第1章 細胞の損傷・細胞死と適応

細胞死

壊死necrosis
アポトーシスapoptosis

細胞損傷の原因

低酸素症 
≠虚血 虚血が主な原因だが、心肺不全や酸素運搬機能低下でも生じる。
物理的要因
化学物質・薬品
微生物
免疫反応
遺伝的異常
栄養障害
老化

細胞損傷のメカニズム

刺激の種類、持続時間、強さに依存する
細胞の種類、状態、適応能に依存する
O2の欠乏、フリーラジカル、Ca2+のホメオスタシスの破綻等が関与している
ex) 細胞内Ca2+増加
→ATPアーゼ↑up→ATP減少
→ホスホリパーゼ↑up→細胞膜損傷
→プロテアーゼ↑up→構造タンパク破壊
→エンドヌクレアーゼ↑up→遺伝子の断片化
虚血性・低酸素性損傷
虚血→酸素欠乏→ATP産生↓down→Na+ポンプ↓down→細胞腫脹→様々な物質流出
→嫌気性解糖↑up→アシドーシス→ライソゾームによる自己融解
→膜損傷
※ 損傷細胞から流出した酵素を血清中で検査することによって、損傷臓器の診断 (心、肝etc)
低酸素症は、酸化的リン酸化を障害し、その結果ATPの生産が障害される。また、それとともに膜の損傷は細胞の致死的損傷に特に重要である。 そしてカルシウムは、細胞死の細胞形態学的変化の発生に重要な仲介物質となっていると思われる。
フリーラジカルを介入した細胞損傷
膜脂質の過酸化
DNAの傷害
蛋白質の交差反応
スルフヒドリル基が介在する蛋白質交差結合を促進する。結果として、蛋白の分解速度が亢進したり酵素活性が低下したりする。また、ポリペプチド鎖の断片化を生じる。
※スーパーオキサイドディスムターゼ、グルタチオン過酸化酵素などによってフリーラジカルの分解が促進され、また、酸化防止剤はフリーラジカルの産生阻害あるいは除去をしていると考えられている。
化学的損傷
細胞内の重要な分子構造や小器官に直接作用するものと、代謝されて作用するものがある。

