩甲骨からはずれていれば)、上肢の屈側伸側を反転して胸部に乗せることができる。これで腕神経叢を後方から剖出できることを確認する。

Long thoracic nerve 長胸神経 ちょうきょう− 29

Radial nerve 橈骨神経 とうこつ− 51

Profunda(Deep) brachial artery 上腕深動脈 じょうわんしん− 51

Thoracodorsal artery/nerve 胸背動脈/神経 きょうはい− 29

Subscapular artery 肩甲下動脈 23

Subscapular nerves 肩甲下筋神経 32

Axillary nerve 腋窩神経 32,51

Serratus anterior muscle 前鋸筋 ぜんきょきん 29

3.3 上腕伸側・肩甲部

これからは、上肢を適当な姿勢に動かしながら解剖を行なう。一側では OT、PT の学生実習を行なうので助言して欲しい。

3.3.1 上腕伸側から腋窩へ   (Fig.52,54,57)

三角筋の後縁に残る結合組織を剖出して腋窩神経の皮枝 (上外側上腕皮神経) を見つけ出す (Fig.56)。固くて作業が捗らなければ、先に三角筋の遊離にはいる。三角筋の後縁をある程度明らかにした後、肩峰と鎖骨から三角筋を剥がして、下方に反転していく。特に筋後部の下方反転を慎重に行ない、三角筋に深側から入る腋窩神経とその皮枝を見つける。同時に後上腕回旋動脈の末梢も剖出される (Fig.57)。肩甲下動脈の枝である。上腕筋膜がまだ残っていれば、除去して上腕の各筋の輪郭を明らかにする。

三角筋には今でもしばしば筋注を行なう。ところが現場では、 腋窩の大血管や腕神経叢を避けたいあまり、後上腕回旋動脈や腋窩神経を狙い撃ちするような刺し方をすることがある。動脈・神経の走行をよく確認せよ。

Axillary nerve 腋窩神経 57

Lat. brach. cutan. nerve (上) 外側上腕皮神経 56

Deltoid muscle 三角筋 56

Musculus deltoideus

Acromion 肩峰 けんぽう 33,52

Posterior humeral circumflex artery 後上腕回旋動脈 57

上腕伸側には腋窩からの出口 (腋窩隙) が 3 つある。3 つの出口は、上腕三頭筋長頭、同外側頭、上腕骨、大円筋、小円筋によって区切られている (Fig.52)。したがって、これらの筋の輪郭を早期に確認する必要がある。

1) 外側腋窩隙 (Laterale Achsellucke の和訳) は上腕三頭筋長頭、上腕骨、大円筋、小円筋で囲まれた間隙で、四角隙ともいう。三角筋の深側で剖出した後上腕回旋動脈腋窩神経はここから伸側に出現する (Fig.33,57)。

2) 内側腋窩隙 (Mediale Achsellucke の和訳) は上腕三頭筋長頭、大円筋、小円筋で囲まれた間隙で、三角隙ともいう (Fig.33)。肩甲回旋動脈がここから出てくる (Fig.34)。

3) 上腕三頭筋の 2 頭にはさまれた広いが無名の間隙橈骨神経上腕深動脈が通る (Fig.57)。

上腕三頭筋の 2 頭をある程度遠位まで裂いて、血管・神経を明らかにする。橈骨神経と上腕深動脈が直視下に確認できたら、今度は上腕三頭筋上腕筋の間、さらに腕橈骨筋上腕筋の間をピンセットで慎重に裂いて橈骨神経を遠位に連続させていく。橈骨神経が上腕骨に巻きついて下行し、前腕橈側に至る経過を剖出していく (Fig.57,64)。その間に橈骨神経は、後前腕皮神経など数本の皮神経を分枝している。上腕三頭筋には、橈骨神経の走行よりも内側で上腕骨から起こる筋束が多数ある。この筋束を内側頭と呼ぶ (Fig.55)。

Triceps muscle 上腕三頭筋 52

Long/Lateral/Medial head 長/外側/内側頭

Humerus 上腕骨 52

Teres major/minor muscle 大/小円筋 52

Quadrangular space 四角隙 しかくげき Laterale Achsellucke 33,52

Triangular space 三角隙 Mediale Achsellucke 33,52

Circumflex scapular artery 肩甲回旋動脈 34

Radial nerve 橈骨神経 とうこつ− 57

Profunda(Deep) brachial artery 上腕深動脈 A. profunda brachii 57

Brachialis muscle 上腕筋 57

Brachioradialis muscle 腕橈骨筋 わんとうこつ− 52

Posterior brachial cutaneous nerve 後上腕皮神経 56

■付図 筋肉内注射の手順

(「エキスパ−トナ−ス」を改変)

 

3.3.2 肩甲部から頚部へ   (Fig.34,46,52)

ここで肩甲骨まわりの筋を再確認する。すでに剥離されているものについては、その本来の広がり (起始・停止) を復習する (Fig.47,53)。特に前鋸筋の位置と作用を復習する。

Pectoralis major/minor muscle   大/小胸筋 21

*Omohyoid muscle   *肩甲舌骨筋 707

Rhomboid muscle   菱形筋 629

Serratus anterior muscle   前鋸筋 21

Teres major/minor muscle   大/小円筋 52

Subscapularis muscle   肩甲下筋 46

Supraspinatus/Infraspinatus muscle   棘上/棘下筋 52

1) 強力で平たい停止腱を作る広背筋を確認し、上腕骨停止まで追及する (Fig.46)。前鋸筋と広背筋の栄養動脈 (胸背動脈など) は温存されているだろうか。広背筋とその栄養動脈には、乳房を作成 (再建) したり肘関節を動かすために移行術を施すなど様々な用途がある。

2) 肩甲骨後面への導通路を剖出する。深部を損傷しないように注意して肩峰と肩甲棘の境界付近に鋸を入れ、肩峰・鎖骨と肩甲骨本体を引離す (Fig.92,99)。この際に損傷する構造として、肩峰と鎖骨を結ぶ靭帯や、肩峰のすぐ深側にある滑液包がある。これらは整形外科的に重要だが、現段階では余裕のある者だけが詳細に剖出することにする (Fig.98)。

3) 棘上筋の輪郭を明らかにして (Fig.33)、肩甲上動脈・神経を再確認し (Fig.34)、棘上筋を肩甲骨棘上窩から剥離し、内側から外側 (上腕骨) に向けて起こして行く。この過程で肩甲切痕の位置を確認する。棘下筋・小円筋も同様に内側から外側に向けて徐々に剥離する。

4) 肩甲切痕内外から棘上窩に入った血管・神経は、肩甲棘と関節窩 (上腕骨頭) の間の隙間 (spinoglenoid notch) を通って、棘下窩へ下行する (Fig.34)。ここで、すでに剖出ずみの肩甲回旋動脈や後上腕回旋動脈と吻合する。確認せよ。

Latissimus dorsi muscle 広背筋 46

Humerus 上腕骨 104

Thoracodorsal artery 胸背動脈 29

Scapula 肩甲骨 92

Acromion 肩峰

Spine of scapula 肩甲棘 Spina scapulae

Supraspinatus fossa 棘上窩

Scapular notch 肩甲切痕 けんこうせっこん

Infraspinatus fossa 棘下窩 きょくかか

Suprascapular artery/nerve   肩甲上動脈/神経 34

Circumflex scapular artery   肩甲回旋動脈 34

Posterior humeral circumflex artery   後上腕回旋動脈 34

3.3.3 肩関節の固定性と可動性   (Fig.101,102)

回旋筋腱板 rotator cuff を同定する (Fig.102)。これは狭義には、棘上筋・棘下筋・小円筋の停止腱膜のことで、その広がりを上腕骨大結節に至るまで確認する (Fig.99)。血管・神経をなるべく切らないように注意しながら、これら 3 筋を完全に肩甲骨から剥離し、内側から腱板を浮かせて上腕骨頭と腱板の間にピンセットを入れる。小結節につく肩甲下筋も同様に確認せよ (Fig.98)。腱板断裂は有名な外傷で、腱板上部に接する滑液包の軟骨化が五十肩である。

 三角筋は肩関節の強力な外転筋だが、腱板が(棘上筋の収縮によって)緊張して、上腕骨頭を関節窩に押しつけてから初めて作用する。

腱板と関節包はライヘでは分けがたい。腱板周囲の弱い部位で関節包が破れ、肩関節が開放される (Fig.101)。腱板は大結節に付着させておく。腱板が上腕骨頭を固定していたことを確かめる。肩甲下筋の停止腱が関節を下方から支えている。肩甲下筋もしばしば rotator cuff の筋に加える。上腕骨頭に巻きついている上腕二頭筋長頭腱を開放する (Fig.102)。

Shoulder joint  肩関節 Articulatio humeri 102

Supraspinatus muscle  棘上筋 102

Infraspinatus muscle  棘下筋 102

Teres minor muscle  小円筋 102

Humerus  上腕骨 104

Greater/Lesser tubercle   大/小結節 104,105

Subscapularis muscle  肩甲下筋 46,98

Tendon of

biceps muscle (long head)  上腕二頭筋長頭腱 101

<肩関節を動かす筋の作用別整理> p.87の図、p.254「上肢計測」も参照

外転 Abduction 三角筋、棘上筋、上腕二頭筋長頭

挙上 外転の筋に加えて 前鋸筋、僧帽筋の上部

内転 Adduction 大胸筋、上腕三頭筋長頭、大円筋、広背筋、上腕二頭筋短頭

前傾 三角筋鎖骨部、上腕二頭筋、大胸筋鎖骨部・胸肋部、烏口腕筋

後傾 大円筋、広背筋、上腕三頭筋長頭、三角筋肩甲棘部

外旋 Medial rotation 棘下筋,小円筋.三角筋肩甲棘部(内外旋は肘を曲げて)

内旋 Lateral rotation 肩甲下筋、大胸筋、上腕二頭筋長頭、三角筋鎖骨部

描円、ぶんまわし: 多くの筋が協力して作用する

Circumduction 以上の運動:自分の体を動かして確認せよ

3.4 前腕と手

3.4.1 肘から前腕へ   (Fig.48,60,69)

1) すでに肘窩で剖出した皮神経や皮静脈を左右に寄せて残しながら、メスで前腕筋膜を遠位から近位に向けて除去し、筋の輪郭を明らかにする。腱の間を清掃し、遠位から近位に向けて各筋を浮かせて輪郭をより明確にする。深部にある血管・神経を損傷しないように注意する。前腕筋膜は手くびから上方に剥がして、上腕二頭筋に付けて残しておく (Fig.48)。メスで前腕筋膜を剥がす時、肘近くで前腕筋の筋質が若干剥がれるのはやむをえない。

前腕筋膜は腱膜状で強靱である。強靱な上腕二頭筋停止腱膜が前腕近位内側に巻きついている (Fig.60)。この腱膜によって、上腕二頭筋の回外作用が得られる。二頭筋の力こぶは回外位でさらに大きくなる。食物を口に運ぶ時に役に立つことを考えてみよ。

Cubital fossa  肘窩 ちゅうか 40

Antebrachial fascia  前腕筋膜 48

Biceps tendon (Biceps aponeurosis)  上腕二頭筋停止腱 (腱膜) 60

Supination/Pronation  回外/回内

2) 橈骨、そして尺骨の肘頭に触れる。ここで 前腕浅層の筋群の配置を確認する (Fig.60,69)。各筋の同定は後述の前腕屈側 (p.81) 及び前腕伸側と関節の開放 (p.84) の節までに行う。屈筋群は上腕骨内側上顆に収斂し、伸筋群は外側上顆に収斂している。腕橈骨筋および長短の橈側手根伸筋は、肘の橈側で上腕にはみ出して区別できる一群をなしている (Fig.55,70)。

3) 手くびでは屈筋支帯・伸筋支帯を温存する (Fig.73,89)。腱が指まで行くか手関節付近で終わるかが分かれば、筋の同定は容易になる。浅層の解剖を手掌・手背まで進める。

Radius 橈骨 とうこつ 110

Ulna 尺骨 しゃっこつ 108

Olecranon 肘頭 ちゅうとう 69

Humerus 上腕骨 104

Medial/Lateral epicondyle 内側/外側上顆 60,69

Brachioradialis muscle 腕橈骨筋 わんとうこつきん 55

Extensor carpi radialis longus/brevis muscle 長/短橈側手根伸筋 55

Flexor retinaculum 屈筋支帯 くっきんしたい 89

Extensor retinaculum 伸筋支帯 69,77

Wrist joint 手関節 て/しゅかんせつ 126o

 

<肘関節を動かす筋の整理 (作用別) >

屈曲 上腕二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋 Flexion

伸展 上腕三頭筋 Extension

回内 方形回内筋、円回内筋、橈側手根屈筋 Pronation

回外 回外筋、上腕二頭筋、長母指外転筋 Supination

3.4.2 手背   (Fig.75,79)

1) 手背ではまず伸筋支帯を確認し、以後できるだけ温存する。透明な腱鞘 (滑液鞘) を通して伸筋腱が見えてくる。伸筋腱鞘は 6 管に分れているとされており、解剖を急がずにゾンデを入れて腱鞘の広がりを確認する (Fig.77)。

2) 腱鞘を除去して腱を露出させ、まず第 1、3 指で確実に指先まで追求する。指の血管 ・神経も合せて剖出していく。

3) 母指のつけねに生じるスナッフボックス (タバチエール=タバコ入れ) という凹みでは、これを構成する腱をきちんと剖出する (Fig.75,79)。脈診:p.24

4) スナッフボックスの底 (ないし近傍) で橈骨動脈を確認し、第一背側骨間筋に進入していくまで追求する。手背から指に行く橈骨動脈枝は見られるか。

5) 最後に伸筋支帯を切断して伸筋腱を完全に露出させる。伸筋腱は切断しない。

Dorsum of hand 手背 しゅはい 77

Extensor retinaculum 伸筋支帯 79

Synovial(Tendon) sheath 滑液鞘 (腱鞘) けんしょう 77

Tendon of extensor muscles 伸筋腱 77

Digital arteries/nerves 指の動脈/神経 76

Radial artery 橈骨動脈 79

First dorsal interosseous muscle 第一背側骨間筋 79

<手関節を動かす筋の作用別整理>

背屈 (総) 指伸筋、(長・短) 橈側手根伸筋 Dorsiflexion

掌屈 浅指屈筋、深指屈筋、尺側手根屈筋 Palmar flexion

尺屈 (尺側偏位,内転) 尺側手根伸筋、尺側手根屈筋、(総) 指伸筋

橈屈 (橈側偏位,外転) 長橈側手根伸筋、長母指外転筋、長母指伸筋

 

 

3.4.3 手掌の浅層   (Fig.80,82)

1) 手掌の皮下組織を除去して手掌腱膜の輪郭を明らかにする (Fig.80)。母指球・小指球という手掌両側にある筋のふくらみには、まだ触れない。手掌腱膜を剖出する過程で短掌筋や正中神経手掌枝に気付くかも知れない。

2) 手掌腱膜が確認されたら、今のうちに正中神経反回枝 (Fig.89) を助けておく。母指球筋の支配神経で走行は浅い。手掌腱膜と母指球の境界を丁寧に解剖して探す。これを損傷すると QOL を著しく損ねる。手掌の創 (傷のこと) をナートする (縫う) 時に損傷することがある。

3) 屈筋支帯を剖出しながら、長掌筋腱と手掌腱膜が連続していることを確認する (Fig.82)。長掌筋腱がはがれてもよい。

4) 手掌腱膜の遠位縁で指に行く血管・神経を捉え、指先に向けて剖出する。まず第 1、3指で確実に行なっておく。

5) 手掌腱膜をメスで遠位から剥離して近位 (手くび) に向けて反転する (Fig.80)。ぬるぬるした透明な腱鞘 (滑液鞘) に包まれた屈筋腱が見えたら、伸筋腱鞘同様、解剖を急がずにゾンデを入れて腱鞘の広がりを確認する (Fig.81)。指の屈筋腱が通る PIP から手掌中央付近の範囲では、20 年前までは手術が困難で no man's land と呼ばれた。現在は区画の理解が深まり、積極的に手術されるようになった。

Palm 手掌 しゅしょう 88o

Palmar aponeurosis 手掌腱膜 80

Thenar 母指球 82

Hypothenar 小指球 82

*Palmaris brevis muscle *短掌筋 たんしょうきん 80

Recurrent branch of median nerve 正中神経反回枝 89

Flexor retinaculum 屈筋支帯 89

Tendon of palmaris longus muscle 長掌筋腱 ちょうしょうきんけん 82

Synovial(Tendon) sheath 滑液鞘 (腱鞘) かつえきしょう 81

3.4.4 手根管   (Fig.89,112)

