最初に腰背腱膜 ・胸腰筋膜 を確認する(Fig.630)。上後鋸筋 はこの腱膜(筋膜)より浅側にあり、下後鋸筋は腱膜と同じ深さにある。上後鋸筋と下後鋸筋を棘突起 からはずして外側に完全に反転する。支配神経は、筋の外側部裏面に向けて肋間から出てくる。
固有背筋群 (深背筋の深層:脊髄神経後枝 支配、いわゆる脊柱起立筋 )の輪郭を確認する。「固有背筋」は系統発生上の用語。まだウエスト部分に脂肪組織が残っていたら除去する。ただし皮神経(後枝外側枝) をできるだけ温存すること。
腰背腱膜・胸腰筋膜をメスで少しずつ除去する。この過程で新たに皮神経が見つかるので、今まで見つけた皮神経と共に温存する。これらの皮神経は、今後の固有背筋群の解剖において指標となる。僧帽筋の最上部が後頭部・項部に付着残存していれば除去する。
Spinal nerves | 脊髄神経 | |||
Anterior(Ventral) ramus | 前枝 | 626 | ||
Posterior(Dorsal) ramus | 後枝 | 626 | ||
Intercostal nerve | 肋間神経 | 632 | ||
*Lumbodorsal aponeurosis | *腰背腱膜 | 630 ![]() | ||
*Thoracolumbar fascia | *胸腰筋膜 | 627,630 | ||
*Serratus post. sup./inf. muscle | *上/下後鋸筋 | 630 | ||
Spinous process | 棘突起 | 658 | Process spinosus | |
Erector spinae muscles | 脊柱起立筋 | 630 | Musculi dorsi proprii | |
Trapezius muscle | 僧帽筋 | 634 |
頭板状筋 ・頚板状筋(Fig.630)を後頭骨 および棘突起 (項靭帯 を含む)から剥がして、つまり正中線から剥がして外側に大きく反転する。支配神経(後枝外側枝)は筋の外側部内面で見つかる。大後頭神経 、第3後頭神経 などの皮神経 は、板状筋 を反転する時に筋から引抜くように温存して本体側に残す。 後枝外側枝 は次に処理する半棘筋 にも枝を出している。
頭半棘筋 ・頚半棘筋は強大な筋である(Fig.632)。後頭骨及び棘突起から下方へメスで徐々に剥がして深さを実感する。最終的に正中線から外側に向けて大きく反転する。この過程で、大後頭神経、第3後頭神経などの後枝内側枝 から分れる支配神経が見つかる(Fig.638)。半棘筋の周囲には静脈が発達しており、また深頚動脈 や後頭動脈 の枝も見つかる(Fig.635)。
Splenius capitis/cervicis muscle | 頭/頚板状筋 | 630 | ||
Occipital bone | 後頭骨 | 754 | ||
Spinous process | 棘突起 | 658 | Process spinosus | |
Nuchal ligament | 項靭帯 | 629 | ||
Spinal nerves | 脊髄神経 | |||
Lat. cutaneous branch of post. ramus | 後枝外側枝 | 626 | ||
Med. cutaneous branch of post. ramus | 後枝内側枝 | 626 | ||
Greater occipital nerve | 大後頭神経 | 635 | ||
*3rd occipital nerve | *第3後頭神経 | 638 | ||
*Semispinalis capitis/cervicis muscle | *頭/頚半棘筋 | 632 | ||
*Deep cervical artery | *深頚動脈 | 635 | ||
Occipital artery | 後頭動脈 | 634 |
後頭下三角(Fig.636) の解剖にはいる。特に大きな第2頚椎棘突起を確認する。三角を構成する大後頭直筋 、上頭斜筋 、下頭斜筋を同定する。半棘筋の外側への反転が足らないと、後頭下三角の剖出に難渋する。大後頭神経 、 第3後頭神経 に続く後枝内側枝 をできるだけ深側まで剖出する。三角の中で、第1頚神経後枝(後頭下神経 )が見つかっただろうか。視野が狭くて辛いが、さらに三角の中を深側(前方)まで剖出すると、椎骨動脈 が見つかるはずだ(Fig.638)。以上の過程で、後頭下筋群の筋枝(支配神経)が確認できたことを期待する。最後に、肩甲挙筋 の横突起付着 を確認し(Fig.717)、さらに中斜角筋 ・後斜角筋を同定しておく(Fig.708)。
*Suboccipital triangle | *後頭下三角 | 636 ![]() | ||