細胞損傷の型と形態

急性細胞損傷
可逆的損傷
細胞腫脹
細胞がイオンや水分の恒常性を維持できなくなって生じる。
脂肪変性
脂肪代謝に関与する細胞(肝や心筋)で生じる。
壊死
≡生体組織に細胞死が生じた結果生じてくる一連の変化。
酵素による細胞の消化と蛋白質の変性の結果、進行する。
リソソーム酵素が細胞自体から放出される場合を自己融解(autolysis)、炎症細胞から放出された場合を他者融解(heterolysis)と呼ぶ。
プロセスの進行には数時間を要する。
核は、核融解、核濃縮、核崩壊を生じ、1から2日で消失する。
壊死組織は酵素による分解が主体となるか蛋白質の変性が主体となるかで一定の形態変化を生じる。
凝固壊死 蛋白質の変性が主体
凝固した細胞や組織の外形がかなりの日数保存される。分解酵素までが変性した結果、タンパクの融解が生じないためであると考えられている。最終的にはmφに貪食される。脳以外の器官の低酸素症性細胞壊死の特徴である。
液状壊死 酵素による組織の分解が主体、特殊な状況下では、乾酪壊死や脂肪壊死が生じる。
細菌感染や真菌感染で病原体からの刺激で白血球が急激に集積した結果生じる。細胞は完全に分解される。
乾酪壊死 結核菌の感染巣でみられ、中心がチーズ上になる。
脂肪壊死 通常膵臓の損傷後生じる。膵臓酵素群の流失によって脂肪細胞が分解され遊離脂肪酸とカルシウムが結合してチョーク様の病変を形成する。
アポトーシス
様々な内因性(リガンド結合、成長因子欠乏、プログラム細胞死など)あるいは外因性(放射線、フリーラジカル)の誘因によって
1) 細胞内プロテアーゼ活性↑up、Ca2+濃度↑up
2) カルシウム濃度上昇によってさらにプロテアーゼ活性↑up
3) 核クロマチン断片化、細胞骨格崩壊
4) アポトーシス小体形成←貪食
アポトーシス クロマチン濃縮、核崩壊、アポトーシス小体 、炎症
⇔凝固壊死 クロマチン濃縮、細胞内小器官膨化、膜の損傷
損傷に対する細胞内の反応
細胞骨格異常
細胞骨格は微小管、中間径フィラメント、アクチン線維で構成されている。
細胞骨格の異常は、細胞の運動や小器官の移動異常、細線維状物質の蓄積から分かることがある。
リソソームによる分解
異家貪食
自己貪食
ミトコンドリアの数や形の変化
滑面小胞体の誘導
熱ショックタンパク質と蛋白質の移動
heatshock protein
正常の細胞中で産生されているものは、細胞内環境の維持(蛋白質のfoldingや、分解、細胞内の蛋白質の移動)に関与しており、シャペロンとも呼ばれる。また、細胞障害性刺激の後にのみ発現するものは、変性したポリペプチドの再生に重要な役割を果たす。
細胞内蓄積
脂肪変性
実質細胞内にトリグリセリドが貯留する状態。脂肪代謝を行う肝臓でもっともよく見られ、心臓、骨格筋、腎などでも生じる。 毒物、タンパク栄養異常、糖尿病、肥満、低酸素症が原因だが、先進国ではアルコールの多飲が主原因である。細胞死と脂肪変性は必ずしも一致しない。
脂肪変性はトリグリセリドのどの代謝系が障害されても起こりうる。
※摂取された脂肪は肝細胞でエステル化されてトリグリセリドとなり、コレステロールやリン脂質に変化するか、あるいは酸化されてケトン体となる。脂肪酸のあるものは肝細胞の中で酢酸塩類から合成される。トリグリセリドが肝細胞から出ていく際にはアポ蛋白と結合してリポ蛋白となっていることが必要である。
コレステロール及びコレステロールエステル
スカベンジャーmφによる貪食→泡沫細胞化
タンパク質
グリコーゲン
糖尿病では腎尿細管上皮、肝細胞、心筋細胞、ランゲルハンス島β細胞などでグリコーゲン蓄積が見られる。
色素
外来性 炭塵の肺胞mφによる貪食
内在性 リポフスチン、メラニン、ヘミジデリン(ヘモグロビン由来)など
病的石灰化
種々の病態で一般的に見られる現象で、少量の鉄、マグネシウムなどの金属とカルシウム塩が異常に沈着する。
異栄養性石灰化
死んだり死につつある組織で起こり、カルシウムが正常血清レベルでも起こり得るし、カルシウム代謝異常がなくても起こる。
粥状硬化症ではほとんど必発で、太い動脈内皮の損傷領域を示しており、脂質沈着を特徴とする。
心弁膜石灰化→大動脈弁狭窄
転移性石灰化
正常組織中で起こり、ほとんどカルシウム代謝異常によって生じる高カルシウム血症を反映している。

細胞の適応

萎縮
細胞内容減少による細胞の大きさの縮小。萎縮した細胞は機能面では低下していても死んではいない。
仕事負荷の減少、神経支配の消失、血流減少、栄養不足、内分泌刺激の消失、加齢などが原因となって、細胞は小さくなって生存する。
肥大
細胞のサイズの増加及びそれによって生じる臓器サイズの増加。ホルモンの刺激や、負荷の増加によって生じる。生理的な状況でも、病理的な状況でも生じうる。
過形成
ある臓器や組織の細胞数が増加すること。
生理的過形成
^ホルモンによる過形成 思春期や妊娠期の乳腺上皮の増生。
_代償性過形成 肝の部分切除。
化生
一つの成熟した細胞(上皮性あるいは間葉性)が他の成熟したタイプの細胞に置き換わること。
ex) 喫煙常習者における気道の扁平上皮化生

