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外耳・中耳・内耳  (Fig.921,926,935,937)

左右どちらか一側で行なう。もう一側は本学医師が耳 科手術の練習に用いるので手をつけないで欲しい。諸君の協力があれば、いずれ本学でも耳科手術の同門会研修が定期的に開催できるようになるだろう。

1)

耳介 は先天異常の多い部位であり、へこみやでっぱりの名称をさらりと一度は確認しておきたい(Fig.915)。耳の発生はラングマン p.312-321 参照。耳介を動かす筋や耳介の軟骨も、余裕があれば剖出する(Fig.916-918)。耳介の観察を終えたら、メスで耳介側頭骨 から剥がし取る。必ず、外耳道 の切断面を確認しておく。この機会に、乳様突起 に付く筋(胸鎖乳突筋、顎二腹筋、頭最長筋、頭板状筋)を確認したい(Fig.717,888)。また、茎状突起の根部で顔面神経 茎乳突孔 にはいるところを必ず確認しておく(Fig.836,936)。 

External/Middle/Internal ear 外耳/中耳/内耳 921 tex2html_wrap_inline9405
Auricle 耳介 921
Temporal bone 側頭骨 919
External acoustic meatus 外耳道 921
Mastoid process 乳様突起 920
Styloid process 茎状突起 920
Facial nerve 顔面神経(VII) 936Nervus facialis
Stylomastoid foramen 茎乳突孔 936

2)

内頭蓋底 側頭骨錐体 を確認し(Fig.937)、その前面をノミで3mm程度ずつ、根気良く広範囲に削り落としていく。乳突蜂巣 が蜂巣状の空間として彫り出される(Fig.920)。外耳道が開放される深さまで、鋸を用いて側頭骨鱗部をくさび状に落としておくと効果的である。錐体外側部(乳突部)では乳突蜂巣が次第に露出・拡大していく。外耳道を上壁前壁から開放し、さらに乳突洞 がパカッと開いたら(Fig.937)、鼓膜は近い。さらに慎重にノミを進めて鼓膜を露出させる。鼓膜 の扱いが悪いと、続く耳小骨も破損してしまう(Fig.926,928)。鼓膜に緊張部弛緩部を区別する(Fig.924)。

Petrosal part of temporal bone 側頭骨錐体 937Pyramis
Mastoid antrum (Mastoid air cell) 乳突洞(乳突蜂巣) 920
*Squamous part of temporal bone *側頭骨鱗部919
Tympanic membrane 鼓膜 924
Pars tensa/Pars flaccida 緊張部/弛緩部 924
Auditory ossicles 耳小骨 926 tex2html_wrap_inline9405

3)

錐体前面内側部に溝を付けて走行している大錐体神経 を確認する(Fig.937)。硬膜と共に神経がはがれていても、溝だけは分かるはずだ。この神経は直線的に顔面神経膝 (内耳) に続いている。錐体前面内側部をノミで削る際は、できるだけ大錐体神経を保存して、今どこを削っているかというオリエンテーションを付ける。供覧標本を何度も見ながら作業する。

4)

上咽頭耳管 の外口を確認し、そこからゾンデを挿入しておく(Fig.826,921)。耳管は、概ね蝸牛の前下縁を経て鼓室 に至るので、大錐体神経と共に今後の作業のめやすになる。

Greater petrosal nerve 大錐体神経 937
Genu of facial nerve 顔面神経膝 931
Upper pharynx 上咽頭 890 tex2html_wrap_inline9403
Auditory tube 耳管 921
Cochlea 蝸牛 921
Tympanic cavity 鼓室 927

5)

外耳道を開放する過程で鼓膜が露出する以前に、錐体内側部で突然、鼓室上陥凹 という部分が開放されることがある(Fig.922,924)。今までの乳突洞 とは様子が違うことを感じ取れるかどうかが勝負だ。それらしい腔所が開いたら、ピンセットでそっと中を探り、耳小骨 の有無を確認する(Fig.926)。鼓膜が露出してから鼓室上壁を開放すると、覚悟ができていて確実である。鼓室の上陥凹であることが確認されれば、さらに錐体上面もノミで剥離して、上方と前方から視野を広げる。

