第2章-頭頚部-
2.5 眼窩内容
2.5.1 生体観察 (図783,784,819,822)

結膜隅角眼底の生体観察は眼科外来にて希望者10名程度の小グループで行なう。
Conjunctiva 結膜
Iridocorneal angle 隅角
Fundus of the eye 眼底



2.5.2 眼窩の開放 (図785,787,789,790,797,799,800)

眼窩はとても複雑なので図譜などでよく予習せよ。特に外眼筋の位置関係と神経の走行は必須で、何も分からないままに進むとすっかり破壊してしまい、眼窩の解剖がただの思い出作りになってしまう。

眼の解剖は、まず一側で行ない、さらに復習をしてから残り一側を解剖する。一度に左右とも解剖してはいけない。

頭蓋底を再度よく観察した後に、前頭蓋窩硬膜を剥がす。前頭蓋窩を作る前頭骨篩骨蝶形骨の縫合を確認する(図780)。
Orbita 眼窩
Dura Mater 硬膜 
Frontal bone 前頭骨
Ethmoid bone 篩骨
Sphenoid bone 蝶形骨


頭蓋底から慎重にノミを当てて、眼窩上壁を一部開放する。強靱な眼窩骨膜が見えたら(図808)、それを破らないように押込み、リューエルで眼窩上壁を割りながら除去し、広く開放する。眼窩上壁に進入した前頭洞(図837)が眼窩と一緒に開放されることがある。眼窩口上方に前頭骨が残るので、これもリューエルと鋸で除去する。眼窩上神経滑車上神経は、眼窩内容側に付けて温存すること。篩骨篩板を含む眼窩内側壁(図789)も温存する。

Periorbita 眼窩骨膜
Frontal sinus 前頭洞
Supraorbital nerve 眼窩上神経
Supratrochlear nerve 滑車上神経
Cribriform plate 篩骨篩板 Lamina cribrosa


続いて眼窩の外側壁を開放する。開放された眼窩上壁からピンセットを入れて、眼窩骨膜に包まれた眼窩内容を内側上方に寄せる。この際、眼窩外側壁との間に緊張する細い神経が見つかれば、涙腺に副交感神経成分を運ぶ涙腺神経-頬骨神経交通枝である(図797)。側頭筋を側頭骨から剥がして下方に反転しながら、眼窩外側壁(図790)をリューエルと鋸で除去する。眼窩内容、特に涙腺を損傷しないように注意する。涙腺が分からなければ早くスタッフに聞く。

Lacrimal gland 涙腺
Temporalis muscle 側頭筋
Temporal bone 側頭骨



2.5.3 眼窩内容 (図792,796,799,800--806,808,809,811--813,815)
1) 眼窩内容を覆う眼窩骨膜を上方と外側から除去する。筋や血管・神経を温存しながら、眼窩脂肪体をひたすら除去していく。

2) 上斜筋は最も壊れやすい。最初に輪郭を明らかにする(図809)。その後部上縁で細い滑車神経を確保する(図803)。上斜筋の滑車は、周囲の解剖を進めないとスルスル動いてはくれない。

3) 涙腺上眼瞼挙筋上直筋外側直筋内側直筋を同定する(図809)。ここでいきなり深部に進もうとすると、すっかり破壊してしまうので注意すること。前頭神経を浮していく。

Superior oblique muscle 上斜筋
Trochlear nerve 滑車神経 N.trochlearis(IV)
Levator palpebrae superioris muscle 上眼瞼挙筋
Superior/Inferior rectus muscle 上/下直筋
Medial/Lateral rectus muscle 内側/外側直筋
Frontal nerve 前頭神経
4) 上眼瞼挙筋上直筋だけを前端で切断して後上方に反転する(図803,804)。他のすべての外眼筋は最後まで切らずに温存する。注意深く脂肪を除去して視神経に至る。視神経の剖出を急ぐと、細かい鼻毛様体神経短毛様体神経(図805)を切ってしまう。くれぐれも無理しないで、詳細は眼窩内容を脱転して視野を広げてからの方がいい。長・短毛様体神経を後方にたどり、外側直筋の内側面に接して小さな毛様体神経節を探す。

5) 眼窩内容を内眼角外眼角からメスではずして、上方に脱転する。内眼角上方で骨ぎりぎりに眼窩内容を剥がせば、上斜筋滑車眼球側に温存される。眼窩内容を骨から剥がし取るように上方に脱転する過程で、下斜筋が骨から剥がれる。下斜筋の輪郭を明らかにすると、太い動眼神経下枝が容易に見つかる(図806)。下方で眼窩下動脈{の枝が緊張することがある。外側壁で涙腺に至る細い神経が緊張したら、糸をかけてラベルしておく。

上記の作業で眼瞼靭帯が切れる。内眼角・外眼角では、眼瞼の芯を作る瞼板内側外側眼瞼靭帯によって 眼窩に固定されており、そのすぐ深側後方では眼窩隔膜という結合組織が眼窩口を塞いでいる(図796,792)。