1) 薄い屈筋支帯を 3-4cm 幅で (同時に豆鈎靭帯も) 切除して、強靱な横手根靭帯との間の狭い空間 (ギヨン管 Guyon's =尺骨神経管) を開放し、尺骨動脈・神経を剖出する (Fig.89)。屈筋支帯と横手根靭帯を区別しない解剖学教科書が多く、しばしば横手根靭帯を含めて屈筋支帯と呼ぶ。

2) 手掌では滑液鞘を除去しながら腱、血管、神経を剖出していく。浅掌動脈弓はほとんど尺骨動脈枝である (Fig.88,89)。多数の深部受容器官が分布する虫様筋も温存する (Fig.83)。

3) 手掌の剖出がある程度終わったら、横手根靭帯を完全に切除して手根管を広く開放する。これによって、前腕から連続的に屈筋腱と正中神経を観察できようになる。

4) 手根管の壁を作る手根骨を確認する (Fig.112,114,137)。豆状骨、舟状骨結節、有鈎骨鈎などに触れる。手根管症侯群については整形外科教科書を見る。

Carpal tunnel, Flexor tunnel, Carpal canal 手根管 しゅこんかん 83

Flexor retinaculum 屈筋支帯 82

*Pisohamate ligament *豆鈎靭帯 とうこう− 127

Transverse carpal ligament 横手根靭帯 89

Ulnar artery/nerve 尺骨動脈/神経 89

Superficial palmar arch 浅掌動脈弓 89

Lumbrical muscle 虫様筋 83

Median nerve 正中神経 89

Pisiform bone 豆状骨 とうじょうこつ 112

*Tuberosity of scaphoid bone *舟状骨結節 112

*Hamulus of hamate bone *有鈎骨鈎 112

3.4.5 前腕屈側   (Fig.60,62,65,82)

前腕の筋は屈側と伸側に分けられるが、両側を同時に浅層から順に同定しながら解剖を進める (伸側は p.84)。その際、多くの大学では次々に腱を切断するが、その必要はない。復習のためなるべく残そう。

1) 前腕屈筋は浅深 2 層からなる。まず腕橈骨筋と浅層の 3 筋 (尺側手根屈筋・橈側手根屈筋・長掌筋) の輪郭を明らかにする (Fig.60)。腕橈骨筋は屈筋だが屈側ではなく、伸側の筋群に分類されている。これらの筋を浮かすと、尺骨動脈と尺骨神経、橈骨動脈と橈骨神経浅枝が、それぞれ尺側と橈側に伴走して見つかる (Fig.63)。生体の尺骨動脈と橈骨動脈を脈診してみよ (付図 p.24)。橈側手根屈筋腱だけを切断して筋を近位に反転、筋の内面で橈骨動脈と橈骨神経浅枝を剖出する。

Brachioradialis muscle 腕橈骨筋 わんとうこつ− 60

Flexor carpi ulnaris muscle 尺側手根屈筋 60

Flexor carpi radialis muscle 橈側手根屈筋 60

Palmaris longus muscle 長掌筋  60

Ulnar artery/nerve 尺骨動脈/神経 63

Radial artery/nerve 橈骨動脈/神経 63

Superficial branch of radial nerve 橈骨神経浅枝 63

2) 浅指屈筋、円回内筋を同定したら (Fig.61)、前腕屈筋深層へのアプローチのため、浅指屈筋と円回内筋の橈骨付着を剥がして、橈骨から前腕屈筋浅層を浮かし (ここが手技のポイント)、浅指屈筋の深側にある正中神経や血管を剖出する (Fig.64)。

3) 深側では、深指屈筋、長母指屈筋、方形回内筋を同定する (Fig.62)。深指屈筋と長母指屈筋の間で正中神経枝の前骨間神経が見えるはずだ (Fig.65)。

Flexor digitorum superficialis muscle 浅指屈筋 61

Pronator teres muscle 円回内筋 61

Median nerve 正中神経 65

Flexor digitorum profundus muscle 深指屈筋 62

Flexor pollicis longus muscle 長母指屈筋 62

Pronator quadratus muscle 方形回内筋 ほうけいかいない− 62

Anterior interosseous nerve 前骨間神経 ぜんこっかん− 65

4) 腕神経叢から上腕骨内側上顆まで尺骨神経が剖出されていることを確認する。尺骨神経は尺側手根屈筋の起始部を貫通する (Fig.66)。尺側手根屈筋の上腕骨起始を注意深く剥がして、内側上顆直下の尺骨神経溝=肘部管を開放し、尺骨神経を前腕につなげる。この過程で尺側手根屈筋枝が見つかる。肘部管も障害を受けやすい部位だ。

5) 同じく正中神経を上腕から肘窩にたどると、円回内筋に埋没していく (Fig.64)。円回内筋の橈骨付着を剥がして正中神経を前腕につなげる。前腕では正中神経は浅指屈筋の深側をまっすぐに手根管まで走行している (Fig.65)。この過程で円回内筋枝やその他の前腕屈筋の支配神経が見つかる。

6) 橈骨神経深枝は、回外筋を橈骨から剥がして追求する (Fig.65)。前腕伸側の筋 (p.84) を同定して筋間を広げると深枝が見つかる。筋の発達が良くて間を分け難い時は、スタッフの指導のもと、前腕伸筋を上腕骨外側上顆から剥離し、神経を追跡する視野を広げる。

7) 現段階で全体像が見えない構造は尺骨動脈だけであろう。尺骨動脈は円回内筋の深側にいったんもぐりこむ。肘窩の底で、尺骨動脈は総骨間動脈を放ち、さらに総骨間動脈は屈側深層に向かう前骨間動脈と伸側に向かう後骨間動脈 に分かれる (Fig.65)。肘窩では、この点が浅層を走る橈骨動脈と異なる。円回内筋を必要の範囲でくずし、後骨間動脈を前腕伸側につなげる。

Medial epicondyle 内側上顆 66

Supinator muscle 回外筋 62

Common interosseous artery 総骨間動脈 65

Anterior/Posterior interosseous artery 前/後骨間動脈 65

復習のため再度、前腕屈側から手掌まで、腱と血管・神経を連続させ同定する。

8) 指の屈側では腱鞘を開いて浅指屈筋腱と深指屈筋腱の交差状態を剖出する (Fig.82,84)。腱鞘は滑液鞘に裏打ちされている。中手指節関節 MP、近位・遠位指節間関節 PIP/DIP の各関節に対応して、腱鞘 (靭帯性腱鞘あるいは線維鞘) は輪状の線維 (プーリー) によって補強されている。腱のヒモと呼ばれる固定装置は分かるか。浅指屈筋腱と深指屈筋腱の停止部位を確認する。指に至る神経を麻酔するには (オーベルスト麻酔 Oberst)、手掌・手背各 2 本ずつ計 4 本を麻酔する必要があることを確認する (Fig.91,139)。

Synovial(Tendon) sheath  滑液鞘 (腱鞘) 81

Tendon of flexor digitorum superficialis muscle  浅指屈筋腱 82

Tendon of flexor digitorum profundus muscle  深指屈筋腱 82

Phalanx  指節 (骨) 128

Metacarpophalangeal joint(MP)  中手指節関節 128

Proximal/Distal interphalangeal joint (PIP/DIP) 近位/遠位指節間関節 128

3.4.6 手掌の深層   (Fig.82,89,90)

前腕屈筋とその腱の解剖が終了し、腱が自由に動かないと深部への視野が広がらない。場合によっては、浅・深屈筋腱を一部切断して視野を作る必要があるかも知れない。

1) 母指球筋の解剖に先立って正中神経反回枝 (Fig.89) を再確認する。手掌腱膜の剥離の際に剖出したはずだ (p.80)。

Thumb  母指 ぼし 82

Thenar muscles  母指球筋 ぼしきゅう− 82

Recurrent branch of median nerve  正中神経反回枝 89

2) 前腕から筋の輪郭を確認しながら、母指球におよそ 3 層の筋 (母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋) を区別する (Fig.82,83)。しかし、深層では境界が不明瞭だ。以上の過程で長母指屈筋腱の手掌における走行を明らかにする。橈骨動脈枝が母指球筋を貫通している場合は、深くたどって手掌深部の解剖につなげる (Fig.89)。

*Abductor pollicis muscle *母指外転筋 82

*Flexor pollicis brevis muscle *短母指屈筋 82

*Opponens pollicis muscle *母指対立筋 83

Tendon of flexor pollicis longus muscle 長母指屈筋腱 83

3) 小指球筋の解剖は尺骨神経を追求しながら行なう。小指球にもおよそ 3 層の筋 (小指外転筋、短小指屈筋、小指対立筋) を区別する (Fig.82,83)。手掌の深部に入る尺骨神経を確認する (Fig.89)。

Little finger 小指 しょうし、こゆび 82

Hypothenar muscles 小指球筋 しょうしきゅうきん 82

Ulnar nerve 尺骨神経 89

*Abductor digiti minimi muscle *小指外転筋 しょうし− 82

*Flexor digiti minimi brevis muscle *短小指屈筋 82

*Opponens digiti minimi muscle *小指対立筋 82

4) 手掌の深層の母指内転筋の輪郭を確認する (Fig.83)。骨間筋や母指球筋との境界がはっきりしないところがあって、昔から議論になっているが、今は細部にはこだわらない。

5) 橈骨動脈は、手くび橈側の凹みスナッフボックス付近で捕まえてあるだろうか (Fig.79)。小指球筋の解剖で捕まえた尺骨神経と、スナッフボックスの橈骨動脈を深部に追求する。これら血管・神経を母指内転筋の深側 (手背側) まで連続させる。浅掌動脈弓は主に尺骨動脈枝から、深掌動脈弓は主に橈骨動脈枝から構成される (Fig.89,90)。浅掌動脈弓ほど太くはない。

6) 最後に骨間筋だが、少なくとも第一背側骨間筋 (Fig.86) だけは丁寧に剖出して起始停止と尺骨神経支配を確認する (Fig.90)。

  *Adductor pollicis muscle *母指内転筋 83

Radial artery 橈骨動脈 79

Superficial/Deep palmar arch 浅/深掌動脈弓 89,90

First dorsal interosseous muscle 第一背側骨間筋 86

3.4.7 前腕伸側と関節の開放   (Fig.69,74,112,119)

1) 前腕伸側で腕橈骨筋と浅層の 5 筋を順に同定をして手背の停止腱を確認する

(Fig.69,70)。伸筋腱と連続している指背腱膜 (Fig.84) は、むやみに剥離しないで、骨間筋の停止を観察するまで温存する。

Brachioradialis muscle   腕橈骨筋 69

Extensor carpi ulnaris muscle   尺側手根伸筋 69

Extensor digiti minimi muscle   小指伸筋 69

Extensor digitorum muscle   指伸筋 ししんきん 69

Ext. carpi rad. long./brev. m.   長/短橈側手根伸筋 70

Extensor expansion   指背腱膜 しはい− 84

2) 肘頭近くで浅く伸筋起始腱膜をメスで削り取ると、各伸筋の間に分け入ることができる。手背から肘頭 (外側上顆) に向けて部分的に伸筋を浮かしながら、橈骨神経深枝と後骨間動脈を剖出する。回外筋を橈骨から剥がすと視野が広がる (Fig.73,74)。

Olecranon 肘頭 ちゅうとう 73

Lateral epicondyle 外側上顆 73

Deep radial nerve 橈骨神経深枝 74

Posterior interosseous artery 後骨間動脈 74

Supinator muscle 回外筋 72

3) スナッフボックス snuff box(昔はタバチエールと言った)(Fig.90) を作る筋を確認する (Fig.72,75)。

Extensor pollicis longus muscle 長母指伸筋 (スナッフボックスの尺側縁)72

Extensor pollicis brevis muscle 短母指伸筋 ( - 橈側縁) 72

Abductor pollicis longus muscle 長母指外転筋 ( - 橈側縁) 72

Extensor carpi radialis longus/brevis muscle 長/短橈側手根伸筋

(スナッフボックスの底) 72

4) 肘筋を同定し (Fig.72)、三角をしたこの筋の輪郭に沿って骨まで深くメスを入れ、肘関節を開放する。3 つの関節面が確認できるまで深くメスを入れる。回内・回外の際の骨の動きを観察する (Fig.116-120)。太い血管・神経を切らないように注意しながら、上腕骨外側上顆、内側上顆、肘頭の輪郭をメスで明らかにする。

近位橈尺関節の脱臼 (肘内障とよぶ) の整復について示説を受ける(付図p.86)。しばしば現場で遭遇する子供の脱臼で、橈骨輪状靭帯から橈骨頭が抜ける。ごつごつした骨折の痕跡が見つかることもある。上腕骨顆上骨折は、小児で最も多い骨折の一つである。腕尺関節、腕橈関節、近位橈尺関節の 3 部分から肘関節が構成されていることがわかるだろうか (Fig.116-120)。

*Anconeus muscle *肘筋 ちゅうきん 72

Elbow joint 肘関節 ひじ−/ちゅうかんせつ Articulatio cubiti 117o

Humeroulnar joint 腕尺関節 119

Humeroradial joint 腕橈関節 わんとう− 119

Proximal radioulnar joint 近位橈尺関節 120o

Pronation/Supination 回内/回外

Humerus 上腕骨 104

Medial/Lateral epicondyle 内側/外側上顆 104

5) 手背では伸筋腱と指背腱膜 (Fig.84) を側方に寄せて靭帯を除去し、手根骨を手背から露出させる。特に臨床で重要な舟状骨、月状骨を確認する (Fig.112)。

6) 手関節も手背に続けて開放し、関節円板 (手関節三角線維軟骨複合体) と橈骨・尺骨の関係を見ながら橈骨手根関節、遠位橈尺関節を確認する (Fig.130)。

Extensor expansion  指背腱膜 84

Carpal bones  手根骨 しゅこんこつ 112

Scaphoid  舟状骨 112

Lunate  月状骨 112

Wrist joint  手関節 てかんせつ/しゅ− 130

Radiocarpal joint   橈骨手根関節 130

Distal radioulnar joint  遠位橈尺関節 130

Articular disc   関節円板 128

7) 1-2 本の指で指背腱膜と骨間筋を剥がし、MP、PIP、DIP を手背側から開放する (Fig.128)。第 1 指の手根中手関節も手背から開放し、鞍関節であることを確認する (Fig.128)。各指節骨を分離してもよい。

8) 最後に 1、2 指でいいから爪を剥がして、爪床の構造を理解する (Fig.143)。爪床の炎症を慣用的に panaritium あるいはfelon (ひょう疽)という。ひょう疽を治療するための抜爪は、日常臨床で頻繁に行われる小外科手技である。

Interosseous muscles 骨間筋 86

Metacarpophalangeal joint (MP) 中手指節関節 128

Proximal/Distal interphalangeal joint (PIP/DIP) 近位/遠位指節間関節 128

Carpometacarpal joint(CPM) 手根中手関節 130

Phalanx 指節 (骨) 128

Nail 爪 143

Nail bed ネイルベッド(正しくは[そうしょう]だが、通じない) 爪床 143

(いずれも、日本医師会「小外科マニュアル」の図を改変)

3.5 上肢の総括

1. 上肢の主な導通路をまとめる (Fig.43,131-138)。

筋間中隔・隙間の名称と、動脈、神経、周辺の筋の位置関係を確認せよ。

     部位 (筋間中隔・隙間の名称)

     動脈

     神経

     周囲の筋

  1. 橈骨神経、正中神経、尺骨神経から、それぞれの筋にどの部位で筋枝が分れ

るか。

3. 上肢の各筋を、支配分節ごとに整理する。

   C5、C6、C7、C8、T1 がどのように支配しているかデルマトームを参照に。

   次いで、部位ごとに支配分節を整理する。

     肩の筋、上腕伸筋、上腕屈筋、前腕伸筋、上腕屈筋、手掌の筋

■付図 肩関節の運動(付録「上肢計測」も参照)

(オリジナルの図)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屈曲(前方挙上 flexion)、伸展(後方挙上 extension)

外転(側方挙上abduction)、内転(adduction)

外旋(external rotation)、内旋(internal rotation)

水平屈曲(horizontal adduction)、水平伸展(horizontal abduction)

■付図 手関節の変形

(「標準整形外科」の図を改変)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猿手:ape hand

正中神経麻痺により起こる。母指の対立運動および屈曲が不可能となり、母指が内転拘縮状態になる。母指球筋が麻痺する一方で、尺骨神経が支配する母指内転筋が収縮することによる。更に、長母指屈筋および浅・深指屈筋がともに麻痺するので、母指と示指・中指の DIP,PIP 関節は屈曲不能となる。時日の経過とともに筋萎縮が著明となる。

わし手、鷲爪手:claw hand

尺骨神経麻痺により起こる。環・小指の MP 関節が過伸展し、DIP,PIP 関節が屈曲変形する。骨間筋の麻痺により手背で中手骨の間は溝状に筋萎縮を示し、それらに拮抗する総指伸筋、浅指屈筋の収縮により変形が起こる。正中・尺骨神経合併麻痺の場合は、"ape-claw hand"と呼ばれ、高度の変形をきたす。