*Spinous process of axis | *第2頚椎棘突起 | 636 | ||
*Rectus capitis posterior major muscle | *大後頭直筋 | 636 | ||
*Obliquus capitis superior/inferior muscle | *上/下頭斜筋 | 638 | ||
*Suboccipital nerve | *後頭下神経 | 638 | ||
Vertebral artery | 椎骨動脈 | 638 | ||
Levator scapulae muscle | 肩甲挙筋 | 629 | ||
*Middle/Posterior scalene muscle | *中/後斜角筋 | 708 |
温存されている皮神経 を再確認する。腸肋筋 と最長筋 の間から脊髄神経後枝外側枝 が皮下に出現する。腸肋筋の肋骨付着を少しずつ剥がしながら、後枝外側枝を追求する。支配神経は見つかっただろうか。腸肋筋などの深背筋 は、肋骨角 (Fig.155)より背側に位置する。
次に、最長筋 を処理する(Fig.631)。最初に表面に見える腱あるいは腱膜性の部分をすべてメスで剥がすように除去する。次いで最長筋を外側に寄せながら、横突起 (副突起)に付着する深い腱を探す。その白い腱に沿って、外側下方にピンセットで筋をほぐすように分けていく。最長筋をタテにほぐすように骨付着からピンセットで一気に引き下ろすのが、分かりやすく解剖するコツである。不思議な程、神経(後枝外側枝)は切れない。筋全体としては外側に反転しつつ、内面で外側枝由来の支配神経を調べていく。最終的に、最長筋を横突起より外側まで大きく寄せてしまう。以上の過程で、後枝外側枝が横突起のレベル(横突起を結ぶ横突間靭帯 のすぐ深側)まで剖出されていなくてはならない。
Spinal nerves | 脊髄神経 | |||
Lat. cutaneous branch of post. ramus | 後枝外側枝 | 626 | ||
*Iliocostalis muscles | *腸肋筋 | 631 | ||
Costal angle | 肋骨角 | 155 | ||
*Longissimus muscles | *最長筋 | 631 | ||
Transverse process | 横突起 | 658 | ||
*Intertransverse ligament | *横突間靭帯 | 633,663 |
腸肋筋の外側に近接して肋骨挙筋 がある(Fig.632,633)。脊髄神経前枝後枝の支配域境界にあり、系統解剖学・比較解剖学上は興味深い筋である。何枚かの筋の肋骨付着を剥がして内側上方に反転する。注意して行なえば支配神経が見つかる。脊髄神経後枝 からも前枝(ここでは肋間神経) からも神経が来る可能性がある。肋骨挙筋 のすぐ外側に連続している胸壁筋は外肋間筋 だ。肋骨挙筋を反転したら、その深側を注意深く剖出して肋間神経(脊髄神経前枝) を見つける。深側の後縦隔や肺を損傷しないよう注意する。
横突間靭帯 (Fig.632,663)を切断して後枝外側枝 を中枢側に追求すると、椎弓 の浅側、つまり横突起 より内側に後枝内側枝 や血管が見つかる。今度は、内側の血管・神経を末梢側に向けて剖出する。血管・神経を追求する過程で、長い筋束の1本1本がどこに付着するかを確認しながら、半棘筋 と棘筋 を次第に除去していく(Fig.632)。この部位はしばしば針も刺す(傍脊柱ブロック) 手術も多いのだが、多くの医師は血管・神経をきちんと見たことがない。血管・神経をできるだけ温存して観察する。
半棘筋は、浅い筋束ほど長く棘突起 と横突起を結び、深い筋束ほど短くなり、ついには隣接する椎骨 を結ぶようになる。1椎骨飛ぶ筋束を多裂筋 と呼び、隣接して張る筋束(剖出がそこまで到達できたか)を回旋筋 と呼ぶ(Fig.633)。
脊髄神経後枝内側枝は、基本的には多裂筋のすぐ浅側を内側に走行し、その後は棘突起に密着して下行する。神経に伴走する動脈もあるが、血管の多くは椎弓に密着して内側に向い、棘突起に密着して浅側下方に向かう。外椎骨静脈叢 と呼ばれる発達した静脈網を上胸部で観察せよ。できるだけ多くの脊髄神経後枝内側枝 を見つけて、棘突起から剥離する。
*Levator costae muscles | *肋骨挙筋 | 632,633 | ||
Spinal nerves | 脊髄神経 | |||
Anterior(Ventral) ramus | 前枝 | 626 | ||
Posterior(Dorsal) ramus | 後枝 | 626 | ||
Lateral cutaneous branch | 外側枝 | 626 | ||
