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体壁背部の上肢帯筋

 

僧帽筋  (Fig.629,634)

上肢帯 と脊柱を結ぶ筋を浅背筋 と呼ぶ。腕神経叢の枝が到来する。

後頭部・項部では僧帽筋 が非常に弱いライヘがある。この場合は、僧帽筋全体の輪郭をきれいに剖出することはむずかしいかも知れない。少なくとも頚の中ほどの高さまで輪郭が確認できたら、筋の外側方への反転にはいる。

脊髄神経後枝内側枝(皮枝) を温存するため、椎骨の棘突起 から1cm程度離れて僧帽筋の起始側を切断していく(Fig.634)。僧帽筋の下部から上方に向けて筋を外側に反転する。後頭部・項部の処置に困ったら、筋の裏面(深側)に指を入れて筋を浮かせる手法で、僧帽筋の範囲を確認しながら対処してみる。深側にある菱形筋 (Fig.629)なども切断してしまわないように注意する。僧帽筋のどの部分が厚く強力であるか確認して作用を検討せよ。棘突起から離れたら、肩甲骨 肩甲棘 肩峰 、さらに鎖骨外側部 からも僧帽筋をメスで慎重に剥がす。深部にメスが入らないように注意する。こうして僧帽筋を大きく外側上方に反転したら、筋の裏面で血管神経を剖出する(Fig.634)。 血管は細かい枝にこだわらず、副神経 と共に太い頚横動脈 (Fig.635,721) を上方に追求し、頚部を後方からできる限りきれいに解剖する。

Trapezius muscle 僧帽筋 634
Spinal nerves 脊髄神経
Medial cutaneous branch
of posterior ramus 後枝内側枝 634
Spinous process 棘突起 645 Process spinosus
Rhomboid (major/minor) muscle (大/小)菱形筋 629
Scapula 肩甲骨 92,629
Spine of scapula 肩甲棘 92 Spina scapulae
Acromion 肩峰 92
Clavicle 鎖骨 96
Accessory nerve 副神経(XI) 634,635 Nervus accessorius
Transverse cervical artery 頚横動脈 635,700

支配神経である副神経頚神経叢僧帽筋枝 には、頚部で前からすぐ確認できるように、短く糸でラベルする。僧帽筋は脳神経(副神経) と脊髄神経の二重支配筋 である(Fig.700,701)。頚部で目立つ胸鎖乳突筋も同じパターンの二重支配筋である。一つの骨格筋を二つの神経が支配している現象は多くの解剖学者の夢をかき立ててきた。

肩こり でマッサージする部位で、僧帽筋の深側に静脈が発達している。後頭部・項部の小後頭神経 大後頭神経 第3後頭神経 なども、この機会に再確認する。

Accessory nerve 副神経(XI) 634,635 Nervus accessorius
Cervical plexus 頚神経叢 700
Sternocleidomastoideus muscle 胸鎖乳突筋 700
Greater occipital nerve 大後頭神経 635
*Lesser occipital nerve *小後頭神経 634
*3rd occipital nerve *第3後頭神経 638

広背筋  (Fig.629)

僧帽筋に続いて広背筋  の輪郭を確認する。前縁で外腹斜筋 に接する部分が分かりにくい。腋窩で収斂している広背筋の筋束をつかみ、それを背側下方にたどると前部の輪郭が分かりやすい(Fig.21,29)。広背筋も椎骨の棘突起 から1cm程度離して切断する。筋の深側に指を入れて筋を浮す要領も同じである。広背筋は腋窩に向けて外側に大きく反転する。その過程で、肩甲骨下角 に付く部分も剥がさねばならない。肩甲骨下角付近では、大円筋 という系統発生上の兄弟筋が近接している(Fig.629)。これを区別して広背筋だけを反転する。広背筋の裏面でも動脈・神経(胸背動脈神経) を剖出し、末梢にあまりこだわらずに中枢側(腋窩)に向けて追求する(Fig.29)。最後に再び、広背筋前縁が前鋸筋から遊離していることを確認する。

Latissimus dorsi muscle 広背筋 629
External oblique muscle 外腹斜筋 629
Spinous process 棘突起 645 Process spinosus
Inferior angle of scapula 肩甲骨下角 92
Teres major muscle 大円筋 52,629
Thoracodorsal artery/nerve 胸背動脈/神経 29

菱形筋  (Fig.629)

小菱形筋 の間を皮下に至る血管が通る(Fig.634)。これまで同様、筋の輪郭を明らかにした後、脊髄神経後枝内側枝 を避けて棘突起から1cm程度離して切断する。深側にある上後鋸筋 を一緒に切断しないように、指で深側から十分に剥離してから切断し、外側に反転する。この筋の裏面では、肩甲骨内側縁 に近接して血管と支配神経(肩甲背神経 )が走る(Fig.634,635)。頚部に始まるこれら血管・神経は、主に菱形筋肩甲挙筋 の間から背部に出現するから、頚部の解剖に備えて(p.gif)、中枢側(上方そして前方)に向けて剖出しておく。 

僧帽筋・菱形筋に分布する動脈には多くの名称がある。走行や親動脈に変異が多いからである。学生解剖実習の1つのハイライトにしている大学も少なくない。ここでは頚横動脈枝 と総称しておく。頚部からはずれないように温存しておく。

Rhomboid (major/minor) muscle (大/小)菱形筋 629
Spinal nerves 脊髄神経
Med. cutaneous branch of post. ramus 後枝内側枝 634
Spinous process 棘突起 645 Process spinosus
Serratus posterior superior muscle 上後鋸筋 630
Medial margin of scapula 肩甲骨内側縁 92
Dorsal scapular nerve 肩甲背神経 634
Levator scapulae muscle 肩甲挙筋 630
Transverse cervical artery 頚横動脈 700

肩甲挙筋  (Fig.629,630)

肩甲挙筋は菱形筋 同様の血管・神経を受けるので(Fig.634)、現段階では菱形筋との間をあまり拡げないようにする。輪郭の確認作業は、横突起 付着付近ではまだ難しいかも知れない。肩甲骨上角 付近から切離する時は(切離しなくてもよい)、すぐ外側に肩甲切痕 という導通路があるから(Fig.34)、肩甲挙筋 の筋質だけにメスが入るように注意する。肩甲挙筋は上方に反転するが、あまり大胆に移動すると血管・神経が切れてしまう。

Levator scapulae muscle 肩甲挙筋 630
Transverse process 横突起 658
Superior angle of scapula 肩甲骨上角 92
Scapular notch 肩甲切痕 92

背部浅側に位置する上肢帯筋 (僧帽筋広背筋菱形筋肩甲挙筋)の処置はこれで終了する。

■付図(肢帯筋の処置-背部から肩甲骨内側縁に至る)   

figure5013

後方から上肢帯の遊離  (Fig.630)

肩甲骨内側縁 に付く前鋸筋 の広がりを確認する(Fig.24,31)。最後に重要な作業がある。肩甲骨と胸壁の間のゆるい結合組織に手を入れて、前鋸筋を肩甲骨側に押しつけながら、肩甲骨 (上肢帯全体)を前方に遊離する。強力な前鋸筋の第1筋尖(第1肋骨に付着)を確認しておく(Fig.146)。前鋸筋と胸壁の間に、自由に動く一種の関節面があることを理解する。肩甲骨の回旋と上肢の挙上については、p.gif 参照。まだ前鋸筋を肋骨付着から剥離してはいけない。

Medial border of scapula 肩甲骨内側縁 92
Serratus anterior muscle 前鋸筋 24


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