細胞の老化

細胞の内在する成熟分化プロセスと細胞外の環境要因の双方が関与していると考えられている。
消耗説
外因性の不適当な影響にさらされ続けた結果、徐々に細胞の生存能が低下していく。
フリーラジカルによる損傷(DNAの損傷、タンパクのグリコシレーション)
内因性細胞老化説
細胞の加齢による損傷は細胞の遺伝的要因により内在的に決定されている
ヘイフリック現象(胎児の線維芽細胞は50回以上分裂できない。)
体細胞突然変異仮説
複製エラーの修復が適切に起こらず、最終的に細胞の生存能が障害される。
予定加齢仮説
老衰に至る過程は遺伝的に決定されている。テロメア仮説。

第2章 急性及び慢性炎症

急性炎症

数分から数時間ないし数日間の経過をとり、体液及び血漿タンパクの滲出と白血球、特に好中球の遊走を特徴とする。
^血流量を増加させる血管径の変化(血管拡張)
_血漿タンパク質や白血球が血管外に出やすくなるような微小血管の構造の変化
`白血球の微小血管への遊走と傷害部位へ集結
これらは、急性炎症の局所症状、発熱、発赤、腫脹と対応しており、疼痛と機能障害は仲介物質の産生及び白血球の遊走の結果として生じる。

血管の変化

血流及び血管径の変化
小動脈、微小血管の拡張により血流が増加し、発赤と発熱が起こる。
微小血管の透過性が亢進し、血漿タンパクの滲出が起こる。結果として、血液が粘稠となり赤血球が詰まって血行静止が起こる。
白血球(主として好中球)が内皮周辺に集まってくる(辺縁趨向)。白血球は内皮にくっつきその後血管壁を通り抜け間質内に移動する(遊走)。
血管透過性の亢進
内皮細胞の収縮
ヒスタミン、プラジキニン、ロイコトリエンなどにより 細静脈 の内皮が 即時性一過性 (15〜30分)に収縮する。
細胞結合の消失
サイトカインによって細胞骨格が再構築され内皮細胞の接合部が開く。刺激後4から6時間以内に発現し、24時間ないしそれ以上 持続 する。
直接傷害
内皮細胞の壊死や剥離の結果生じる。傷害後すぐに漏れは生じ、傷害された血管に血栓が生じるか修復が行われるまで、数時間から数日にわたり漏れは高いレベルで持続する。(即時性持続性反応) 細静脈、毛細血管、細動脈全てのレベルで起こりうる。
2から12時間遅れて始まり、数時間から数日間持続し、毛細血管及び細静脈がおかされる場合もある。(遅発性遷延性漏出)
白血球依存性傷害
白血球の放出する酵素や毒素により内皮が障害される。白血球の接着しやすい細静脈や肺毛細血管で生じやすい。
細胞内通過の亢進