Medial cutaneous branch | 内側枝 | 626 | ||
External intercostal muscle | 外肋間筋 | 632 | ||
Intercostal nerve | 肋間神経 | 632 | ||
*Intertransverse ligament | *横突間靭帯 | 633,663 | ||
Semispinalis muscles | 半棘筋 | 632 | ||
Spinalis muscles | 棘筋 | 632 | ||
*Multifidus muscles | *多裂筋 | 632,633 | ||
*Rotatores muscles | *回旋筋 | 633 | ||
Vertebral arch | 椎弓 | 627 | ||
External vertebral venous plexus | 外椎骨静脈叢 | 689 |
作業1. 脊髄を摘出しても根の高さが分かるように、下記の高さの後根を束ねて色糸を結べ(剖出してあれば神経根に結んだ方が明確)
C5:青 T1:緑 T5:黄色 T10:黒 L1:赤 S1:白
☆☆脊髄に明確な節が刻まれているわけではない。第7頸髄とは、第7頸神経の最も頭側の根糸が起こる部位から第8頸神経の根糸が起こり始める直上までの範囲を指す。
作業2. 第2外科のDrが苦労してアダムキービッツ動脈(前根動脈の太いもの)に糸を結んでいるはずなので、確認する。(アダムキービッツ動脈の糸は、脊髄摘出の際に必ず体側に残すこと)
<観察1>
C2後根の最も頭側の根糸が起こる部位から脊髄円錐までの長さを測れ
定規は器具戸棚にある( mm)
<観察2>脊髄の分節と椎骨の分節のズレを確認する(上述☆☆参照)。
第7頸随は、C( )-C( )の横突起の高さにある(C7ではないはず)
第5胸随は、T( )-T( )の横突起の高さにある
第10胸随は、T( )-T( )の横突起の高さにある
第1腰随は、T( )-T( )の横突起の高さにある
第1仙随は、L( )-L( )の横突起の高さにある
脊髄円錐は、L( )-L( )の横突起の高さにある
作業3. 脊髄を全長にわたり摘出する。硬膜は体側に残す。脊髄をつぶさないように慎重に。作業1でつけた色糸は脊髄につける。神経節や神経根が剖出されていなければ脊髄につける。アダムキービッツ動脈とそれに結んだ糸は、脊髄摘出の際に必ず体側に残すこと!!
<観察3>脊髄を指定の高さで横断して計測し、各断面の特徴を明らかにする。
第6-7頸随、第5-6胸髄、第1-2腰髄、第1-2仙髄
脊髄の最大幅 | 前角の最大幅 | 左右の前角間の距離 | |
第7頸随 | mm | mm | mm |
第5胸随 | mm | mm | mm |
第1腰髄 | mm | mm | mm |
第1仙髄 | mm | mm | mm |
腸肋筋 と最長筋 が強大で外側に張り出しているため(Fig.631)、2筋の間を後枝外側枝 が通るという胸部での原則がくずれている。やせたライヘでは、後枝外側枝を残しながら胸部同様に腸肋筋と最長筋を外側に寄せ、神経を温存しながら最長筋を除去する。解剖の要領は胸部と同じである。ボソボソに筋をほぐすくらいなら、メスでブロック状に浅側から除去していく方がましだろう。2筋がある程度除去されると、筋膜に包まれた多裂筋の全体が同定できる(Fig.632)。腰部の多裂筋 は、実は浅層までせり出している。後枝外側枝 は、横突起 に近接するまで神経を追求しておく。
腰椎横突起には(11、12胸椎も)2つの結節がある(Fig.661)。最長筋の腱が付着していたのが副突起 、多裂筋が付くのが乳頭突起 である。2つの突起の間には骨の溝があり、そこを細い後枝内側枝 が通過して多裂筋に至る。溝は靭帯(腱膜)に隠されている。それを剥がして神経を剖出する。分からなければ、胸部の場合のように外側枝をたどって内側枝を求める。
*Iliocostalis muscles | *腸肋筋 | 631 | ||
*Longissimus muscles | *最長筋 | 631 | ||
Spinal nerves | 脊髄神経 | |||
Lat. cutaneous branch of post. ramus | 後枝外側枝 | 626 | ||
Med. cutaneous branch of post. ramus | 後枝内側枝 | 626 | ||
*Multifidus muscles | *多裂筋 | 632 | ||
Transverse process | 腰椎横突起 | 661 | ||
*Accessory process | *副突起 | 661 | ||
*Mammillary process | *乳頭突起 | 661 |