付録


■リンパ管系総論■
  1. リンパ管系 Lymphatics とは
    ※「リンパ系」:「リンパ管系」とはニュアンスが異なり、しばしば免疫系と同義。
  2. リンパ流の駆動力(方向は弁によって決まる)
  3. (あまり使わないが)教科書的な分類
  4. 「リンパ路」の概念
    1. 特定部位に発するリンパは特定の経路(リンパ管系)を経て静脈に注ぐ。
      (但し、癌のリンパ節転移後など病的条件下では経路が大きく変りうる)
      • [主要リンパ路] 多くのリンパ路が集まった共通経路。
        リンパ本幹よりも末梢側で用いることが多い。
        特定部位に発するリンパ路が複数ある中で主要なもの。
    2. すべてのリンパ路は静脈角およびその付近に集まり、静脈系に注ぐ。
         (発生学的には下大静脈に注ぐ可能性も残るが、成人では証明されない。)
      • [静脈角] 鎖骨下静脈と内頚静脈が作る外側に開く角(図587,593)
    3. 正中交叉律:正中線上の器官に始まるリンパ流は、対側に(も)向かう
      【例】舌、顔面、咽頭、喉頭
      ※左側の気管支・肺からのリンパ流は下方から始まるものほど右に集まる
  5. リンパ節

    <「癌取扱い規約」における所属リンパ節分類>

    <独特の愛称で呼ばれる有名リンパ節>
  6. リンパ管

    【例】動脈に沿う:大動脈周囲リンパ節と腰リンパ本幹          胃の所属リンパ節とリンパ路    静脈に沿う:右半結腸所属リンパ節郭清のポイントとされる                surgical trunk(上腸間膜静脈の一部)          腋窩のリンパ管、鎖骨下リンパ本幹、頚リンパ本幹    自律神経叢・神経に沿う:骨盤神経叢、反回神経(特に右)    独立して走行する:胸管起始部(しばしば横隔膜脚を単独で貫通)
    【例】直腸癌の転移経路(国試問題)     上方へ:下腸間膜動脈枝に沿うリンパ路     外側方へ:骨盤神経叢の枝(外側靭帯)に沿うリンパ路     下方へ:外陰部静脈に沿うリンパ路     それぞれ転移リンパ節が異なる。

筋膜総論

deep fascia or fascia (昔は深筋膜と和訳した)
  1. 骨格筋の筋膜
    1. 個々の筋の筋膜 
      【例】胸筋筋膜:大胸筋(特に前面)の筋膜
    2. 筋群を一括して外から覆う筋膜 
      【例】大腿筋膜:大腿の筋を包む強靱な筋膜で、腸脛靭帯が外側から補強する。
      【例】深下腿筋膜:下腿屈筋群深層を後方から包む強い筋膜
    3. 筋間中隔:筋群の境界にあって、(2)が癒合したもの
      【例】上腕外側筋間中隔(上腕筋/上腕三頭筋)
      【例】外側大腿筋間中隔(外側広筋/大腿二頭筋短頭)
      ※しばしば筋群と筋群の間に広い隙間(筋膜隙)が生じ、筋間中隔が不明瞭になる。
      筋膜隙は、脈管神経路(導通路)として利用される。
      (実習で分かる例:上腕内側筋間中隔=より伸側に尺骨神経&尺側側副動脈)
      (不明瞭な例:内側大腿筋間中隔=大腿動静脈・大腿神経等の導通路になっている)
    4. 一般外科で重要な骨格筋の筋膜(後述する内臓の筋膜に含めて扱われることあり)
      【例】鼠径ヘルニアに関係して:腹横筋膜(横筋筋膜)、クーパー靭帯、iliopubic tract など
      【例】頚部リンパ節郭清(radical neck dissection)に関係して:頚筋膜椎前葉
    5. 気管前葉・浅葉など
      【例】乳癌opeに関係して:浅胸筋膜、腋窩筋膜、烏口腋窩筋膜、鎖骨胸筋筋膜など
    内臓の筋膜(後述) 内臓・血管・神経などを包む膜状の結合組織のことも筋膜と呼ぶことがある。
    骨格筋の場合同様、芯になる構造が必ずある。
    組織学で言う内臓の外膜とは、しばしば分けがたい。
    皮下組織の特殊化したもの(superficial fascia、昔は浅筋膜と和訳した)
    典型例:カンパー筋膜(下腹部の皮下脂肪層が板状になったもの)、スカルパ筋膜(下腹部の皮下脂肪層のすぐ深側の結合組織層)
    その他:コレ筋膜(会陰:別紙参照)、 クーパー靭帯(乳房で発達した皮膚支帯)など