但し「わし指」変形の責任は虫様筋と骨間筋にあると考えられる。

下がり手、下垂手:drop hand

橈骨神経麻痺により起こる。手が回内位、手関節が掌屈位、すべての指の MP 関節が屈曲位をとる。伸筋群の麻痺によるが、障害の部位により、侵される筋に違いがある。MP関節を他動的に伸展位に保つと、DIP,PIP 関節は伸展できる。これは尺骨神経支配の骨間筋、虫様筋が働くからである。

 

 

上肢の神経断面における神経線維束の位置 (選択課題)

背景

外傷で切断された上肢 (特に手) の機能再建のために神経を縫合する手術がしばしば行われます。末梢神経を縫合するには、神経の断面の中で特定の部位に特定の神経線維束が位置することを十分に理解している必要があります。整形外科に進む人もそうでない人も、一度は神経断面をじっくり見たほうがいいと考えます。

目標

手内筋 (ここでは小指球筋と骨間筋など中手筋) を支配する神経線維束が尺骨神経の断面の中でどこに位置するか、皮枝や前腕屈筋枝と異なる神経線維束を作るかどうかを検討する。

作業

1. 最初の難関は、解剖するうちに神経がねじれて前後内外側の位置関係が分からなくなること。これを防ぐため、色糸と裁縫針を用いて尺骨神経の特定の縁に印をつける:前縁に赤、内側縁に黒。部位:ギオン管のすぐ近位、肘部管のすぐ遠位、正中神経ワナのすぐ遠位。裁縫針はすぐ回収する。

2. 尺骨神経が小指球筋に進入する部位 (同筋や中手筋に至る) を確認する。

3. 正中神経ワナのすぐ遠位で尺骨神経本幹を切断し、さらに尺骨神経の各枝を確認しながら切断して、全長にわたり摘出する。作業 1 で付けた前縁の赤糸と内側縁の黒糸に注意しながら、金属トレー上か所見台に広げて再現、摘出時に切断した各枝を再確認する。

4. 水道水でぬらしながら、遠位から近位に向けて神経周囲の線維性の強靭な膜 (神経上膜) をメスで慎重に除去する。神経線維束は神経周膜というツルツルの膜に囲まれている。神経上膜が除去されたら、ストリングチーズを割くごとく、筋枝や皮枝をピンセットで分離する。からまりあって分かりにくい場合も、手内筋支配の神経線維束だけは連続させ、その他の神経線維束は切断してもよい。前縁と内側縁を示す糸がはずれてしまうと位置関係が不明になる。

  1. 遠位から近位に向けて神経線維束の分離を進め、赤糸と黒糸を付けた部位に接近したら、そのすぐ遠位をメスできれいに切断する。切断面における手内筋支配神経線維束の位置をケント紙に描く。切断面の部位と前後内外側の方向を明示する。さらに近位に向けて神経線維束の分離を進め正中神経ワナに近い切断面に至る。最終的にケント紙に 3 つの切断面を描く。

 

 

(手の外科の教科書から尺骨神経各部位の断面図を引用)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各断面の数字は手くびからの mm。右図に示す尺骨神経の mm(0-530) から各断面のおよその位置が分かる。△と×は皮枝、Jは関節枝、他は筋枝。

第 4 章 体壁

4.1 腹壁

4.1.1 腹直筋 ふくちょっきん (Fig.253)

体壁筋(腹壁筋)とそれを裏打ちする筋膜に囲まれた体腔(腹腔)について検討する。白い腱膜様の腹直筋鞘に、前面からメスで慎重に 5cm あまり縦に割を入れて、腹直筋鞘前葉の厚さを確認する。次いでハサミで全長に渡り左右の腹直筋鞘前葉を切開する (Fig.253)。注意深く腹直筋を正中線から外側に向けて前葉からも、さらに後葉からも浮かせて、筋を鞘から遊離させる。腱画の部位では、腱画と腹直筋鞘が固く結合していて剥がしにくい。腹直筋鞘後葉は下腹部には存在せず、後葉は下方で弓状線という遊離縁に終わる (Fig.255,256,261)。つまり下腹部では腹膜横筋筋膜 (腹横筋膜) だけが筋を裏打ちしている (Fig.261,262)。

以上の作業の間に、腹直筋の支配神経 (肋間神経) とそれに続く前腹壁の皮神経、縦走する上・下腹壁動静脈を剖出する (Fig.260)。下腹壁動静脈は、弓状線より下方では横筋筋膜 (浅) と腹膜 (深) の間を走行する (Fig.258)。また、上腹壁動静脈が横隔膜の起始部を貫通して腹壁に出現する部位に注目する (p.114)。開胸作業の際に認識するが、腹直筋は胸壁前面にも少なからず張りついている。

Body/Abdominal wall, Abdominal cavity 体壁/腹壁, 腹腔

Abdominal wall 腹壁 253o

Rectus abdominis muscle 腹直筋 ふくちょっきん 253

Rectus sheath 腹直筋鞘 −しょう 249

Anterior/Posterior layer  前葉/後葉 254,255

*Tendinous intersections *腱画 けんかく 253

*Arcuate line *弓状線 きゅうじょうせん 255

Peritoneum (Peritoneal cavity) 腹膜(腹膜腔: p.143冒頭) 286

Transversalis fascia 横筋筋膜 (腹横筋膜) 262

Intercostal nerve 肋間神経 258

Sup./Inf. epigastric artery/vein 上/下腹壁動/静脈 259,262

Diaphragm 横隔膜 Diaphragma 245

4.1.2 鼡径部 そけいぶ  (Fig.251,265,269)

この章の解剖は男性で行なって十分理解した後に、女性に適用する (女性解剖体の班は、男性解剖体の班をまず見学する)。

  1. 精索 (女性なら子宮円索、臨床では円靭帯) を確認。鋭いピンセットで損傷しないように、まず指先で精索を探す。精索が腹壁に出現する部位が浅鼡径輪で、あらゆる鼡径ヘルニアはここから皮下に出てくる (Fig.265,269)。

2) 鼡径靭帯と並行して浅鼡径輪から 3-5cm 程度外側までの範囲に鼡径管がある。鼡径管は、腹壁を貫通する通路である(精巣下降を覚えているか:ラングマン付図p.276)。鼡径管前壁を作る外腹斜筋腱膜を慎重に切除し、鼡径管を前から開放する (Fig.253,273)。外腹斜筋腱膜の下縁が肥厚して鼡径靭帯を形成していることを確認せよ (Fig.251,489)。つまり、鼡径靭帯は<浮いている>わけではない。

3) 鼡径管の中で浅鼡径輪から順次、外側に向けて指先で精索を剥離する (Fig.272)。鼡径管上壁は内腹斜筋・腹横筋の下縁、下壁は鼡径靭帯、後壁は横筋筋膜 (腹横筋膜) が構成する。内腹斜筋・腹横筋の下縁から精索周囲に合流する多量の筋束は精巣挙筋 (Fig.271) と呼ばれる。大腿内側を筆でこするとこの筋が収縮して精巣が挙上する反射 (挙睾反射) は有名だ。

4) 以上の剖出過程で、外陰部前部に至る皮神経と精巣動静脈精管を観察する (Fig.269)。1側の精巣動静脈と精管は精巣に付けた状態で深鼡径輪から垂らして温存する。もう1側は復習のため現位置に残しておこう。後日、精管は骨盤内まで追及して尿道につなげ、精巣動静脈は後腹壁の大血管につなげる (p.169)。

Inguinal region 鼡径部 そけいぶ 174o,267o

Spermatic cord 精索 せいさく 251,254

Round ligament of uterus 子宮円索 (円靭帯) 265

Lig. teres uteri

Superficial inguinal ring 浅鼡径輪(外鼡径輪) 251,254

Inguinal ligament 鼡径靭帯 251

Inguinal canal 鼡径管 254

Aponeurosis

of the external oblique m. 外腹斜筋腱膜 がいふくしゃきん− 250

External/Internal oblique m. 外/内腹斜筋 258C,D

Transversus abdominis muscle 腹横筋 258E

Transversalis fascia 横筋筋膜 (腹横筋膜) 262

*Cremaster muscle *精巣挙筋 せいそうきょきん 271

Testis 精巣 271o

Testicular artery/vein 精巣動/静脈 271

Ductus deferens 精管 271

Vas deferens

Deep inguinal ring 深鼡径輪(内鼡径輪) 262,270

Urethra 尿道 271

鼡径ヘルニアと関係して特に鼡径管後壁を詳細に観察する必要がある。後壁は中央部が弱く、周辺部が比較的強い。弱い中央部を破って腸が脱出して起こるヘルニアが内側ヘルニア (直接ヘルニア) で、深鼡径輪から精索と共に脱出するのが外側ヘルニア (間接ヘルニア) である。

鼡径管後壁の外側部 (深鼡径輪の後方) では窩間靭帯 (Fig.261,262) というものが横筋筋膜の外方 (浅側) を補強しているという。しかし窩間靭帯は実質的には下腹壁動静脈の血管鞘、つまり血管周囲の結合組織緻密部であり、補強物の実体はこの血管自身である。鼡径管後壁の内側部 (浅鼡径輪の後方) では、腹直筋鞘の下外側縁 (鼡径鎌)(Fig.261) や内腹斜筋・腹横筋の停止腱膜 (結合腱) が横筋筋膜の外方 (浅側) を補強している。結合腱と鼡径鎌 (Fig.262) は、通常は混同して用いられる。鼡径靭帯に近い後壁下部には、横筋筋膜の肥厚部があり (Fig.258)、Iliopubic tract (腸恥索と訳されているがこの和名は一般的ではない) と呼ばれる。Iliopubic tract の発達には、少なくとも日本人では個体差が大きい。iliopubic tract は下方では大腿動静脈の血管鞘に連続し、鼡径靭帯には続かないとされているが、様々な癒着があって判断しがたい。

*Interfoveolar ligament *窩間靭帯 かかん− 258,261

Inguinal falx 鼡径鎌 そけいかま 253,261

Transversalis fascia 横筋筋膜 258

Femoral artery/vein 大腿動/静脈 489

■付図 鼡径管の層構成 鼡径部の解剖は筋膜を1枚1枚めくるように行う

(佐藤達夫教授の講義をもとにオリジナルの図を作成)

 

4.1.3 側腹筋   (Fig.254,258,373)

外腹斜筋の広がりを観察する (Fig.16,249)。前鋸筋との噛み合い、広背筋との境界は明らかになっているだろうか (Fig.21)。外腹斜筋と前鋸筋が噛み合ったその境界部分から肋間神経外側皮枝が出現する (Fig.248)。肋間神経外側皮枝から分れた筋枝が、前下方に外腹斜筋の外面を走行した後で、外面から筋に進入して支配する。外腹斜筋は腹直筋鞘前葉に移行する (Fig.249)。外腹斜筋を鎖骨中線(鎖骨中央から降ろした線)付近で切断し、内側と外側双方に向けて反転する。

External oblique muscle 外腹斜筋 16,249

Serratus anterior muscle 前鋸筋 19

Latissimus dorsi muscle 広背筋 629

Lateral cutaneous branch 肋間神経外側皮枝 19

Aponeurosis of the external oblique muscle 外腹斜筋腱膜 250,253

Rectus sheath 腹直筋鞘 249

Anterior layer   前葉 254

内腹斜筋も鎖骨中線(上述)付近で切断して、これも外側に向けて反転する。この際に、腹直筋の剖出で見つけた神経を切らないように注意する。内腹斜筋と腹横筋は下部ほど分けがたいが、内腹斜筋と腹横筋の間を神経 (肋間神経及びそれに類似の神経 : L1,L2) が走行することを指標にして 2 筋を区別する (Fig.258)。

最後に、腹横筋を鎖骨中線付近で切断し、なるべく腹膜を損傷しないように注意しながら内側と外側双方に向けて反転する。この作業で神経が切れてしまうかも知れない。腹横筋が腹直筋鞘後葉に付着することを確認する。

Internal oblique muscle   内腹斜筋 253

Transversus abdominis muscle   腹横筋 255,258E

Rectus sheath   腹直筋鞘

 Posterior layer  後葉 255

4.1.4 後腹壁   (Fig.360,366,367)

腹部内臓の解剖 (p.174) を終えてから行なう。

大腰筋の輪郭を確認した後 (Fig.364)、筋束を脊柱から剥がしながら腰神経叢を剖出する (Fig.364-367)。すでに下肢では大腿神経外側大腿皮神経が剖出されている。これらを近位に追及していく (Fig.367)。大腰筋が腸骨筋と合流して大腿骨小転子に停止することを確認する (Fig.360)。大腰筋は脊柱に近接しており脊柱を動かすが、停止部位と神経支配から下肢帯の筋に分類される。腰神経叢では、上記 2 神経の他に閉鎖神経腰仙骨神経幹を確実に剖出する。腰動脈が腹大動脈から分節的に出ている。作業中に腰動脈を温存するように注意し、第 10 肋間動脈から第 2 腰動脈の範囲で椎間孔に入る太い動脈枝がないかどうか丁寧に剖出する。アダムキービッツ動脈: p.141冒頭を見よ(Fig.683 では第 10 肋間動脈由来)。水平断の絵は 「解剖学講義」 p.665 参照。

腎臓の後方で腰方形筋とその肋骨付着を確認する (Fig.360,373)。背部の剖出で大量の脂肪が付いていたウエストのくびれの位置に当たる。腰方形筋はその支配神経の位置から見て胸壁の外肋間筋に相当すると考えられている。

Psoas major muscle 大腰筋 360

Lumbar plexus 腰神経叢 366

Femoral nerve 大腿神経 498

Lateral femoral cutaneous nerve 外側大腿皮神経 489

Iliacus muscle 腸骨筋 360

Lesser trochanter 大腿骨小転子 560

Obturator nerve 閉鎖神経 367

Lumbosacral sympathetic trunk 腰仙骨神経幹 365

Lumbar artery 腰動脈 364

Abdominal aorta 腹大動脈 364

Adamkiewicz artery アダムキービッツ動脈 683

*Quadratus lumborum muscle *腰方形筋 362

腰仙骨神経叢 (L1-S4) は整形外科や神経内科で下肢の障害を考える上で主要だが、解剖実習の進行上、全体を通してみる機会がない。ここで Fig.366 を参考に整理しておく。腰神経叢部分では前方から閉鎖神経、後方から大腿神経が出る。細いが交感神経性の腰内臓神経は QOL の確保に必須だ。大腿神経の皮枝は下腿に達する。仙骨神経叢部分では坐骨神経が圧倒的に太く、前方の脛骨神経成分と後方の (総) 腓骨神経成分に分けられる。他に、後方から殿筋神経、前下方から陰部神経が出る。細いが副交感性の骨盤内臓神経もQOL の確保に必須だ。

Lumbosacral plexus 腰仙骨神経叢 366,367

Lumbar plexus 腰神経叢 366

Obuturator nerve 閉鎖神経 366,367

Femoral nerve 大腿神経 366,367

Lat.femoral cutan. nerve 外側大腿皮神経 366,367

Lumbar splanchnic nerve 腰内臓神経 328

Lumbosacral trunk 腰仙骨神経幹 367

Sacral plexus 仙骨神経叢 366

Sciatic nerve 坐骨神経 366

Tibial nerve   脛骨神経 366

Common fibular(peroneal) nerve   総腓骨神経 366

Sup./Inf. gluteal nerve 上/下殿神経 366

Pudendal nerve 陰部神経 366

Post. femoral cutan. nerve 後大腿皮神経 366

Pelvic splanchnic nerve 骨盤内臓神経 456

4.2 胸壁

1. 胸部の体壁(胸壁)の外面には上肢帯の筋(大胸筋・小胸筋)が付着している。これらを剥がした後、開胸前に余裕があれば以下の事項を確認したい。

1) 腹直筋が前胸壁下部の外面にも伸び出して付着していること (Fig.146)。サンショウウオのように、腹直筋から舌骨下筋群(p.26)まで一続きの筋が観察される動物もいて、直筋系と呼ばれる。

2) 前胸壁の胸骨近傍には、通常は外肋間筋が存在しないこと。代りにこの部分には腱膜がある (Fig.145)。

3) 外腹斜筋が前鋸筋と噛み合うように肋骨に付着し、胸壁にも広がっていること (Fig.145,252)。

Pectoralis major muscle 大胸筋 18

Pectoralis minor muscle 小胸筋 21

Rectus abdominis muscle 腹直筋 253

External intercostal muscle 外肋間筋 がいろっかんきん 146,147

External oblique muscle 外腹斜筋 253

Serratus anterior muscle 前鋸筋 ぜんきょきん 21,252

2. 開胸の後に解剖する事項としては下記の通り。

1) 前胸壁 : 開胸後 (p.111)、いつでも解剖できるが遅くなるほど乾燥する。

o 胸横筋 - 肋間神経・内胸動脈枝 - 内肋間筋 - 外肋間膜という層構成

(Fig.145,146,162)。時には前方にも外肋間筋類似の筋が存在する。

o 横隔膜と胸横筋が肋骨弓に交互にかみあって付着していることに注目したい

(Fig.261)(p.114)。

Transversus thoracis muscle 胸横筋 162

Intercostal nerve 肋間神経 233

Internal thoracic artery 内胸動脈 162

Internal intercostal muscle 内肋間筋 147

External intercostal muscle 外肋間筋 145

Diaphragm 横隔膜 Diaphragma 147

Costal arch 肋骨弓 261

 

