まず肝の外景を確認する。肝の下(後)面=臓側面にH字型に配置している溝や凹みをきちんと頭に入れたら、友人の肝臓を前から透視してそのH字 を再現する。
肝内門脈を剖出して外科的肝区域 とクイノー肝区域 Couinaud's を理解する。外科的肝区域による左葉・右葉の境界は、カントリー線 と呼ばれる。カントリー線は、およそ中肝静脈 の走行に一致している。外見的な左葉に加えて、尾状葉 のおよそ左半分と、胆嚢 の張りついている部分(胆嚢床)を加えて、外科的な左葉を構成する。これは外観上の約束ではなくて、肝内グリソン の枝分れに従っている。
肝内グリソン とは、門脈 ・肝動脈 ・胆路 が結合組織に束ねられたもので、外科の用語である。大きく左右に分れた肝内グリソンが、外科的左葉と外科的右葉に分布している。肝内グリソンの枝分れに従って、外科的左葉はさらに内側区域と外側区域に分れ、外科的右葉は前区域と後区域に分れる。解剖学的左葉とはこの肝区域の外側区域を指す。内側区域と外側区域の境界に左肝静脈 が、前区域と後区域の境界に右肝静脈が走行するとされている。
クイノー肝区域 は、肝内グリソンの枝分れに従って外科的肝区域(内側区域、外側区域、前区域、後区域)をさらに2つに分けたもの。内科でも外科でも今やルーチンに用いられる肝臓の地番だ。1994年12月、Dr.クイノーの提唱により尾状葉 は、下大静脈 を下から包むような部分(スピーゲル葉 : 左葉)と下大静脈のすぐ前方(尾状葉突起及び下大静脈部: 右葉)に分けられた。
ピンセットで肝実質を少しずつ崩して、肝内門脈と太い肝静脈を剖出する。最初に付図を参考にして肝表面にクイノー肝区域を想定する。肝 を常に原位置にもどして再確認する。次に3本の肝静脈 に慎重にゾンデを入れて、外科的肝区域の見当をつける。それからピンセットで肝門部 を崩して行く。肝門に近い太い部分からひたすら肝内グリソンを追及する。末梢の細いグリソンにこだわることはない。肝がバラバラにならないように、肝の横隔面を温存する。但し、肝区域の選択課題を選ぶ場合は後述の方法に従う。
Anatomical right/Left lobe | 解剖学的右葉/左葉 | 311 | ||
Surgical right/Left lobe | 外科的右葉/左葉 | 311 | ||
Cantlie's line | カントリー線 | 311 ![]() | ||
Left/Middle/Right Hepatic vein | 左/中/右肝静脈 | 309 ![]() | ||
Gall bladder(GB) | 胆嚢 | 312 | Gallenblase,Vesica fellea | |
Hepatic(Portal) segment | (外科的)肝区域 | |||
Couinaud's | ||||
hepatic(portal) (sub)segment | クイノー肝区域 | |||
Caudate lobe | 尾状葉 | 311 | ||
Portal vein | 門脈 | 311 | V.portae |
腹部の局所解剖をある程度理解したら、実習室内で備え付けのエコー3台を用いて自分たちの腹部を観察する。腹部皮下に脂肪の少ないやせた者を被検者に選び、空腹にして観察することがポイント。腹腔動脈枝、上腸間膜動脈などの解剖(p.)が進んでからの方が理解しやすい。肝内門脈もよく見える。実習室で初めてエコー を行なう時は、横断面で大動脈と脊柱をまず確認する(Fig.371)。次いで大動脈の縦断を試み、SMA(上腸間膜動脈) , Celiac trunk(腹腔動脈) 、腎動脈 を探す。いずれ国試ではエコーを読まなければならないのだから、解剖実習をしている今から慣れておけばいい。
Aorta | 大動脈 | 316 | ||
Vertebral column | 脊柱 | 371 ![]() | ||
Sup. mesenteric artery (SMA) | 上腸間膜動脈 | 316 | Arteria mesenterica sup. | |
Celiac trunk(Celiac axis) | 腹腔動脈 | 316 | Truncus celiacus | |
Renal artery | 腎動脈 | 316 |