第6章- 腹部・骨盤部-
6.5 骨盤内臓
6.5.1 原位置の骨盤内臓 (図368,392,394,395,399,401,428,439--441,451)

直腸は病変の多い部位であるから、きちんと勉強したい。直腸内にKot(便)がたまっていれば処置する。Sigma (sigmoid colon)-Rs境界で切断してKotをしぼり出す。この際に骨盤内をよごさないように注意する。Kotは汚物流しに捨てる(通常の流しではない)。肛門に綿が詰めてあれば除去し、直腸指診を行なってみる。明らかな痔核があれば報告する。綿とKotのために直腸の粘膜面はしばしば平滑になっている(図451)。Rs岬角からS2下縁までの範囲、RaS2下縁から腹膜反転部までの範囲である。腹膜反転部から肛門挙筋付着部までの範囲をRbと呼ぶ。生体の直腸指診は、トイレで自分で是非やってもらいたい。指がスポッと入る部位が肛門挙筋付着部、つまりRb-P境界である。指がスポッと入る手前では、指の周囲に筋の圧力を感じる。そこが肛門管(P)である。小児用の坐薬を配るので、各自で体験してみよう。

すでに坐骨直腸窩の解剖は終わっているだろうか(7.1.2)。皮下肛門括約筋は皮膚を剥がしながら切断面を観察する。まだ坐骨直腸窩に脂肪が残っていれば、できるだけ除去して下方から骨盤隔膜を露出させる。切半する前に、仙結節靭帯仙棘靭帯を確認しておく。仙棘靭帯の内面に尾骨筋がある(図428,392)。

Rectum直腸(Rs,Ra,Rb,P)
Levator ani muscle肛門挙筋
Anus肛門
Ischiorectal fossa坐骨直腸窩
Anal sphincter muscle肛門括約筋
Pelvic diaphragm骨盤隔膜
Sacrotuberous ligament仙結節靭帯
Sacrospinous ligament仙棘靭帯
*Coccygeus muscle尾骨筋

膀胱の上方・腹壁内面にわずかに残る腹膜面で、正中臍ヒダ(正中臍索=尿膜管の遺残)(臍動脈索)を確認する(図368、ラングマン p.196,255)。膀胱頂に接して尿膜管の遺残腔を認めることがある。臍動脈索は下方で上膀胱動脈に続く。上膀胱動脈はしばしば小骨盤腔に上に凸の腹膜ヒダを形成する。この腹膜ヒダを膀胱下腹筋膜と呼ぶ。その下方には、この腹膜ヒダとほぼ同じ面をなして骨盤神経叢がある。

Urachus尿膜管
Median/Medial/Lateral umbilical fold正中/内側/外側臍ヒダ
Ligament of umbilical artery臍動脈索
Superior vesical artery上膀胱動脈

すでに糸でラベリングしてある下腹神経(6.3.3)を、大動脈分岐部から下方にたどる。下腹神経は腹膜のすぐ外面に張りついて下行する。骨盤神経叢の位置はすでにわかっているだろうか。腹膜をなるべく1枚のまま剥がして断片化しないことが、オリエンテーションを付ける上で重要だ。視野が狭いので、詳細は骨盤切半後に解剖する(6.5.5)。

小骨盤腔に残る壁側腹膜を断片化しないようにできるだけ1枚としてめくる。特に膀胱子宮直腸の間の陥凹から慎重に剥がし、どこか1点だけで付着させておく。子宮広間膜の前後の腹膜もそれぞれ1枚として剥がす。

小骨盤内内臓脈管神経路(導通路)の配置を知るため、フィンガーディセクション(指先による解剖)を行なう。前後に並ぶ膀胱子宮 直腸の間と、3臓器の外側に、最初は慎重に次第に大胆に指を入れる。3臓器の外側にやや固い索状物を求める。それが脈管神経路、すなわち基靭帯(中部子宮支帯)と直腸外側靭帯である。内側ー外側方向に走る索状の脈管神経路と直交するように、骨盤神経叢を含む層(シヒト)がある。