2) 後胸壁 : 肺を摘出し、後縦隔の解剖 (p.138) が進んでから行なう。

o 最内肋間筋・肋下筋 - 肋間神経・肋間動脈 - 内肋間筋 - 外肋間筋という層構成(Fig.239)(付図p.98)。

最内肋間筋は近年まで英語には存在しなかった。日本だけで、外肋間筋の

神経が肋間神経の根部から分れて内・外肋間筋の間の層を走ることが認識

されている(浅肋間神経とも呼ばれる独立した神経)。

o 本当に上から VAN(Vein-Artery-Nerve の順) で配列するか。

肋間静脈-肋間動脈-肋間神経 (Fig.233,238)の順で肋骨溝にはまっ

ているとされている:トラカール手技で重要 (p.112)。

o 呼吸と胸郭運動を考える(ここでは横隔膜の役割は考えないとして)。

胸郭の上下-胸郭容積の大小−肺容積の大小 (Fig.147,184,185)

肋骨頭関節で回旋、肋横突関節が回旋の支点になる。

なぜ外肋間筋(内肋間筋)が肋骨を上げる(下げる)ことができるのか。

Innermost intercostal muscle 最内肋間筋 さいないろっかん− 239

Subcostal muscle 肋下筋 ろっか− 360

Intercostal nerve 肋間神経 233,234

Posterior intercostal artery 肋間動脈 233,234

Internal intercostal muscle 内肋間筋 147

External intercostal muscle 外肋間筋 145

*Head of rib articulation(joint) *肋骨頭関節 662

*Costotransverse joint *肋横突関節 662

注: 英語の成書では通常、肋間動脈に Posterior が付く。その場合、Anterior intercostal artery(しいて訳せば前肋間動脈)は内胸動脈枝を指す。

3) 横隔膜 (p.114,170) : 横隔膜は体壁筋として扱う。

o 開胸時の観察 (Fig.162,171,245)

上腹壁動静脈が横隔膜の起始部を貫通して腹壁に出現する部位に注目

する (p.118)。そこは腹壁の弱点の1つであり、腸が胸腔に脱出する。

胸肋三角、モルガニ孔/ラ−レイ孔 (p.114)

o 胸腹部内臓をはずした後の観察 (Fig.233)(p.170)

下横隔動脈は上面にも分布しているか(上横隔動脈という動脈はない)

大静脈孔、食道裂孔(ここも弱点の1つ)、大動脈裂孔の高さ-第○椎骨

(Th.8,10,12)(Fig.227,229)

大内臓神経、胸管、交感神経幹の貫通部位は (Fig.233,236)

内側弓状靭帯,外側弓状靭帯とボホダレック孔(ここも弱点の1つ)

(Fig.363)(p.170)

Diaphragm 横隔膜 147,162

Superior epigastric artery/vein 上腹壁動/静脈 162

*Sternocostal triangle *胸肋三角 219

*Morgagni/Larrey hiatus *モルガニ孔/ラ−レイ孔 261

Inferior phrenic artery 下横隔動脈 229,345

Vena caval aperture 大静脈孔 229

Aortic hiatus 大動脈裂孔 229

Esophageal hiatus 食道裂孔 229

Greater splanchnic nerve 大内臓神経 233

Thoracic duct 胸管 233,234

Sympathetic trunk 交感神経幹 233,234

Med./Lat. arcuate ligament 内側/外側弓状靭帯 363

*Pleuroperitoneal hiatus (of Bochdalek) *ボホダレック孔 363

(p.363 の Pleuropericardial−は誤りと思われる)

 

神経から見た胸壁筋と腹壁筋の対応

____________________________________________________________________

胸部 腹部

var. 胸骨筋 (Fig.145) は対応しない (p.65) 腹直筋 (Fig.253)

外腹斜筋(Fig.258)の胸部および var. 肋上筋の一種 外腹斜筋(Fig.258)

外肋間筋 (Fig.239) および後鋸筋 (Fig.630) 腰方形筋 (Fig.360)

内肋間筋 (Fig.239) 内腹斜筋(Fig.253)

胸横筋 (Fig.261) 腹横筋 (Fig.261)

最内肋間筋 (Fig.239) 腹横筋 (Fig.261)

肋下筋 (Fig.360) 腹横筋 (Fig.261)

(オリジナルの図)

4.3 骨盤底

→進行の都合で 第 6 章腹部・骨盤内臓 へ

4.4 体壁背部の上肢帯筋

4.4.1 僧帽筋   (Fig.629,634, 付図 p.102)

上肢帯と脊柱を結ぶ筋を浅背筋と呼ぶ。頚・腕神経叢の枝が到来する。

後頭部・項部では僧帽筋が非常に弱いライヘがある。この場合は、僧帽筋全体の輪郭をきれいに剖出することはむずかしいかも知れない。少なくとも頚の中ほどの高さまで輪郭が確認できたら、筋の外側方への反転にはいる。

脊髄神経後枝内側枝 (皮枝) を温存するため、椎骨の棘突起から 1cm 程度離れて僧帽筋の起始側を切断していく (Fig.634)。僧帽筋の下部から上方に向けて筋を外側に反転する。後頭部・項部の処置に困ったら、筋の裏面 (深側) に指を入れて筋を浮かせる手法で、僧帽筋の範囲を確認しながら対処してみる。深側にある菱形筋 (Fig.629) なども切断してしまわないように注意する。僧帽筋のどの部分が厚く強力であるか確認して作用を検討せよ。棘突起から離れたら、肩甲骨の肩甲棘と肩峰、さらに鎖骨外側部からも僧帽筋をメスで慎重に剥がす。深部にメスが入らないように注意する。こうして僧帽筋を大きく外側上方に反転したら、筋の裏面で血管と神経を剖出する (付図p.102)。血管は細かい枝にこだわらず、副神経と共に太い頚横動脈 (Fig.635,710) を上方に追求し、頚部を後方からできる限りきれいに解剖する。頚部:p.25,29

Trapezius muscle 僧帽筋 そうぼうきん 634

Spinal nerves 脊髄神経

Medial cutaneous branch

of posterior ramus 後枝内側枝 こうしないそくし 634

Spinous process 棘突起 Process spinosus 645

Rhomboid (major/minor) muscle (大/小) 菱形筋 りょうけい− 629

Scapula 肩甲骨 92,629

Spine of scapula 肩甲棘 Spina scapulae 92

Acromion 肩峰 けんぽう 92

Clavicle 鎖骨 96

Accessory nerve 副神経 (XI) 634,635

Nervus accessorius

Transverse cervical artery 頚横動脈 けいおう− 635,700

支配神経である副神経と頚神経叢僧帽筋枝には、頚部で前からすぐ確認できるように、短く糸でラベルする。僧帽筋は脳神経 (副神経) と脊髄神経の二重支配筋である (Fig.635,701)。頚部で目立つ胸鎖乳突筋も同じパターンの二重支配筋である。一つの骨格筋を二つの神経が支配している現象は多くの解剖学者の夢をかき立ててきた。副神経は脳神経に分類されてはいるが、中枢でも非常に脊髄神経に類似した形態を示す。しかしまだ比較解剖や実験発生による検討は不十分。

肩こりでマッサージする部位で、僧帽筋の深側に静脈が発達している。後頭部・項部の小後頭神経、大後頭神経、第 3 後頭神経などもこの機会に再確認する。

Accessory nerve  副神経 (XI) 634,635

Nervus accessorius

Cervical plexus  頚神経叢 けいしんけいそう 700

Sternocleidomastoideus muscle  胸鎖乳突筋 きょうさにゅうとつ− 700

Greater occipital nerve  大後頭神経 635

*Lesser occipital nerve  *小後頭神経 634

*3rd occipital nerve  *第三後頭神経 638

4.4.2 広背筋   (Fig.629)

僧帽筋に続いて広背筋の輪郭を確認する。前縁で外腹斜筋に接する部分が分かりにくい。腋窩で収斂している広背筋の筋束をつかみ、それを背側下方にたどると前部の輪郭が分かりやすい (Fig.21,29)。広背筋も椎骨の棘突起から 1cm 程度離して切断する。筋の深側に指を入れて筋を浮す要領も同じである。広背筋は腋窩に向けて外側に大きく反転する。その過程で、肩甲骨下角に付く部分も剥がさねばならない。肩甲骨下角付近では、大円筋という系統発生上の兄弟筋が近接している (Fig.48,629)。これを区別して広背筋だけを反転する。広背筋の裏面でも動脈・神経 (胸背動脈・神経) を剖出し、末梢にあまりこだわらずに中枢側 (腋窩) に向けて追求する (Fig.24,29, 付図 p.68)。最後に再び、広背筋前縁が前鋸筋から遊離していることを確認する(スタッフによる確認)。

Latissimus dorsi muscle  広背筋 こうはいきん 629

External oblique muscle  外腹斜筋 629

Spinous process  棘突起 Process spinosus 645

Inferior angle of scapula  肩甲骨下角 −かかく 92

Teres major muscle  大円筋 52,629

Thoracodorsal artery/nerve  胸背動脈/神経 きょうはい− 29

4.4.3 菱形筋  (Fig.52,629) りょうけいきん

大・小菱形筋の間を皮下に至る血管が通る (Fig.634)。これまで同様、筋の輪郭を明らかにした後、脊髄神経後枝内側枝を避けて棘突起から 1cm 程度離して切断する。深側にある上後鋸筋を一緒に切断しないように、指で深側から十分に剥離してから切断し、外側に反転する。この筋の裏面では、肩甲骨内側縁に近接して血管と支配神経 (肩甲背神経) が走る (Fig.635)。頚部に始まるこれら血管・神経は、主に菱形筋と肩甲挙筋の間から背部に出現するから、頚部の解剖に備えて (p.25,29)、中枢側 (上方そして前方) に向けて剖出しておく。

僧帽筋・菱形筋に分布する動脈には多くの名称がある。走行や親動脈に変異が多いからである。学生解剖実習の 1 つのハイライトにしている大学も少なくない。ここでは頚横動脈枝と総称しておく。頚部からはずれないように温存しておく。

Rhomboid (major/minor) muscle (大/小) 菱形筋 629

Spinal nerves 脊髄神経

Med. cutaneous branch of post. ramus 後枝内側枝 634

Spinous process 棘突起 645

   Process spinosus

Serratus posterior superior muscle 上後鋸筋 じょう/かこうきょきん 630

Medial margin of scapula 肩甲骨内側縁 92

Dorsal scapular nerve 肩甲背神経 けんこうはい− 634

Levator scapulae muscle 肩甲挙筋 けんこうきょ− 630

Transverse cervical artery 頚横動脈 700

4.4.4 肩甲挙筋   (Fig.629,708)

肩甲挙筋は菱形筋同様の血管・神経を受けるので (Fig.634)、現段階では菱形筋との間をあまり拡げないようにする。輪郭の確認作業は、横突起付着付近ではまだ難しいかも知れない。肩甲骨上角付近から切離する時は (切離しなくてもよい)、すぐ外側に肩甲切痕という導通路があるから (Fig.34,92)、肩甲挙筋の筋質だけにメスが入るように注意する。肩甲挙筋は上方に反転するが、あまり大胆に移動すると血管・神経が切れてしまう。

Levator scapulae muscle   肩甲挙筋 630

Transverse process   横突起 658

Superior angle of scapula   肩甲骨上角 −じょうかく 92

Scapular notch   肩甲切痕 けんこうせっこん 92

体幹背部浅側に位置する上肢帯筋 (僧帽筋、広背筋、菱形筋、肩甲挙筋そして前鋸筋) の処置は、いわゆる肩甲胸郭関節(前鋸筋と胸壁筋の間のニセ関節p.228)の露出 p.103を残すだけとなった。リュックザックを背負ったように体壁に張りつく肩甲骨を中心とした、<上肢帯>という構造を実感して欲しい。

 

 

■付図 肢帯筋の処置-背部から肩甲骨内側縁に至る

(「浦実習書」の図を改変)

 

4.4.5 後方から上肢帯の遊離   (Fig.630)

肩甲骨内側縁に付く前鋸筋の広がりを確認する (Fig.24,31)。旧人類は同筋の形を<天狗のうちわ>に例えた。前鋸筋を支配する長胸神経は、同筋前部の外面を縦走している(多くの筋では神経が筋の内面を走るのに)ので損傷しやすい。

最後に重要な作業がある。肩甲骨と胸壁の間のゆるい結合組織に手を入れて、前鋸筋を肩甲骨側に押しつけながら、肩甲骨 (上肢帯全体) を前方に遊離する。強力な前鋸筋の第 1筋尖 (第 1 肋骨に付着) を確認しておく (Fig.146)。前鋸筋と胸壁の間に、自由に動く一種の関節面があることを理解する(肩甲胸郭関節:第8章参照)。肩甲骨の回旋と上肢の挙上については骨学実習を復習:p.226-228。まだ前鋸筋を肋骨付着から剥離してはいけない。

Medial margin of scapula     肩甲骨内側縁 92

Serratus anterior muscle     前鋸筋 ぜんきょきん 24

    1. 深背筋 しんぱいきん

4.5.1 脊髄神経前枝 (肋間神経) に支配される 2 筋   (Fig.630)

最初に腰背腱膜・胸腰筋膜を確認する (Fig.630)。上後鋸筋はこの腱膜 (筋膜) より浅側にあり、下後鋸筋は腱膜と同じ深さにある。上後鋸筋と下後鋸筋を棘突起からはずして外側に完全に反転する。支配神経は、筋の外側部裏面に向けて肋間から出てくる。

固有背筋群 (深背筋の深層=脊髄神経後枝支配、いわゆる脊柱起立筋) の輪郭を確認する(ただし固有背筋=脊柱起立筋ではない)。ウエスト部分に脂肪組織が残っていたら除去する。ただし皮神経 (後枝外側枝) をできるだけ温存する。

腰背腱膜・胸腰筋膜をメスで少しずつ除去する(縦に走る筋は強靭な鞘に包まれる:例として腹直筋)。この過程で新たに皮神経が見つかるので、今まで見つけた皮神経と共に温存する。これらの皮神経は、今後の固有背筋群の解剖において指標となる。僧帽筋の最上部が後頭部・項部に付着残存していれば除去する。

Spinal nerves 脊髄神経

Anterior(Ventral) ramus  前枝 ぜんし 626

Posterior(Dorsal) ramus  後枝 こうし 626

Intercostal nerve 肋間神経 632

*Lumbodorsal aponeurosis *腰背腱膜 ようはい− 630

*Thoracolumbar fascia *胸腰筋膜 627,630

*Serratus post. sup./inf. Muscle *上/下後鋸筋 630

Spinous process 棘突起 Process spinosus 658

Erector spinae muscles 脊柱起立筋 (英語圏で一般的な名称) 630,631

Musculi dorsi proprii 固有背筋 こゆうはいきん(独語圏で一般的な名称)

Trapezius muscle 僧帽筋 そうぼうきん 634

4.5.2 後頭部・項部   (Fig.630,632,636,638)

以下、班全員で 4.5.3 胸部と 4.5.4 腰部の解剖も同時に進めていく。

頭板状筋・頚板状筋 (Fig.630) を後頭骨および棘突起 (項靭帯を含む) から剥がして、つまり正中線から剥がして外側に大きく反転する。支配神経 (後枝外側枝) は筋の外側部内面で見つかる。大後頭神経、第 3 後頭神経などの皮神経は、板状筋を反転する時に筋から引抜くように温存して本体側に残す。後枝外側枝は次に処理する半棘筋にも枝を出している。

頭半棘筋・頚半棘筋は強大な筋である (Fig.632)。後頭骨及び棘突起から下方へメスで徐々に剥がして深さを実感する。最終的に正中線から外側に向けて大きく反転する。この過程で、大後頭神経、第 3 後頭神経などの後枝内側枝から分れる支配神経が見つかる (Fig.638)。半棘筋の周囲には静脈が発達しており、また深頚動脈や後頭動脈の枝も見つかる (Fig.635)。

