第3章-上肢・上肢帯-
3.3 上腕伸側・肩甲部
これからは、上肢を適当な姿勢に動かしながら解剖を行なう。一側ではOT、PTの学生実習を行なうので助言して欲しい。
3.3.1 上腕伸側から腋窩へ (図52,54--57,64)

三角筋の後縁に残る結合組織を剖出して腋窩神経皮枝(外側上腕皮神経)を見つけ出す(図56)。固くて作業が捗らなければ、先に三角筋の遊離にはいる。三角筋の後縁をある程度明らかにした後、肩峰鎖骨から三角筋を剥がして、下方に反転していく。特に筋後部の下方反転を慎重に行ない、三角筋に深側から入る腋窩神経とその皮枝を見つける。同時に後上腕回旋動脈の末梢も剖出される(図57)。肩甲下動脈の枝である。上腕筋膜がまだ残っていれば、除去して上腕の各筋の輪郭を明らかにする。

三角筋には今でもしばしば筋注を行なう。ところが現場では、 腋窩の大血管や腕神経叢を避けたいあまり、後上腕回旋動脈腋窩神経を狙い撃ちするような刺し方をすることがある。動脈・神経の走行をよく確認せよ。

Deltoid muscle三角筋Musculus deltoideus
Axillary nerve腋窩神経
Lat. brach. cutan. nerve外側上腕皮神経
Acromion肩峰
Posterior humeral circumflex artery後上腕回旋動脈



上腕伸側には腋窩からの出口(腋窩隙)が3つある。3つの出口は、上腕三頭筋長頭同外側頭上腕骨大円筋小円筋によって区切られている(図52)。したがって、これらの筋の輪郭を早期に確認する必要がある。

1) 外側腋窩隙(Laterale Achsell\"{ucke の和訳)は上腕三頭筋長頭上腕骨大円筋小円筋で囲まれた間隙で、四角隙ともいう。三角筋の深側で剖出した後上腕回旋動脈腋窩神経はここから伸側に出現する。

2) 内側腋窩隙(Mediale Achsell\"{u}cke の和訳)は上腕三頭筋長頭大円筋小円筋で囲まれた間隙で、三角隙ともいう。肩甲回旋動脈がここから出てくる。

3) 上腕三頭筋の2頭にはさまれた広いが無名の間隙橈骨神経上腕深動脈が通る。

上腕三頭筋の2頭をある程度遠位まで裂いて、血管・神経を明らかにする。橈骨神経上腕深動脈が直視下に確認できたら、今度は上腕三頭筋上腕筋の間、さらに腕橈骨筋上腕筋の間をピンセットで慎重に裂いて橈骨神経を遠位に連続させていく。橈骨神経が上腕骨に巻きついて下行し、前腕橈側に至る経過を剖出していく(図57,64)。その間に橈骨神経は、後上腕皮神経など数本の皮神経を分枝している。上腕三頭筋には、橈骨神経の走行よりも内側で上腕骨から起こる筋束が多数ある。この筋束を内側頭と呼ぶ(図55)。

Triceps muscle上腕三頭筋Musculus triceps brachii
Long/Lateral/Medial head長/外側/内側頭
Teres major/minor muscle大/小円筋
Quadrangular space四角隙Laterale Achsell
Triangular space三角隙Mediale Achsell
Circumflex scapular artery肩甲回旋動脈
Radial nerve橈骨神経
Deep/Profunda brachial artery上腕深動脈A.profunda brachii
Brachialis muscle上腕筋
Brachioradialis muscle腕橈骨筋
Posterior brachial cutaneous nerve後上腕皮神経




3.3.2 肩甲部から頚部へ (図31--34,47,53,98)

ここで肩甲骨まわりの筋を再確認する。すでに剥離されているものについては、その本来の広がり(起始停止)を復習する(図47,53)。特に前鋸筋の位置と作用を復習する。

Pectoralis major/minor muscle大/小胸筋
*Omohyoid muscle肩甲舌骨筋
Rhomboid muscle菱形筋
Serratus anterior muscle前鋸筋
Teres major/minor muscle大/小円筋
Subscapularis muscle肩甲下筋
Supraspinatus/Infraspinatus muscle棘上/棘下筋