Hypogastric nerve下腹神経
Pelvis骨盤
(Urinary)Bladder膀胱
Uterus子宮
Rectum直腸(Rs,Ra,Rb,P)
Broad ligament of uterus子宮広間膜Lig. latum uteri
Cardinal ligament of uterus基靭帯
Lateral ligament of the rectum直腸外側靭帯


6.5.2 原位置の骨盤内臓:女性 (図386,387,389,390,392,394,395,397,399,401, 405,410,430,432)

腹膜実習の時に観察した項目を再確認する。そのためにはライヘを選ばなくてはならない。衝立状の子宮広間膜の上縁には卵管があり、下縁には基靭帯がある(C.D.Clemente のAnatomy の図は今1つ分かりにくい、付図参照)。

Uterus子宮
Ovary卵巣Ovarium
*Fimbriae of uterine tube卵管采
Uterine tube卵管
Round ligament of uterus子宮円靭帯Lig. teres uteri

すでに腹膜を剥がしている。解剖開始前にまず子宮支帯の配置を知識として整理する。「子宮支帯」は日本で頻用されるノミナである。まず、前部子宮支帯を切断して子宮膀胱を大きく引き離す。やや不明瞭な後部子宮支帯を切断して子宮直腸を引き離すと、ディノビエ筋膜という疎性結合組織層が下方に展開する。子宮広間膜の基部を指で探って、静脈にうっ滞した血液でコリコリした基靭帯(中部子宮支帯)を同定し、ヒモか糸でラベリングして温存する。これが広範子宮全摘術ならば尿管トンネル作成という作業が続く。骨盤神経叢上膀胱動脈を温存しながら、尿管膀胱につなげる(図397)。蔓状に発達した静脈は、視野を塞ぐようならある程度刈り詰めていい。詳細は切半してから十分にできるから、今は無理しないこと。ここでは位置関係の把握に重点を置く。

*(Mesometrium)子宮支帯
*Vesico-uterine lig.(Ant. lig.)前部子宮支帯
Cardinal lig.基靭帯
*Recto-vaginal lig.(Post. lig.)後部子宮支帯
Superior vesical artery上膀胱動脈
Pelvic plexus骨盤神経叢

注:「子宮支帯」は日本独特のノミナ。ドイツ語でも(少なくとも今は)使わない。 総腸骨動脈を確認し、さらに内腸骨動脈を剖出する。周囲のリンパ節は子宮癌取扱い規約で重要なもので、可能な範囲で残しておく。特に閉鎖動脈根部で発達する。内腸骨動脈の枝をたどり、基靭帯の中に入る血管を確認する。膀胱に至る血管も剖出する。視野が狭いので、できる範囲で行ない無理はしない。診断や手術の場合と同じように、原位置でオリエンテーションを付けるのが目的である(図410,405)。

以下の項目で、確認できたものをチェックせよ。残りは骨盤を切半してからでよい。
Common iliac artery総腸骨動脈
Int./Ext. iliac artery内/外腸骨動脈
Obturator artery閉鎖動脈
VaginaSheide
(Douglas')Rectouterine pouch直腸子宮窩(ダグラス窩) Excavatio rectouterina
*Greater vestibular gl.大前庭腺(バルトリン腺)

内に綿が詰めてあれば除去し、指で内診してダグラス窩 Douglas' pouchの位置を腟から確認してみる。外陰部では慎重に皮膚ないし粘膜を剥がして、大前庭腺(バルトリン腺 Bartholin's gland)を探してみる(図430)。綿で圧迫されて原型を留めていないことが多い。腟の内診で、子宮腟部の突出が確認できる場合は、供覧するので報告する。

分娩時に、子供が頭から出ていく通路(産道)の中で、どこが広いか狭いかを考えてみる(図386,387,389,390,392,432)。児頭は前後に長い。骨盤の前後径と横径を比較して、長い方に児頭の前後径を合せて移動するしかない。だから児頭は回旋する。

産道としての骨盤:みなさんに比べて数値が小さ過ぎる? 前後径 横径 骨盤入口部 岬角中央-恥骨結合後面中央上縁 11cm 13cm 左右最大距離 骨盤潤部 2-3仙椎間-恥骨結合後面中央 13.5 12.5 寛骨臼内面中央間 骨盤峡部 仙骨下端-恥骨結合下縁中央 11.5 10.5 坐骨棘間 骨盤出口部 尾骨先端-恥骨結合下縁中央 11.5 11 坐骨結節間 (82年のデータ)
■付図(骨盤の各部)



