第4章-体壁-
4.5 深背筋
4.5.1 脊髄神経前枝(肋間神経)に支配される2筋 (図626,630)

最初に腰背腱膜胸腰筋膜を確認する(図630)。上後鋸筋はこの腱膜(筋膜)より浅側にあり、下後鋸筋は腱膜と同じ深さにある。上後鋸筋と下後鋸筋を棘突起からはずして外側に完全に反転する。支配神経は、筋の外側部裏面に向けて肋間から出てくる。

固有背筋群(深背筋の深層:脊髄神経後枝支配、いわゆる脊柱起立筋)の輪郭を確認する。「固有背筋」は系統発生上の用語。まだウエスト部分に脂肪組織が残っていたら除去する。ただし皮神経(後枝外側枝)をできるだけ温存すること。

腰背腱膜胸腰筋膜をメスで少しずつ除去する。この過程で新たに皮神経が見つかるので、今まで見つけた皮神経と共に温存する。これらの皮神経は、今後の固有背筋群の解剖において指標となる。僧帽筋の最上部が後頭部・項部に付着残存していれば除去する。

Ventral/Dorsal ramus (rami)脊髄神経前/後枝
Intercostal nerve肋間神経
*Lumbodorsal aponeurosis腰背腱膜
*Thoracolumbar fascia胸腰筋膜
*Serratus post. su/inf. muscle上/下後鋸筋
Erector spinae muscles脊柱起立筋Musculi dorsi proprii


4.5.2 後頭部・項部 (図630,631,634-636)
以下、班全員で3.胸部と4.腰部の解剖も同時に進めていく。

頭板状筋頚板状筋を後頭骨および棘突起(項靭帯を含む)から剥がして、つまり正中線から剥がして外側に大きく反転する(図630)。支配神経(後枝外側枝)は筋の外側部内面で見つかる。大後頭神経第3後頭神経などの皮神経は、板状筋を反転する時に筋から引抜くように温存して本体側に残す。後枝外側枝は次に処理する半棘筋にも枝を出している。

頭半棘筋頚半棘筋は強大な筋である(図631)。後頭骨及び棘突起から下方へメスで徐々に剥がして深さを実感する。最終的に正中線から外側に向けて大きく反転する。この過程で、大後頭神経第3後頭神経などの後枝内側枝から分れる支配神経が見つかる。半棘筋の周囲には静脈が発達しており、また深頚動脈後頭動脈の枝も見つかる。

Splenius capitis/cervicis muscle頭/頚板状筋
Occipital bone後頭骨
Spinous process棘突起Process spinosus
Nuchal ligament項靭帯
Greater occipital nerve大後頭神経
*3rd occipital nerve第3後頭神経
*Semispinalis capitis/cervicis muscle頭/頚半棘筋
*Deep cervical artery深頚動脈
Occipital artery後頭動脈

後頭下三角(図636)の解剖にはいる。特に大きな第2頚椎棘突起を確認する。三角を構成する大後頭直筋上頭斜筋下頭斜筋を同定する。半棘筋の外側への反転が足らないと、後頭下三角の剖出に難渋する。大後頭神経、第3後頭神経に続く後枝内側枝をできるだけ深側まで剖出する。三角の中で、第1頚神経後枝(後頭下神経)が見つかっただろうか。視野が狭くて辛いが、さらに三角の中を深側(前方)まで剖出すると、椎骨動脈が見つかるはずだ。以上の過程で、後頭下筋群の筋枝(支配神経)が確認できたことを期待する(図635)。最後に、肩甲挙筋横突起付着を確認し、さらに中斜角筋後斜角筋を同定しておく。

*Suboccipital triangle後頭下三角
*Rectus capitis posterior major muscle大後頭直筋
*Superior/inferior obliquus capitis muscle上/下頭斜筋
*Suboccipital nerve後頭下神経
Vertebral artery椎骨動脈
*Middle/Posterior scalene muscle中/後斜角筋


4.5.3 胸部 (図155,630--632,663)

温存されている皮神経を再確認する。腸肋筋と最長筋の間から脊髄神経後枝外側枝が皮下に出現する。腸肋筋の肋骨付着を少しずつ剥がしながら、後枝外側枝を追求する。支配神経は見つかっただろうか。腸肋筋などの深背筋は、肋骨角(図155)より背側に位置する。

