第2章-頭頚部-
2.2頚部から顔面
2.2.1 顎下三角 (図716,725--727,854)

顎下三角とは、顎二腹筋前腹後腹下顎底がつくる三角である(図726)。広頚筋を上方に下顎骨まで完全に反転する。反転した広頚筋の内面で顔面神経頚枝が見つかる。深側の構造を傷つけないように注意しながら、 顎下三角を覆う浅頚筋膜を除去する。

Submandibular triangle 顎下三角
Digastric muscle 顎二腹筋 M.digastoricus
Anterior/Posterior belly 前腹/後腹
Base of mandible 下顎底 Basis mandibulae
Platysma muscle 広頚筋 Platysma
Facial nerve 顔面神経(VII) Nervus facialis


顎下腺の輪郭を明らかにする。顎下腺に埋没するように蛇行上行していく顔面動脈その枝を損傷しないよう注意する。ピンセットで浅側にえぐり出すように顎下腺の剖出を進める。無理をすると顎下腺管や血管が切れてしまう。顔面動脈枝のオトガイ下動脈を温存しながら、顎下リンパ節を丁寧に剖出する(図726,xxx)。深頚リンパ節鎖との連絡が確認(想像)できたら最終的にはリンパ節をすべて除去する。舌癌の臨床などで重要になるリンパ節である。

外頚静脈の根をできれば残しながら、耳下腺の輪郭を剖出していく。特に下部では皮下の固い結合組織を除去するのに難渋する。メスを小刻みに用いて大耳介神経を助ける。この機会に胸鎖乳突筋をさらに上方まで反転し、合せて副神経を上方まで剖出温存しておくと、後で大きな時間的節約になる。

Submandibular gland 顎下腺
Facial artery 顔面動脈 Arteria facialis
Submandibular duct 顎下腺管
Submental artery オトガイ下動脈
Submandibular nodes 顎下リンパ節
External jugular vein 外頚静脈
Parotid gland 耳下腺 Glandula parotidea
Great auricular nerve 大耳介神経 Nervus auricularis magnus
Sternocleidomastoideus muscle 胸鎖乳突筋 Musculus -
Accessory nerve 副神経(XI) Nervus accessorius

■付図(顎下三角)




2.2.2 舌骨上筋群(図706,727,853--855)

舌骨上筋群とは次の4つの筋を指し、支配神経はそれぞれ異なる。

Suprahyoid muscles 舌骨上筋群
Digastric muscle 顎二腹筋 M.digastoricus
Anterior/Posterior belly 前腹/後腹
*Stylohyoid muscle 茎突舌骨筋
*Mylohyoid muscle 顎舌骨筋 M.mylohyoideus
*Geniohyoid muscle オトガイ舌骨筋


舌骨上筋群は、口腔底を形成する一種の「横隔膜」であると同時に、開口筋嚥下筋である(図854)。まず、顎二腹筋前腹中間腱が最初に確認できる。中間腱の浅側に密着して、大きなリンパ節がしばしば観察される。頚静脈二腹筋リンパ節という。 頚部リンパ節鎖の最上部に位置しており、医師がルーチンに触診で検索する。また顎二腹筋中間腱には、後方から茎突舌骨筋が巻きつくように合流している。茎突舌骨筋は、後に茎状突起を探す手がかりになる(図859)。顎二腹筋中間腱のすぐ下方には太い舌下神経とその伴走静脈があり、必ず見つけて温存する(図727)。

顎二腹筋前腹を下顎底から切離して下方に反転すると、外側から来る支配神経(顎舌骨筋神経)が見つかる(付図解剖体左)。後の側頭下窩の解剖の際に中枢側(下顎神経)とつながるから温存しておく。顎二腹筋前腹舌骨レベルまで下方に反転し、顎下腺を適当に上方に反転すると、口腔底の主体をなす顎舌骨筋の広がりが分かる。支配神経は浅側(外面)を走る。顎二腹筋前腹と同じ下顎神経枝(V-3)である。前正中線付近で顎舌骨筋を下顎骨から一部剥がして深側を剖出すると、強力なオトガイ舌骨筋が見つかる(付図解剖体右)。

以上の剖出過程で同定しがたい神経を発見することがある。例えば、顎舌骨筋神経皮枝舌咽神経皮枝など。これより先の口腔底の解剖は、頭部を切半してから舌・ 咽頭などと同時に行なう。

Floor of the oral cavity 口腔底
Base of mandible 下顎底
Hyoid bone 舌骨
Styloid process 茎状突起
Hypoglossal nerve 舌下神経(XII) Nervus hypoglossus
Accompanying vein of hypoglossal nerve 舌下神経伴行静脈
Mandibular nerve 下顎神経(V-3)


2.2.3 外頚動脈の枝(図746,748,750,751)

総頚動脈外頚動脈内頚動脈に分れる部位を確認する。2動脈にはさまれた股の部位には、頚動脈小体{など重要な血圧受容体と感覚性神経が存在するから、動脈をツルツルにしてはいけない。まず、現在分かる範囲で外頚動脈の枝を下から順に確認する(図746)。

External carotid artery 外頚動脈
Common carotid artery 総頚動脈 Arteria carotis communis
Internal carotid artery 内頚動脈 A.carotis interna
Carotid body 頚動脈小体


1) 第1枝である上甲状腺動脈(上・下・最下)を下方にたどり甲状腺まで追求する。周囲には頚神経ワナの枝や上喉頭神経などがある。上甲状腺動脈から上喉頭動脈が分れているだろうか。上喉頭神経と上喉頭動脈は、甲状舌骨膜を貫通して喉頭に入る。

2) 外頚動脈の第2・3枝である舌動脈顔面動脈の根部には、自律神経叢が固く巻きついている。この2つの動脈の根部には共同幹形成などの変異が見られる。

Superior thyroid artery 上甲状腺動脈
Ansa cervicalis 頚神経ワナ
Superior laryngeal artery 上喉頭動脈
Lingual artery 舌動脈
Facial artery 顔面動脈


3) オトガイ下動脈は、顎下リンパ節を観察しながらすでに剖出している)。舌動脈は舌骨舌筋の深側を走行してに向かうので、舌下神経とは伴走しない。舌下神経はすでにきれいに剖出されているだろう。舌骨舌筋を少しずつ舌骨から剥がして上方に反転し、舌動脈の走行を確認する。

以上3本の外頚動脈枝は、口腔・咽頭の運動のためか根部で迂曲蛇行している。

4) 後頭動脈上行咽頭動脈は深くてまだ確認できないかも知れないが、いずれ副咽頭間隙の解剖の際に確認したい。後頭動脈の末梢は、背部(後頭部)の皮下で大後頭神経の剖出に苦労した折に、すでに観察している。
Hypoglossus muscle 舌骨舌筋
Submental artery オトガイ下動脈
Occipital artery 後頭動脈
*Ascending pharyngeal artery 上行咽頭動脈



Back to index