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頚胸移行部と上縦隔  (Fig.190,192,710)

開胸後、最初に胸部内臓のオリエンテーションをつける。左右の肺 を包む壁側胸膜 は残っているだろうか。損傷がひどければ、他班の保存のいいライヘで確認する。心嚢 に入ったままで心臓 に触れる。下頚部の大血管を下方にたどって上縦隔 を触診する。さらに大血管の配置を知るため、フィンガーディセクション(指先による解剖)を行なう。最初は神経を切らないように慎重に、次第に大胆に次の構造を順に確認する。

Parietal pleura 壁側胸膜 160
Trachea 気管 190
Bronchus 気管支 189
Aortic arch 大動脈弓 190
Brachiocephalic trunk 腕頭動脈 190
Left common carotid artery 左総頚動脈 190
Left subclavian artery 左鎖骨下動脈 189
Root of the lung 肺根 171 Radix pulmonis
Esophagus 食道 187
Vertebral column 脊柱 227

各縦隔の区分を知識として整理しておく(Fig.191)。

縦隔 胸腔 -肺を含む胸膜腔 上縦隔  胸骨角 より上方、上縁は鎖骨 第1肋骨 、下縁は横隔膜 各縦隔胸骨角より下方にある。通常は胸骨柄と胸骨体の境(胸骨角)が第2肋骨ないし第4胸椎体に対応する。前縦隔 は心嚢 より前方の薄い部分で、胸腺脂肪体 内胸動脈 などがある(Fig.187)。中縦隔 心嚢(心臓 心膜 )で、心嚢より後方が後縦隔 だが、気管下部と主気管支周囲のリンパ節を中縦隔リンパ節  と呼ぶことがある。

頚部の解剖ですでに、リンパ節 は見つけて除去しているだろうか(p.gif)。静脈角  付近のリンパ節を除去しながら(p.gif)、胸管 を探す(Fig.242,715)。ここは無理しないで、先に進んでいる班を参考にする。胸管だけは最後まで温存する。

Superior/Anterior/Middle/Posterior mediastinum 上/前/中/後縦隔 191
Sternal angle 胸骨角 154
Thymus 胸腺 187
Internal thoracic artery/vein 内胸動脈/静脈 187
Venous angle 静脈角 242 tex2html_wrap_inline9403
Thoracic duct 胸管 242

横隔神経 を頚部で(Fig.703,711)再確認し、下方に追及して心膜 の外面まで(Fig.190)たどる。開胸の際に切断した内胸動脈 を確認して根部まで剖出しておく(Fig.192,260,711)。内胸動脈枝の心膜横隔動脈 は、心膜の栄養血管で横隔神経に伴走する。内胸動脈 内胸静脈は頚部側では伴走せずに離れていく(Fig.192)。内胸動静脈に沿う前縦隔リンパ節  (ここでは内胸リンパ節群 )は乳癌 取扱い規約上で有名だ。内胸動静脈間と腕頭静脈角で、特に発達している。観察しながらリンパ節 を除去していく。前胸壁では、しばしば静脈が内胸動脈の両側にある(Fig.146)。

Phrenic nerve 横隔神経 190
Pericardium 心膜 190
Internal thoracic artery/vein 内胸動脈/静脈 187
*Pericardiacophrenic artery *心膜横隔動脈 190
Anterior mediastinal lymph nodes 前縦隔リンパ節 192

IVH の実習 で針がどこに刺さったかを確認してみよう。胸膜を破って医原性の気胸 を起こしてはいないか。胸膜 に傷が付き、大気が流入すると胸膜腔の陰圧が失われ、肺 はそれ自体の弾性によって収縮して呼吸障害 が生じる。

総頚動脈 内頚静脈 を下方にたどり、上縦隔 大血管を剖出する。浅側にある左右の腕頭静脈 が最初に剖出される(Fig.710)。腕頭静脈の血管周囲にある血管鞘 を除去する。この付近のあいまいだが便利な表現として頚胸移行部 という用語がある。胸腺脂肪体 胸腺 らしい形を留めているライヘでは、他班にも紹介する。あらかじめ胎児の胸腺を示説標本で観察しておく(Fig.219,281)。胸腺脂肪体は完全に除去し、腕頭静脈を浮して深側の動脈を剖出していく。甲状腺 に出入りする血管を再確認しておく(Fig.711,715)。下甲状腺静脈 に伴走する動脈があれば最下甲状腺動脈 A.thyroidea ima  の可能性がある(p.gif)。甲状腺の血管は変異に富むので複数の班で観察する。左腕頭静脈を正中線付近で切断して左右に反転すれば、さらに深部の剖出が進む。太い気管支縦隔リンパ本幹 が見つかるかも知れない(Fig.711)。

健康体でも縦隔リンパ節 はよく発達している。呼吸を通していつも抗原刺激を受けているためであろう。黒いリンパ節はアンテラ Anthracosis    と称される。リンパ節内のマクロファージが粉塵を溜め込んでいる。アンテラの量と位置は、肺 からのリンパ流を示唆する。肺癌 ・食道癌 など臨床では、これら縦隔リンパ節  の位置の認識が重要である。実習の進行状況を見てリンパ節実習を行う。リンパ節を除く際に、左右反回神経 を損傷しないようにする。反回神経麻痺 の大半は、癌手術のリンパ節郭清による医原性である。

胸膜 に包まれた肺の内側で心嚢 との間にも脂肪がたくさんある。これを除去しながら、横隔神経 を裸にする。上大静脈 も後方まで剖出が進み、上大静脈が浮いてそこに注ぐ奇静脈弓 が確認できる(Fig.187,234)。上縦隔 の深側に腕頭動脈 が見えてくる(Fig.193)。

Common carotid artery 総頚動脈 710
Internal jugular vein 内頚動脈 710
Brachiocephalic vein 腕頭静脈 710
Thymus 胸腺 187
Thyroid gland 甲状腺 710
Inferior thyroid vein 下甲状腺静脈 703
Bronchomediastinal lymph trunk 気管支縦隔リンパ本幹 711
Mediastinal lymph node 縦隔リンパ節 187
Recurrent laryngeal nerve 反回神経 896
Pericardial sac 心嚢 189 tex2html_wrap_inline9403
Phrenic nerve 横隔神経 190
Superior vena cava 上大静脈 187
Azygos vein 奇静脈 187
Arch of the azygos vein 奇静脈弓 186
Bronchiocephalic artery 腕頭動脈 190


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Akiko Oshiro
1998年01月19日 (月) 16時56分03秒 JST