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上腕伸側・肩甲部

これからは、上肢を適当な姿勢に動かしながら解剖を行なう。一側ではOT、PTの学生実習を行なうので助言して欲しい。

上腕伸側から腋窩へ  (Fig.52,54,57)

 

三角筋 の後縁に残る結合組織を剖出して腋窩神経 皮枝(外側上腕皮神経 )を見つけ出す(Fig.56)。固くて作業が捗らなければ、先に三角筋の遊離にはいる。三角筋の後縁をある程度明らかにした後、肩峰 鎖骨 から三角筋を剥がして、下方に反転していく。特に筋後部の下方反転を慎重に行ない、三角筋に深側から入る腋窩神経とその皮枝を見つける。同時に後上腕回旋動脈 の末梢も剖出される(Fig.57)。肩甲下動脈 の枝である。上腕筋膜がまだ残っていれば、除去して上腕の各筋の輪郭を明らかにする。 

三角筋には今でもしばしば筋注 を行なう。ところが現場では、 腋窩の大血管や腕神経叢 を避けたいあまり、後上腕回旋動脈 腋窩神経 を狙い撃ちするような刺し方をすることがある。動脈・神経の走行をよく確認せよ。

Axillary nerve 腋窩神経 57
Lat. brach. cutan. nerve 外側上腕皮神経 56
Deltoid muscle 三角筋 56 Musculus deltoideus
Acromion 肩峰 33
Posterior humeral circumflex artery 後上腕回旋動脈 57

上腕伸側 には腋窩 からの出口(腋窩隙) が3つある。3つの出口は、上腕三頭筋長頭 同外側頭 上腕骨大円筋 小円筋 によって区切られている(Fig.52)。したがって、これらの筋の輪郭を早期に確認する必要がある。

1)

外側腋窩隙 (Laterale Achsellücke の和訳) 上腕三頭筋長頭上腕骨 大円筋小円筋で囲まれた間隙で、四角隙 ともいう。三角筋の深側で剖出した後上腕回旋動脈 腋窩神経 はここから伸側に出現する(Fig.57)。

2)

内側腋窩隙 (Mediale Achsellücke の和訳) 上腕三頭筋長頭大円筋小円筋で囲まれた間隙で、三角隙 ともいう(Fig.33)。肩甲回旋動脈 がここから出てくる(Fig.34)。 

3)

上腕三頭筋の2頭 にはさまれた広いが無名の間隙 橈骨神経 上腕深動脈 が通る(Fig.57)。

上腕三頭筋の2頭をある程度遠位まで裂いて、血管・神経を明らかにする。橈骨神経 上腕深動脈 が直視下に確認できたら、今度は上腕三頭筋上腕筋 の間、さらに腕橈骨筋 上腕筋の間をピンセットで慎重に裂いて橈骨神経を遠位に連続させていく。橈骨神経が上腕骨に巻きついて下行し、前腕橈側 に至る経過を剖出していく(Fig.57,64)。その間に橈骨神経は、後上腕皮神経 など数本の皮神経を分枝している。上腕三頭筋には、橈骨神経の走行よりも内側で上腕骨から起こる筋束が多数ある。この筋束を内側頭 と呼ぶ(Fig.55)。

Triceps muscle 上腕三頭筋 52
Long/Lateral/Medial head 長/外側/内側頭
Humerus 上腕骨 52
Teres major/minor muscle 大/小円筋 52
Quadrangular space 四角隙 33,52 Laterale Achsellücke
Triangular space 三角隙 33,52 Mediale Achsellücke
Circumflex scapular artery 肩甲回旋動脈 34
Radial nerve 橈骨神経 57
Profunda(Deep) brachial artery 上腕深動脈 57 A. profunda brachii
Brachialis muscle 上腕筋 57
Brachioradialis muscle 腕橈骨筋 52
Posterior brachial cutaneous nerve 後上腕皮神経 56

肩甲部から頚部へ  (Fig.34,46,52)

ここで肩甲骨 まわりの筋を再確認する。すでに剥離されているものについては、その本来の広がり(起始停止)を復習する(Fig.47,53)。特に前鋸筋 の位置と作用を復習する。

Pectoralis major/minor muscle 大/小胸筋 21
*Omohyoid muscle *肩甲舌骨筋 707
Rhomboid muscle 菱形筋 629
Serratus anterior muscle 前鋸筋 21
Teres major/minor muscle 大/小円筋 52
Subscapularis muscle 肩甲下筋 46
Supraspinatus/Infraspinatus muscle 棘上/棘下筋 52

