第2章-頭頚部-
2.14 外耳・中耳・内耳 (図782,826,836,915--920,922--924,926--939)

左右どちらか一側で行なう。もう一側は本学医師が耳科手術の練習に用いるので手をつけないで欲しい。諸君の協力があれば、いずれ本学でも耳科手術の同門会研修が定期的に開催できるようになるだろう。

1) 耳介は先天異常の多い部位であり、へこみやでっぱりの名称をさらりと一度は確認しておきたい(図915)。耳の発生はラングマン p.312-321 参照。耳介を動かす筋や耳介の軟骨も、余裕があれば剖出する(図 916--918)。耳介の観察を終えたら、メスで耳介側頭骨から剥がし取る。必ず、外耳道の切断面を確認しておく。この機会に、乳様突起に付く筋(胸鎖乳突筋、顎二腹筋、頭最長筋、頭板状筋)を確認したい。また、茎状突起の根部で顔面神経茎乳突孔{はいるところを必ず確認しておく(図836,936)。

External/Middle/Internal ear 外耳/中耳/内耳
Auricle 耳介
Temporal bone 側頭骨
External acoustic meatus 外耳道
Mastoid process 乳様突起
Styloid process 茎状突起
Stylomastoid foramen 茎乳突孔





2) 内頭蓋底側頭骨錐体を確認し、その前面をノミで3mm程度ずつ、根気良く広範囲に削り落としていく。乳突蜂巣が蜂巣状の空間として彫り出される(図936)。外耳道が開放される深さまで、鋸を用いて側頭骨鱗部をくさび状に落としておくと効果的である。錐体外側部(乳突部)では乳突蜂巣が次第に露出・拡大していく。外耳道を上壁前壁から開放し、さらに乳突洞がパカッと開いたら(図937)、鼓膜は近い。さらに慎重にノミを進めて鼓膜を露出させる。鼓膜の扱いが悪いと、続く耳小骨も破損してしまう(図928,926)。鼓膜に緊張部弛緩部を区別する(図XXX,924)。

Petrosal part側頭骨錐体Pyramis
Mastoid antrum (Mastoid air cell)乳突洞(乳突蜂巣)
Tympanic membrane鼓膜
Pars tensa/Pars flaccida緊張部/弛緩部
Auditory ossicles耳小骨



3) 錐体前面内側部に溝を付けて走行している大錐体神経を確認する(図937)。硬膜と共に神経がはがれていても、溝だけは分かるはずだ。この神経は直線的に顔面神経膝(内耳)に続いている。錐体前面内側部をノミで削る際は、できるだけ大錐体神経を保存して、今どこを削っているかというオリエンテーションを付ける。供覧標本を何度も見ながら作業する。 4) 上咽頭で耳管の外口を確認し、そこからゾンデを挿入しておく(図XXX,XXX)。耳管は、概ね蝸牛の前下縁を経て鼓室に至るので、大錐体神経と共に今後の作業のめやすになる。
Greater petrosal nerve大錐体神経
Genu of facial nerve顔面神経膝
Upper pharynx上咽頭
Auditory tube耳管
Cochlea蝸牛
Tympanic cavity鼓室



5) 外耳道を開放する過程で鼓膜が露出する以前に、錐体内側部で突然、鼓室上陥凹という部分が開放されることがある(図922,924)。今までの乳突洞とは様子が違うことを感じ取れるかどうかが勝負だ。それらしい腔所が開いたら、ピンセットでそっと中を探り、耳小骨の有無を確認する(図926)。鼓膜が露出してから鼓室上壁を開放すると、覚悟ができていて確実である。鼓室の上陥凹であることが確認されれば、さらに錐体上面もノミで剥離して、上方と前方から視野を広げる。 慎重に作業しないと、耳小骨がはずれたり飛んで行ってしまう。そうなると、ツチ骨に密着して鼓室を横切る鼓索神経も切れてしまう。耳小骨はむやみにはずしてはいけない。後の作業中に耳小骨がはずれないように、原位置のままゼリー状アロンアルファで軽く固定しておく(図927,926)。ツチ骨にはを区別する。キヌタ骨には長脚短脚がある。アブミ骨は内耳の剖出が進んでから見た方がいい。繰返すが、耳小骨をはずさないように注意する。
*Epitympanic recess鼓室上陥凹(上鼓室)
Auditory ossicles耳小骨
Malleusツチ骨
Chorda tympani nerve鼓索神経Chorda tympani
Incusキヌタ骨
Stapesアブミ骨



ここで余裕があれば、乳突洞を外側からノミでクレーター状に削って、鼓室を後下方からも解放してみる。見えにくかった岬角アブミ骨が直視下に見える。外耳道骨壁をできるだけ温存しながら鼓室のすべての部分を直視下に見えるようにする。これは耳鼻科でしばしば行うposterior tympanectomyという手術アプローチである。外耳道の壁はなるべく温存する。顔面神経の下行部を温存するため、クレーターをあまり拡大してはいけない。 6) 顔面神経内耳神経を損傷しないように、内耳孔から内耳道をノミで慎重に開放する。ノミで削りながら顔面神経を追跡し、大錐体神経と合流して直角に方向を変える部位を見い出す(図929,931,932,935)。そこを顔面神経膝と呼び、膝神経節がある(図932,801)。示説標本を何度も見て位置を確認する。顔面神経を膝から末梢側に注意深く追求するにつれて、鼓室の上からの視野が広がり、アブミ骨が上から見えるようになる。
Promontory of tympanic cavity(鼓室の)岬角
Vestibulocochlear nerve内耳神経
Opening of internal acoustic meatus内耳孔
Internal acoustic meatus内耳道
Greater petrosal nerve大錐体神経
Geniculate ganglion膝神経節



7) 以上の過程で三半規管の断面が見えるので、外側いずれの半規管か同定する(図 937--939)。蝸牛の一部が露出した場合は、全体を掘り出すように努める。ノミは薄片を削るように用いる。アブミ骨は蝸牛の前庭窓に付着している。ドリルを用いて骨内の膜迷路アブミ骨筋小錐体神経なども剖出できる(図 937)。
Anterior/Posterior/Lateral semilunar canals (duct)前/後/外側半規管
Vestibular window前庭窓
Membranous labyrinth膜迷路
Stapedius muscleアブミ骨筋
Lesser petrosal nerve小錐体神経



8) 内耳の観察が一応終了したら、内頭蓋底の海綿静脈洞の中で内頚動脈を確認し、これを下方にたどって、頚動脈管をノミで開放する(図920)。内頚動脈は三叉神経根の下方から蝸牛のすぐ内側を通る。顔面神経や鼓室と近接していることも確認する。さらに余裕があれば、茎乳突孔から内耳までの顔面神経管耳管鼓膜張筋鼓索神経などの掘出しに挑戦して欲しい。鼓索神経は側頭下窩で舌神経から再確認しておく。
Cavernous sinus海綿静脈洞
Internal carotid artery内頚動脈
Carotid canal頚動脈管
Facial canal顔面神経管
Tensor tympani muscle鼓膜張筋




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