■付図(骨盤結合織(骨盤内筋膜)模式図)



■付図(導尿)



■付図(分娩時の会陰切開)



■付図(産道としての骨盤:児頭の回旋)




6.5.3 原位置の骨盤内臓:男性 (図272,276,278,368,439--441,445,448,468) 女性同様、現位置でオリエンテーションをつける。

鼡径部で解剖した精索(4.1.2)を骨盤内に追及して尿道につなぐ(図448)。精索内の精管はすでに剖出しているだろうか。膀胱を骨盤壁から後方に剥がしながら下方に剖出を進める。発達した蔓状の静脈叢があり、サントリーニ静脈叢と呼ばれる(図441)。内腸骨動脈の本幹から枝をたどり、上下膀胱動脈を剖出する。以上の作業は視野が狭いので、できる範囲で行なう(図368,441)。詳細は骨盤を切半してからでいい。メスを多用してはいけない。

Spermatic cord精索
Ductus/Vas deferens精管
Internal iliac artery内腸骨動脈
Superior/Inferior vesical artery上/下膀胱動脈

陰茎では、陰茎海綿体尿道海綿体を分離する(図468)。海綿体に分布する血管・神経を温存する。陰茎脚で尿道は屈曲している(図445)。導尿手技を考えてみよ(付図6.5.2)。クーパー腺(尿道球腺)を含めて海綿体の基部の詳細な観察は骨盤を切半してからの方がいい。陰嚢の解剖は、筋膜を剥がして精巣を分離し、精巣精巣上体を露出させる(図272)。

一側で割を入れて精巣精巣上体の内景を観察する(図276,278)。精巣は丈夫な 白膜 Tunica albuginea に包まれている(図251)。海綿体を包む強靱な膜も白膜と呼ぶ。水の中に精細管を一続きでほぐし出すことができれば、みなで観察するので報告する。
Penis陰茎
Corpus cavernosum penis陰茎海綿体
Corpus spongiosum penis尿道海綿体
Crus penis陰茎脚
*Bulbourethral gland (Cowper)尿道球腺(クーパー腺)
Scrotum陰嚢
Testis精巣Hoden
Epididymis精巣上体
Tunica albuginea of testis白膜(精巣の)


6.5.4 消化管の摘出と内腔の観察 (図296,451)

内景観察を再度行なった後(6.3.2)、以下の手順で消化管の摘出を行う。

1) 消化管をEC junctionSigma-Rs 境界の2箇所で結紮、切断する。

2) Celiac trunkSMAIMAAorta 近くで切断、腹部消化器系を一塊 en mass,en bloc として摘出する。リンパ管、自律神経系も同時に切れる。門脈系は切る必要はない。

3) 摘出の障害になる血管がこの3本以外にあれば、その血管を十分に同定・理解した後に切る。不明ならスタッフに聞く。

4) 消化管とその血管を短く寸断する必要はない。回腸空腸血管アーケードの違いに注意する(6.3.1)。観察終了後、肝を除く腹部消化器系を大容器(組織片容器)に収納する。


6.5.5 腰部離断と骨盤切半 (図367,394,427,445,450,451,465)

大腰筋と腰神経叢(4.1.4)の剖出が終わってから行なう。次のいずれの方法で行ってもよい。保健医療学部の学生とも相談してほしい。

1) 腹部内臓とその血管・神経を復習のため今後も原位置に残す場合

L5-S1椎間円板で切断する。腰神経叢の枝を復習し、大腿神経閉鎖神経腰仙骨神経幹の3本は糸でラベリングする(4.1.4)。2箇所に糸を付けて間を切断する。

2) 腹部内臓をすべて摘出した場合

T12-L1椎間円板で切断する。腰神経叢はほぼ全部が下肢側に付いて温存される。大動脈横隔膜などの軟部はメスで一割する。腎臓は下肢側に付ける。割線がジグザグすると後でつながりを見る時に困るので、直線的に横断する。