白血球細胞の変化

ローリング
炎症の初期に血管の透過性が上昇する結果、液体成分の流出によって血流が遅くなり白血球は内皮の側に寄ってくる。さらに、白血球は内皮細胞の表面にまとわりつき、一時的に流れに沿って付着する。
一時的な癒着にはセレクチンが関与している。
内皮細胞表面のE-selectin、内皮及び血小板表面のP-selectinは、白血球表面のシアル酸と結合しているオリゴ糖と結合する。また、白血球表面のL-selectinは内皮細胞表面のムチン用糖蛋白の炭水化物残余(CD34など)と結合する。内皮細胞のセレクチンは正常の細胞ではほとんど出現せず、炎症仲介物質の刺激によって生じ、白血球は障害部位にしか結合しない。
接着及び遊出
白血球は内皮細胞に強固に接着し、血管外へ遊出する。
内皮細胞の接着分子にはICAM-1(intracellular adhesion molecule 1),VCAM-1 (vascularadhesion molecule 1)があり、種々のサイトカインにより発現する。ICAM-1の主要なインテグリン受容体はLFA-1およびMac-1があり、VCAM-1にはVLA-4インテグリンがある。これらは白血球上のリガンドは、走化因子ないし他の刺激によって活性化されて初めてリガンドと結合する。
内皮細胞と強く結合した後、白血球は細胞間隙に沿って細胞の間を通り抜ける。
一般に急性炎症では、まず浮腫がおこり、その後6〜24時間では好中球が主体であり、24〜48時間では単球が主体となる。
走化性及び活性化
走化性
血管外へ遊走した白血球が化学物質の濃度勾配に沿って遊走する過程
走化物質
水溶性の細菌産生物質
補体システムの構成要素、特にC5a
アラキドン酸代謝経路の中にあるリポキシゲナーゼ産物、特にロイコトリエンB4
サイトカイン、特にケモカイン
走化性物質が白血球表面の特異的な受容体と結合すると、リン脂質代謝物質が生じ、結果として細胞内カルシウムが↑upし、極値に達する。カルシウム濃度の上昇が引き金になって細胞骨格が収縮し、白血球は偽足をのばし、移動する。
走化性物質は白血球の移動を引き起こす一方で、白血球の活性化も引き起こす。
白血球の活性化(リン脂質からアラキドン酸代謝産物を産生、リソソーム酵素の放出、接着分子の数の調節。)
食作用と脱顆粒
^貪食能のある白血球の粒子の認識と接着
_飲み込み、およびそれによる貪食空胞の形成
`貪食された物質の殺作用ないし分解
細菌上のオプソニン(IgGのFcや補体のC3b)が、白血球上のFc受容体や補体受容体(CR1,2,3,)と結合することにより、細菌が認識される。
オプソニン化された粒子との結合が起こると、飲み込みが起こり食胞が形成され、食胞はリソソーム顆粒と融合しリソソーム顆粒の放出(脱顆粒)が起こる。
貪食された細菌の殺菌は、過酸化水素および次亜塩素酸ラジカルによる酸化作用による。過酸化水素はカタクラーゼで分解され、死んだ微生物はリソソームの酸性加水分解酵素で分解される。
NADPHの急激な酸化→O2の過酸化イオン化→過酸化水素
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)はハロゲン化物の存在下で過酸化水素を次亜塩素酸ラジカルに変化させる。
殺菌作用は酸化以外に、殺菌作用のある透過性亢進タンパク質(bactericidal permeability increasing protein (BPI ))、リゾチーム、ラクトフェリン、細菌に穴をあけるディフェンシンなどがある。
白血球誘発性組織傷害
貪食により放出されるリソソーム酵素や、放出されら活性酸素、アラキドン酸代謝産物などが組織障害を起こすことがある。
白血球機能の欠損
註レ着の欠陥
白血球インテグリンのCD189サブユニットの合成欠損により内皮細胞との接着が上手くいかない。
淘哩サ性及び食作用の欠陥
博E菌活性の欠陥
急性炎症反応の総括
急性炎症時の血管の変化は小血管および毛細血管の拡張による血流の増加が特徴である(発赤及び発熱)。血管透過性の亢進は、小静脈の内皮細胞間の細胞結合が拡がる場合と内皮細胞が直接障害される場合があり、タンパク質に富んだ細胞外液が増加する(組織浮腫)。白血球、大部分は好中球であるが、最初は内皮細胞に接着し、内皮細胞間の経路を通って微小血管の外に出て、走化性因子の影響下に損傷部位に向かって遊走する。それに引き続いて有害因子に対する食作用が起こり、それによって微生物を殺菌する。走化及び貪食の経過中に活性化された白血球は毒性のある代謝産物やプロテアーゼを細胞外に放出するが、この物質は潜在的に内皮細胞及び組織を障害する作用がある(疼痛及び機能障害)。