Splenius capitis/cervicis muscle 頭/頚板状筋 630

Occipital bone 後頭骨 754

Spinous process 棘突起 658

Process spinosus

Nuchal ligament      項靭帯 こうじんたい 629

Spinal nerves 脊髄神経

Lat. cutaneous branch of post. ramus 後枝外側枝 626

Med. cutaneous branch of post. ramus 後枝内側枝 626

Greater occipital nerve 大後頭神経 635

*3rd occipital nerve *第 3 後頭神経 638

*Semispinalis capitis/cervicis muscle *頭/頚半棘筋 632

*Deep cervical artery *深頚動脈 635

Occipital artery 後頭動脈 634

後頭下三角 (Fig.636) の解剖にはいる。特に大きな第 2 頚椎棘突起を確認する。三角を構成する大後頭直筋、上頭斜筋、下頭斜筋を同定する。半棘筋の外側への反転が足らないと、後頭下三角の剖出に難渋する。大後頭神経、第 3 後頭神経に続く後枝内側枝をできるだけ深側まで剖出する。三角の中で、第 1 頚神経後枝 (後頭下神経) が見つかっただろうか。視野が狭くて辛いが、さらに三角の中を深側 (前方) まで剖出すると、椎骨動脈が見つかるはずだ (Fig.638)。以上の過程で、後頭下筋群の筋枝 (支配神経) が確認できたことを期待する。最後に、肩甲挙筋の横突起付着を確認し (Fig.717)、さらに中斜角筋・後斜角筋を同定しておく (Fig.708)。

*Suboccipital triangle *後頭下三角 636o

*Spinous process of axis *環椎棘突起 636

*Rectus capitis posterior major muscle *大後頭直筋 636

*Obliquus capitis superior/inferior muscle *上/下頭斜筋 638

*Suboccipital nerve *後頭下神経 638

Vertebral artery 椎骨動脈 638

Levator scapulae muscle 肩甲挙筋 629

*Middle/Posterior scalene muscle *中/後斜角筋 708

4.5.3 胸部   (Fig.631-633,663)

温存されている皮神経を再確認する。腸肋筋最長筋の間から脊髄神経後枝外側枝が皮下に出現する。腸肋筋の肋骨付着を少しずつ剥がしながら、後枝外側枝を追求する。支配神経は見つかっただろうか。腸肋筋などの深背筋は、肋骨角 (Fig.155) より背側に位置する。

次に、最長筋を処理する (Fig.631)。最初に表面に見える腱あるいは腱膜性の部分をすべてメスで剥がすように除去する。次いで最長筋を外側に寄せながら、横突起 (副突起) に付着する深い腱を探す。その白い腱に沿って、外側下方にピンセットで筋をほぐすように分けていく。最長筋をタテにほぐすように骨付着からピンセットで一気に引き下ろすのが、分かりやすく解剖するコツである。不思議な程、神経 (後枝外側枝) は切れない。筋全体としては外側に反転しつつ、内面で外側枝由来の支配神経を調べていく。最終的に、最長筋を横突起より外側まで大きく寄せてしまう。以上の過程で、後枝外側枝が横突起のレベル (横突起を結ぶ横突間靭帯のすぐ深側) まで剖出されていなくてはならない。

Spinal nerves 脊髄神経

Lat. cutaneous branch of post. ramus   後枝外側枝 626

*Iliocostalis muscles *腸肋筋 ちょうろく- 631

Costal angle 肋骨角 155

*Longissimus muscles *最長筋 さいちょう− 631

Transverse process 横突起 658

*Intertransverse ligament *横突間靭帯 633,663

腸肋筋の外側に近接して肋骨挙筋がある (Fig.632,633)。脊髄神経前枝後枝の支配域境界にあり(p.97,98)、系統解剖学・比較解剖学上は興味深い筋である。何枚かの筋の肋骨付着を剥がして内側上方に反転する。注意して行なえば支配神経が見つかる。脊髄神経後枝からも前枝 (ここでは肋間神経) からも神経が来る可能性がある。肋骨挙筋のすぐ外側に連続している胸壁筋は外肋間筋だ。肋骨挙筋を反転したら、その深側を注意深く剖出して、外肋間筋枝(p.97,98)と 肋間神経を見つける。深側の後縦隔や肺を損傷しないよう注意する。

横突間靭帯 (Fig.632,663) を切断して後枝外側枝を中枢側に追求すると、椎弓の浅側、つまり横突起より内側に後枝内側枝や血管が見つかる。今度は、内側の血管・神経を末梢側に向けて剖出する。血管・神経を追求する過程で、長い筋束の 1 本 1 本がどこに付着するかを確認しながら、半棘筋棘筋を次第に除去していく (Fig.632)。この部位は針を刺すこと (傍脊柱ブロック) が多いのだが、多くの医師は血管・神経をきちんと見たことがない。血管・神経をできるだけ温存して観察すると、神経と離れて走行する血管が多いことに気づく。

半棘筋は、浅い筋束ほど長く棘突起と横突起を結び、深い筋束ほど短くなり、ついには隣接する椎骨を結ぶようになる。2椎骨以上飛ぶ筋束を多裂筋と呼び、1椎骨飛ぶか隣接して張る筋束 (剖出がそこまで到達できたか) を回旋筋と呼ぶ (Fig.633)。

脊髄神経後枝内側枝は、基本的には多裂筋のすぐ浅側を内側に走行し、その後は棘突起に密着して下行する。神経に伴走する動脈もあるが、血管の多くは椎弓に密着して内側に向い、棘突起に密着して浅側下方に向かう。外椎骨静脈叢と呼ばれる発達した静脈網を上胸部で観察せよ。できるだけ多くの脊髄神経後枝内側枝を見つけて、棘突起から剥離する。

*Levator costae muscles *肋骨挙筋 632,633

Spinal nerves 脊髄神経

Anterior(Ventral) ramus   前枝 626

Posterior(Dorsal) ramus   後枝 626

Lateral cutaneous branch   外側枝 626

Medial cutaneous branch   内側枝 626

External intercostal muscle 外肋間筋 632

Intercostal nerve 肋間神経 632

*Intertransverse ligament *横突間靭帯 633,663

Semispinalis muscles 半棘筋 632

Spinalis muscles 棘筋 632

*Multifidus muscles *多裂筋 632,633

*Rotatores muscles *回旋筋 633

Vertebral arch 椎弓 627

External vertebral venous plexus 外椎骨静脈叢 689

■付図 椎間板ヘルニア Fig.673も参照

(「標準整形外科」の図を改変)

脊髄の観察 (レポ−ト課題)

作業 1. 脊髄を摘出しても根の高さが分かるように、下記の高さの後根を束ねて色糸を結べ (剖出してあれば神経根に結んだ方が明確)

C5:青  T1:緑  T5:黄色  T10:黒  L1:赤  S1:白

脊髄に明確な節が刻まれているわけではない。第 7 頸髄とは、第 7 頸神経の最も頭側の根糸が起こる部位から第8頸神経の根糸が起こり始める直上までの範囲を指す。

<観察 1 >C2後根の最も頭側の根糸が起こる部位から脊髄円錐までの長さを測

れ。定規は器具戸棚にある (    mm)

<観察 2 >脊髄の分節と椎骨の分節のズレを確認する (上述☆☆参照)

(Fig.679,680)。

第 7 頸随は、C(  )-C(  ) の横突起の高さにある (C7 ではないはず)

第 5 胸随は、T(  )-T(  ) の横突起の高さにある

第 10 胸随は、T(  )-T(  ) の横突起の高さにある

第 1 腰随は、T(  )-T(  ) の横突起の高さにある

第 1 仙随は、L(  )-L(  ) の横突起の高さにある

脊髄円錐は、L(  )-L(  ) の横突起の高さにある

作業 2. 脊髄を全長にわたり摘出する。硬膜は体側に残す。脊髄をつぶさないように慎重に。作業1でつけた色糸は脊髄につける。神経節や神経根が剖出されていれば、それらの部分は脊髄につける。

作業3. T7-L2 の範囲を中心に、脊髄前根を注意深く検索し、細いが重要なアダムキービッツ動脈 (前根動脈の太いもので、直径 1mm 程度) に糸を結ぶ。

*アダムキービッツ動脈: p.141中央を見よ(Fig.683 では第 10 肋間動脈由来)。水平断におけるアダムキービッツ動脈は 「解剖学講義」 p.665 参照。

<観察 3 >脊髄を指定の高さで横断して計測し、各断面の特徴を明らかにする。

第 6-7 頸髄間、第 5-6 胸髄間、第 1-2 腰髄間、第 1-2 仙髄間

____________脊髄の最大幅__前角の最大幅___左右の前角間の距離_

第7頸随 mm mm mm

第5胸随 mm mm mm

第1腰髄 mm mm mm

_第1仙髄___________mm_____________mm___________________mm__

4.5.4 腰部 (Fig.631,671)

腸肋筋最長筋が強大で外側に張り出しているため (Fig.631)、2 筋の間を後枝外側枝が通るという胸部での原則がくずれている。やせたライヘでは、後枝外側枝を残しながら胸部同様に腸肋筋を外側に寄せ、神経を温存しながら最長筋をほぐしていく。解剖の要領は胸部と同じである。すなわち、表面の腱や腱膜をメスで完全に除去し(メスで筋を除去してはいけない)、最長筋の横突起付着から筋束をピンセットでゆるくはさんで、斜め下方に引き下ろす。最長筋がある程度解剖されると、筋膜に包まれた多裂筋の全体が同定できる (Fig.632)。腰部の多裂筋は、実は浅層までせり出している。後枝外側枝は、横突起に近接するまで神経を追求しておく。

腰椎横突起には (11、12 胸椎も)2 つの結節がある (Fig.661)。最長筋の腱が付着していたのが副突起、多裂筋が付くのが乳頭突起である。2 つの突起の間には骨の溝があり、そこを細い後枝内側枝が通過して多裂筋に至る。溝は靭帯 (腱膜) に隠されている。それを剥がして神経を剖出する。分からなければ、胸部の場合のように外側枝をたどって内側枝を求める。

*Iliocostalis muscles   *腸肋筋 631

*Longissimus muscles   *最長筋 631

Spinal nerves   脊髄神経

Lat. cutaneous branch of post. ramus   後枝外側枝 626

Med. cutaneous branch of post. ramus   後枝内側枝 626

*Multifidus muscles   *多裂筋 632

Transverse process   腰椎横突起 661

*Accessory process   *副突起 661

*Mammillary process   *乳頭突起 661

4.6 脊髄と脊髄神経   (Fig.13,238,626,681)

脊髄神経後枝を各分節ごとに長く剖出して、横突起から外側に向けて寝かせる。こうして神経を助けたら、椎弓棘突起に付着する軟部組織をメスで完全に除去する。さらにノミでこすって骨を露出させる。ルンバールの模擬をまだ練習していない者は、最後のチャンスなので以下の作業の前にスパイナル針で実行する (付図 p.24)。椎弓の重なりのため斜め上方に向けて刺入しなくてはいけない。

最初はノミとリューエルで少しずつ椎弓を削り、1-2個の胸椎で椎弓切除 (ラミネクlaminectomy) を行なう。椎弓間にある黄色靭帯を少しずつ削り取る (Fig.663,667)。脊髄 (正確には硬膜) の深さがある程度分かったら、脊椎双鋸という特殊な鋸を用いて一気に作業を進める。脊椎双鋸は高価なので大切に扱うこと。ラミネクは椎間板ヘルニアに対してしばしば行なわれる手術である。双鋸の幅は、棘突起をはさんで遊び部分が左右に各 0.5-0.8cm程度にセットする。脊柱の湾曲 (Fig.680) に合せて鋸を引き、音が変ったら後は慎重にノミで割る。大きな棘突起の C2 から仙骨後面まで完全に鋸を入れる。連続して椎弓がはずれればベストだが、断片的にはずれてもよい。剖出した脊髄神経後枝や、まだ見えぬ深部の脊髄神経根を損傷しないことが第一である。双鋸を入れすぎて神経根を切ると後の楽しみが半減する。

Spinal cord 脊髄 das Ruckenmark 681

Spinal nerves 脊髄神経

Posterior(Dorsal) ramus  後枝 625

Transverse process 横突起 658

Vertebral arch 椎弓 627,658

Spinous process 棘突起 658

Ligamenta flava 黄色靭帯、黄靭帯 おうしょく−、おう− 663

Spinous process of axis 環椎棘突起 636

Sacrum 仙骨 677

Spinal root 脊髄神経根 688

ラミネクが終了したら、さらにノミやリューエルを用いて脊柱管を広く開放、同時に椎間孔も開いて中の脊髄神経節を剖出する。すでに助けてある脊髄神経後枝や、肋骨挙筋の深側で見つけた肋間神経を内側にたどる。硬膜上腔内椎骨静脈叢を観察しながら、脊髄硬膜に慎重にメスを入れる (Fig.682,690)。視野を確保するため、脊髄硬膜は背側から見て幅 2cm 程度のベルト状に切除する。クモ膜に包まれた脊髄が見えたか。後根の根糸を確認する。1 つのライヘの中で頚部・胸部・腰部と分担して作業を進める。馬尾は確認できたか。

Vertebral canal 脊柱管 681o

Spinal ganglion 脊髄神経節 688

Spinal nerves 脊髄神経

Posterior(Dorsal) ramus   後枝 626

Intercostal nerve 肋間神経 632

Epidural space 硬膜上腔 688

Internal vertebral venous plexus 内椎骨静脈叢 689

Dura mater 硬膜 こうまく 682

Arachnoid クモ膜 684

Dorsal/ventral root of spinal nerve 後根/前根 685

Cauda equina 馬尾 ばび 686

脊髄神経後枝に続いて、腕神経叢・頚神経叢を脊髄まで連続させる。この際に神経叢の後方にある筋 (主に中・後斜角筋、そして肩甲挙筋の起始部) を少しずつ除去する (Fig.707,711)。本日のハイライトである。

一部でいいから脊髄側方の歯状靭帯を慎重に除去し、歯状靭帯の前に隠れている前根の根糸も確認する (Fig.238,684)。最後に脊髄を指定の高さで切断し、部位ごとの前角・後角の大きさについて断面の計測を行なう (レポート課題参照)。以上の過程で椎間関節を2-3 か所で開放して観察する。この関節包から腰痛が発信されているのだろうか。脊髄を摘出したら後縦靭帯を一部で剥がし、脊柱管の前面で椎体から出てくる太い静脈を確認する (Fig.689)。椎間円板の厚さと硬さをメスで確認する。

Brachial plexus 腕神経叢 700

Cervical plexus 頚神経叢 700

Middle/Postetior scalene muscle 中/後斜角筋 707,708

Levator scapulae muscle 肩甲挙筋 630

*Denticulate ligament *歯状靭帯 684

Ventral/Dorsal horn 前角/後角 688

Facet joint 椎間関節 673,674

Posterior longitudinal ligament 後縦靭帯 672,689

Intervertebral disc 椎間円板(椎間板) 673,674

 

■付図 腰痛

(「標準整形外科」の図を改変)

 

第 5 章 胸部

5.1 胸腔へ

5.1.1 開胸   (Fig.163)

腹壁筋の解剖はすでに終わっていた方がいい (p.91)。鎖骨は切断、腕神経叢が剖出され、前鋸筋と長胸神経が確認され、医学部担当側では、できれば前鋸筋が肋骨からはがれていること (p.70)。

手術として行なう開胸術が肋間を拡張していくのとは異なり、解剖学実習では胸郭前部を大きく除去して視野を広げる。自分の腋窩に手を入れて、広背筋が作るヒダに触れてみる。この位置に降ろしたタテの線を後腋窩線という (Fig.21)。ライヘの後腋窩線のレベルで、第 1 肋骨から第 8 肋骨付近まで、肋骨剪刀という特殊なハサミを用いて切断する (Fig.163)。胸膜に包まれた肺が深部にある。これを損傷しないように、軟部を奥に押込みながら作業を進める。前鋸筋の残りや肋間筋は、メスを用いて切断する。第 1 肋骨を切断する時は、腕神経叢を損傷しないように注意する。第 1 肋骨に付着する前斜角筋を肋骨から剥がす。胸鎖関節の観察がまだなら、胸鎖関節の関節円板を確認する (Fig.148)。

Latissimus dorsi muscle 広背筋 21

Rib(s) 肋骨 147

Pleura 胸膜 169

Lung 肺 die Lunge, Pulmo 163

Serratus anterior muscle 前鋸筋 145

Intercostal muscles 肋間筋 147

Brachial plexus 腕神経叢 26

Scalenus anterior muscle 前斜角筋 ぜんしゃかっきん 707

Sternoclavicular joint 胸鎖関節 148

Articular disc 関節円板 148

ここでトラカール針を用いて胸腔穿刺を模してみる (Fig.164-167)。現場ではもちろん体表から刺す。あらかじめ、肋間の上下どこに血管・神経が走るか、その配列はどうか復習する (Fig.233)。胸腔穿刺は胸水や気胸を吸引除去するルーチンの手技だが、不用意な穿刺で肺や肋間動静脈の損傷を起こすといった事故も少なくない (付図p.112)。なお、すでに IVH の刺入実習 (付図p.67) が行なわれていれば、針がどこに刺さったかを開胸時に確認したい。

