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選択スケッチ課題:肝区域と肝内グリソン

すでに肺区域を学んでいる。肺区域は気管支分岐だけで決定されていた。これに対して肝区域 は、気管支分岐に対応する肝内グリソン (門脈 胆管 肝動脈 )の分岐だけでなく、肝静脈 の走行や外観上のバランスが歴史的に重要である。換言すると、肝区域の概念はまだ成熟しておらず、用いている医師が都合のいいように解釈しているフシがある。肝区域には、ラフな外科的肝区域とより細分化されたクイノー肝区域がある。今は診断ばかりでなく手術もクイノー肝区域  で行なう。ピンセットで肝実質 を少しずつ崩して肝内グリソン と太い肝静脈を剖出するのが基本である。メスはなるべく使わない。

肝門のH は理解しているか。あらかじめ肝表面からクイノー肝区域を想定してみる(剖出すると多くは予想とかなり異なる)。次に、摘出肝に張りついている下大静脈 に直線的に割を入れて内腔を開放する。3本の太い肝静脈 の他に、細い短肝静脈 がしばしば観察される。非常に細いものは尾状葉 から来る。10mmくらいの比較的太い短肝静脈はクイノー肝区域S7とS6の深部から来る。3mmくらいの細い短肝静脈S7, S6の下面浅層から来る。手術で肝を脱転する時に、これらの静脈の処理を誤ると大出血を起こす。 

静脈を確認したら、ピンセットで肝実質を崩して太い肝静脈を下方に3-5cm程度追及する。短肝静脈の多くは次第に浮いてはがれてしまう。3本の太い肝静脈を確認するため、下大静脈周囲を横隔面から1cm程度掘り下げていく。しかし、外形がくずれるので過度に横隔面をこわしてはいけない。右肝静脈モドキが2-3本見えることがあるが、ここでは一括して右肝静脈と呼ぶ。

次に尾状葉 をピンセットで崩して、尾状葉に分布する門脈 肝静脈 を分離し、ある程度切詰めて剖出の視野を広げる。門脈右枝・左枝いずれから枝が来るかを基準に、尾状葉が左右(S1, S9)に分けられることが理解できるだろうか。しかし尾状葉の静脈は必ずしも左右別ではない。あまり尾状葉にこだわると先に進めない。尾状葉がくずれて初めて、その深部で中肝静脈を下方に肝門部(肝内グリソンの左右分岐)まで追及することができる。左右の肝静脈を剖出する視野も尾状葉(があった部分)から得られる。赤黒くもろい肝静脈と、白い丈夫な肝内グリソンの区別は付くだろうか。「何だこの邪魔な結合組織はー」と思ったら、静脈管索 を疑う(ラングマン p.205)。

同時に、ピンセットで肝門部から肝実質を崩し、肝内グリソン をクイノー肝区域レベルまで剖出することを忘れない。まず肝内グリソンが左右2枝に分れる。さらに右は前後2枝に分れる。この前区域枝からS5, S8が、後区域枝からS6, S7区域枝亜区域枝が分れる。左では肝円索に続く太い門脈臍部をまず確認し、さらにS2, S3の2枝あるいはS4を含めた数枝に分れる。このように肝門に近い太い部位から順次剖出していく。末梢の細かいグリソンにこだわると先に進めないし、応用的には重要性が低い。肝内グリソンの中で動脈がどこに位置するかは変異も多く、臨床的にも重要だが、実習では省略する。クイノー肝区域  レベルのグリソンとは肝臓の大小にもよるが、かなり太いものである(直径10mm程度)。学生は前区域枝(S5, S8)の剖出が常に甘い。特にS8の範囲は広く、右葉の上方に突出した部分にもしばしば食い込んでいる。尾状葉(があった部分)から視野を得て剖出する。S5は2-3本あり、本幹を作らないのでわかりにくい。同時4分岐とか3分岐とか、右の肝内グリソンの分岐パターンには多くの変異がある。

肝内グリソンに注意を奪われると、肝静脈を破壊してしまう。最初に横隔面で見つけた静脈は、その後もきちんとフォローしていく。中肝静脈は、尾状葉(があった部分)で掘り下げたら、今度は胆嚢床 を軽くひっかくと続きが出てくる。胆嚢床(S4, S5)では静脈も肝内グリソンも大変浅く細く、横隔面の要領で剖出すると破壊してしまう。中肝静脈S8にも食いこむ。右肝静脈は、肝内グリソンの前区域枝を確認しながら、前区域枝後区域枝の間にピンセットを進めて、さらにS6浅層下方まで追求する。左肝静脈S2, S3の肝内グリソンとあみだを組んでおり、内側・外側区域の境界とは必ずしも言えない。 

スケッチには前から見た肝の輪郭を大きく入れた上、前から見たごとく、肝内グリソンと太い肝静脈 を1枚のケント紙に描く。下から見た絵ではない。肝内グリソンにはS1,S2の要領で名称を付ける。なお、課題作業中に小グループで肝内エコーの示説を受け、P-point , U-point (本来は門脈造影の用語)について理解する。S2-8の各門脈枝を生体で確認してみよう。

■付図(クイノー肝区域) 



Akiko Oshiro
1998年01月19日 (月) 16時56分03秒 JST