炎症の化学的仲介物質

血管作動性アミン
ヒスタミン は主として肥満細胞の顆粒内にあり、様々な刺激によって肥満細胞の脱顆粒が起こると放出される。
^物理的損傷
_Fc受容体へのIgEの結合
`補体のC3a,C5aフラグメント(アナフィラトキシン)
a好中球由来のヒスタミン放出タンパク
b神経ペプチド
cある種のサイトカイン
ヒスタミンは、小動脈を拡張させ、内皮細胞を収縮させ細胞結合を拡げて、即時的血管透過性亢進を仲介する。
セロトニン はヒスタミン同様の作用をもち血小板の凝集により血小板から放出される。
血漿プロテアーゼ
凝固系
肝臓で合成されたハーゲマン因子(ェ因子)は、膠原線維、基底膜、活性化された血小板と出会い活性化される(ェa)。ェa因子は多種の蛋白質を分解し、結果としてトロンビン(a因子)が活性化され、血中のフィブリノーゲンを分解してフィブリン塊が生じる。
またフィブリノーゲンの分解によって生じたフィブリンペプチドは血管の透過性を上昇させ、白血球の走化性を促す。
ェa因子は凝固と同時に線溶系も活性化させ、フィブリン塊を分解し凝固の調節を行っている。
補体系
補体の内、C3bが炎症反応では血管透過性の亢進と、白血球に対する走化性を持っている。
C3の活性化には抗体(IgM、IgG)との結合による 古典的経路 と、細菌の内毒素、因子Bなどが関与する 副経路 があり、どちらの経路を通った場合も、C3は、C3転換酵素によってC3a,C3bに分解される。
C3bはさらに、C3転換酵素複合体と結合してC5転換酵素を形成し、C5をC5aとC5bに分解し、C5bは最終的にC5からC9までの複合体MAC(membrane attack complex)を構成し、微生物の膜に穴をあける。
C3a,C5aはアナフィラトキシンとよばれ、血管透過性の亢進、肥満細胞からのヒスタミン放出を行う。
C5aは白血球を活性化させ、インテグリンとの親和性を増加させて、内皮との付着性を高める。
C3bおよびC3biは微生物表面に付着してオプソニンとして作用する。
C3およびC5は、プラスミンや好中球から放出されたリソソーム酵素などによっても活性化され、さらに増加する。
キニン系
血中の高分子量キニノーゲンから最終的にはブラジキニンができる。
ブラジキニンはヒスタミンと同様、細動脈の拡張、細静脈の透過性亢進、血管以外の平滑筋収縮を引き起こす。 ブラジキニンはキニナーゼによって急速に不活化されるので反応は初期の血管透過性亢進に限られる。
アラキドン酸代謝物:プロスタグランディン及びロイコトリエン
サイクロオキシゲナーゼ経路
アラキドン酸からプロスタグランジンG2を介してプロスタグランジンH2から、PGI2(プロスタサイクリン),PGD2,PGE2,PGF2α,TXA2(トロンボキサンA2)が合成される。
PGI2(プロスタサイクリン)
血管拡張を起こし、血小板凝集を 阻害
PGD2,PGE2,PGF2α
血管拡張、浮腫を起こしうる
TXA2(トロンボキサンA2)
血管収縮を起こし、血小板凝集を 促進
リポオキシゲナーゼ経路
5-リポオキシゲナーゼ(好中球に多い)による代謝産物である5-HPETEは、好中球に走化性のある5-HETEに還元されるか、ロイコトリエンに変換される。
ロイコトリエンB4
強力な走化性
ロイコトリエンC4,D4,E4
血管収縮、気管支攣縮、血管透過性亢進
アスピリンや非ステロイド抗炎症剤(nonsteroidal anti-inflammatory agents NSAIDs)はサイクロオキシゲナーゼ経路を阻害する。一方で、リポオキシゲナーゼ系は阻害されない。ステロイドは膜リン脂質からアラキドン酸が分解される元のところを阻害するので、両経路を阻害する。
血小板活性化因子
好中球、単球、好塩基球、内皮、血小板の膜リン脂質からホスホリパーゼA2によって生成される。血小板を凝集し、脱顆粒させる。さらに、血管収縮、血管透過性亢進作用があり、効果はヒスタミンの数百から数千倍である。
サイトカイン
多くの細胞から産生されるポリペプチドで、自己分泌効果、傍分泌効果、内分泌効果がある。
インターロイキン 1(IL-1)、TNF( tumor necrosis factor)
活性化された大食細胞から産生され、内皮細胞を活性化し、白血球の接着↑up、分泌↑up、血栓生成↑upなどを起こす。
感染や傷害に合併することも多く、急性期の全身反応も引き起こす。
インターフェロンγ( IFN-γ )
主としてT細胞から分泌され、マクロファージ、好中球を活性化させる。
ケモカイン
ジスルフィド結合ループを二カ所持つ、タンパクの一群である。強力な走化性を持ち、ある種のサイトカインの効果も持つ。
フリーラジカル
NO
短時間作用する水溶性のフリーラジカルで、種々の修飾因子の機能を仲介する。
^血管拡張、_血小板活性化にたいする拮抗作用、`活性化されたマクロファージ内での殺菌活性
酸素由来のフリーラジカル
^内皮細胞傷害、血栓形成、透過性亢進、_プロテアーゼの活性化、アンチプロテアーゼの不活化、細胞外マトリックスの破壊、`他の型の細胞の直接傷害
様々な抗オキシダント機構により酸素化好物の毒性は組織中や血清中で調節されている。
リソソームの構成要素
酸性プロテアーゼ
酸性で活性を示し、活性を示すのは貪食リソソーム内のみ。
中性プロテアーゼ
細胞外マトリックスで活性を示し、組織障害の原因となる。また、C3およびC5を直接分解してC3a,C5aを生成し、キニノーゲンからブラジキニン用のペプチドを産生する。
急性炎症仲介物質のまとめ
血管拡張
プロスタグランジン(PGI 2 ,TXA 2 )
血管透過性の亢進
ヒスタミン、アナフィラトキシン(C3a,C5a)、キニン、PAF、ロイコトリエンC,D,E
走化性
C5a、LTB4、ケモカイン
白血球及び内皮の活性化
サイトカイン、プロスタグランディン
組織傷害
NO、フリーラジカル、リソソーム酵素