    <内臓の筋膜について>

    A. 血管鞘 あるいは 血管・神経鞘
    1. 典型例:頚動脈鞘(芯:総頚動脈+内頚静脈+迷走神経)、ゲロータ筋膜(腎筋膜)(芯:腎臓+腎動静脈+尿管+副腎)
    2. その他:基靭帯子宮支帯の主要部分である中部支帯、芯:子宮動静脈等)、(直腸の)外側靭帯あるいは側方靭帯(芯:骨盤神経叢+中直腸動脈)、窩間靭帯(芯:下腹壁動静脈→外側臍索)、下腹血管鞘(芯:内腸骨動静脈)
    B. 内臓の外膜(組織学用語)の特殊化したもの
    1. 子宮・膀胱・直腸の外膜が癒合したもの
      【例】前部子宮支帯(膀胱子宮靭帯)、後部子宮支帯(直腸子宮靭帯)
      cf. 仙骨子宮靭帯という構造もある:神経鞘か? 外膜の癒合か?
    2. 直腸外膜と尾骨骨膜が癒合したもの
      【例】尾骨直腸靭帯(posterior lig.)
    3. 横隔膜胸腔面の筋膜と食道外膜が癒合したもの(上に凸のドーム状)
      【例】横隔食道膜
    4. 恥骨骨膜と前立腺外膜の癒合したもの(強靭)
      【例】恥骨前立腺靭帯
    C. 漿膜(特に腹膜)の変化したもの
    1. 血管ヒダ(例:胃膵ヒダ)と同様に、何等かの構造が漿膜を持上げて形成
      【例】子宮広間膜骨盤漏斗靭帯、膀胱下腹筋膜(膀胱側方靭帯を含む)など
    2. 胎生期に機能していた or 明瞭だった構造が変化したもの
      【例】円靭帯(子宮円索)、(腹膜)鞘状突起、ディノビエ筋膜、仙骨前靭帯など、トライツ靭帯(十二指腸空腸曲--膵臓後方--腹腔神経叢後方--横隔膜右脚)、甲状腺心膜筋膜
      cf. 肝円索、静脈管索、正中・内側臍索は通常筋膜には含まない。
    3. 漿膜の癒着部(その結果、膜が消失している場合は、膜ではなくて癒着部位ないし癒着面すなわち剥離面(シヒト)を指す。
      その剥離面を癒着筋膜 fusion fasciaと呼ぶ。

      【例】肺間膜(胸膜間靭帯)、気管支心膜結合組織性膜、横隔結腸ヒダ、脾結腸靭帯(間膜)=載脾靭帯、左右のトルト筋膜(結腸の生理的癒着部)、トライツの膵後筋膜など
    4. 漿膜(間膜)そのものだが、靭帯と呼ばれることがあるもの
      【例】肝十二指腸靭帯、脾腎ヒダなど

<陰茎の筋膜>

  1. 浅陰茎筋膜
  2. 深陰茎筋膜(バック筋膜 Buck)

<会陰部の筋膜>会陰部皮膚から深側へ

  1. 皮下筋膜浅層(特に名称なし)
  2. 浅会陰筋膜(コレ筋膜 Colles)
  3. 深会陰筋膜(外会陰筋膜、ガロード筋膜 Gallaudet)
  4. 下尿生殖隔膜筋膜(会陰膜)
  5. 上尿生殖隔膜筋膜
  6. 下骨盤隔膜筋膜
  7. 上骨盤隔膜筋膜
  8. (内)閉鎖筋膜
    ※(坐骨直腸窩の)前陥凹:上尿生殖隔膜筋膜、下骨盤隔膜筋膜、(内)閉鎖筋膜に囲まれたポケット状の間隙で、後方に開き坐骨直腸窩に続く。坐骨直腸窩同様に脂肪組織(坐骨直腸窩脂肪体)で充たされる。