1) 強力で平たい停止腱を作る広背筋を確認し、上腕骨停止まで追及する。前鋸筋と広背筋の栄養動脈(胸背動脈など)は温存されているだろうか。広背筋とその栄養動脈には、乳房を作成(再建)したり肘関節を動かすために移行術を施すなど様々な用途がある。

2) 肩甲骨後面への導通路を剖出する。深部を損傷しないように注意して肩峰と肩甲棘の境界付近に鋸を入れ、肩峰鎖骨肩甲骨本体を引離す。この際に損傷する構造として、肩峰と 鎖骨を結ぶ靭帯や、肩峰のすぐ深側にある滑液包がある。これらは整形外科的に重要だが、現段階では余裕のある者だけが詳細に剖出することにする(図98)。

3) 棘上筋の輪郭を明らかにして、肩甲上動脈神経を再確認し、棘上筋肩甲骨棘上窩から剥離し、内側から外側(上腕骨)に向けて起こして行く。この過程で肩甲切痕の位置を確認する。棘下筋小円筋も同様に内側から外側に向けて徐々に剥離する。

4) 肩甲切痕内外から棘上窩に入った血管神経は、肩甲棘関節窩(上腕骨頭)の間の隙間(spinoglenoid notch)を通って、棘下窩へ下行する(図34)。ここで、すでに剖出ずみの肩甲回旋動脈後上腕回旋動脈と吻合する。確認せよ。

Latissimus dorsi muscle広背筋
Humerus上腕骨
Scapula肩甲骨
Acromion肩峰
Spine of scapula肩甲棘Spina scapulae
Scapular notch肩甲切痕
Suprascapular artery/nerve肩甲上動脈/神経
Circumflex scapular artery肩甲回旋動脈
Posterior humeral circumflex artery後上腕回旋動脈




3.3.3 肩関節の固定性と可動性
(図44,45,54,58--60,89,98,99,101,102)

回旋筋腱板 rotator cuff を同定する。これは狭義には、棘上筋棘下筋小円筋の停止腱膜のことで、その広がりを上腕骨大結節に至るまで確認する(図99)。血管・神経をなるべく切らないように注意しながら、これら3筋を完全に肩甲骨から剥離し、内側から腱板を浮かせて上腕骨頭と腱板の間にピンセットを入れる。小結節につく肩甲下筋も同様に確認せよ(図31)。腱板断裂は有名な外傷で、腱板上部に接する滑液包の軟骨化が五十肩である。

腱板と関節包はライヘでは分けがたい。腱板周囲の弱い部位で関節包が破れ、肩関節が開放される(図101)。腱板大結節に付着させておく。腱板が上腕骨頭を固定していたことを確かめる。肩甲下筋の停止腱が関節を下方から支えている。肩甲下筋もしばしば rotator cuff の筋に加える。上腕骨頭に巻きついている上腕二頭筋長頭腱を開放する(図102)。

Humerus上腕骨
Greater/Lesser tubercle大/小結節
Subscapularis muscle肩甲下筋
Biceps brachii muscle上腕二頭筋Musculus biceps brachii
Shoulder joint肩関節Articulatio humeri



<肩関節を動かす筋の作用別整理>p.75の図を参照
外転三角筋、棘上筋、上腕二頭筋長頭
(挙上)(外転の筋に加えて)前鋸筋、僧帽筋の上部
内転大胸筋、上腕三頭筋長頭、大円筋、広背筋、上腕二頭筋短頭
前傾三角筋鎖骨部、上腕二頭筋、大胸筋鎖骨部・胸肋部、烏口腕筋
後傾大円筋、広背筋、上腕三頭筋長頭、三角筋肩甲棘部
外旋棘下筋、小円筋、三角筋肩甲棘部
内旋肩甲下筋、大胸筋、上腕二頭筋長頭、三角筋鎖骨部

(描円、ぶんまわし) 多くの筋が協力して作用する。自分の体を動かて確認せよ。


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