第5章-胸部-
5.4 縦隔
5.4.1 大動脈弓 (図199,200,223,224,229,230,233,715,ラングマン p.193--195)

縦隔の定義は 5.1.3 を参照。

すでに肺は摘出されている。縦隔胸膜肋骨胸膜横隔胸膜を完全に剥がす(図233)。縦隔胸膜に、横隔神経迷走神経右気管傍リンパ節等が密着していることに注目する。頚胸移行部から縦隔にかけて、大血管と神経を徹底的に剖出する。まず、左右迷走神経反回神経を再確認し、剖出されていなければ追及する。特に左反回神経の起始部で、ボタロ管索(動脈管索)を確認する(図199,200)。ボタロ管索は無思慮に剖出すると消えてしまう。腕頭動脈左総頚動脈左鎖骨下動脈、さらに左右椎骨動脈の起始部を確認する。椎骨動脈が大動脈から直接起始することがある。これら大血管の知識は国試問題に頻出される。ボタロ管左第6鰓弓動脈由来(ラングマン p.195-196,205)。胎児循環を図譜と胎児示説標本で確認する(図223,224* ラングマン p.204-206)。動脈管開存症 PDAではどのように血液が流れるか考えよ(ラングマン p.197)。椎骨静脈もわりと太いが、胸管や反回神経の剖出の際に切れてしまっただろうか。
Mediastinal/Costal/縦隔/肋骨/横隔胸膜
Diaphragmatic Pleura
Phrenic nerve横隔神経
Vagus nerve迷走神経
Right paratracheal (lymph) nodes右気管傍リンパ節
Root of the neck頚胸移行部(下頚部+上縦隔)
Recurrent laryngeal nerve反回神経
Ligamentum arteriosum (Botallo's)ボタロ管索(動脈管索)
Subclavian artery鎖骨下動脈
Vertebral artery/vein椎骨動脈/静脈

5.4.2 後縦隔  (図187,189,233--236,238,239)

すでに心・肺もはずれて、胸腔を囲んでいた胸壁が桶のように見える。肋骨胸膜を剥がした後の後胸壁では、肋間神経血管交感神経幹を剖出する(図238,239,xxx,xxx)。交感神経幹から椎体前面に向けて下行する大小内臓神経を見つける。これら内臓神経の神経線維については付図参照(5.4.2)。すでに頚部から上端を確認した星状神経節を、今度は直視下に剖出する。麻酔科がブロックの練習を行なっていたら、ゴム液の入り具合について所見を記載して欲しい(1.3)。星状神経節は第1肋骨頚に密着しており、上下よりむしろ前後方向に長軸がある。鎖骨下動脈の周囲を交感神経幹の分枝が囲んで鎖骨下ワナを形成する。近傍では、鎖骨下動脈枝の肋頚動脈、その枝の深頚動脈が見つかる。

Intercostal nerve肋間神経
Sympathetic trunk交感神経幹
Body of vertebra椎体
Greater/*Lesser splanchnic nerve大/小内臓神経
Stellate ganglion (Cervicothoracic ggl.)星状神経節(頚胸神経節)
*Costocervical trunk肋頚動脈
*Deep cervical artery深頚動脈

心臓ないし肺のスケッチ課題が一段落したら、気管・食道の前方に残る壁側心膜を除去して、正面から後縦隔に進入する。ただし食道前面を一気に剖出する前に、いったん上縦隔にもどって復習する。

食道には3(4)つの狭窄部がある(図229,230)。 1)食道入口部(輪状軟骨後方) 2)大動脈弓(上) 3)気管分岐部(下) 2,3はごく近接している 4)横隔膜の食道裂孔
Esophagus食道
Aortic arch大動脈弓
Bifurcation of trachea気管分岐部
Esophageal hiatus食道裂孔

食道は臨床では次のごとく区分され、例えばIm癌というように用いる。 1) 左静脈角でまだ胸管が見つかっていなければ、食道下行大動脈の間で胸管を真っ先に見つけて今後温存に努める(図233)。胸管は上方に左静脈角まで確認すると同時に、最終的には、横隔膜脚の後方から腎動脈後方の起始部まで追及する()。

2) 迷走神経は肺根後方まで剖出されているだろうか。さらに下方に追及して、食道壁に形成する神経叢を剖出していく(図236,xxx)。その過程で食道の血管も出てくる(図224)。

3) 気道異物は右に落ちると言う。気管分岐部を露出させて、主気管支の分岐角度を目測で調べる(気管の延長線からの鋭角 左:  度、右:  度)(図180,181)。分岐部前面ではしばしば太い集合リンパ管が観察できる。左肺から右気管傍リンパ節に向かうリンパ路と考えられている。大きな分岐下リンパ節を食道から浮かしていく。左気管食道溝を走る左反回神経を確認し、上方に追及しながら左気管傍リンパ節を除去する。左右の気管傍リンパ節の発達の違いに注意する。右気管傍リンパ節は、胸部で最も発達したリンパ節群でアンテラ(5.1.3)が顕著だ(図192)。

4) 交感神経幹・迷走神経から心臓や肺に至る神経(図189,190)が多数見つかる(心臓神経肺枝)。特に気管の後方で太い。反回神経と様々に交通している。できるだけ温存したい。交感神経幹神経節脊髄神経根を結ぶ交通枝を剖出して、節前・節後線維の走行を復習する(付図5.4.2)。ただし、白交通枝と灰白交通枝を肉眼的に区別することは容易でない。

5)脊柱前面を横断している静脈を剖出する。左から右に注ぐ奇静脈系の静脈である。右気管支に接していた奇静脈弓は残っているだろうか。動脈に伴走しない奇妙な静脈の形成については、ラングマン p.199-203 参照。奇静脈半奇静脈副半奇静脈など奇静脈系の全体像を剖出する(図187,234)。

Cardiac nerves心臓神経
Vertebral column脊柱
Azygos vein奇静脈
Hemiazygos vein半奇静脈
Accessory hemiazygos vein副半奇静脈

6) 脊柱で椎体椎間円板の区別をつけ、前縦靭帯および肋骨頭椎体関節(図152)を確認する。肋骨頭関節を中心にして胸郭の運動が起こる(図173,174)。横隔膜の大静脈孔食道裂孔大動脈裂孔の高さを椎骨を数えて確認する(図245,362)。

7) 下行大動脈の枝にも注意する。肺根の断端でラベリングしてある気管支動脈を、大動脈側に追及する。時間の許す範囲で、肋間動脈を大動脈につなぐ。医師がアダムキービッツ動脈の検索をしていると思う。

を本体側にもどして位置関係をトコトン復習する。系統解剖学の古典的テーマである肋間筋3層構成も見て欲しい(4.2)。また、後胸壁4.2 に従い観察・確認する。

Body of vertebra椎体
Intervertebral disc椎間円板
Anterior longitudinal ligament前縦靭帯
Joints of costal heads/capitular joint肋骨頭関節
Diaphragm横隔膜
Inferior vena cava foramen大静脈孔
Esophageal hiatus食道裂孔
Aortic hiatus大動脈裂孔
Bronchial artery気管支動脈
Posterior intercostal artery肋間動脈


■付図(縦隔のCT図:今日の診断指針から)



■付図(交感神経)



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