参考書に関するコメント

1. このマニュアルの主な引用・参考文献は下記の通りです     
標準外科学						医学書院
標準整形外科学						医学書院
NIM 臨床診断学 診察編					医学書院
◎消化器外科別冊 手術のための局所解剖アトラス		へるす出版
◎新 画像診断のための解剖図譜				メジカルビュー社
イラストレイテッド外科手術				医学書院
臨床解剖学ノート					木村書店
国試対策シリーズ 産婦人科				金芳堂
医師国家試験一般問題 外科				医学評論社



2. 内臓に関して言えば、学生向けの日本語のマクロ解剖学教科書(分担解剖学2・3巻やグレイ訳本も含めて)は、臨床の講義にとっては不要な記載が多すぎ、また卒業して臨床各科の専門を志す上では、肝心なことが書かれていないので使えないでしょう。
スネル臨床解剖学解剖学講義は、学生向けとしては比較的臨床対応ですが、現場で使える本とは思いません。上述の◎の2つは購入して損はないでしょう。私見を述べれば、教科書に金を費やすのではなく、図譜に投資すべきと思います。臨床の医局には、学生向けの日本語のマクロ解剖学教科書はなくても、優れた図譜(ペルンコップフ、ズボッタ、ネッター、西など)が備っていることにお気付きでしょうか。

3. それでも推薦に代えて何かを述べれば下記の通りです。

a. 臨床各科用に推薦されている朝倉の内科学標準外科学胸部X線写真のABC標準耳鼻咽喉科学国試対策シリーズ産婦人科など多数の臨床の教科書では、要点を押えて各臓器の解剖が記述されています。

b. 新外科学大系現代産科婦人科学大系の解剖の記載は、学生が容易に使える文献としては最も詳しいものです。

c. 消化器外科臨床外科など臨床雑誌の解剖学総説は、学生が読んでも分かりやすいものです。
図書館でコピーできます。
例えば東京医科歯科大学から出ているものでは、骨盤内臓なら、
「講座 泌尿器手術に必要な局所解剖」臨床泌尿器科 42--7 から 46--6 (1988--1992)
泌尿器外科 1:293(1988)
腹部内臓と乳腺・食道に関しては、 消化器外科13:1262,1522,1678(1990)/14:423(1991)
手術 38巻(10,11,12.1984).前後1983--1985/41:725(1989)/46:1337(1992)
外科診療 32:902(1990)
頭頚部内臓なら、
耳喉頭頚 65--66(1993,1994)

d. どうしてもマンガでないとダメと言う人には、

マンガで見る手術と処置(エキスパートナース 1991年の各号)(例えば肝は6号)。

e. 英文ならば、Gray's Anatomy. Churchill-Livingstone. 1995. 38th ed. (2万円弱)が定評があり、大学によってはかなりの学生が購入してチャレンジしています。
英語の入門としては病理から始める(本学では多くの学生が輪読会を始める)よりもeasyでしょう。

f. リンパ(管)系については、

外科医のためのリンパ系アトラス(南江堂,近刊)
消化器外科 13:1957(1990)/14:78(1991)/14:153,1875
手術 45:1341(1991)/47:1527(1993)外科 45:400(1993)

g. 筋膜に関しては、臨床対応の日本語のまとまった教科書はまだありません。
フランスの学生向け教科書(!)を訳した臨床解剖学ノート(小骨盤編が特に優れ物)は詳し過ぎます。

脳神経のまとめ (求心性神経,sensory nerve)

◇:末梢における神経細胞体の位置

■I(嗅神経)	鼻粘膜嗅部

■II(視神経)	眼球の網膜

■III(動眼神経)	支配筋からの深部感覚			III→三叉神経節◇?

■IV(滑車神経)	支配筋からの深部感覚			IV→三叉神経節◇?

■V(三叉神経)

顔面、前頭部の皮膚感覚(V1,V2,V3)
角膜の感覚(V1)
脳硬膜の感覚(硬膜枝)(V根部へ)				V→三叉神経節◇
鼻腔、口腔、舌の粘膜の温痛覚など(V1,V2,V3)
顎関節、歯根膜、支配筋からの深部感覚(V2,V3)

■VI(外転神経)	支配筋からの深部感覚			VI→三叉神経節◇?