肋骨の切断を終えたら、胸骨上端から慎重にメスを入れて胸骨と深部を引き離す。メスの刃が後方を向くと、人体血管系の要衝である上縦隔を損傷してしまう。困ったらスタッフに手伝ってもらう。ある程度剥がしたら胸骨後方に指を入れ、さらに手を入れ、胸骨を前方に浮かしていく。胸骨柄胸骨体の境界の段を胸骨角という。肋骨の切断端で負傷しないように注意する。内胸動静脈があまり緊張しないうちに、頚部側から前胸壁に向けて立上がった 5-10cm 程度の部位で切断する (Fig.162)。肋骨を深部から剥離し、前胸壁を下方に大きく反転する。無理すると深部を損傷したり、不要な部位で下位肋骨が折れてしまう。線維性心膜と胸骨をつなぐ丈夫な結合組織はメスで切断する。必要に応じて第 9-12肋骨も肋骨剪刀で切断する。以上の過程で、壁側胸膜がある程度破損するのはやむをえない (Fig.160)。胸膜炎 pleuritis(肺癌、結核などはもとよりカゼをきっかけとした炎症でも、胸水が貯留する) による癒着は、高齢者では大なり小なり認められる。のり状の多量の胸水があれば供覧するので報告する。うち続く高熱に患者の苦痛と医師の疲労が実感される。

Intercostal artery/vein 肋間動/静脈 233

Sternum 胸骨 153

Sternal angle   胸骨角 153

Superior mediastinum 上縦隔 191

Internal thoracic artery/vein 内胸動/静脈 162

Pericardium fibrosum 線維性心膜 170

Parietal pleura 壁側胸膜 169

 

■付図 胸腔穿刺(トラカ−ル)

(「エキスパ−トナ−ス」の図を改変)

 

 

■付図 開胸

(「浦実習書」の図を改変)

 

5.1.2 横隔膜の前部   (Fig.162)

肋骨弓胸骨剣状突起に付く横隔膜の起始が見えたら、いったん開胸作業をやめて、全員で横隔膜を観察する (p.100,Fig.162,233,245)。素人には横隔膜が水平に位置するという誤解があるが、筋性部分はむしろタテ方向に走る (Fig.362)。タテ方向の筋束は後体壁にもあり、後日解剖する (p.170)。

横隔膜と他の筋の位置関係を確認する。腹直筋の肋骨起始は胸壁の前面にあるから横隔膜とは離れている。反転した前胸壁の内面に胸横筋があり、下方は腹壁で観察した腹横筋と連続している。肋骨弓では、胸横筋・腹横筋と横隔膜の起始が噛み合っている (Fig.261,p.100)。胸部と腹部を区切りたい横隔膜と、胸部から腹部まで連続したい横筋が、いかに肋骨弓を住み分けているか理解する。横隔膜の胸骨部・肋骨部の間は、解剖では胸肋三角と呼ばれ、上腹壁動静脈が通過する (Fig.162)。臨床では左をラーレー孔 Larrey、右をモルガニ孔 Morgagni と呼び、腹部消化管が上方に脱出してくる。小児外科で緊急を要する横隔膜ヘルニアの 1 つである。左右ではモルガニ孔ヘルニアの方が多い。内胸動脈は上腹壁動脈と筋横隔動脈に分れる (Fig.260)。なおヘルニアとは、(多くの場合)腹腔に本来あるべき構造が、腹腔以外に脱出する状態を指す。

反転した胸壁は、必要に応じて横隔膜起始を剥がし、本体から完全にはずしても差し支えないが、急ぐことはない。前胸壁自体の解剖は p.96を参照する。後で再び胸壁を乗せて復元し、胸部内臓との位置関係を確認するので、肋骨を追加切除してはいけない。肋間と胸部内臓の位置関係がずれるからである。

Diaphragm 横隔膜 162

Rectus abdominis muscle 腹直筋 162

Transversus thoracis muscles 胸横筋 162

Transversus abdominis muscles 腹横筋 162

Costal arch 肋骨弓 261

Sternum 胸骨 153

Xiphoid process   剣状突起 153

Sternocostal triangle 胸肋三角 162

Superior epigastric artery/vein 上腹壁動/静脈 162

*Musculophrenic artery *筋横隔動脈 162

5.1.3 頚胸移行部と上縦隔   (Fig.190,192,710)

開胸後、最初に胸部内臓のオリエンテーションをつける。左右のを包む壁側胸膜は残っているだろうか。損傷がひどければ、他班の保存のいいライヘで確認する。心嚢に入ったままで心臓に触れる。下頚部の大血管を下方にたどって上縦隔を触診する。さらに大血管の配置を知るため、フィンガーディセクション (指先による解剖) を行なう。最初は神経を切らないように慎重に、次第に大胆に次の構造を順に確認する。

Parietal pleura  壁側胸膜 へきそくきょうまく 160

Trachea  気管 190

Bronchus  気管支 189

Aortic arch  大動脈弓 190

Brachiocephalic trunk  腕頭動脈 190

Left common carotid artery  左総頚動脈 190

Left subclavian artery  左鎖骨下動脈 189

Root of the lung  肺根 Radix pulmonis 171

Esophagus  食道 187

Vertebral column  脊柱 227

上・前・中・後の各縦隔の区分を知識として整理しておく (Fig.191)。

縦隔=胸腔-肺を含む胸膜腔上縦隔は胸骨角より上方、上縁は鎖骨と第 1 肋骨、下縁は横隔膜。前・中・後の各縦隔は胸骨角より下方にある。通常は胸骨柄と胸骨体の境 (胸骨角) が第 2 肋骨ないし第 4 胸椎体に対応する。前縦隔は心嚢より前方の薄い部分で、胸腺脂肪体内胸動脈などがある (Fig.187)。中縦隔=心嚢 (心臓・心膜) で、心嚢より後方が後縦隔だが、気管下部と主気管支周囲のリンパ節を中縦隔リンパ節と呼ぶことがある。

上縦隔は全身のリンパ管系の集合部位でもある (Fig.243,244では,上縦隔に見る多数の側副路と気管支縦隔リンパ本幹が省略されている)。静脈角(p.28)付近のリンパ節を除去しながら、胸管を探す (Fig.242,715)。ここは無理しないで、先に進んでいる班に学びながら胸管だけは温存する。

Superior/Anterior/Middle/Posterior mediastinum 上/前/中/後縦隔 191

Sternal angle 胸骨角 ↑じゅうかく 154

Thymus 胸腺 187

Internal thoracic artery/vein 内胸動脈/静脈 187

Venous angle 静脈角 −かく 242

Thoracic duct 胸管 242

横隔神経を頚部で (Fig.703,711) 再確認し、下方に追及して心膜の外面まで (Fig.190) たどる。開胸の際に切断した内胸動脈を確認して根部まで剖出しておく (Fig.192,260,711)。内胸動脈枝の心膜横隔動脈は、心膜の栄養血管で横隔神経に伴走する。内胸動脈と内胸静脈は頚部側では伴走せずに離れていく (Fig.192)。内胸動静脈に沿う前縦隔リンパ節 (ここでは内胸リンパ節群) は乳癌取扱い規約上で有名だ。内胸動静脈間と腕頭静脈角(左右の腕頭静脈にはさまれた上向きの角)で、特に発達している。観察しながらリンパ節を除去していく。前胸壁では、しばしば静脈が内胸動脈の両側にある (Fig.146)。

 

Phrenic nerve  横隔神経 190

Pericardium  心膜 190

Internal thoracic artery/vein  内胸動脈/静脈 187

*Pericardiacophrenic artery  *心膜横隔動脈 190

Anterior mediastinal lymph nodes  前縦隔リンパ節 192

IVH の実習で針がどこに刺さったかを確認してみよう。胸膜を破って医原性の気胸を起こしてはいないか。胸膜に傷が付き、大気が流入すると胸膜腔の陰圧が失われ、肺はそれ自体の弾性によって収縮して呼吸障害が生じる。

総頚動脈・内頚静脈を下方にたどり、上縦隔の大血管を剖出する。浅側にある左右の腕頭静脈が最初に剖出される (Fig.710)。腕頭静脈の血管周囲にある血管鞘を除去する。この付近のあいまいだが便利な表現として頚胸移行部という用語がある。胸腺脂肪体が胸腺らしい形を留めているライヘでは、他班にも紹介する。あらかじめ胎児の胸腺を示説標本で観察しておく (Fig.219,281)。胸腺脂肪体は完全に除去し、腕頭静脈を浮して深側の動脈を剖出していく。甲状腺に出入りする血管を再確認しておく (Fig.711,715)。下甲状腺静脈に伴走する動脈があれば最下甲状腺動脈 A.thyroidea ima の可能性がある (p.35)。甲状腺の血管は変異に富むので複数の班で観察する。左腕頭静脈を正中線付近で切断して左右に反転すれば、さらに深部の剖出が進む。太い気管支縦隔リンパ本幹が見つかるかも知れない (Fig.711)。

健康体でも縦隔のリンパ節はよく発達している(付図 p.122,123)。呼吸を通していつも抗原刺激を受けているためであろう。黒いリンパ節はアンテラ Anthracosis と称される。リンパ節内のマクロファージが粉塵を溜め込んでいる。アンテラの量と位置は、肺からのリンパ流を示唆する。肺癌・食道癌などの臨床では、これら縦隔リンパ節の位置の認識が重要である。実習の進行状況を見てリンパ節実習を行う。リンパ節を除く際に、左右の反回神経を損傷しないようにする。反回神経麻痺の大半は、癌手術のリンパ節郭清による医原性である。

胸膜に包まれた肺の内側で心嚢との間にも脂肪がたくさんある。これを除去しながら、横隔神経を裸にする。上大静脈の後方まで剖出が進み、上大静脈が前方に浮くと、そこに注ぐ奇静脈弓が確認できる (Fig.187,234)。上縦隔の深部に腕頭動脈が見えてくる (Fig.193)。

Common carotid artery 総頚動脈 710

Internal jugular vein 内頚動脈 710

Brachiocephalic vein 腕頭静脈 710

(Innominate vein 無名静脈 むめい−:本学の外科医が好んで使う腕頭静脈の旧名)

Thymus 胸腺 187

Thyroid gland 甲状腺 710

Inferior thyroid vein 下甲状腺静脈 703

Bronchomediastinal lymph trunks 気管支縦隔リンパ本幹 711

Mediastinal lymph node 縦隔リンパ節 187

Recurrent laryngeal nerve 反回神経 896

Pericardial sac 心嚢 しんのう 189

Phrenic nerve 横隔神経 190

Superior vena cava 上大静脈 187

Azygos vein 奇静脈 きじょうみゃく 187

 Arch of the azygos vein  奇静脈弓 −きゅう 186

Bronchiocephalic artery 腕頭動脈 わんとう− 190

(Innominate artery 無名動脈:旧名、上述参照)

5.2 肺と胸膜腔

5.2.1 胸膜腔   (Fig.164-166)

胸壁で囲まれた胸腔=肺を含む胸膜腔+縦隔。縦隔の中には、心膜で囲まれた心膜腔が含まれている。胸膜心膜・腹膜(まとめて漿膜と呼ぶ)には、決して孔はない。連続した 1 枚の膜である。ビニール袋 (胸膜や心膜) の (口ではなくて) 腹から突っ込んだ手 (肺や心臓) と同じ状況(p.118下図)。

壁側胸膜が破損していれば、その部位から上下方向に浅く大きく割を入れて同胸膜を用手的に剥離する。壁側胸膜が無傷ならば、前面に上下方向に浅く大きく割を入れる。胸膜炎で激しく癒着している場合はスタッフの指示に従う。いずれにしても、壁側胸膜・臓側胸膜の間に手を入れて胸膜腔の広がりを確認する (Fig.165)。状態が違うから他班のライヘでも確認する。両胸膜は肺根で連続している。通常、ライヘの肺は最大呼気位にあるので、肋骨横隔洞(Fig.165,228) と肋骨縦隔洞 (Fig.164) は拡大している。胸膜頂に指を入れ、鎖骨上方 (頚部) に達していることを確認する (Fig.182)。肺尖は頚部に達する。頚部のリンパ節や神経節に針を刺す時でも、医原性の気胸を作りうることが分かるだろうか。下方では、肝に針を刺す機会が多いが、胸膜を破ることなく右から肝臓に針を差して組織の採取 biopsy をするには、どの肋間から刺せばいいだろうか (Fig.182)。

Lung 肺 Pulmo, die Lunge

Pleural cavity 胸膜腔 −くう 169

Parietal/Visceral pleura 壁側/臓側胸膜 Pleura parietalis/pulmonalis 169

Pericardial cavity 心膜腔 170

Root of the lung 肺根 Radix pulmonis 171

*Costodiaphragmatic recess *肋骨横隔洞 164

*Costomediastinal recess *肋骨縦隔洞 164

Cupula of pleura 胸膜頂 −ちょう Cupula pleurae 164

Apex of the lung 肺尖 164

Liver 肝臓 160

5.2.2 肺の摘出   (Fig.188)

肺根の後方に指を入れて肺根をつかんでみる (Fig.171)。さらに肺間膜を指ではさんで確認する。縦隔に面する壁側胸膜を除去しながら肺に向かって肺根を剖出していく。この際にできれば肺間膜を温存する。肺間膜は、腸間膜とは異なり (相同ではない) 通常は血管を含まず、後縦隔左右の連絡リンパ路になると考えられている。

右迷走神経を頚部から下方に追及して反回神経分岐を確認し (Fig.236)、さらに右肺根後方に至る。以上の過程で上大静脈後方の右気管傍リンパ節が除去されていく。太い気管支縦隔リンパ本幹が見つかるかもしれない。左迷走神経を大動脈弓の下縁から左肺根後方まで剖出する (Fig.189)。左は特に視野が狭くてやりにくい。肺を外側に寄せながら作業する。最後に、肺根肺間膜を切って左右の肺を摘出する。肺根はできるだけ長く 3cm 程度を肺側に付ける。肺根の後方に密着する迷走神経は本体側に残す。

Root of the lung 肺根 171

Radix pulmonis

Pulmonary ligament 肺間膜 176

Vagus nerve 迷走神経 189

Right/Left recurrent laryngeal nerve 右/左反回神経 189

Paratracheal lymph node 気管傍リンパ節 193

Bronchomediastinal lymphatic trunk 気管支縦隔リンパ本幹 235

Aortic arch 大動脈弓 189

心臓と肺を、摘出しないで胸腔に付けたまま剖出したい班があれば申し出て欲しい。時間は倍以上かかるが、位置関係を温存したという実感がある。また、血管・神経を連続的に観察できる。せめて心肺一括で摘出したいという希望があれば同様に別途指示する。

■付図 胸膜,腹膜,心膜に孔はない(漿膜と漿膜腔の一般構造)

■付図 心臓と肺の摘出

(「浦実習書」の図を改変)

 

5.2.3 肺の外景   (Fig.176,177)

後述の肺区域の剖出に入る前に、じっくり上葉・中葉(右肺のみ)・下葉の位置関係を頭に入れておくと、肺区域の理解も早い。前から見える葉は何か、後方からしか見えない部分はどこか。肺と肝は、周囲の内臓や骨によって形を規定されている。周囲にある心臓や血管によって肺に刻まれた圧痕を確認する (Fig.176,177)。肺尖と鎖骨の高さを比較する (Fig.160,182)。

以下の項目を確認せよ。

Upper/Middle/Lower lobe 上/中/下葉 じょうよう、ちゅうよう、かよう 173

Horizontal/Oblique fissure 水平/斜裂 173

*Cardiac impression *心圧痕 176

*Sulcus of aortic arch *大動脈弓溝 176

Sulcus of azygos vein 奇静脈溝 177

Costal surface 肋骨面 Facies costalis 172

Mediastinal surface 縦隔面 177

Diaphragmatic surface 横隔面 (=肺底) 177

Root of the lung 肺根 はいこん Radix pulmonis 171

Hilum of the lung 肺門 Hilus pulmonis 193

Apex of the lung 肺尖 はいせん 172

Clavicle 鎖骨 160

5.2.4 肺区域  (Fig.174,175,178-180)

肺葉の下位の単位として肺区域がある (Fig.174,175,178,179)。肺区域は気管支分岐を基準に決められている (Fig.180)。区域の間には葉間胸膜のような明瞭な境界物はない。強いて言えば、区域の境界近くには比較的太い静脈がある。昔は結核、今は肺癌の臨床を通して肺区域は日本の常識であり、国試にも毎回出題されて問題はヒネリを加えられている。

まず摘出肺において、肺根の断面で気管支肺動脈・肺静脈を区別する (Fig.176,177)。左右の肺門部 (肺根) からピンセットで肺実質を徐々にくずして、区域気管支、さらに亜区域気管支レベルまで剖出する。最初に上葉・中葉・下葉の葉気管支を区別する。あらかじめプリントや教科書を参考に、肺の外面から肺区域の配置の概要を把握しておく。前から見えている区域は何か、その後方に隠れている区域は何か、下葉の区域はどのような順に並ぶか、というように整理しておく。

肺の解剖は、肺の縦隔面から肺実質をくずし、肋骨面横隔面を最後まで温存するのがオリエンテーションを失わないコツだ(p.125のごとく)。それでも剖出とともに肺がつぶれていくので、ヘリカル CT で見るほどの立体感は得られない。その代り解剖学実習では、多くの肺を観察して区域気管支レベルの変異を直視下に体験して欲しい。区域気管支・亜区域気管支には個体ごとに多くの変異がある。変異の詳細は実習室前に出すプリントを参照すること。血管は必要に応じて切断し、血管を両開きに反転して気管支を剖出するための視野を作る。しかし、血管を除去してはいけない。

摘出肺における気管支の剖出過程で、気管支動静脈が見つかる。気管支動脈は、縦隔側 (気管側) の切断端を確認し、後で剖出するために糸でラベルしておく (Fig.186)。気管支静脈の多くは肺静脈に注ぐが、主気管支に近い一部の静脈は奇静脈などに注ぐ (Fig.187)。

Pulmonary segment 肺区域 S1,S2,..S10 174

Root of the lung 肺根 171

Trachea 気管 180

Bronchus 気管支 180

Left/Right primary bronchus 左/右主気管支 180

Upper/Middle/Lower lobar bronchus 上/中/下葉気管支 180

Segmental bronchus(bronchi) 区域気管支  B1+2,B3,... 180

Subsegmental bronchus(bronchi) 亜区域気管支  B3a,b,...

