“SLE”by Fujii 2000.7.18 

SLE(全身性紅斑性狼瘡;systemic lupus erythematosus)とは?

遺伝素因と環境因子の関わりによる自己抗体や免疫複合体の出現等に基づく多臓器障害を主徴とする疾患である。本疾患名は,特徴的な顔面の蝶形紅斑が飢えた狼による傷(狼蒼,ループス)に似ていることに由来するが,臨床症状は皮疹にとどまらず,実に多彩で,発熱,多関節痛および多関節炎,漿膜炎,貧血,血小板減少,腎症状,神経症状などがある。SLEは圧倒的に女性,特に20〜30歳代の女性に好発し,発症の男女比は1対10とされている。我が国には7,000〜9,000人の患者が存在し,有病率は人口10万人あたり66〜85人と推定される。原因は不明。
遺伝因子
HLAとの関連や家族性が指摘されている。
環境因子
紫外線、ホルモン、感染、寒冷

自己免疫疾患、膠原病、SLE
自己免疫疾患のうち、代表的なものが膠原病で、膠原病のうちもっとも多臓器にわたるのが特徴なのがSLE。つまりマ自己免疫疾患>膠原病>SLE
自己免疫疾患
自己の組織を構成する成分に反応する抗体,あるいはリンパ球が,持続的に産生されることによって組織障害をきたす疾患.Roittによると,1)臓器特異的自己免疫疾患で自己抗体も臓器特異的なもの(橋本病,自己免疫性溶血性貧血,交感性眼炎,天疱瘡,Goodpasture症候群など),2)臓器特異的自己免疫疾患で自己抗体は臓器非特異的なもの(原発性胆汁性肝硬変症,Sjo¨gren症候群など),3)臓器非特異的自己免疫疾患で自己抗体も臓器非特異的なもの(全身性エリテマトーデス,全身性進行性硬化症など)に分類される
膠原病
Klemperer(1943年)により提唱された病理学的な疾患概念で,全身性エリテマトーデス全身性進行性硬化症結節性多発性動脈炎皮膚筋炎リウマチ熱慢性関節リウマチの6疾患を包括的にさす.すなわち,Klempererは,これらの6疾患においては,全身に系統的にみられる病変部にフィブリノイド変性と結合組織の粘液性膨化が共通してみられることから,これらの疾患は結合組織の膠原線維に変化が起こるという共通点をもっていることを指摘した
自己免疫疾患の機序
環境要因/隔絶自己抗原や修飾された自己抗原
・水晶体や精子は免疫系から隔絶されているが、感染などでこれらの組織の抗原が血中に漏出することにより免疫応答が生じる。
・感染体の一部が自己成分との間に分子相同性がある。
遺伝的要因-主要組織適合遺伝子複合体(MHC)
・HLA(MHC)の多形性により呈示できる抗原が異なり、ある種の疾患ではリスクが高くなる。
免疫学的素因-自己反応性T、Bリンパ球の活性化
・CD4+Tcell(helperT)の活性化
・サプレッサーT細胞の機能障害
・CD4+TcellによるCD8+cell(killerT)の活性化
・サイトカイン(IL-6など)の過剰産生によるBcell活性化
・CD4+TcellによるBcell活性化
・EBV感染などによる多クローン性のBcell活性化

 
アレルギーの4種
沍^アレルギー
IgEを介した即時型アレルギー反応
型アレルギー
抗体が標的細胞表面の抗原に結合して起こす細胞障害
。型アレルギー
免疫複合体の組織沈着に由来する組織障害
「型アレルギー
細胞性免疫、すなわち活性化されたTリンパ球による組織障害

SLEでは・・・
SLEではトレランスが破綻するので、抗赤血球抗体により赤血球が破壊されて貧血を起こしたり(型アレルギー)、抗核抗体、特に抗DNA抗体は免疫複合体を形成し腎臓に沈着してループス腎炎を引き起こす(。型アレルギー)、また感作T細胞により全身の組織が障害される(「型アレルギー)。
。型アレルギーでは補体が消費されるので低補体血症になる
SLEは、まず免疫異常があって、それにアレルギー反応や炎症などがおこり、結果として臓器障害を生じるというステップを経過する。
診断
    1. 初発症状は関節炎や紅斑が多い
    2. 全身症状、皮膚関節症状、臓器症状を再チェック
    3. 基本的検査でスクリーニングを行う
      1. 赤沈亢進、γグロブリン増加→病気あり
      2. CRPや白血球増加→炎症性疾患
      3. 検尿、生化学、胸部X-P→臓器障害
      4. 手などのX-P→間接病変の程度と種類
      5. 抗核抗体やリウマチ因子(RF)→膠原病の鑑別
    4. 診断は診断基準に当てはめて行う
    5. 特異性の高い検査を活用して確定診断する
      他の膠原病との鑑別(特に初期には慢性関節リウマチとの鑑別が重要)

