札幌医科大学医学部

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2001年3月22日 大学院講義は眠らない

 講義を最初に担当したのが、1992年、東大の非常勤講師です。薬学の大学院修士課程の講義、100分でした。講義を始めたばかりのこの頃は、自分自身のオリジナルデータを惜しげもなく披露して、研究の醍醐味を伝えようとしました。その頃、猛烈に実験をやっていましたから、実際興奮するような面白いデータに酔いしれていた感があります。この感動を何とか大学院生に伝えたい。ひとりでも多くの学生がこの分野の研究に進んでくれたら。講義の用意も万全でした。
 万全で臨んだ始めての大学院講義、いざ。ところが、すばらしいデータを見せれば見せるほど、学生が机にばたっと音をたてて、あるいは、静かに息を引き取るように倒れてゆきました。東京の真夏7月のことです。冷房のない縦に細長の教室には、窓を全開にしてもいっこうに風の訪れる気配もなく、いつもやっている工事のドリルの音が、すぐ間近でガガガガッと続きます。教室の後ろの方にまで歩いていって、皆に平等に励ましの質問を浴びせますが、指さし質問のおかげでやっと息を吹き返した修士兵も、私が通り過ぎたとたんに突然流れ弾に当たったかのようにばたばた倒れてしまいます。女性の多い薬学部ですが、男女機会均等、いかにも賢そうな女性も、どんなにお化粧がんばってきたお姉さんも、机に突っ伏してよだれの境地です。まずい、と思っても、もはやどうすることもできませんでした。ノモンハン事件の時の戦車隊の班長さんの気分か。出席をチェックされるため仕方なしに招集された修士兵たちは7割方倒れ伏しています。そして、最後には、スライド係まで睡魔の砲弾に襲われ、授業は中断。けれど、不運なスライド当番のことを笑っていられる余裕のあるものはいません。それでもなんとか助け起こして(実際、心臓は止まっていなかった)ついにノルマの100分、感動的な授業を続けました。

 その頃のことを思うと、今では実に講義が上手になりました。前回はついに、レベルを激しく落としたにもかかわらずほとんどの学生が面白そうに聞いていました。これは、東大の大学院入試が急に難しくなって、優秀な学生がずらりとそろったせいか? それとも、単に東大の教室に冷房が完備されたという環境要因のためか。(やっぱり冷房はありがたい)

 今度の札幌医科大学での講義でも、眠らせない工夫を随所にちりばめる予定。睡眠不足の大学院生は、万難排して是非、挑戦しに来てください。


濱田洋文

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