次に、最長筋を処理する(図631)。最初に表面に見える腱あるいは腱膜性の部分をすべてメスで剥がすように除去する。次いで最長筋を外側に寄せながら、横突起(副突起)に付着する深い腱を探す。その白い腱に沿って、外側下方にピンセットで筋をほぐすように分けていく。最長筋をタテにほぐすように骨付着からピンセットで一気に引き下ろすのが、分かりやすく解剖するコツである。不思議な程、神経(後枝外側枝)は切れない。筋全体としては外側に反転しつつ、内面で外側枝由来の支配神経を調べていく。最終的に、最長筋を横突起より外側まで大きく寄せてしまう。以上の過程で、後枝外側枝が横突起のレベル(横突起を結ぶ横突間靭帯のすぐ深側)まで剖出されていなくてはならない。

*Iliocostalis muscles腸肋筋
Costal angle肋骨角
*Longissimus muscles最長筋
Transverse process横突起
*Intertransverse ligament横突間靭帯

腸肋筋の外側に近接して肋骨挙筋がある(図632)。脊髄神経前枝後枝の支配域境界にあり、系統解剖学・比較解剖学上は興味深い筋である。何枚かの筋の肋骨付着を剥がして内側上方に反転する。注意して行なえば支配神経が見つかる。脊髄神経後枝からも前枝(ここでは肋間神経)からも神経が来る可能性がある。肋骨挙筋のすぐ外側に連続している胸壁筋は外肋間筋だ。肋骨挙筋を反転したら、その深側を注意深く剖出して肋間神経(脊髄神経前枝)を見つける。深側の後縦隔や肺を損傷しないよう注意する。

横突間靭帯(図632,663)を切断して後枝外側枝を中枢側に追求すると、椎弓の浅側、つまり横突起より内側に後枝内側枝血管が見つかる。今度は、内側の血管・神経を末梢側に向けて剖出する。血管・神経を追求する過程で、長い筋束の1本1本がどこに付着するかを確認しながら、半棘筋棘筋を次第に除去していく(図632)。この部位はしばしば針も刺す手術も多いのだが、多くの医師は血管・神経をきちんと見たことがない。血管・神経をできるだけ温存して観察する。

半棘筋は、浅い筋束ほど長く棘突起横突起を結び、深い筋束ほど短くなり、ついには隣接する椎骨を結ぶようになる。1椎骨飛ぶ筋束を多裂筋と呼び、隣接して張る筋束(剖出がそこまで到達できたか)を回旋筋と呼ぶ(図632)。

脊髄神経後枝内側枝は、基本的には多裂筋のすぐ浅側を内側に走行し、その後は棘突起に密着して下行する。神経に伴走する動脈もあるが、血管の多くは椎弓に密着して内側に向い、棘突起に密着して浅側下方に向かう。外椎骨静脈叢と呼ばれる発達した静脈網を上胸部で観察せよ。できるだけ多くの脊髄神経後枝内側枝を見つけて、棘突起から剥離する。

*Levator costae muscles肋骨挙筋
*Multifidus muscles多裂筋
*Rotatores muscles回旋筋
External vertebral venous plexus外椎骨静脈叢


■付図(腰痛)



■付図(椎間板ヘルニア)



■脊髄の計測課題

4.5.4 腰部 (図627,629,630--632)

腸肋筋最長筋が強大で外側に張り出しているため、2筋の間を後枝外側枝が通るという胸部での原則がくずれている。やせたライヘでは、後枝外側枝を残しながら胸部同様に腸肋筋と最長筋を外側に寄せ、神経を温存しながら最長筋を除去する。解剖の要領は胸部と同じである。ボソボソに筋をほぐすくらいなら、メスでブロック状に浅側から除去していく方がましだろう。2筋がある程度除去されると、筋膜に包まれた多裂筋の全体が同定できる(図632)。腰部の多裂筋は、実は浅層までせり出している。後枝外側枝は、横突起に近接するまで神経を追求しておく。

腰椎横突起には(11、12胸椎も)2つの結節がある。最長筋の腱が付着していたのが副突起、多裂筋が付くのが乳頭突起である。2つの突起の間には骨の溝があり、そこを細い後枝内側枝が通過して多裂筋に至る。溝は靭帯(腱膜)に隠されている。それを剥がして神経を剖出する。分からなければ、胸部の場合のように外側枝をたどって内側枝を求める。

*Accessory process副突起
*Mammillary process乳頭突起


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