病原大腸菌O-157感染治療指針
(1996年8月1日現在)



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はじめに

 病原大腸菌O-157による感染は、出血性大腸炎(HEC)と、続発して起こる溶血性尿毒症症候群(HUS)と呼ばれる腸管外疾病の二つに大別される。
 HECの臨床像は激しい腹痛・血性下痢を伴う重症のものから軽症あるいは無症状のまま終わるものまで種々で、血便は6〜7割にみられるが、血便がなくても重症化する場合がある。一方、HUSの発症率は約6〜8%で、発病から2〜14日(4〜34日との報告もある)に発症し、(1)消化器症状から引き続き発症 (2)消化器症状が軽快したのち、数日して発症するパターンがある。HUSは急速に発症・進行し、腎障害・神経障害が出現すれば更に重症化し、致命的になるため十分な管理により早期発見に努めることが必要である。
 また、二次感染の危険性を十分認識し、徹底した感染予防・患者指導が必要である。
 HECおよびHUSに対する治療方法は確立されていないが、現在当院では以下の治療方針で診療を行っている。


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外来診療計画

  1. 間診項目:発病日、下痢・血便・腹痛の期間および程度、発熱・嘔吐・頭痛の有無、血尿の有無、尿回数/尿量、出血傾向の有無,意識レベル。
  2. 発病2週までは少なくとも1回/2日受診、検尿、検血、生化学検査(必要と思われる場合は止血検査も)行う。
    3週目は少なくとも2回/週、4週目は1回/週受診し、検尿.蛋白尿/血尿が    みられた場合は血液検査を行う。(症状消失後2週間は要注意)
  3. 初回便培養陽性者は2週間後に便培養(入院患者は毎週)
  4. 入院基準 − 下記の一項目を認めれば入院
  5. 便性の悪化(下痢から血便)、強い腹痛、嘔吐、尿量減少、血尿がみられた り、元気がなく顔色がすぐれない時は早急に外来受診をするように指導する。


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消化器症状に対する治療

  1. 止痢剤(タンナルビン、アドソルビン、ロペミンなど)は禁忌とし、必要で    あれば乳酸菌製剤(Lac-B-R, Bf-R)のみを投与。
  2. 抗菌剤の使用に関しては賛否両論があり、使用に際しても使用時期・使用薬剤の種類、量については定まった見解はないが、病初期にFOMの点滴または内服を行う。症状が軽い場合はFOM+乳酸菌製剤を約1週間内服。


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入院検査治療

  1. 血便・強い腹痛がある間は絶食・補液し、強い症状が続く場合や白血球増多/CRP陽性の改善がみられないような場合はγグロブリン製剤を400mg/kgを使用。
    強い腹痛に対する鎮痛剤としては、セルシンand/orアタPまたはブス コパンの使用を必要最小限に行う(腸管運動を抑制するために要注意)。
  2. 抗菌剤の使用に関しては賛否両論あるが、とりあえずFOM100〜150mg/kgをCRP陰性化するまで使用。
  3. 原則として、検尿は連日、血液検査(検血・生化学)は発病後10日間は連日、その後は1回/2日行う。HUS発症の早期発見には蛋白尿、血尿の出現および血小板減少傾向、LDH上昇傾向のチェックが有用。
  4. 腸重積の合併もあるため、触診を行い、限局性(特に右下腹部)の痛みがある場合(大部分は腫瘤が触知されるが、不明瞭な場合もある)は、腹部エコーを施行。腸重積が疑われる所見が認められた場合は高圧浣腸を行う。
  5. 退院基準
    ただし、退院後もHUSの発症を厳重に注意し、外来フォローする。
    外来診療計画2.参照)


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HUS治療

血小板減少、LDH上昇、尿検査異常をもってHUS発症と判断し、血液浄化療法を含めた以下の治療を行う。

  1. 体液管理;電解質、水バランスのチェック
    (水分過剰にならないように気をつける)
  2. ジビリダモール5mg/kg経口投与
    (血小板2万以下では使用しない)
  3. FOY 2mg/kg/日持続注入
  4. γグロブリン製剤400mg/kg/日
  5. ハプトグロビン100〜150μ/kg/日持続注入
    (溶血が認められるときのみ)
  6. 中枢神経症状を伴う場合や急激な悪化が予想される場合は、血漿交換や血液透析を開始し、血小板の増加・LDHの低下がみられるまで連日行う
  7. 輸血:Hb8g/dl以下で考慮し、原則的には血液浄化療法中に輸血
    (原則的には血小板輸血は行わない)
  8. 乏尿、BUN、Crの上昇があれば血液透析を開始し、必要に応じてフロセマイド・高カロリー輸液+マンニトール100ml/日(40kcal/kg/日、kcal/N比400)を使用する。

●治療についての考察●

 下痢症状発症時の抗生物質投与については上記の如く、これを否とする意見もあるが、細菌数の増加やそれに伴う症状の悪化の可能性を重視し、少なくとも投与により病状悪化の報告のない抗生物質を選び、投与することにした。
   HUSの治療についてはこれまた血漿交換療法の有効性について否定的な意見となんらかの有効性を認める報告とがある。少なくとも悪化を来す報告はないので、この重篤な疾患を治療する医療の現場として実施する方針をとった。
 O―157感染症の治療についてはHUSの治療も含め今後十分な検討が必要で、標準的治療指針の早急な設置が望まれる。


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