“肝癌” 2000.08.09 by fujii 


肝腫瘍

肝腫瘍には原発性肝癌と転移性肝癌がある。

原発性肝癌の90%は肝細胞癌であり、原因は主としてHBV or HCV。
転移性肝癌の原発巣は、大腸癌、胃癌、胆嚢癌、膵癌。
※肝細胞肝癌と転移性肝癌の鑑別
肝細胞癌は、
肝硬変、ウイルス性肝疾患をほとんど(80%以上)が併発している。
AFP, PIVKA-II陽性 CEA陰性
単発が多く、被膜や中隔を認めやすい
血流が多く、主として肝動脈からの栄養を受ける。
転移性肝癌は、
肝硬変、ウイルス性肝疾患の併発なし。
AFP, PIVKA-II陰性 CEA陽性
多発が多く、被膜、中隔はない
血流は乏しく、動脈、門脈の両方から栄養を受ける。

肝細胞癌

ウイルス性肝炎マ慢性肝炎マ肝硬変マ肝細胞癌 というのが、一般的
HBV、HCV以外に、ヘモクロマトーシス(一方で、ウィルソン病では肝硬変までしかいかない)や糖原病との併発が多い。アルコールは単独では発癌作用がないが、HCVによる癌化を促進する。

画像診断

エコー
周辺低エコー(halo)⇔転移性肝癌ではBull's eye(低エコーの輪が厚い)
モザイクエコー:壊死や、出血、分化度の違う結節の混在によりモザイク状に見える。
ダイナミックCT
造影剤は、静注すると右心マ肺マ左心マ動脈マ肝(動脈優位相)
                    マ消化管マ門脈マ肝(門脈優位相)
さらに全身を循環してもどってくる(平衡相)という経路をとる。
肝細胞癌では、動脈から栄養を受けるので、動脈相で濃染し、その後黒く抜ける。

腫瘍マーカー
AFP(α-fetoprotein)
正常では胎児期に産生される蛋白で、肝芽腫、肝細胞癌、yolk sac tumor 、転移性肝癌で増加。
PIVKA-II (protein induced by vitamin K absence-II)
ビタミンK不足により、prothrombinの前駆体が増加する。肝細胞癌以外に、warfarin(ビタミンK拮抗薬)や、広域スペクトルの抗生物質投与でも増加する。

治療
第1選択
肝切除
肝細胞癌は門脈を通じて肝内転移するので、癌の存在する門脈区域(クイノー肝区域)を切除する。
肝不全では禁忌。また、癌がいくつもの区域にまたがる場合不可能。
経皮エタノール注入療法(percutaneous ethanol injection therapy: PEIT)
エコーを見ながら針を刺して、主要部分にエタノールを注入しエタノールの脱水作用により腫瘍を壊死させる。
第2選択(∵全ての肝細胞癌を殺せるわけではない)
TAE(transcatheter arterial embolization、肝動脈塞栓療法)
肝細胞癌は95〜99%固有肝動脈の枝から栄養されているので、肝動脈を塞栓させ腫瘍細胞にダメージをあたえる。正常肝細胞は門脈からの栄養で生きることが可能。実際には塞栓の前に抗癌剤を投与。

ウイルス性肝炎

肝炎ウイルス

A
B
C
D
E
遺伝子型
RNA
DNA
RNA
RNA
RNA
感染経路
経口
血液
血液
血液
経口
肝炎
急性
急性と慢性
慢性化しやすい
急性と慢性
急性
ワクチン
発癌
++


※D型 B型肝炎の存在下でしか感染しない(∵HBs抗原要)
※E型 妊婦で重症化
※B型の感染力は非常に強い(C型の10万倍)

B型肝炎
B型肝炎ウイルスの構造

外側からエンベロープ(HBs抗原)、カプシド(HBc抗原)、DNAとDNApolymerase
過剰に産生された、HBs抗原は不完全粒子、HBc抗原はHBe抗原として血液中に放出される。
HBc抗原は細胞内にあるので血液中には放出されない。(検査できない)
抗原・抗体検査
HBs抗原(+)⇒現在B型肝炎ウイルスに感染している。
HBs抗体(+)⇒かつてB型肝炎ウイルスに感染したorワクチンを接種した
HBe抗原(+)⇒血中に大量にウイルスが存在し、感染力大。原則的にHBs抗原も(+)
HBe抗体(+)⇒B型肝炎ウイルスに感染していたとしても、感染力小。
HBc抗体(+)⇒感染初期から(+)になる。
抗体はc、e、sの順に出現し、HBs抗体が出現したらウイルスは完全になくなったといえる。
HBs抗原(+)⇒B型キャリアであり、感染力はHBe抗原、抗体を目安にする。

B型肝炎ワクチンには酵母に組み込んで生成したHBs抗原を用いる。
妊婦のキャリアにはHBワクチン(HBs抗原)と、ヒト免疫グロブリン(HBIG)を投与し、母子感染予防が行われている。

インターフェロン
慢性肝炎の治療にはインターフェロン(主としてIFNα)が用いられている。インターフェロンはウイルス複製の抑制、細胞性免疫の増強の働きをする。


※補足
CTA(CTHA, CT during hepatic arteriography)
総肝動脈から直接造影剤を入れるので、動脈から栄養される肝細胞癌が白くなる。
CTAP(CT during arterial portography)
上腸間膜動脈あるいは脾動脈から造影剤を入れるので大部分は門脈から入り、肝細胞癌は黒っぽくなる。