第7章-下肢・下肢帯-
7.4 足
7.4.1 足背 (図531,533--537)

手背とは異なり、足背には長い伸筋(筋実質は下腿にある)と短い伸筋がある。足背で、下腿から来る長い伸筋腱を再び同定した後、必要最低限の範囲で伸筋支帯を切断し、腱を浮かせて短母指伸筋短指伸筋を剖出する。余裕があればゾンデを入れて滑液鞘の観察を行なう(図533,534)。さらに短母指伸筋と短指伸筋を浮かせながら、その支配神経(深腓骨神経)を確認する。深腓骨神経を第1-2指間の皮下まで追求する(図537)。足背動脈は重要な脈診部位(糖尿病など)であり、下腿のどの動脈の続きであるかを確認する。手背とは異なり、足背には動脈のアーチ=弓状動脈が存在することがあり、また足指にも強力な枝(背側中足動脈)を出している。最後に腓骨筋の停止を剖出する。短腓骨筋が停止する第五中足骨底の突出部を、自分の足で確認する。小さな骨折がよく生じる部位だ。足底に向かう長腓骨筋腱は、小指外転筋の深側まで追求し、その先は次節の足底の解剖の進行を待つ。

Dorsal foot足背
*Extensor hallucis brevis muscle短母指伸筋
*Extensor digitorum brevis muscle短指伸筋
Deep peroneal nerve深腓骨神経
Dorsalis pedis artery足背動脈
*Arcuate artery弓状動脈
*Dorsal metatarsal artery背側中足動脈
Tendon of peroneus longus muscle長腓骨筋腱
*Abductor digiti minimi muscle小指外転筋


7.4.2 足底 (図533,534,549--555,602,604,606,608,609--611)

下腿の屈筋2層の間を走行する後脛骨動脈脛骨神経を下方に追求し、内果の下方の導通路を確認する。下腿に始まる長い3本屈筋腱(後脛骨筋長指屈筋長母指屈筋)も、互いに交差しながら内果下方を通る。滑液鞘に包まれているので余裕があればゾンデで確認したい(図533,534)。

細い皮神経には気の毒だが、足底の皮下組織をメスで除去して足底腱膜をいきなり露出させる(図549)。カカトの厚い脂肪組織もメスで除去する。深部までメスがはいらないように注意する。皮下組織の厚さだけはしっかりと認識する。足底腱膜が露出したら、カカト側から指先に向けて足底腱膜をメスで剥離する。内果下方から血管・神経を足底に連絡させ、外側内側足底動脈神経を剖出する(図550,553)。

母指外転筋の輪郭を出して、その起始部に切開を入れて下腿と足底の血管・神経をつなげる(図553)。短指屈筋長指屈筋の腱の合流形態を観察する。手のように(あるいは図譜の足のように)、長(深)が短(浅)をくぐりぬけているだろうか。太い血管・神経を切らないように注意しながら、短指屈筋踵骨から剥がして指先に向けて反転する。さらに足底方形筋も同様に指先に向けて反転する。ここで長指屈筋腱長母指屈筋腱を、内果下方から指先まで一続きになるよう剖出する。外側足底神経を遠位に追求すると深部にもぐりこむ。視野確保のために、場合によっては長指屈筋腱を一部切断してもいい。

Tibial nerve脛骨神経
Plantar aponeurosis足底腱膜
Lat./Med. plantar artery/nerve外側/内側足底動脈/神経
*Abductor hallucis muscle母指外転筋
*Flexor digitorum brevis muscle短指屈筋
Calcaneus踵骨
*Quadratus plantae muscle足底方形筋

足底動脈弓外側足底神経の分枝を確認するには、さらに母指外転筋を徐々に浮かすか切断除去しなくてはならない。足底動脈弓は手掌のように明瞭ではない。小指外転筋も指先に向けて反転、その深側で長腓骨筋腱を停止まで追求する(図527,555,611)。足指で物をはさむわけでもないのに骨間筋がよく発達しているから注目。手と異なり、足底の短い筋は何の役に立つのか疑問に思うかもしれないが、足アーチを維持したり、足が地面を離れる前に足の前半分を固く維持したりする作用が重要視されている。これらの小筋が麻痺した患者の歩行を見る機会が、いずれあるだろう。

足底の剖出が終了したら、下腿からの長い腱をはずしながら、足関節を側方から補強する捻挫の靭帯(三角靭帯踵腓靭帯)などを剖出する。また足関節の靭帯ではないが損傷を受けやすい二分靭帯も確認する。特に前距腓靭帯は個体差が大きく、ライヘでも捻挫の痕跡(断裂・瘢痕・弛緩)を認めることがある。浅いので最初に確認したい。足背の腱を寄せながら足背から足根骨中足骨を露出させる。戦争や事故で足を切断する部位であるショパール関節 Chopart's joint リスフラン関節 Lisfranc's jointは有名だから参考書で調べること。足底で長足底靭帯を除去する。足関節を理解するため、距骨をはずしながら距骨と周囲の骨を固く連結する靭帯を確認する。 距骨下関節内に靭帯があることがわかるか。

最後に、距腿関節面を作る脛腓靭帯結合を後方から開く(図602,604,606,608-611)。必ず手と足の構造を比較して、何が何に対応するかを検討する。

Plantar arch足底動脈弓
Interosseus muscles骨間筋
Longitudinal/Transverse plantar arch足アーチ(縦足弓,横足弓)
Ankle joint足関節
Talocrural joint距腿関節
Subtalar joint距骨下関節
(Talocalcaneonavicular joint)(距踵舟関節)
*Deltoid ligament三角靭帯
*Calcaneofibular ligament踵腓靭帯
*Bifurcate ligament二分靭帯
*Anterior talofibular ligament前距腓靭帯
Metatarsal bones中足骨
*Long plantar ligament長足底靭帯
Talus距骨


■付図(足アーチ)




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