上述の1)、2)いずれにしても、腰部離断後はすべての骨盤構造を完全に正中で切半する。陰茎もきちんと正中で切半する。断面で、骨盤内臓の配置を再確認する。RsからPにかけての内景は保存されているだろうか(図450,451)。まだKotがあれば汚物流しで洗う。

* 骨盤内臓を切半せずに左右どちらか一側に付ける場合

希望する班は申し出る。一側に寄せる場合、注意して行なわないと反対側の血管・神経を完全にこわしてしまう。反対側の血管・神経をきちんと剖出し、坐骨直腸窩(図465,427)の清掃を終えてから内臓を処理する。

脊柱の断面で、椎間円板を観察し、線維輪髄核を区別する。内面から脊髄神経根椎間孔を確認する。髄核後縦靭帯を破って脊柱管に突出する椎間板ヘルニアはないか。

Intervertebral discs椎間円板
*Anulus fibrosus線維輪
*Nucleus pulposus髄核
Intervertebral foramen椎間孔

下肢の解剖は進んでいるだろうか。もう一側の下肢の進行はどうか。進行にアンバランスがあれば遅れている方は大腿部か膝関節で下肢を切断してもいい。


6.5.6 骨盤内臓の導通路
(図394,399--401,405,409,414,418,420,427--430,439,44 1--444,446,447,449,454,465,500)

男女それぞれのライヘを観察すること。最初に下腹神経骨盤内臓神経と共に骨盤神経叢を剖出して温存する(図439,409)。さらに精嚢前立腺など、今まで見えにくかった構造を同定・剖出する。

Hypogastric nerve下腹神経
Pelvic splanchnic nerves骨盤内臓神経
Pelvic plexus骨盤神経叢
Seminal vesicle精嚢
Prostate gland前立腺Prostata
VaginaSheide

女性のライヘでは以下の順に確認せよ。

1)子宮前傾前屈 Anteversio-anteflexio を確認する。
 子宮がいかに固定されているか、つまり子宮支帯(図xxx)を改めて復習する。

2)骨盤壁と子宮頚部を結ぶ基靭帯(中部子宮支帯)を確認する。
 すでに内部の血管・神経が剖出されているかも知れない。まだならば、基靭帯を剖出して子宮の血管・神経を露出させる(図405)。

3)ダグラス窩{に接する後腟円蓋 を確認する。
 後腟円蓋前腟円蓋より高いはずだ。

4)卵管卵巣を原位置で切開し、内景を観察する(図400)。
Cervix of uterus子宮頚部
Cardinal ligament of uterus基靭帯
Rectouterine pouch(Douglas')直腸子宮窩(ダグラス窩)Excavatio rectouterina
(Ant./Post.) Fornix of vagina(前/後)腟円蓋

男性のライヘでは、まず、前立腺恥骨に固定する強靭な恥骨前立腺靭帯を切断し授動する。サントリーニ静脈叢が発達しているかもしれない。前立腺の下方で精管尿道につなげ、開口部を確認する。前立腺は少なくとも外・中間・内の3葉(腺)から構成されるが、解剖体の断面で確認するのは困難だ(図444,449)。男性の宿命である前立腺肥大 BPH(BPHは内腺由来、癌は外腺由来)の典型例があれば供覧する。男性では精嚢周辺で骨盤神経叢が最も発達している。

膀胱の中で尿道口尿管口を見つけ、それらに囲まれたやや平滑な膀胱三角を確認する(図442,446)。この部分は、他の膀胱壁と異なり中腎管に由来する(ラングマン p.258-262)。粘膜ヒダの違いに注目したい。

Pubis恥骨
Puboprostatic ligament恥骨前立腺靭帯
Urethra尿道
(Urinary) Bladder膀胱Harnblase,Vesica urinaria
Orifice of ureter尿管口
(Ext./Int.) Urethral orifice(外/内)尿道口
Trigone of bladder膀胱三角