■VII(顔面神経)

外耳道の温痛覚など→耳介枝→小管を経て頚静脈孔→内耳の顔面神経管→膝神経節◇→
舌の前2/3の味蕾→舌神経(V3)→鼓索神経→顔面神経管下行部のVII→膝神経節◇→
支配筋からの深部感覚→三叉神経枝または頚神経枝→三叉神経節または後根神経節◇→

■VIII(内耳神経)

蝸牛のコルチ器→蝸牛神経節◇→膨大部稜、平行斑→前庭神経節◇→

■IX(舌咽神経)

外耳道の温痛覚など→耳介枝→小管を経て頚静脈孔→IXの上神経節◇→
口腔後部、咽頭、中耳、耳管の粘膜の温痛覚→IXの舌枝など→IXの下神経節◇→
頚動脈小体、頚動脈洞→頚動脈洞枝→IXの下神経節◇→
舌の後1/3と軟口蓋の味蕾→IXの舌枝→IXの下神経節◇→
咽頭の筋の深部感覚?

■X(迷走神経)

耳介、外耳道の温痛覚など→耳介枝→小管を経て頚静脈孔→Xの上神経節◇→
咽頭、喉頭の温痛覚など→上喉頭神経、反回神経→Xの上神経節◇→
胸腹部内臓、大血管の感覚受容器、喉頭蓋の味蕾、SA node、AV node→Xの下神経節◇→

■XI(副神経)	支配筋からの深部感覚   

■XI→頚神経叢との交通枝→脊髄神経節

■XII(舌下神経)	支配筋からの深部感覚?


脳神経のまとめ (遠心性神経,motor nerve)

■I(嗅神経)	なし

■II(視神経)	なし

■III(動眼神経)

5つの外眼筋
瞳孔括約筋の運動:III→毛様体神経節◇→短毛様体神経→
交感神経系の節後線維:瞳孔散大筋(平滑筋)、動脈の平滑筋など(脳の動脈)→上頚神経節◇→内頚動脈神経叢(節後線維)→海綿静脈洞内でIIIへ(他の脳神経へも)→
毛様体筋(=遠近調節):III→毛様体神経節◇→短毛様体神経→

■IV(滑車神経)	上斜筋の運動、交感神経系の節後線維?

■V(三叉神経)

4つの咀嚼筋、2つの口腔底の筋、鼓膜張筋、口蓋帆張筋 (いずれもV3)
交感神経系の節後線維→上頚神経節◇→海綿静脈洞内で or 顎動脈周囲(節後線維)→

■VI(外転神経)外(側)直筋の運動、交感神経系の節後線維?

■VII(顔面神経)

顔面筋(広頚筋、耳介筋も)、あぶみ骨筋、顎二腹筋後腹
交感神経系の節後線維?(主に動脈周囲から)
内耳のVII→大錐体神経→翼突管神経→翼口蓋神経節◇→
翼口蓋神経節◇→頬骨神経(V2)→涙腺神経(V1)→涙腺の分泌
翼口蓋神経節◇→大口蓋神経、他→鼻粘膜の腺、口蓋の腺
顔面神経管下行部のVII→鼓索神経→舌神経(V3)→顎下神経節◇→顎下腺の分泌
翼口蓋神経節◇→三叉神経枝?→脳の動脈(血管拡張性)(VIIか否か?)

■VIII(内耳神経)	交感は動脈周囲のみ?

■IX(舌咽神経)

咽頭の筋、茎突舌骨筋(嚥下運動)(延髄内に◇)
交感神経系の節後線維(小管を経て鼓室神経叢、他に動脈周囲から)
頚静脈孔直下のIX→小管を経て中耳の鼓室神経叢→小錐体神経→耳神経節◇→V3→耳介側頭神経(V3)→VII枝と交通→
耳下腺の分泌

■X(迷走神経)

上/下喉頭神経→喉頭の筋(延髄内に◇)、いわゆる心臓神経(心臓に◇)→心筋、SA node、AV node
上部消化管の筋層と分泌腺、気管枝の平滑筋(肺枝)(消化管、気管枝に◇)
血管の平滑筋?
交感神経系の節後線維?
(星状神経節◇と反回神経などの交通、頚部のXと交感神経幹との交通?)

■XI(副神経)

胸鎖乳突筋と僧帽筋(頚神経叢からの交通枝にも運動神経線維が含まれる)(脊髄内に◇)

■XII(舌下神経)

内舌筋、2つの外舌筋、甲状舌骨筋(延髄内に◇)
交感神経系の節後線維?



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