慎重に作業しないと、耳小骨がはずれたり飛んで行ってしまう。そうなると、ツチ骨 に密着して鼓室を横切る鼓索神経 も切れてしまう(Fig.927)。耳小骨はむやみにはずしてはいけない。後の作業中に耳小骨がはずれないように、原位置のままゼリー状アロンアルファで軽く固定しておく(Fig.926,927)。ツチ骨にはを区別する。キヌタ骨 には長脚短脚がある。アブミ骨 は内耳の剖出が進んでから見た方がいい。繰返すが、耳小骨をはずさないように注意する。

*Epitympanic recess *鼓室上陥凹(上鼓室) 922
Auditory ossicles 耳小骨 926 tex2html_wrap_inline9405
Malleus ツチ骨 926
*Manubrium of - *ツチ骨柄 926
*Head of - *ツチ骨頭 926
Chorda tympani nerve 鼓索神経 927 Chorda tympani
Incus キヌタ骨 926
*Body of - *キヌタ骨体 926
*Long/Short crus of - *長脚/短脚 926
Stapes アブミ骨 926

ここで余裕があれば、乳突洞を外側からノミでクレーター状に削って、鼓室を後下方からも解放してみる。見えにくかった岬角 アブミ骨が直視下に見える(Fig.922)。外耳道骨壁をできるだけ温存しながら鼓室のすべての部分を直視下に見えるようにする。これは耳鼻科でしばしば行うposterior tympanectomy という手術アプローチである。外耳道の壁はなるべく温存する。顔面神経 の下行部を温存するため、クレーターをあまり拡大してはいけない。

6)

顔面神経内耳神経 を損傷しないように、内耳孔  から内耳道 をノミで慎重に開放する(Fig.937)。ノミで削りながら顔面神経 を追跡し、大錐体神経 と合流して直角に方向を変える部位を見い出す(Fig.929-935)。そこを顔面神経膝 と呼び、膝神経節 がある(Fig.931,937)。示説標本を何度も見て位置を確認する。顔面神経を膝から末梢側に注意深く追求するにつれて、鼓室の上からの視野が広がり、アブミ骨が上から見えるようになる(Fig.931)。

Promontory of tympanic cavity (鼓室の)岬角 922
Vestibulocochlear nerve 内耳神経(VIII) 938 N. vestibulocochlearis
Opening of internal acoustic meatus 内耳孔 937 tex2html_wrap_inline9403
Internal acoustic meatus 内耳道 937
Greater petrosal nerve 大錐体神経 937
Geniculate ganglion 膝神経節 937

7)

以上の過程で三半規管 の断面が見えるので、外側いずれの半規管 か同定する(Fig.937-939)。蝸牛 の一部が露出した場合は、全体を掘り出すように努める。ノミは薄片を削るように用いる。アブミ骨は蝸牛の前庭窓 に付着している。ドリルを用いて骨内の膜迷路 アブミ骨筋 小錐体神経 なども剖出できる(Fig.930,932,939)。

Anterior/Posterior/Lateral semilunar canals (duct) 前/後/外側半規管 937
Vestibular window 前庭窓 920
Membranous labyrinth 膜迷路 939
Stapedius muscle アブミ骨筋 930
Lesser petrosal nerve 小錐体神経 932

8)

内耳 の観察が一応終了したら、内頭蓋底の海綿静脈洞の中で内頚動脈 を確認し(Fig.771,938)、これを下方にたどって、頚動脈管 をノミで開放する(Fig.920)。内頚動脈は三叉神経根 の下方から蝸牛 のすぐ内側を通る。顔面神経 や鼓室 と近接していることも確認する。さらに余裕があれば、茎乳突孔から内耳までの顔面神経管 耳管 鼓膜張筋 鼓索神経 などの掘出しに挑戦して欲しい(Fig.928)。鼓索神経は側頭下窩で舌神経から再確認しておく(Fig.835)。

Cavernous sinus 海綿静脈洞 770
Internal carotid artery 内頚動脈 771
Carotid canal 頚動脈管 920
Facial canal 顔面神経管 928
Tensor tympani muscle 鼓膜張筋 928


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