内腸骨動脈の内臓枝を確認・整理する。動脈を確認する過程で骨盤神経叢が壊れて行く(図441,409)。こういう手術は患者の QOLを損なう。子宮動脈下膀胱動脈は太い。中直腸動脈(中痔動脈)は有名だが、実は半数近くで欠如する。一般に骨盤内臓の静脈は、蔓状静脈叢と呼ばれる特殊な形態を示す。下直腸動脈(図xxx,441)は内陰部動脈の枝である。子宮(癌)の所属リンパ節は、正常なライヘでは閉鎖動脈根部に多い(図414)。閉鎖動脈閉鎖神経と共に閉鎖管にはいる(図418,420,500)。大腿の内転筋群(7.2.1)の間で血管・神経を再確認しておく。

Internal iliac artery内腸骨動脈
Uterine artery子宮動脈
Inferior vesical artery下膀胱動脈
Middle/Inferior rectal artery中/下直腸動脈
Obturator artery/nerve閉鎖動脈/神経
Obturator canal閉鎖管

子宮腔の観察は萎縮のためむずかしい。大きな子宮筋腫があれば報告する。子宮底子宮体子宮頚部(子宮頚管)を区別する(図400)。子宮頚部は腟内に突出して子宮腟部を形成し、開口部を外子宮口と呼ぶ。生体では外子宮口に前唇と後唇が区別できる。子宮腔の中で子宮体子宮頚部の境界を解剖学的内子宮口と呼ぶ。組織学的に粘膜を見ると、多少下方まで子宮体の内膜が張り出しており、粘膜の境界を組織学的内子宮口と呼ぶ。子宮頚管は分娩時に太い一連の管になり、通過管と呼ばれる。若き日に活躍した子宮を思う。

Cervix of uterus子宮頚部
Body of uterus子宮体
Fundus of uterus子宮底
Cervical canal子宮頚管


6.5.7 骨盤底 (図xxx)

坐骨直腸窩(図465,427)の脂肪は、残っていれば完全に除去し、骨盤隔膜を骨盤腔の内外から確認する。口腔底や横隔膜同様に筋である。内面から支配神経を受ける。骨盤隔膜肛門挙筋尾骨筋から構成され、肛門を頂点とする下向きのドームを作る。肛門挙筋の中では恥骨に付着する部分が最も強く、恥骨直腸筋と呼ばれる。日頃、最後に便を「切る」時に使っている。尾骨筋仙棘靭帯の内面に密着する。

Ischiorectal fossa坐骨直腸窩
Pelvic diaphragm骨盤隔膜
Levator ani muscle肛門挙筋

*Coccygeus muscle尾骨筋
Puborectalis muscle恥骨直腸筋
Sacrospinous ligament仙棘靭帯

骨盤隔膜の上外側縁は、腱弓を作って骨盤壁の内閉鎖筋(の筋膜)に付着する(図xxx)。ここを破ってしまって、坐骨直腸窩からなぜか小骨盤腔が見えるライヘはないか。恥骨直腸筋が直腸壁に合流する部分(連合縦走筋)を丁寧に剖出し、浅深(あるいは内外)の肛門括約筋を確認する。非常に病気の多い部位だが解剖はおろそかになりやすい。坐骨結節に触れて位置を再確認する。坐骨直腸窩にポケットを作る尿生殖隔膜(深会陰横筋)を確かめる。陰部神経内陰部動脈を殿部で再確認し(図465,427)、内閉鎖筋に付着するアルコック管 Alcock(陰部神経管)を開放しながら尿生殖隔膜に進入するまで追及する(図xxx,429)。男性で球海綿体筋坐骨海綿体筋を剖出しよう(図xxx)。分娩時の会陰切開で太い血管・神経を損傷しないように(付図6.5.2)、坐骨結節との近接関係を頭に入れる(図427,428)。女性外陰部の剖出がまだならば、大前庭腺(バルトリン腺)を探してみる(図430)。余裕があれば、さらに神経・動脈を陰茎ないし陰核まで完全に追及する。

*Obturator internus muscle内閉鎖筋
Anal sphincter muscle肛門括約筋
Ischial tuberosity坐骨結節
Pudendal nerve陰部神経
Internal pudendal artery内陰部動脈
*Urogenital diaphragm尿生殖隔膜
Pudendal canal陰部神経管
*Bulbocavernosus muscle球海綿体筋
*Ischiocavernosus muscle坐骨海綿体筋
*Greater vestibular gland大前庭腺(バルトリン腺)
Penis陰茎
Clitoris陰核