急性炎症の結末

抽ョ全治癒
破壊が軽度で再生が可能な場合、完全に修復される。化学仲介物質は中和除去され、炎症もとまり、リンパと大食細胞により浮腫やごみは除去される。
乍麹ュ、線維化
相当量の破壊が起こった場合、結合組織が穴を埋め、塊状の線維組織が形成される。
白ラ瘍形成
ある種の最近や真菌感染の場合
楓攝ォ化

慢性炎症

数日から数年持続し、リンパ球や大食細胞が組織破壊や修復及び血管や結合組織の増生がみられる。
^大食細胞やリンパ球、形質細胞等の慢性炎症細胞の浸潤
_炎症細胞浸潤による組織破壊
`新生血管の増生を含む修復と線維化
原因
結核菌や梅毒、一部真菌の持続感染
潜在的に毒性を有する物質の曝露
自己免疫
慢性炎症細胞
活性化されたT細胞からのIFN-γや菌体内毒素、フィブロネクチンなどによってマクロファージが活性化されると、組織破壊、血管新生、線維化に重要な仲介物質を分泌する。
組織傷害
プロテアーゼ、好中球走化因子、凝固因子、アラキドン酸代謝産物、NO
線維化
成長因子、線維形成性サイトカイン、血管形成因子
活性化されたマクロファージの抗原提示やサイトカイン(IL-1,TNF)によりさらにTリンパ球は活性化され、IFN-γをさらに分泌するので、リンパ球とマクロファージの相互作用で炎症が持続する。
そのほかに、活性化B細胞が最終段階まで分化した形質細胞や、寄生虫感染巣周囲の炎症巣や IgEに仲介される免疫反応の場に特徴的な好酸球がみられる。
肉芽腫性炎症
腫大した扁平上皮様(類上皮)の外観を呈する活性化した組織球の集合が見られる。類上皮細胞の小結節の周りにはリンパ球が取り囲んでおり、しばしば、巨細胞が肉芽腫の周辺部時には中心部に見られる。

