1. 登録コード 8225 2. 欧文タイトル The present circumstances of the computer utilization and the Internet 3. 欧文著者名 Haruyuki Tatsumi 4. 和文所属名 札幌医科大学 医学部 解剖学第一講座 5. タイトル コンピュータ利用の現状とthe Internet 6. 著者名 辰巳 治之 7. リード (80字) 我々の生活のなかに入ってきたコンピュータについての現状認識と、次のステップとし てのワークステーションとインターネットについて。 8. キーワード コンピュータ利用,パソコン,ワークステーション,コンピュータネットワーク, インターネット 9. 校正送付先 〒060 札幌市中央区南1条西17丁目 札幌医科大学 医学部 解剖学第一講座 TEL (011):611-2111(2241) FAX:(011)612-5861 E-mail: tatsumi@sapmed.ac.jp * コンピュータの利用の現状とthe Internet  -- はじめに 私は、解剖学者である。解剖学者がコンピュータの話をすると、面白いとみえ て、よく講演を頼まれたりする。また、解剖学者とコンピュータとの結びつき が不思議なのか、何にコンピュータをお使いですか?と興味深く質問される。 そのときには、決まって、何にでもつかっていますよ[a]と答えることにして いる。すると”はあ?”といわれることが多い。相手は医学、或は、解剖学の 特殊なことにだけ使っている[b-e]と思い、その手の答えを期待しているようで ある。実は、私自身それを目指して、コンピュータを使いだしたのだが、コン ピュータを理解するにつれ、何にでもつかえる気がしてきて、こういう答えか たになってしまうのである。 -- コンピュータとファミコン 旅先で、ある老夫婦とコンピュータの話になり、私が最近コンピュータに凝っ ているというと、その老人は、「息子夫婦も、凝っていましてなあ」という。 それで、「息子さんは、コンピュータ関係の会社にお勤めですか?」と聞く と、「いいえ。毎晩奪い合いでしてなあ」という。よく聞くとそれは、コン ピュータゲームをしていたのであった。確かに、ファミコンもコンピュータ である。 -- コンピュータの多様性 コンピュータは只の箱だとよくいわれる。ソフトによっていろいろな物とし てつかえ、形をかえ、ファミコンのように我々の生活の中に入り込んできて いる。しかし、コンピュータというと、依然として計算機(計算する機械) としてのイメージもいろ濃い。その代表的な使い方として、テレビなどで放 映されるのが円周率の計算である。πをある桁数まで計算するのに数時間し かかからず、これが世界最速のコンピュータですと報じられ、代表的な使い 方のような気がする。しかし、実際コンピュータを買ってπを計算するひと はどのぐらいいるだろうか?また、最近では、コンピュータというとワープ ロを思う人も多い。このように、いろいろなソフトのおかげで、コンピュー タはいろいろな道具として変貌しつつあり、人それぞれによって、コンピュー タに対するイメージがかなり違う。普通名詞でありながら、これだけ多種多 様のイメージをもつのは珍しい。だからこそ、コンピュータの話はややっこ しく、実際にこれを導入しようと思った時に、いろいろな誤解が生じ、難し いことが多いのだろう。 -- 難しいが、簡単 コンピュータの本質は計算機であるにもかかわらず、結構、パソコン、ワー クステーション(1)、大型計算機など、どれをとっても、電卓のように簡単 に計算ができない。そんなことはないという御仁もおられようが、しかし、 買ってすぐに、電卓としては使えない。それなりのソフトが必要である。 OS(2)には組み込まれていないのである。もっとも使い出があり、これから、 このシリーズで話をしていく予定のワークステーションに至っては、 OS(UNIX(3))を立ち上げ、login(4)して、X-window(5)を起動し、window manager(6)を動かして、xcalc(電卓プログラム)を使う。気の遠くなる作業であ る。しかし、これらの手順を設定(プログラム)すれば、loginするだけで xcalcを使えるようにすることもできる。これが良いところで、ワークステー ションにハマッテしまう。しかし、やろうと思えばできるところがまた 曲者である。 -- すぐにできるが、できない この”やろう”と思えば”できる”というところが、コンピュータの誤解に もつながるのである。実はすぐには何にもできないのに、できるような気に なってしまうことがある。もうだいぶ前になるが、ワークステーションや UNIXについて、某家電メーカの特別プロジェクト室の室長さんの講演を聞い た。騙されたわけではないが、彼の話に、傾聴し、自分なりに納得し、信じ きってしまった。彼が簡単にあることをできると豪語するので、感心し、早 速、その講演会で学んだUNIXやネットワークを利用して、電子メール(7)で それを使いたいと申し込んだ。さすがに、彼のいうとおり、UNIXやネットワー クは便利で、すぐに、電子メールで返事をいただいた。やっぱり彼のいうこ とは”真実”と思い、電子メールを読むと、「やろうと思えばできるが、ま だそのソフトは作っておりません。」とのことであった。やろうと思えばす ぐにできるのなら、すぐにやって欲しいと思ったのだが、実は、すぐにはで きないのであった。あとで、解ったことだが、その室長さんは、そんな歯切 れのよい断言や痩せ我慢、また特有のユーモアで結構その業界では人気者の 人であった。 -- 医学領域における特殊性 時間の概念 このような経験は、多くの工学部の教授と話をしていても同じであった。でき ますというのは、セッカチの私にとっての”できる”というのとは、まったく 別次元のことばであった。私ほどのセッカチでないにしても、医学領域におら れる多くの皆さんはどちらかというと私と同じ側におられるのではないでしょ うか。それで、工学部の先生に、その解りやすい例として、こんな話をよくし ます。