6.5.8 骨盤壁 (図360,409,410,414,415,418,420,428,513,568) 骨盤壁は下肢帯だが、進行の都合ここで扱う。骨盤壁を貫通する仙骨神経叢内腸骨動脈壁側枝を剖出する(図410)。骨盤隔膜が張る骨盤底は、体壁として扱われる(図420)。肛門よりも尾側にも体壁があることは、胚子の解剖で示説する。

以下の順で、同定、確認する(4.1.4)。 1)腰神経叢4.1.4から下行してくる腰仙骨神経幹(図364--367)を再確認する。
2)内腸骨動脈枝の中で、すでに剖出されている内臓への枝を同定する。
3)殿部で坐骨神経・上下の殿筋神経陰部神経などを再確認し、梨状筋の上下から骨盤内に向けて剖出する。仙骨前面を剖出して交感神経幹(仙骨内臓神経)を確認する。
4)仙骨を前後から触れて前仙骨孔の位置と梨状筋の起始を確認する。
5)骨盤内から観察しながら、殿部で坐骨神経を動かして位置を確認する。
6)骨盤神経叢骨盤内臓神経を温存しながら、仙骨神経の根部を剖出する。
Sacral/Lumbar plexus仙骨/腰神経叢
Internal iliac artery内腸骨動脈
Sciatic nerve坐骨神経Nervus ischiadicus
Superior/Inferior gluteal nerve上/下殿筋神経
*Piriform muscle梨状筋
Sacrum仙骨
Sacral/Pelvic splanchnic nerve仙骨/骨盤内臓神経
Pelvic plexus骨盤神経叢
*Pelvic sacral foramen前仙骨孔
Sacral nerves仙骨神経

次第に、骨盤内から大坐骨孔を通して殿部の神経が見えるようにする(図420,513)。その過程で梨状筋がくずれてもやむをえない。坐骨神経の中の腓骨神経部分はしばしば梨状筋を貫通する。仙骨神経叢の全体が見えたら図360と合せて確認する。仙結節靭帯仙棘靭帯は残してあるだろうか。梨状筋内外閉鎖筋は位置関係が分かりにくい。閉鎖神経の前後枝を短内転筋の前後で確認し(7.2.3)、外閉鎖筋を貫いて閉鎖孔の内側まで追求する。

*Greater sciatic foramen大坐骨孔
Sacrotuberous ligament仙結節靭帯
Sacrospinous ligament仙棘靭帯
*Obturator internus/externus muscle内/外閉鎖筋
Obturator foramen閉鎖孔

以上の過程で内腸骨動脈から骨盤壁に向かう枝(壁側枝)も確認される(図410)。上殿動脈下殿動脈が圧倒的に太い。内陰部動脈閉鎖動脈はすでに末梢が剖出されている。太い閉鎖動脈枝が恥骨内面を上行して深鼡径輪に接して冠状に走行し、大腿動脈下腹壁動脈に続くことがある。昔はヘルニア手術の際に損傷することがあり、死冠と呼ばれた。閉鎖動脈から寛骨臼(図568)に入り、大腿骨頭靭帯から骨頭に至る枝はあるか。大腿の解剖では見にくかった内側大腿回旋動脈は大腿骨上部の栄養動脈を出す(図513)。その温存に頚部骨折の予後がかかっている。調べるなら今が好機だ。腸腰動脈外側仙骨動脈などから、前仙骨孔ないし腰椎椎間孔にはいる枝はないだろうか。脊髄(馬尾4.6)に至る可能性がある。さらに上方で各高さの腰動脈から腰椎椎間孔にはいる枝がないか、最後のこの機会に確認したい。損傷すれば大きな障害を残す動脈である。

Superior/Inferior gluteal artery上/下殿筋動脈
Internal pudendal artery内陰部動脈
Obturator artery閉鎖動脈
Deep inguinal ring深鼡径輪
Inferior epigastric artery下腹壁動脈
Acetabulum寛骨臼
*Ligament of head of femur大腿骨頭靭帯
Medial circumflex femoral artery内側大腿回旋動脈
*Iliolumbar artery腸腰動脈
Lateral sacral artery外側仙骨動脈


■付図(脊柱と大動脈枝の高さ)



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