Bronchial artery/vein 気管支動/静脈 188

Pulmonary vein 肺静脈 187

Azygos vein 奇静脈 187

5.2.5 選択スケッチ課題 : 肺区域   (Fig.180,181)

肺区域を理解するため、上述の通りにピンセットで肺門部から肺実質を崩し、肺内気管支を亜区域気管支レベルまで剖出・同定する。同定しなければやる意味がない。末梢の細かい気管支の剖出を盲目的に行なう人が多いが、それはよほど時間に余裕のある人に限ること。アンテラ (p.116) はきれいに除去する。ある程度、剖出が進んだら、肺根の血管と気管支の位置関係を保存するために、アロンアルファで固定しておく。特に肺静脈がはずれやすいので注意する。こうして、肺門部の血管と気管支の位置関係を温存した生きた模型を作る。

スケッチには前から見た状態で、1 枚のケント紙に左右並べて描く (Fig.180,181)。標本はつぶれてくるが、できるだけ立体的に描く。気管支には B3a,b. の要領で名称を付ける。亜区域a,b,c は、一般に上から下、外側から内側、後方から前方の順に付ける(付図 p.122で亜区域気管支の方向を読む)。上葉気管支については付図p.124他、実習室備え付けの資料から各班の形を考察する。B*(ビーコメ)B7 についてはその有無を慎重に検討する。

1998年から上述の選択課題に代えて、肺のスライス標本(約10-20mm厚)を用いた区域枝同定演習を行っている。スライス標本を並べ、気管支の周囲を若干剖出した後、ゾンデを用いて気管支の連絡を確認しながらその同定を行う。呼吸器外科及び内科のDrによってチェックを受ける。X線上では、気管支以上に肺内の血管が明瞭に読影できるが、スライス演習では、上葉の太い静脈など特定の血管だけを同定の対象とする。実習室備え付けのCT写真で肺を読むことも忘れずに。

 

■付図 左右から見た縦隔リンパ節(p.123の図も参照)

(「肺癌取扱い規約」の図を改変)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■付図 区域気管支・亜区域気管支

(「岡嶋解剖学」の図を改変)

(「今日の診断指針」の図を改変)

 

■付図 右上葉における区域気管支・亜区域気管支の変異

(荒井・塩沢「肺切除術」の図を改変)

 

 

付図 右肺の肺根からの剖出:中心静脈型

A1 ,A2の外側に見え隠れするのが中心静脈

(荒井・塩沢「肺切除術」の図を改変)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■付図 右肺の肺根からの剖出:肺尖静脈型

(荒井・塩沢「肺切除術」の図を改変)

 

 

 

5.3 心臓と心膜腔

5.3.1 心膜腔   (Fig.170,194)

1) 心膜腔の体表投影は Fig.182 を参照のこと。心嚢の前面に浅く大きく十字に切開を入れて心膜腔を開放する (Fig.193)。この際、心嚢側面を下行する横隔神経を心膜から剥がして温存する (Fig.190)。胸膜・腹膜とは異なり、心膜には線維性心膜という殻がある (ラングマン p.160)。つまり心嚢を作る心膜は、線維性心膜 Pericardium fibrosum + 漿膜性心膜 Pericardium serosum という2層 構成になっている。本来の心膜、ツルツルした内面の心膜 (漿膜性心膜) に触れる。壁側心膜と臓側心膜を区別して、心膜腔という空間を認識する(Fig.169,170)。心膜炎などが原因で心膜腔にゲル状のものが貯留していることがある。

2) 下大静脈 IVC だけを切る。これで心臓がかなり動くようになる。スタッフの示説を受けながら、心膜横洞 (心ループ形成から考えよう : ラングマン p.166-171) と心膜斜洞に指を入れる (Fig.194,200)。

3) 左上・左下・右上・右下の計 4 本の肺静脈を切断すると、静脈に囲まれた心膜斜洞が視野にはいる (Fig.194)。まだ切れていない動脈と上大静脈 SVC も心嚢内で切断する。心臓側に付ける動脈は短くていい。心臓自身を損傷しないように注意する。こうして心臓を摘出する。

Heart 心臓 Cor,das Herz

Pericardial cavity 心膜腔 しんまくくう 170

Pericardial sac 心嚢 しんのう 189

Phrenic nerve 横隔神経 190

Pericardium 心膜 170

Parietal pericardium 壁側心膜 へきそく− 170

Visceral pericardium(= Epicardium) 臓側心膜 (心外膜) 170

Inferior/Superior vena cava (IVC/SVC) 下/上大静脈 194

*Transverse pericardial sinus *心膜横洞 −おうどう 194

*Oblique pericardial sinus *心膜斜洞 194

(Right/Left) Superior/Inferior pulmonary vein  (左/右) 上/下肺静脈 194

5.3.2 心臓のオリエンテーション   (Fig.206-218)

心臓外面の心外膜を剥がして、心筋層との間に蓄積している脂肪をある程度除去する。冠状動脈の剖出は、内腔を見て全体のオリエンテーションが付いてから存分にやってもらう。

摘出した心臓に、割を入れて内腔を開く。本学では中隔の温存を重視した切り方を行なう。まず左右の心房を開放し、内面を観察する。心耳 (Fig.195,199) は発生過程で最初にできる心房の遺残であり、抗利尿ホルモンを出す内分泌器官と言われている。新しくできた心房洞部内面は平滑だが、心耳内面には櫛状筋がある (Fig.207, ラングマン p.179)。

次いで心室にはいる。肺動脈から右室に向けてまっすぐに前壁をハサミで切り下ろす。できれば、肺動脈弁の弁尖と弁尖の間をねらいたい。大動脈から左室に向けて一気にハサミで切り下ろすにはコツがある。左心耳を寄せて、左心耳と肺動脈の間にハサミが通ること。この際、左冠状動脈本幹 (LMT) を肺動脈側に付けたい。いずれにしても直線的にハサミを入れて壁を一割する。乳頭筋や腱索は切れてもかまわない。弁尖と弁尖の間にハサミを入れたい。割線が小刻みにジグザグするのが一番よくない。少しでもわからなかったらスタッフに訊く。

開いたら心腔内のクロット (凝血) をピンセットできれいに除去して組織片の容器へ入れる。さらに心腔内を汚物流しで洗う (通常の流しでは詰まる)。血管内にある細長く白っぽいゴムのような塊は、死後分離した血中の蛋白成分がホルマリンで凝固したものである。

Epicardium 心外膜 207

Myocardium 心筋層 207

Coronary artery 冠状動脈 201

Septum 中隔 206

Atrium 心房 206

Auricle 心耳 199

*Pectinate muscles *櫛状筋 くしじょう、しつじょう− 207

(Left/Right) Ventricle 心室 206

Ventriculus sinister / dexter  (左室) / (右室)

Pulmonary artery 肺動脈 208

Pulmonary valve 肺動脈弁 208

Left main trunk (LMT) 左冠状動脈本幹 201

Papillary muscles 乳頭筋 206

*Chordae tendinae *腱索 206

1) 4腔(心室と心房)とその壁、そして 4 弁 (Fig.196) を確認する。これらの位置関係は、素人の予想よりはるかに複雑なので覚悟して欲しい (人体発生学の講義で作った手組みの心臓を思い出す:p.136備考)。例えば Fig.227,228 のように心臓が切れるためには、4腔がどのように配置しているのだろうか。Fig.206では、4腔同時に見えているが(四腔像)、クレメンテの言うFrontal section(前額断)よりもむしろ水平断に近い斜めの切断を必要とする。左室壁は乳頭筋があるものの平滑なのに対し、右室壁は 3 つの肉柱ないし肉束 (付図 p.131、表 p.129) の他、大小の肉柱及び乳頭筋があり、凹凸が目立つ。解剖体では病的変化も加わって左右差は必ずしも明確ではないかも知れない。

Aortic valve 大動脈弁 Valva aortae 210

Left/Right/Posterior semilunar leaflet 左/右/後半月弁(尖)

Pulmonary valve 肺動脈弁 208

Left/Right/Anterior semilunar leaflet 左/右/前半月弁(尖)

Atrioventricular valves 房室弁 ぼうしつべん

Tricuspid valve 三尖弁 207

Ventral/Dorsal/Septal leaflet 前尖/後尖/中隔尖

Mitral(Bicuspid) valve 僧帽弁 (二尖弁) 209

Ventral/Dorsal leaflet 前尖/後尖

*Trabeculae carneae *肉柱 206

2) 右室を開き、左室からも指を当てて、薄い室中隔膜性部をまず同定する。室中隔の中に、筋性部、膜性部、漏斗部中隔 (流出路の中隔) を区別する (=円錐中隔:ラングマン p.186-187) (注:漏斗部は、最近は「右室流出路」ないし「左室流出路」と呼ばれる) 。

3) 心房中隔卵円窩に触れる。高齢者でも弁状の隙間を見ることがある(探針的開存:ラングマン p.178)

Interventricular septum 心室中隔 (室中隔) 216

Muscular part 筋性部

Membranous part 膜性部

*Conus arteriosus (肺)動脈円錐(=漏斗部ではない:発生の講義) 208

Interatrial septum 心房中隔 207

Fossa ovalis 卵円窩 207

4) 上から大動脈を覗き込み、ヴァルサルバ洞 Valsalva's(大動脈洞) と冠状動脈口を確認する。ヴァルサルバ洞とは、料理で使うおたまのような大動脈弁のポケット状の部分で、左・右・無冠(後)の 3ヴァルサルバ洞がある (Fig.196,217)。

5) 三尖弁中隔尖を同定し、これを慎重にハサミでめくる。ヒス束の示説標本を参考にしてヒス束の剖出を試み、房室結節 AV node の位置を想定する (Fig.215,216)。解剖体の心臓が白っぽい心臓で、しかもヒス束が心内膜直下にあれば容易に剖出できる。洞房結節 SA node は、上大静脈と右房にはさまれた部位にあり、左右冠状動脈の根部から上大静脈基部に向かう 2 本の動脈枝がぶつかる場所にあるが、肉眼的同定はむずかしい(Fig.218)。

Aortic sinus (Valsalva's) ヴァルサルバ洞 (大動脈洞) 210

Septal cusp, tricuspid valve 三尖弁中隔尖 207

Bundle of His ヒス束

(Atrioventricular bundle 216 の左/右脚分岐より上方をヒス束と呼ぶ)

Atrioventricular node (AV node) 房室結節 エ−ブイノ−ド 218

Endocardium 心内膜 211

Sinoatrial node (SA node) 洞房結節 エスエ−ノ−ド 218

4 腔・4 弁・4 中隔の立体的な構成については、心エコーと関係して何度も復習する。膜性部は、左ヴァルサルバ洞・無冠ヴァルサルバ洞および三尖弁中隔尖・前尖のいずれに近接しているだろうか。ヴァルサルバ洞動脈瘤破裂が右房 (ないし右室) に連続して左-右シャント (シャント=短絡路) を作るというのは納得できるか。筋性部と漏斗部中隔 (流出路) の境界が稜をなしており、両者の平面は 90-120 度の角度で交わるだろうか。卵円窩(Fig.221)は心房中隔欠損 ASD(atrial septal defect) の、膜性部は心室中隔欠損 VSD(ventricular septal defect) の、それぞれ好発部位だ (ラングマン p.182,189)。

Interventricular septum 心室中隔 (室中隔) 216

Muscular part 室中隔筋性部

*漏斗部中隔(流出路の中隔) 1.

*狭義の筋性中隔 2.

Membranous part 室中隔膜性部 3.

*Conus arteriosus (肺)動脈円錐(=漏斗部ではない) 208

Interatrial septum 心房中隔 4. 207

Fossa ovalis 卵円窩(計4つの中隔) 207

その他、以下の項目を確認せよ。

Apex/Basis of the heart 心尖/心底 Apex cordis, Basis cordis 193

Opening of coronary sinus 冠状静脈洞開口部,冠状静脈洞口 207

Ascending aorta 上行大動脈 193

Pulmonary trunk 肺動脈幹 193

Fibrous cardiac skeleton 線維性骨格について標本示説を受けること

_____________________________________________________________________

右室 左室

漏斗部 あり なし

拡張期形態 丸いおむすび型 しっぽ (尾) 型

収縮期形態 三角おむすび型 足型

肉柱全般 粗大で互いに直交 微細で斜走

中隔面の肉柱 発達 上方 1/2-2/3 で欠如 (平滑な面)

乳頭筋 主:1、小:複数 主:2、小:1

乳頭筋の中隔起始 複数 欠如

房室弁 三尖弁 二尖弁 (僧帽弁)

半月弁 肺動脈弁 大動脈弁

刺激伝導系 1 本 複数

*心奇形では右室が左側に、左室が右側に位置することがあるので形で識別する。

なお,心房の左右は、

左房: 櫛状筋が心耳内に限局して心房洞部の内面は平滑

右房: 密な櫛状筋が心耳内に限らず心房洞部後面まで十分に進展 (Fig.206)

 

この時期にステート (聴診器) を用いて心音聴診の課題を出す。心音と音源の位置は必ずしも一致しない (Fig.182,183)。

☆担当者指定課題 心音聴診に関するレポート (詳細は配布プリント参照)

(「エキスパ−トナ−ス」の図を改変)

ステート (聴診器) は窓側にぶら下げてある。心音は 『タッ-トン』 (あるいはトン-タン) という感じの 2 音に分解できる。第 1 音 『タッ』 は心室壁の収縮と房室弁の閉鎖により、第 2 音 『トン』 は動脈弁 (半月弁) の閉鎖によると考えられている。1 音と 2 音の間を収縮期と呼ぶ。

聴診対象は男子 3 名。各音が最も大きく聞こえる部位 (聴診部位) を、『左第 4 肋間で胸骨縁から 2 横指左方』 のごとく記載する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心臓の各部を前胸壁に投影させる。前胸壁のどの位置に心臓のどの部位が対応するかは、シリンジに付けたカテラン針を用いて刺しながら検索する。はずした前胸壁をかぶせ、ボスミン (アドレナリン) の左室内注入を模して行なう (1.3付図p.23)。第○肋間の胸骨○縁○横指から刺すと、4 室のどこに刺さるか。シリンジに付けたカテラン針でボスミンを左室内注入する行為は、今も死亡確認の一種の儀式として行なわれている。この機会に前胸壁の肋間筋と血管・神経 (Fig.162,234) を剖出してもいい 。

■付図 右心室の内景 (3つの肉柱に注目:中隔帯、調節帯、壁側帯)

(ネッタ− FH.Netter の図を改変)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■付図 冠状動脈の分布域:刺激伝導系の栄養動脈は左か右か?