「ガンはなおりますよ、いつかは」では困るでしょう。皆、すぐに治って 欲しいのです。それと同じで、できますよといわれたら、すぐにできて 欲しいのです。しかし、ガンとはちょと違うところが、また手強いのである。 プログラムの場合、やろうとすれば、時間はかかるが、ある程度の所まででき てしまう。そこで、この時間のかかるのを、もう少し短くしてもらえないかな と、工学部の先生によくお願いするのです。 -- インターネット(8) このようにコンピュータは、ソフトによる可塑性があるがために、色々な使 い方ができるのであるが、逆にそのために複雑で、導入には敷居がたかく戸 惑ってしまう。どんな使い方ができるか(ソフトの種類・機能)をすべて知 るのは、不可能に近い。しかし、僅かでも知らなければ、あるいは何らかの 切っ掛けがなければ、使う気になれない。このように多様性のある(何でも できるという)便利さと複雑さ・難しさとのアンビバレンツは、インターネッ トにもあてはまる。これは、今まで前例のないもので、取っ付きにくく、身 近にないと、触るチャンスがない。しかし、近くにあっても、誰かがある程 度までセットアップしてくれないと、便利ではなく、理解し難い。猫に小判 という諺があるが、小判で食べ物が買えると猫に教えてやれば、それなりに 使うかもしれない。小判の話はともかく、インターネットの良さがわからな いと、導入して使う気になれない。しかし、昨今、このインターネットの爆 発的な広がりには目を見張るものがあり、これからこれをどのように我々の 生活にとりいれていくかが問題になろう。多様性をもったコンピュータとイ ンターネットとの両方がかみあってこそ、その真価が発揮できるのである。 すなわち、それは神経細胞や神経線維が単独では全く役に立たないのと同様 である。情報を集め判断を下す神経細胞と、それをつたえる神経線維、そし てその標的細胞。さらには、その標的細胞からのフィードバックがあってこ そ、個体がなりたつのと同じように、インターネットとインターネットに直 接つながり神経細胞のように働くことのできる高機能なコンピュータ(ワー クステーション)が結び付いて始めて驚くべき機能を発揮する[f,g]。 今回の特集「医学領域におけるコンピュータ利用」では、主にワークステーショ ンとインターネットに関連する話を連載する予定である。このインターネット (The Internet)とは、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)と呼ばれるネットワーク技術によって全世界的に相互接続されたネッ トワーク全体をさす。これは、世界最大のネットワークで、学術ネットワーク として最も利用価値が高く、世界のほとんどのネットワークがつながっている。 ここでインターネットを紹介するのは将来性、互換性、利便性に優れ、このネッ トワークのシステムは学術情報交換に最適で、さらに最近、インターネットを 容易に使えるような環境になってきたからである。日本の学術研究や学会活動 を促進するために、各学会や協会そして各ネットワークの代表者があつまって、 日本の学術ネットワークの調整をしようと、日本研究ネットワーク連合委員会 (JCRN:Japan Committee for Research Netowrks)が設立された[h]。さらに、 そこから日本ネットワークインフォーメーションセンター(JPNIC:Japan Network Information Center)が生まれた[i]。 文部省(学術情報センター)も平成 4年度からTCP/IPのネットワーク(SINET)を正式にサポートし、平成5年度に は、新社会資本整備の一環として国立大学を中心にネットワークの整備がおこ なわれた。各地方には、地域ネットワーク協議会などの設立[j]が相次ぎ、平 成六年度からは、科学技術庁による省際ネットワーク(9)構想も動きだし、米 国の情報ハイウェイ構想に対抗し、日本中が変化つつある[k]。 そこで、こ の特集では主にインターネット、ワークステーションなどをつかった具体的事 例を紹介し、少しでも医学の分野に携わる人々のあいだで、personal computingが盛んになり、インターネットをつかってinterpersonal communicationが活性化され、医学・医療が発展することを期待する。 参考文献 [a] 辰巳治之: 医学の分野におけるコンピュータ利用の方向と期待:快適な研究環 境をめざして. 医学のあゆみ 152:107(1990) [b] Tatsumi H, Takaoki E, Omura K, Fujita H : A new method for three-dimensional reonstruction from serial sections by computer graphics using "meta-balls" : Reconstruction of "Hepatoskeletal system" formed by Ito cells in the cod liver. Comp Biomed Res 23:37-45(1990) [c] 深谷健一、五十嵐政志、辰巳治之 :カラー画像処理システムの開発と胃 壁細胞カラー画像の領域分割への応用. 