札幌医科大学医学部

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2001年4月12日 バイオ研究者のアイデンティティークライシス

靴磨きの勧めから、実験に関する手抜きの勧め、その続きは、深刻なアイデンティティークライシスの話題です。

cDNAクローンを自分で苦労して取っていた時代は、確実に過去のものになってゆきます。

Nature 410, 289 - 290 (2001) Free access to cDNA provides impetus for gene function work

10年前、新しいcDNAを釣り上げることが最もインパクトの高い仕事のスタートであったと思います。ほとんどゴールであったかもしれません。しかし、これからは、そこのところは、手抜きですっ飛ばしても良いでしょう。過去のことは忘れた方が良いでしょう。現代の多くの職人さんと同じで、バイオ研究者も古い技術は過去に残して前進しましょう。

技術は確かに大切ですが、どんどん新しくなります。こだわっても取り残されるでしょう。

本当に大切な自分の研究の原点、それはそれぞれの研究者にとってさまざまでしょうが、その原点さえ見失わなければ、現在の自分が存在している座標上の絶対位置を知ることができます。絶対的な位置が自覚されていれば、進むべき方向も間違わないで進めるでしょう。

わたしの場合はかなり単純です。「難病の治療法の開発」、1980年の頃、医学部の学生だった頃のモティベーションは、私の研究の原点であり、今も同じです。

ただ、大きく変わってきたのは、20年前の自分に比べて今の自分には残された時間が半分になったことです。できれば5年後、せめて10年後には実現して、患者さんの役に立っているようなプロジェクトに力を注ぎたいという気持ちが強くなって来ました。これには、良い面と、悪い面と、両方背中合わせです。

もう一つ、何でも自分の手で実験がやれて、強い自信を持っていた5年ぐらい前までに比べて、今は、実験の実行を若い世代に任せていることが、大きな違いです。遺伝子治療臨床研究、再生医療プロジェクト、それぞれ大勢のチームワークがあってはじめて実現できることですから、私は私の現在のパートを責任をもって担当してゆくべきなのでしょう。(それだけでもオーバーワークでexhaust症候群に陥ることもあります。)何から何まで自分一人でやっていた時期は、私の研究者としての一時期であり、すべてではない、と捉えるべきでしょうか。それにしても、私自身、ここのところの局所ではアイデンティティークライシスに正面から立ち向かう必要がありそうです。

濱田洋文

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