(「図解心電図学」の図を改変)

 

 

 

 

 

■付図 刺激伝導系の剖出法 (順天堂方式に準じる)

(図は「日本人のからだ」に紹介)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冠状静脈洞口・トダロー腱・三角尖の弁輪で作られる三角をコッホの三角と呼ぶ(トダロー腱は実習では分かりにくい)。

5.3.3 冠状動脈   (Fig.201-205)

心外膜を完全に剥がし、心外膜と心筋層の間の脂肪を丁寧に除去して、動脈を細かく剖出する。静脈はごく太いところだけを残せばいい。左の大静脈の遺残として、左房外面に比較的太い静脈があるかも知れない (ラングマン p.202-204)。

冠状動脈名は、臨床で日常的に用いられている AHA 規約 (アメリカ心臓病学会規約) に従う。国内で用いられる略語にもある程度慣れて欲しい。動脈は心筋に埋没していることがあり (Muscular bridge という)、(急性)心筋梗塞 AMI (Acute myocardial infarction) の成立と関係があるらしい。その部位ではピンセットを用いて心筋を少々削る必要がある。中隔枝・房室結節枝などは外面からまっすぐ奥に向かうので、その親動脈を少し持上げて浮して剖出する。

心臓の外面で、心房と心室の境の溝を冠状溝、心室の間の溝を前後の室間溝という (Fig.197)。冠状溝と後室間溝が交差する部位をクラックス (Crux、十字) と呼ぶ。クラックスに、左冠状動脈が分布する場合を左優位 (Fig.203)、右冠状動脈が分布すれば右優位 (Fig.204)、左右から枝が来ればバランス型という。以下、後述のスケッチ課題を参照。クラックスには静脈が集まって冠状静脈洞をつくる (Fig.197)。図を見て左前からの大心静脈、後ろからの中心静脈、右前からの小心静脈を区別する。クラックスの奥 (前方) から僧帽弁三尖弁の間にかけての領域は、心房側 (例えば SA node) から心室側 (AV とは限らない) への様々な伝導路 (刺激伝導系) が通る (Fig.218)。その中で副伝導路と呼ばれる経路が発達して重篤な不整脈を起こすことがあり、その際はクラックスの奥を冷凍凝固して治療する。

解剖学で用いる心臓の壁の名称 (胸肋面、横隔面、肺面) は死語同然である。一方、心電図 EKG、ECG による心筋梗塞 の部位診断では、前壁梗塞、下壁梗塞、後壁梗塞、側壁梗塞、中隔梗塞と言うように左室に 5 壁を区分する。境界は不明確だが、この 5 壁を区別してみる。各壁へ分布する冠状動脈は、教科書的に言うと、前壁と中隔前 2/3 には LAD、側壁には Cx、RCA、後壁と下壁と中隔後 1/3 には RCA とされる。中隔には刺激伝導系が走るから、中隔の血行障害は様々な形のブロック (左脚ブロック、右脚ブロック etc.) として心電図上に出現する。

Epicardium   心外膜 207

Coronary sulcus   冠状溝 197

Interventricular sulcus   室間溝 197

Coronary sinus   冠状静脈洞 197

Greater/Middle/Small cardiac vein   大/中/小心静脈 198

Sternocostal surface   胸肋面 193

Diaphragmatic surface   横隔面 197

Pulmonary surface   肺面

冠状動脈の名称

Right coronary artery(RCA) 右冠状動脈 201

Left main trunk(LMT) 左 (冠状動脈) 主幹部 201

(left/right) Circumflex branch(LCx/RCx) 回旋枝 201

*Diagonal branch(D1,D2,-) *対角枝 201

*Obtuse marginal branch(OM) *鈍縁枝

*Postero-lateral branch(PL) *後側壁枝 203

*Left atrial circumflex branch(AC) *左房回旋枝 201

*Conus branch(CB/CN) *円錐枝

SA node artery(SA) 洞房結節枝 201

*Anterior right ventricular branch(RV) *前右室枝 201

*Acute marginal branch(AM) *鋭縁枝 201

(left) Anterior descending branch(LAD) 前下行枝 (前室間枝) 201

Posterior descending branch(PD) 後下行枝 (後室間枝) 201

*AV node artery(AV) *房室結節枝 201

*Posterior left ventricular branch(PLV) *後左室枝

*Septal branch(es)(S) *中隔枝 202

 

■上記略語に加えて、さらに 1 から 15 までの番号による記載も臨床ではしばしば用いられる。

(「標準外科学」の図を改変)

 

 

 

■付図 冠状動脈造影

RAO/LAO:冠状動脈が図のごとく見えるように右/左を斜め前に出した姿勢

(「標準外科学」の図を改変)

 

 

 

■付図 心エコー

(「心エコ−のABC」の図を改変)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

備考: 左右の握りこぶしを組み合わせて心臓を作ってみよう。

自分の目の前に心臓が置いてあるとする。

左手の母指球 : 右室流出路 (漏斗部)

左母指 : 肺動脈

左握りこぶしの残りの部分 : 右室 (流出路を除く)

右手は同様に、左室流出路 (漏斗部)、大動脈、左室 (流出路を除く)。

左室は右室の左後方、指の基節部分に房室弁がある。

いわゆる室中隔(指の中節が接する部分)は、流出路の中隔(母指球が接する

部分)と異なる平面に含まれなくてはいけない (面が 90 〜 120 ゜折れる)。

5.3.4 選択スケッチ課題 : 冠状動脈と心臓の立体構造   (Fig.201-205)

心臓の形は簡単なようで実は非常に分かりにくい。傾き、ねじれている (p.136 備考参照)。しかも、臨床では妙な角度から画像化するので、解剖で見る心臓とのギャップが大きい。しかし、実習を工夫すればギャップが埋められる。

最初に、心臓を左右斜め前から見た外景 2 図を 1 枚のケント紙にできるだけ大きく描く。左右斜め前 (LAO/RAO) という意味は、右冠状動脈の走行が付図のようにL字型に見え、左冠状動脈の走行がドーム型に見える角度を言う。その 2 図に冠状動脈を剖出・観察して書込み、AHA 名称を付ける (略語を使用)。左優位・右優位・バランスのいずれか判断してスケッチの右上に記入する。次に筋性部に分布する中隔枝 (S) の太さについて太いものから 5 本までを調べ、下記に示すようにスケッチの右上に記載する。

太いものから順に、後S1-後S2-後S4-前S1-後S7。

後S* : PD から出る*番目のS、

前S* : LAD から出る*番目のSと仮に定義する。

最後に、筋性部・膜性部・漏斗部・僧帽弁・三尖弁・大動脈弁・肺動脈弁それぞれの位置を、2 図それぞれに立体的に記入して引出し線で説明する。中隔を含む面は大きく分けて 2 面からなる。4 弁の向きは異なるから、アサガオが皆こちらを向いたような図はウソである。その傾きが分かるように工夫して描く。工夫して描く苦労を通じて立体的構成を理解するのだから、他人のマネをしてはいけない。なお、課題作業中に小グループで心エコーの示説を受けること。

 

5.4 縦隔

5.4.1 大動脈弓   (Fig.189,193, ラングマン p.193-195)

縦隔の定義は p.119 を参照。

すでに肺は摘出されている。縦隔胸膜・肋骨胸膜・横隔胸膜を完全に剥がす (Fig.233)。縦隔胸膜に、横隔神経、迷走神経、右気管傍リンパ節等が密着していることに注目する (Fig.193,付図p.122,123も再確認)。頚胸移行部から縦隔にかけて、大血管と神経を徹底的に剖出する (Fig.710)。まず、左右の迷走神経と反回神経を再確認し、剖出されていなければ追及する。特に左反回神経の起始部で、ボタロ管索 (動脈管索) を確認する (Fig.199,200)。ボタロ管索は無思慮に剖出すると消えてしまう。腕頭動脈、左総頚動脈、左鎖骨下動脈、さらに左右の椎骨動脈の起始部を確認する (Fig.720)。椎骨動脈が大動脈から直接起始することがある。これら大血管の知識は国試問題に頻出される。ボタロ管は左第 6 鰓弓動脈由来 (ラングマン p.195-196,205)。胎児循環を図譜と胎児示説標本で確認する (Fig.223,224, ラングマンp.204-206)。動脈管開存症 PDA ではどのように血液が流れるか考えよ (ラングマン p.197)。椎骨静脈もわりと太いが、胸管や反回神経の剖出の際に切れてしまっただろうか。

Mediastinal/Costal/

Diaphragmatic Pleura 縦隔/肋骨/横隔胸膜 165

Phrenic nerve 横隔神経 193

Vagus nerve 迷走神経 193

Right paratracheal (lymph) nodes 右気管傍リンパ節 193

Root of the neck 頚胸移行部 (下頚部+上縦隔) 717

Recurrent laryngeal nerve 反回神経 194

Ligamentum arteriosum (Botallo's) ボタロ管索 (動脈管索) 194

Brachiocephalic artery 腕頭動脈 710

(Innominate artery 無名動脈 むめい−:本学の外科医が好んで使う腕頭動脈の名)

Left common carotid artery 左総頚動脈 710

Left subclavian artery 左鎖骨下動脈 710

Vertebral artery/vein 椎骨動脈/静脈 711

5.4.2 後縦隔   (Fig.189,234,237)

すでに心・肺もはずれて、胸腔を囲んでいた胸壁が桶のように見える。肋骨胸膜を剥がした後の後胸壁では、肋間神経と血管、交感神経幹を剖出する (Fig.238,239)。交感神経幹から椎体前面に向けて下行する大小の内臓神経を見つける。これら内臓神経の神経線維については付図p.142参照。すでに頚部から上端を確認した星状神経節を、今度は直視下に剖出する (Fig.238,711)。星状神経節は第 1 肋骨頚に密着しており、上下よりむしろ前後方向に長軸がある。星状神経節ブロック(付図p.139)は頭頚部及び上肢の血管障害の治療法として頻用される。鎖骨下動脈の周囲を交感神経幹の分枝が囲んで鎖骨下ワナを形成する (Fig.237)。近傍では、鎖骨下動脈枝の肋頚動脈、その枝の深頚動脈が見つかる (Fig.721)。

Intercostal nerve/artery/vein 肋間神経/動脈/静脈 233

Sympathetic trunk 交感神経幹 233

Body of vertebra 椎体 234

Greater/*Lesser splanchnic nerve 大/*小内臓神経 233

Stellate ganglion (Cervicothoracic ggl.) 星状神経節 (頚胸神経節) 238

Subclavian artery 鎖骨下動脈 ↑せいじょう− 237

Ansa subclavia 鎖骨下ワナ 238

*Costocervical trunk *肋頚動脈 ろっけい− 721

*Deep cervical artery *深頚動脈 721

心臓ないし肺のスケッチ課題が一段落したら、気管・食道の前方に残る壁側心膜を除去して、正面から後縦隔に進入する。ただし食道前面を一気に剖出する前に、いったん上縦隔にもどって復習する。胸管や反回神経の温存はOKか。

食道には 3(4) つの狭窄部がある (Fig.229,230)。

1) 食道入口部 (輪状軟骨後方)

2) 大動脈弓 (上)

3) 気管分岐部 (下)

2,3 はごく近接しているので、第2狭窄部として一括することが多い。

4) 横隔膜の食道裂孔

Esophagus 食道 229

Aortic arch 大動脈弓 229

Bifurcation of trachea 気管分岐部 229

Esophageal hiatus 食道裂孔 229

食道は臨床では次のごとく区分され、例えば Mt 癌というように用いる。

o 頚部食道 Ce : 食道入口部-胸骨上縁

o 胸部上部食道 Ut : 胸骨上縁-気管分岐部下縁

o 胸部中部食道 Mt : 気管分岐部下縁から食道胃接合部までの上半分

o 胸部下部食道 Lt : 気管分岐部下縁から食道胃接合部までの下半分で

食道裂孔上

o 腹部食道 Ea : 気管分岐部下縁から食道胃接合部までの下半分で

食道裂孔下

■付図 星状神経節ブロック ■付図 食道の区分

(「エキスパ−トナ−ス」の図を改変) (食道癌取扱い規約の図を改変)

1) 左静脈角でまだ胸管が見つかっていなければ、食道下行大動脈の間で胸管を真っ先に見つけて (Fig.235) 今後温存に努める。胸管は上方に左静脈角まで確認すると同時に、最終的には、横隔膜脚の後方から腎動脈後方の起始部まで追及する (Fig.242,p.176)。

2) 迷走神経は肺根後方まで剖出されているだろうか。さらに下方に追及して、食道壁に形成する神経叢を剖出していく (Fig.236,237)。その過程で食道の血管も出てくる (Fig.236)。

3) ピ−ナッツ(気道異物)は右に落ちると言う。気管分岐部を露出させて、主気管支の分岐角度を目測で調べる (気管の延長線からの鋭角 左: 度, 右: 度) (Fig.180,181)。分岐部前面ではしばしば太い集合リンパ管が観察できる。左肺から右気管傍リンパ節に向かうリンパ路と考えられている。大きな分岐下リンパ節を食道から浮かしていく。左気管食道溝と呼ばれるラインを走る左反回神経を確認し、上方に追及しながら左気管傍リンパ節を除去する。左右の気管傍リンパ節の発達の違いに注意する。右気管傍リンパ節は、胸部で最も発達したリンパ節群でアンテラ (p.116) が顕著だ (Fig.192,付図p.122,123)。

Thoracic duct 胸管 242

Esophagus 食道 235

Descending aorta 下行大動脈 235

Crus of diaphragm 横隔膜脚 −きゃく 363

Renal artery 腎動脈 369

Vagus nerve 迷走神経 236

Esophageal plexus 食道神経叢 237

Esophageal arteries and veins 食道の血管 236

Principal bronchus 主気管支 180

Paratracheal lymph node 気管傍リンパ節 193

Left recurrent laryngeal nerve 左反回神経 236,715

4) 交感神経幹・迷走神経から心臓に至る神経 (Fig.189,190) が多数見つかる (心臓神経と肺枝)。特に気管の後方で太い (Fig.236)。反回神経と様々に交通している。できるだけ温存したい。交感神経幹の神経節と脊髄神経根を結ぶ交通枝を剖出して、節前・節後線維の走行を復習する (Fig.239,240,付図 p.142)。ただし、白交通枝と灰白交通枝を肉眼的に区別することは困難。

5) 脊柱前面を横断している静脈を剖出する。左後胸壁から右の本幹に注ぐ奇静脈系の静脈である。右気管支に接していた奇静脈弓は残っているだろうか (Fig.187)。動脈に伴走しない奇妙な静脈の形成については、ラングマン p.199-203 参照。奇静脈・半奇静脈・副半奇静脈など奇静脈系の全体像を剖出する (Fig.187,234):個体差が非常に大きいので近所のライヘと比較する。

 

Sympathetic trunk  交感神経幹 187

Cardiac nerves  心臓神経 187

Pulmonary plexus  肺神経叢 236

Sympathetic ganglion  交感神経幹神経節 13

Root of spinal nerve  脊髄神経根 13

Ramus communicans 普通名詞(しかし断りなければ交感神経系の)交通枝 13

Vertebral column  脊柱 187

Arch of the azygos vein  奇静脈弓 きじょうみゃくきゅう 187

Azygos vein  奇静脈 187

Hemiazygos vein  半奇静脈 234

*Accessory hemiazygos vein  *副半奇静脈 234

6) 脊柱椎体椎間円板の区別をつけ、前縦靭帯および肋骨頭と椎体の関節 (Fig.152,662,666) を確認する。しばしば椎間円板の方が前方に突出している。肋骨頭関節を中心にして胸郭の運動が起こる (Fig.184,185)。横隔膜の大静脈孔・食道裂孔・大動脈裂孔の高さを椎骨を数えて確認する (Fig.245,362)。

7) 下行大動脈の枝にも注意する。肺根の断端でラベリングしてある気管支動脈を、大動脈側に追及する。時間の許す範囲で、肋間動脈を大動脈につなぐ (Fig.233)。アダムキービッツ動脈 (大前根動脈)(Fig.238,683) は、肋間動脈の枝の中で飛びぬけて重要だが、 1mmほどの太さしかない。T7-L2の範囲に1-3本存在し、実習では脊髄を摘出した後でじっくり探してもらう(p.107)。 肋間動脈の太さとアダムキービッツ動脈の出現の間には相関がない(細い肋間動脈からも起こりうる)。前脊髄動脈につながり、脊髄を養う。

心・肺を本体側にもどして位置関係をトコトン復習する。系統解剖学の古典的テーマである肋間筋の 3 層構成も見て欲しい (p.96,98)。後胸壁は,腹部の終わり頃に再び観察する:p.170,171。

Body of vertebra 椎体 669

Intervertebral disc 椎間円板(椎間板) 674

Anterior longitudinal ligament 前縦靭帯 666

Joints of costal heads / Capitular joint 肋骨頭関節 662

Diaphragm 横隔膜 362

Inferior vena cava foramen 大静脈孔 229

Esophageal hiatus 食道裂孔 229

Aortic hiatus 大動脈裂孔 229

Descending aorta 下行大動脈 235

Bronchial artery 気管支動脈 233

Posterior intercostal artery 肋間動脈 233

(英語では内胸動脈枝をAnterior intercostal arteryと呼ぶ)

Artery of Adamkiewicz アダムキービッツ動脈 683

(=Great radicular artery:大(前)根動脈 だいぜんこん、だいこん−)

■付図 胸部の交感神経系:運動性(上肢へ、頭頚部へ、心臓へ、腹部内臓へ)、内臓の感覚

(オリジナルの図)