札幌医科大学医学部

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2003年5月20日更新

2003年5月20日a Bmi-1は成体のHSCの増殖に不可欠

 
Park Ik et al. Bmi-1 is required for maintenance of adult self-renewing haematopoietic stem cells.  Nature 423: 302-305, 2003.  の論文によると、Bmi-1 (a transcriptional repressor, Cf. Van Lohuizen M. et al. Cell 654: 737-752, 1991.) が自己複製能をもつ成体HSC (haematopoietic stem cell) の発生に不可欠、とのこと。Bmi-1 の効果は、p16ink4aとp19Arfの抑制を介して、それぞれ、細胞増殖抑制と細胞死増加の抑制につながっているようです。この論文では、Bmi-1ノックアウトマウスを作成して解析を行っています。面白いことに、Bmi-1ノックアウトマウスの胎児のマウスのHSCの数は正常なのに、成体HSCの自己複製能が見られないとのこと。
 
Lessard J and Sauvageau G  Bmi-1 determines the proliferative capacity of normal and leukemic stem cells.  Nature 423: 255-260, 2003. の論文によると、正常のHSCだけでなく、白血病の幹細胞の増殖に必須。Bmi-1を発現しない白血病細胞は幹細胞の性質を持たず、いずれは増殖が停止して、分化やアポトーシスへ進む。Bmi-1を発現させてやれば、幹細胞として増え続けることができる。Lessard J and Sauvageau G  たちは、マウス胎児肝臓細胞にHoxa9とMeis1aの遺伝子を発現させてマウスのAML急性骨髄性白血病を作らせ (Ref.  Kroon e. et al. EMBO J. 17: 3714-3725, 2003)、実験を行っています。Bmi-1ノックアウトマウスでもこれらの遺伝子の発現でAMLができるので、AMLの発生にBmi-1は必須ではありません。しかし、Bmi-1ノックアウトマウスでは、白血病幹細胞の自己複製能が悪いため、白血病細胞は少なく、別のマウスに移植しても白血病になりません。Park Ik et al.の論文と非常に良く呼応しています。

 
HH私見。

 質問。発生初期(胎児)のHSCはBmi-1依存的ではない。とすると、成体のHSCと、発生初期(胎児)のHSCと本質的な違いは何か? 
 
 質問。Bmi-1を標的とした白血病の治療は? 造血幹細胞HSCもBmi-1に依存しているので、選択性の高い、毒性の低い治療法を開発するには、さらにひとひねり必要ですね。それにしてもsiRNAを使ってBmi-1の発現を抑えた、というような論文はすぐにでも出てきそうですね。

 一方、コミットした正常造血前駆細胞(いわゆるprecursor細胞)にBmi-1を発現させることによって、幹細胞にできるか? 白血病細胞ではうまくいっても、正常造血細胞では一度分化の方向に峠を越えてしまうとHSCへ戻るのは難しいと予想されますが、ひょっとして、この峠越えがBmi-1の発現如何で決まるのであれば、逆方向へも簡単に戻ることもできるわけで、遠からず答えがはっきりするでしょう。

 もう一つ質問。HSCを含む細胞群に、Bmi-1を活性化するような薬剤を投与してやれば、HSCのself-renewal(自己複製能)が高まるか? つまり、HSCを増やす (stem cell expansion) のにBmi-1を刺激することが役立つか? Bmi-1を標的にした薬剤の開発がとても魅力的に見えます。

 
Dick JE.  Self-renewal writ in blood.  Nature 423: 231-233, 2003.  上記二つの論文に関連したコメントです。

濱田洋文


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