リンパ管及びリンパ節の炎症における役割

急性及び慢性炎症のおける形態学的パターン

漿液性炎症
水様で比較的タンパクの少ない滲出液が流出する。血清や腹腔、胸腔、心嚢の中中皮細胞からの分泌によって生じる。火傷やウイルス感染による皮膚の水疱など。
繊維素性炎症
漿液性炎症よりも重症な場合で、血管透過性がより亢進し、フィブリノーゲンなどの大きな分子も内皮を通過する。繊維素性滲出物は溶けたり、マクロファージによって処理されたりして除去され、正常の組織が回復する(消散)。しかし、フィブリンが除去されない場合、線維芽細胞と血管が進入し、瘢痕が形成される(器質化)。
化膿性炎症
好中球や壊死細胞、浮腫液からなる膿が大量に存在する。膿瘍は可能性微生物が組織中深く侵入したり、壊死組織に二次的に感染が起こった場合などに生じる、局所的な膿の集積である。典型的な膿瘍では、中心部に壊死領域があり、その周りを好中球が縁取り、さらに外側には拡張血管と線維芽細胞の増殖が見られる。しばらくすると、膿瘍は結合織で隔絶され、拡大は止まる。
潰瘍
上皮表面(皮膚、胃粘膜、結腸粘膜、膀胱上皮)が壊死におちいり侵食された炎症部位のこと。上皮下に急性ないし慢性の炎症を伴うことが多い。上皮表面が中毒性ないし外傷性に傷害された場合や、血管の障害によって生じる。急性期には多形核白血球の高度の浸潤と周辺の血管拡張が見らえる。慢性化すると侵食の繰り返しによって周辺は瘢痕化し、慢性炎症細胞が集結してくる。

炎症の全身症状

急性期反応
もっとも顕著な反応は発熱であり、そのほかに徐波睡眠、食欲不振、骨格筋タンパクの分解促進、低血圧、肝臓における補体や凝固系タンパクの合成、血中の白血球の変化など
サイトカイン
IL-1,IL-6,TNF等のサイトカインは急性相における仲介物質として最も重要なものであり、白血球から感染や免疫学的ないし中毒性傷害に対する反応として産生される。
白血球増多症
特に細菌感染による炎症反応で見られ、通常4000〜10000/mm3の白血球が40000から100000にまで増加することがある。急性期には炎症細胞の産生するIL-1,TNFによって未熟な白血球が大量に放出されることにする。長期化すると骨髄の前駆細胞の増加が見られる。
微生物感染
細菌感染では、一般に好中球の増加が見られる。寄生虫感染では、好酸球が増加する。一部のウイルス感染では、リンパ球増多が見られるが、大部分のウイルス感染、リケッチア、原虫及びある種の細菌感染症では白血球が減少する。

第3章 修復:細胞の再生、線維化及び創傷治癒

再生

損傷部位における細胞増殖と文化の調節

細胞の種類による細胞周期と増殖能
細胞増殖の分子生物学
増殖抑制
増殖因子

細胞外基質並びに細胞・基質間の相互作用

結合組織による修復

血管形成
線維化(線維形成)
瘢痕の再編成

創傷治癒

一次創傷治癒
二次創傷治癒
創傷の強さ

修復の病理学的側面

炎症-修復反応の概観

第4章 血液の異常とショック

浮腫

充血とうっ血

出血

止血及び血栓症

正常の止血
内皮細胞
血小板
凝固経路
血栓症
病理発生
血栓の帰転
播種性血管内凝固

塞栓症

肺血栓塞栓症
全身性血栓塞栓症
脂肪塞栓症
空気塞栓症
羊水塞栓症

梗塞

ショック

敗血症ショックの病態
ショックの病期

第5章 免疫系の異常

第6章 腫瘍

第7章 遺伝性疾患及び小児疾患

遺伝性疾患

突然変異

メンデルの法則に従う疾患(単一遺伝子の異常による疾患)

多因子性の遺伝を示す疾患

細胞遺伝学的疾患

非定型的な遺伝様式をとる単一遺伝子疾患

小児疾患

先天性奇形

変形

周産期感染症

未熟児と子宮内発育遅延

新生児呼吸窮迫症候群

乳児突然死症候群

胎児赤芽球症

嚢胞性線維症

乳児及び小児期の腫瘍と腫瘍様病変

遺伝性疾患の診断