2005年3月18日

産学連携フォーラム 抄録

 

札幌医科大学のバイオ研究: 分子医学研究部門を例として

分子医学研究部門教授 濱田洋文

 

当フォーラムでは、産学連携の可能性への提言という観点から、一例として私の所属する分子医学研究部門が関わってきたバイオ研究の現状を紹介する。当部門は、平成11年に創設され、難治疾患に対する遺伝子治療法・再生医療の研究を展開している。

 

1.遺伝子治療

A)癌に対する免疫遺伝子治療

サイトカイン発現腫瘍ワクチン療法: 腫瘍細胞に対して各種サイトカイン遺伝子導入を行い、ワクチン治療の臨床応用を目指している。

B)遺伝子治療のための基盤技術の開発

ファイバー変異型アデノウイルス: 組織選択的遺伝子導入の標的化の可能な表面分子の同定し、臨床への応用が可能となった。

 

2.再生医学の基盤研究と臨床応用

A)閉塞性動脈硬化症・虚血性心疾患に対する血管新生遺伝子治療

 (Ang-1)遺伝子導入により、壁細胞により支持された太い血管が多く作られ、血管造影・血圧比・組織血流比が著明に改善することを見いだした。閉塞性動脈硬化症に対する新しい臨床研究プロトコールを作成した。2005年3月現在、厚労省審査申請中である。

B)幹細胞MSCを用いた再生医療

a. 骨髄ストローマ細胞株を用いた人工骨髄システム: 造血前駆細胞を、大量に増殖させ、成熟赤血球や巨核球を調製でき(パテント出願中)、輸血システムの実用化研究を行っている。

b. 間葉系幹細胞 (MSC) の治療への応用: 

 i) MSCの骨分化: MSCを用いて、同所性骨折治療モデルで高い骨形成が得られた。整形外科・形成外科領域への応用が期待される。

 ii) MSCの神経分化能と高い遊走能に着目して、ラット脳梗塞モデル治療実験を試みた。BDNF遺伝子導入したMSCの移植により、脳保護・治療効果を得た。札幌医科大学の寶金・本望・新津らと、「急性期脳梗塞に対する自己骨髄細胞静脈内投与治療」臨床研究のプロトコールを作成し、臨床研究進行中である。

 

 

今後の課題: 当部門の創設以来、6年間で20件の特許出願を行い、2件の臨床研究を駆動している。当グループの抱える深刻な悩み: 意欲を持って長期的に研究に取り組む人材を獲得できず、慢性・構造的な人材難にあえいできた。恐らく、産学連携の実質的発展が正攻法である。当フォーラムを契機として何かがスタートすれば、と期待している。

 

 

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2003年5月8日a 癌学会抄録2003

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2003年5月2日a Insulin/IGFと再生・遺伝子治療    

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E3プロモーターで外来遺伝子をドライブするオンコリティックウイルス
Oncolytic viruses pack a timely punch.  その1


2003年4月25日 消化器癌の遺伝子治療   
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