1)

強力で平たい停止腱を作る広背筋 を確認し、上腕骨停止 まで追及する(Fig.46)。前鋸筋と広背筋の栄養動脈(胸背動脈 など)は温存されているだろうか。広背筋とその栄養動脈には、乳房 を作成(再建)  したり肘関節  を動かすために移行術 を施すなど様々な用途がある。  

2)

肩甲骨後面への導通路を剖出する。深部を損傷しないように注意して肩峰 肩甲棘 の境界付近に鋸を入れ、肩峰鎖骨 肩甲骨本体を引離す(Fig.92,99)。この際に損傷する構造として、肩峰と 鎖骨 を結ぶ靭帯や、肩峰のすぐ深側にある滑液包 がある。これらは整形外科的に重要だが、現段階では余裕のある者だけが詳細に剖出することにする(Fig.98)。

3)

棘上筋 の輪郭を明らかにして(Fig.33)、肩甲上動脈神経 を再確認し(Fig.34)、棘上筋肩甲骨棘上窩から剥離し、内側から外側(上腕骨)に向けて起こして行く。この過程で肩甲切痕 の位置を確認する。棘下筋小円筋 も同様に内側から外側に向けて徐々に剥離する。

4)

肩甲切痕内外から棘上窩に入った血管神経は、肩甲棘 関節窩(上腕骨頭) の間の隙間(spinoglenoid notch) を通って、棘下窩へ下行する(Fig.34)。ここで、すでに剖出ずみの肩甲回旋動脈 後上腕回旋動脈 と吻合する。確認せよ。

Latissimus dorsi muscle 広背筋 46
Humerus 上腕骨 104
Thoracodorsal artery 胸背動脈 29
Scapula 肩甲骨 92
Acromion 肩峰
Spine of scapula 肩甲棘 Spina scapulae
Supraspinatus fossa 棘上窩
Scapular notch 肩甲切痕
Infraspinatus fossa 棘下窩
Suprascapular artery/nerve 肩甲上動脈/神経 34
Circumflex scapular artery 肩甲回旋動脈 34
Posterior humeral circumflex artery 後上腕回旋動脈 34

肩関節の固定性と可動性  (Fig.101,102)

回旋筋腱板 rotator cuff   同定する(Fig.102)。これは狭義には、棘上筋 棘下筋小円筋 の停止腱膜のことで、その広がりを上腕骨大結節 に至るまで確認する(Fig.99)。血管・神経をなるべく切らないように注意しながら、これら3筋を完全に肩甲骨から剥離し、内側から腱板を浮かせて上腕骨頭 と腱板の間にピンセットを入れる。小結節  につく肩甲下筋 も同様に確認せよ(Fig.98)。腱板断裂は有名な外傷で、腱板上部に接する滑液包 の軟骨化が五十肩 である。

腱板 と関節包はライヘでは分けがたい。腱板周囲の弱い部位で関節包が破れ、肩関節 が開放される(Fig.101)。腱板大結節  に付着させておく。腱板が上腕骨頭 を固定していたことを確かめる。肩甲下筋の停止腱が関節を下方から支えている。肩甲下筋もしばしば rotator cuff の筋に加える。上腕骨頭に巻きついている上腕二頭筋長頭腱 を開放する(Fig.102)。

Shoulder joint 肩関節 102 Articulatio humeri
Supraspinatus muscle 棘上筋 102
Infraspinatus muscle 棘下筋 102
Teres minor muscle 小円筋 102
Humerus 上腕骨 104
Greater/Lesser tubercle 大/小結節 104,105
Subscapularis muscle 肩甲下筋 46,98
Tendon of
biceps muscle (long head) 上腕二頭筋長頭腱 101

<肩関節を動かす筋の作用別整理>  p.gifの図を参照

外転 三角筋、棘上筋、上腕二頭筋長頭
(挙上) (外転の筋に加えて)前鋸筋、僧帽筋の上部
内転 大胸筋、上腕三頭筋長頭、大円筋、広背筋、上腕二頭筋短頭
前傾 三角筋鎖骨部、上腕二頭筋、大胸筋鎖骨部・胸肋部、烏口腕筋
後傾 大円筋、広背筋、上腕三頭筋長頭、三角筋肩甲棘部
外旋 棘下筋、小円筋、三角筋肩甲棘部
内旋 肩甲下筋、大胸筋、上腕二頭筋長頭、三角筋鎖骨部
(描円、ぶんまわし) 多くの筋が協力して作用する。自分の体を動かして確認せよ。


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