next up previous
Next: 体壁 Up: 上肢の総括 Previous: 2.

3.

上肢の各筋を、支配分節ごとに整理する。 
   C5、C6、C7、C8、T1がどのように支配しているかデルマトーム を参照に。
   次いで、部位ごとに支配分節を整理する。

     肩の筋、上腕伸筋、上腕屈筋、前腕伸筋、上腕屈筋、手掌の筋

■付図(肩関節の運動)  

■付図(手関節の変形) 

猿手 :ape hand
正中神経麻痺により起こる。母指の対立運動および屈曲が不可能となり、母指が内転拘縮状態になる。母指球筋が麻痺する一方で、尺骨神経が支配する母指内転筋が収縮することによる。更に、長母指屈筋および浅・深指屈筋がともに麻痺するので、母指と示指・中指のDIP,PIP関節は屈曲不能となる。時日の経過とともに筋萎縮が著明となる。

わし手、鷲爪手 :claw hand
尺骨神経麻痺により起こる。環・小指のMP関節が過伸展し、DIP,PIP関節が屈曲変形する。骨間筋の麻痺により手背で中手骨の間は溝状に筋萎縮を示し、それらに拮抗する総指伸筋、浅指屈筋の収縮により変形が起こる。正中・尺骨神経合併麻痺の場合は、"ape-claw hand"と呼ばれ、高度の変形をきたす。

下がり手、下垂手 :drop hand
橈骨神経麻痺により起こる。手が回内位、手関節が掌屈位、すべての指のMP関節が屈曲位をとる。伸筋群の麻痺によるが、障害のレベルにより、侵される筋に違いがある。MP関節を他動的に伸展位に保つと、DIP,PIP関節は伸展できる。これは尺骨神経支配の骨間筋、虫様筋が働くからである。

☆ 上肢の神経断面における神経線維束の位置

背景
外傷で切断された上肢(特に手)の機能再建のために神経を縫合する手術がしばしば行われます。末梢神経を縫合するには、神経の断面の中で特定の部位に特定の神経線維束が位置することを十分に理解している必要があります。整形外科に進む人もそうでない人も、一度は神経断面をじっくり見たほうがいいと考えます。

目標
手内筋(ここでは小指球筋と骨間筋など中手筋)を支配する神経線維束が尺骨神経の断面の中でどこに位置するか、皮枝や前腕屈筋枝と異なる神経線維束を作るかどうかを検討する。

作業

1.最初の難関は、解剖するうちに神経がねじれて前後内外側の位置関係が分からなくなること。これを防ぐため、色糸と裁縫針を用いて尺骨神経の特定の縁に印をつける:前縁に赤、内側縁に黒。 部位:ギオン管のすぐ近位、肘部管のすぐ遠位、正中神経ワナのすぐ遠位。 裁縫針はすぐ回収する。

2.尺骨神経が小指球筋に進入する部位(同筋や中手筋に至る)を確認する。

3.正中神経ワナのすぐ遠位で尺骨神経本幹を切断し、さらに尺骨神経の各枝を確認しながら切断して、全長にわたり摘出する。作業1で付けた前縁の赤糸と内側縁の黒糸に注意しながら、金属トレー上か所見台に広げて再現、摘出時に切断した各枝を再確認する。

4.水道水でぬらしながら、遠位から近位に向けて神経周囲の線維性の強靭な膜(神経上膜)をメスで慎重に除去する。神経線維束は神経周膜というツルツルの膜に囲まれている。神経上膜が除去されたら、ストリングチーズを割くごとく、筋枝や皮枝をピンセットで分離する。からまりあって分かりにくい場合も、手内筋支配の神経線維束だけは連続させ、その他の神経線維束は切断してもよい。前縁と内側縁を示す糸がはずれてしまうと位置関係が不明になる。

5.遠位から近位に向けて神経線維束の分離を進め、赤糸と黒糸を付けた部位に接近したら、そのすぐ遠位をメスできれいに切断する。切断面における手内筋支配神経線維束の位置をケント紙に描く。切断面の部位と前後内外側の方向を明示する。さらに近位に向けて神経線維束の分離を進め正中神経ワナに近い切断面に至る。最終的にケント紙に3つの切断面を描く。

各断面の数字は手くびからのmm。右図に示す尺骨神経のmm(0-530)から各断面のおよその位置が分かる。



Akiko Oshiro
1998年01月19日 (月) 16時56分03秒 JST