開発論集 49: 155-169 (1992) [d] Tatsumi H, Satoh S, Takaoki E : Application of a reconstruction method using computer graphics to study cell differentiation. Proceedings of the 4th Sapporo International Computer Graphics Symposium 132-136 (1990) [e] Tatsumi H, Nakamura M : Development of a computer-assisted tool for morphological studies - color image handling and processing system :Program of the 4th Japan-Korea Anatomical Joint Meeting Yamagata Seminar :153-154 (1994) [f] 石田晴久:コンピュータ・ネットワーク, 岩波新書 pp 1-245 (1991) [g] Tatsumi H : "Comfortable Research Environment":Academy Equipment from Personal Computing to Interpersonal Communication via Computer Network. Proceedings of the 6th Sapporo International Computer Graphics Symposium pp 12-14 (1992) [h] JCRNセミナー抄録:学術研究とネットワーク(1992年3月10日) pp 1-86 JCRN Newsletter 1(1991)、2(1992) (anonyomous ftp.nic.ad.jp:/pub/jcrn) [i] JPNIC News letter 1 (1994) pp1-52 [j] 北田 義孝、辰巳 治之 :北海道地域ネットワーク協議会(NORTH)について. WINC Network Symposium集 Pp 1-6 (1993) [k1] 川添良幸、静谷啓樹(訳編)キャンパス・ネットワーキング. 共立出版, 東京, bit別冊 12月号 pp 1-266 (1990) [k2] 野口正一 編(科研費総合研究A):シンポジウム論文集「大学内ネットワーク 相互接続の諸問題」pp1-100(1990年12月14日),「日本におけるアカデミッ ク・ネットワークの相互接続の諸問題」pp1-121(1992年3月11日) [k3] 第一回JAIN CONSORTIUM Symposium 論文集 pp1-100 1994年1月28日 *用語・ --(1) ワークステーション(Workstation): 知的生産活動をするための作業台として使える高性能のコンピュータのことで、 いろいろな定義があるが、一般にはマルチタスク、マルチウインドウ、マルチ ユーザをサポートしており、インターネットにすぐにつながる機能をもってい るものをワークステーションと呼びたい。ワークステーションの最もポピュラー なOSはUNIXあるいはその変化形である。 --(2) OS (Operating System) コンピュータの基本的なソフトで、いろいろなアプリケーションソフトはOSを 介してコンピュータとやりとりする。OS自身では、便利なことはできないが、 OSがどれほど便利にできているかによって、アプリケーションソフトの機能も かわるので、重要な部分である。UNIXは、OSの代表的なものであるが、基本ソ フト(ユーティリティ)が沢山あり、そのどこまでをOSに含めるかその境界は 曖昧である。 --(3) UNIX もともとはAT&Tが開発したOSであるが、いろいろな所で発展を遂げ、主にワー クステーションのOSとして組み込まれている。これを手本につくったパソコン 用のOSがMS-DOSである。最近では、パソコンも速くなり、パソコン用のUNIXも 出現してきたので、ワークステーションとパソコンとの境界も曖昧になってき ている。さらに、大型計算機用のUNIX、サーバタイプのワークステションも 出現してきたので、ますますUNIXは広まるであろう。 --(4) login ワークステーションを使うときに、一番最初の画面にでてくるもので、ここ でユーザー名(User ID)と暗証文字(password)をいれ、この二つの組合せが合 致した時のみ、ワークステーションを使うことができる。マルチユーザをサポー トしているコンピュータでは必ず、このようにユーザを認識する機構がある。 --(5) X-window マサチューセッツ工科大学(MIT)で作成したWindow Systemで、これらのソフト のソースを公開したために、ワークステーションで標準になったwindow systemである。 --(6) Window Manager コンピュータの画面上に表示された各windowをManagement(menuを表示したり、 windowの大きさを変更したり移動させたり)するためのソフト --(7) 電子メール コンピュータ上でつくったメッセージを、他のユーザに送るシステム。この場 合、自分のシステムと他のユーザの使っているシステムとが、どこかで接続さ れていることが必要である。また、システム同士でメッセージ交換の方法に互 換性がないと、実際には電子メールは送受信できない。もちろん単一のシステ ム上だけでおこなうこともできるが、それでは電話のようには汎用性がない。 従って電子メールを利用するには、インターネットに接続すること、インター ネットと相性のよいワークステーションが必要になってきたのである。 --(8) インターネット(the Internet) internetとは、元来、ネットワークとネットワークとを接続したものを指すが、 the Internetというと、TCP/IPという通信規約で相互接続されたネットワーク 全体を指す。すなわち、日本でthe Internetに参加するには、interNICから delegationを受けているJPNIC(Japan Network Information Center)に、IP addressとDomain nameの取得申請し、どこかのインターネットのサイトと接続 する必要がある。JPNICに参加している各ネットワークプロジェクトに関して は後の連載のなかで触れる予定である。 --(9) 省際ネットワーク 国のある特定の機関内だけの孤立したネットワークではなく、各省庁の枠組を 越えコミュニケーションの促進を期待した画期的なネットワークで、インター ネットの機能をフルに活用できるものになる予定。只今、科学技術庁を中心 に計画されている。