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冠状動脈  (Fig.201-205)

心外膜 を完全に剥がし、心外膜と心筋層 の間の脂肪を丁寧に除去して、動脈を細かく剖出する。静脈はごく太いところだけを残せばいい。左の大静脈の遺残として、左房外面に比較的太い静脈があるかも知れない(ラングマン p.202-204)。

冠状動脈名は、臨床で日常的に用いられているAHA規約 (アメリカ心臓病学会規約)に従う。国内で用いられる略語にもある程度慣れて欲しい。動脈は心筋に埋没していることがある(muscular bridge  という)。心筋梗塞AMI(acute myocardial infarction)  の成立と関係があるらしい。その部位ではピンセットを用いて心筋 を少々削る必要がある。中隔枝房室結節枝などは、その親動脈を少し持上げて浮して剖出する。

心臓 の外面で、心房 心室 の境の溝を冠状溝 心室の間の溝を前後の室間溝という(Fig.197)。冠状溝後室間溝が交差する部位をクラックス(Crux、十字)  と呼ぶ。クラックスに、左冠状動脈 が分布する場合を左優位(Fig.203)、右冠状動脈 が分布すれば右優位(Fig.204)、左右から枝が来ればバランス型という。以下、後述のスケッチ課題を参照。クラックスには静脈が集まって冠状静脈洞 をつくる(Fig.197)。図を見て左前からの大心静脈、後ろからの中心静脈、右前からの小心静脈 を区別する。クラックスの奥(前方)から僧帽弁と三尖弁の間にかけての領域は、心房側(例えば SA node)から心室側(AVとは限らない)への様々な伝導路(刺激伝導系)が通る(Fig.218)。その中で副伝導路と呼ばれる経路が発達して重篤な不整脈を起こすことがあり、その際はクラックスの奥を冷凍凝固して治療する。

解剖学で用いる心臓 の壁の名称(胸肋面 横隔面 肺面 )は一応確認しておく。一方、心電図EKG、ECG  による心筋梗塞  の部位診断では、前壁梗塞、下壁梗塞、後壁梗塞、側壁梗塞、中隔梗塞と言うように左室に5壁を区分する。境界は不明確だが、この5壁を区別してみる。各壁へ分布する冠状動脈は、教科書的に言うと、前壁と中隔前2/3にはLAD 、側壁にはCx RCA 、後壁と下壁と中隔後1/3にはRCA とされる。中隔には刺激伝導系 が走るから、中隔の血行障害は様々な形のブロック (左脚ブロック、右脚ブロックetc.)として心電図上に出現する。     

Epicardium 心外膜 207
Coronary sulcus 冠状溝 197
Interventricular sulcus 室間溝 197
Coronary sinus 冠状静脈洞 197
Greater/Middle/Small cardiac vein 大/中/小心静脈 198
Sternocostal surface 胸肋面 193
Diaphragmatic surface 横隔面 197 tex2html_wrap_inline9403
Pulmonary surface 肺面

冠状動脈の名称

                                            

Right coronary artery(RCA) 右冠状動脈 201
Left main trunk(LMT) 左(冠状動脈)主幹部 201 tex2html_wrap_inline9403
(left/right) Circumflex branch(LCx/RCx) 回旋枝 201
*Diagonal branch(D1,D2,-) *対角枝 201
*Obtuse marginal branch(OM) *鈍縁枝
*Postero-lateral branch(PL) *後側壁枝 203
*Left atrial circumflex branch(AC) *左房回旋枝 201 tex2html_wrap_inline9403
*Conus branch(CB/CN) *円錐枝
SA node artery(SA) 洞房結節枝 201 tex2html_wrap_inline9403
*Anterior right ventricular branch(RV) *前右室枝 201 tex2html_wrap_inline9403
*Acute marginal branch(AM) *鋭縁枝 201 tex2html_wrap_inline9403
(left) Anterior descending branch(LAD) 前下行枝(前室間枝) 201 tex2html_wrap_inline9403
Posterior descending branch(PD) 後下行枝(後室間枝) 201 tex2html_wrap_inline9403
*AV node artery(AV) *房室結節枝 201
*Posterior left ventricular branch(PLV) *後左室枝
*Septal branch(es)(S) *中隔枝 202

■上記略語に加えて、さらに1から15までの番号による記載も臨床ではしばしば用いられる。

■付図(冠状動脈造影) 

■付図(心エコー) 

 

備考:
左右の握りこぶしを組み合わせて心臓を作ってみよう。
自分の目の前に心臓が置いてあるとする。
左手の母指球:右室流出路(漏斗部)
左母指:肺動脈
左握りこぶしの残りの部分:右室(流出路を除く)
右手は同様に、左室流出路(漏斗部)、大動脈、左室(流出路を除く)。
左室は右室の左後方、指の基節部分に房室弁がある。
いわゆる室中隔(指の中節が接する部分)は、流出路の中隔(母指球が接する部分)と 異なる平面に含まれなくてはいけない(面が90〜120゜折れる)。


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Akiko Oshiro
1998年01月19日 (月) 16時56分03秒 JST