Nasociliary nerve 鼻毛様体神経
Superior/Inferior oblique muscle 上/下斜筋
Medial/Lateral angle of the eye 内/外眼角
Infraorbital artery 眼窩下動脈
*Palpebral ligament 眼瞼靭帯
Superior/Inferior tarsus 上/下瞼板
6) 内眼角を切断する際、時には鼻涙管も切断されるのでその断面を確認する(図799,800)。しかし多くの場合、眼輪筋に続く丈夫な膜に覆われたまま涙嚢は眼窩側に残っている。この膜をメスで切開すると初めて涙嚢の広がりと鼻涙管が見える。鼻涙管からゾンデを下方に挿入し、鼻腔側から観察する。

7) 上下左右あらゆる方向から、神経と血管を剖出する。繰り返すが、上眼瞼挙筋上直筋以外の筋を切ってはいけない。眼窩内容を覆う眼窩骨膜は全周にわたり除去されただろうか。眼窩内側に緊張する動脈があれば前篩骨動脈であろう(図806)。

8) 脂肪を完全に除去して、神経を筋から後方にたどる。眼球の後方も清掃して、細い血管・神経を剖出する。眼球と眼筋停止部の間にあるヌルヌルしたテノン鞘 Tenon's fascia(図802,801)は、その気でいないと除去してしまう。

9) 次の神経(枝)、神経節、動静脈を確認せよ。眼動脈以外では、中硬膜動脈が眼窩内容に分布することも多い。静脈は上眼静脈が主流である。

Anterior ethmoidal artery 前篩骨動脈
Ophthalmic artery/nerve 眼神経/眼動脈
Middle meningeal artery 中硬膜動脈
Oculomotor nerve 動眼神経 N.oculomotorius (III)
Ciliary ganglion 毛様体神経節
Abducens nerve 外転神経 N.abducens (VI)
Lacrimal artery 涙腺動脈
Superior ophthalmic vein 上眼静脈

2.5.4 眼球 (図817--819)

1) 外眼筋や眼窩の血管・神経を温存したまま、上方から下方に向けて眼球によく切れるメスを入れて、視神経の一部と眼球を直線的に矢状断する。ジグザグしてはいけない。

2) ドロドロの硝子体を慎重に除去する。黒い網膜色素上皮層がブドウ膜(脈絡膜)と共にはがれてくる。強膜ブドウ膜網膜色素上皮層網膜神経部の4層を区別する(標準組織学各論 p.436-437)。眼球の発生はラングマン p.322-330 参照。

3) 虹彩瞳孔水晶体(レンズ)を観察する。コリコリしたレンズをはずしてもいい。網膜の光受容部と非受容部の間の鋸状縁を見て、これを虹彩と誤解しないように。

4) 鋸状縁で後方から網膜を除去しながら毛様体を観察する。前眼房角膜を観察する。毛様体と角膜の間の隅角について、希望者は隅角鏡の示説を受ける。隅角は、緑内障を理解する上でポイントになる。隅角から前眼房内の眼房水を吸収するシュレム管 Schlemm's canalについては図819及び標準組織学各論 p.419,422,425 参照。

Eyeball 眼球 Bulbus oculi
Vitreous body 硝子体
Sclera 強膜
Chorioid ブドウ膜(脈絡膜)
Retina 網膜
Iris 虹彩
Pupil 瞳孔
Lens 水晶体
*Ora serrata 鋸状縁
Ciliary body 毛様体
Anterior chamber of eye 前眼房
Cornea 角膜
Iridocorneal angle 隅角



2.5.5 眼窩から頭蓋底 (図805,806,815,816,822)

外眼筋が後方で付着する総腱輪(図815)を観察する。と言っても、切開しないと理解できないかも知れない。総腱輪の中を視神経眼動脈が通る。視神経に進入する眼動脈枝は何本見つかったか。細いが重要な栄養動脈だ。その1枝は、眼底で見る網膜中心動脈になる(図822)。上眼窩裂を剖出しながら、そこを通る神経を同定する。下眼窩裂下眼静脈が通る。眼窩の下壁で眼窩下動脈神経を見つけ、骨を慎重に割りながら長く剖出する。余裕があればノミを用いて上顎1-3歯の歯槽まで追求する。

頭蓋底の解剖と脳外科の研修が終了してから、動脈・神経を眼窩から海綿静脈洞(図773)まで連続させる。総腱輪は最後にメスで開放する。前後の篩骨動脈(図806)は、鼻の解剖に支障が出るので末梢までは追及しない。

*Common tendinous ring 総腱輪
Central artery of retina 網膜中心動脈
Superior/Inferior orbital fissure 上眼窩裂/下眼窩裂
*Inferior ophthalmic vein 下眼静脈
Infraorbital artery/nerve 眼窩下動脈/神経
Anterior/Posterior ethmoid artery 前/後篩骨動脈



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