診断基準
    全身エリテマトーデス診断基準(アメリカリウマチ協会,1982(※1997一部改訂)
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  診断基準                定義
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1.頬部紅斑     頬骨隆起部上の平坦あるいは隆起性の固定した紅斑 =蝶型紅斑
 Malar rash
2.円柱状紅斑    付着する角化性落屑および毛嚢栓塞を伴う隆起性紅斑性 =ジスコイド疹
 Discoid rash   局面,陳旧性病変では萎縮性瘢痕形成がみられることが
          ある。
3.光線過敏症    患者の病歴あるいは医師の観察による日光に対する異常
 Photosensitivity な反応の結果生じた皮疹。
4.口腔内潰瘍    医師の観察による口腔もしくは鼻咽頭潰瘍。通常は無痛
 Oral ulcers    性である。
5.関節炎      圧痛,腫脹あるいは関節液貯留により特徴づけられ,2
 Arthritis     つあるいはそれ以上の末梢関節をおかす非びらん性関節炎。
6.漿膜炎      a)胸膜炎−−−信頼し得る胸膜炎による疼痛,もしく
 Serositis     は医師による摩擦音の聴取,もしくは胸水の所見。
          あるいは,
          b)心膜炎−−−心電図,もしくは摩擦音,もしくは心
          嚢水の所見により証明されたもの。
7.腎障害      a)0.5g/日以上,もしくは定量しなかったときは3+以
 Renal disorder  上の持続性蛋白尿。
          あるいは,
          b)細胞性円柱−−−赤血球,ヘモグロビン,顆粒,尿
          細管性円柱あるいはそれらの混合。
8.神経障害     a)痙攣−−−有害な薬物もしくは既知の代謝異常,例
 Neurologic    えば尿毒症,ケトアシドーシスあるいは電解質不均
 disorder      衡などの存在しないこと。
           あるいは,
          b)精神障害−−−有毒な薬物あるいは既知の代謝異常
           例えば尿毒症,ケトアシドーシス,もしくは電解質
           不均衡の存在しないこと。
9.血液学的異常  a)溶血性貧血-網状赤血球増多を伴うもの。
 Hematologic   b)白血球減少症-2回あるいはそれ以上の測定時に総白血球
 disorder      数が4,000/mm3未満であること。あるいは、
         c)リンパ球減少症-2回あるいはそれ以上の測定時に1.500
           /mm3未満であること。あるいは、
         d)血小板減少症-有害な薬物の投与なしに10万/mm3未満であること。
10.免疫学的異常  a)抗cardiolipin-IgG・IgM抗体陽性又は ループスアンチコアグラント陽性
            
(以前は、LE細胞陽性)
           あるいは、
  Immunologic  b)抗DNA抗体:天然のnativeDNAに対する抗体の異常高値。あ
  disorder     るいは、
         c)抗Sm抗体:Sm核抗原に対する抗体の存在、あるいは、
         d)血清梅毒反応の生物学的偽陽性:少なくとも6か月間陽性
         でTreponema pallidum非働化あるいは螢光トレポネーマ
         抗体吸収試験により確認されたもの。
11.抗核抗体    免疫螢光抗体法もしくはそれと等価の方法で、経過中のどの
 Antinuclear   時点にでも異常高値を示す抗核抗体を検出すること。
 antibody    “薬剤誘発性ループス症候群drug induced lupus syndrome”
         と関連していることが知られている薬剤投与のないこと。
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 診断:経時時、同時、あるいは経過中のどの時点にでも、上記11項目中、4項目以上
存在する場合、SLEと診断する。             
※一般に抗核抗体(+)+他3項目(+)

治療
環境因子(感染、妊娠、紫外線など)←誘因の除去
自己抗体産生←大量ステロイド、免疫抑制薬、血漿交換、NSAID
組織障害←血管拡張薬、障害された臓器に対する補償療法(血液透析など)

予後
早期診断早期治療が可能になり、免疫抑制療法などの治療法の確立、感染、腎不全などの合併症、副作用に対する治療法の進歩によって10年生存率は90%以上と言われている。また、死因はSLEそのものより、感染などの合併症が多い。

参考
北里大学 内科診断検査アクセス
http://bme.ahs.kitasato-u.ac.jp/qrs/imd/imd00209.html

わかりやすい内科学 文光堂
ロビンス基礎病理学 廣川書店

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