研究概要

蛋白質タンデムリピートの生物学

グルタミンやプロリン-グルタミンのダイペプチド、チロシン-セリン-プロリン-トレオニン-セリン-プロリン-セリン(Tyr-Ser-Pro-Thr-Ser-Pro-Ser; YSPTSPS)(RNAポリメラーゼIIの最大サブユニットのC末端に存在する)などの同じ配列あるいは互いに似た配列が連続して繰り返すアミノ酸配列(タンデムリピート)が、全蛋白質の約14%に存在している。繰り返し単位の長さは、スペクトリンのように100残基を超える場合もあり、千個以上の互いに異なるモチーフが知られている。このような蛋白質タンデムリピートの構造、機能、分子進化を理解することは、プロテオミクスやゲノミクスの観点からとても意義のある研究領域である。「タンデムリピートの生物学」の確立をめざして、我々は20年ほど前から、バイオインフォマテクス、核磁気共鳴法(NMR)、X線小角散乱法(SAXS)などの分光測定によりタンデムリピートの立体構造や分子進化の研究を進めている。

Leucine-rich Repeat(LRR))蛋白質の研究

Fig

ロイシン・リッチ・リピート(LRR)は、ロイシンを主に疎水性残基を規則的に含む20~30残基の長さを一単位として連続して繰り返すタンデムリピートである。LRRを含む蛋白質(LRR蛋白質)は、ウイルスからヒトまで6万個を超えている。このようなLRR蛋白質は、自然免疫、病原体の抵抗性、細胞接着、DNAの修復などのさまざまな機能発現に密接に関連している。Toll-like receptorファミリーは、リポサッカライドなどのさまざまなリガンドとの相互作用をとうして、自然免疫のシステムに関連することが示され、ホットな研究領域となっている。 リボヌクレアーゼインヒビター(Ribonuclease inhibitor, RI)は分子全体が15回繰り返したLRRからなる。Cはシステイン)からなる。このRIの立体構造が、LRR蛋白質として最初に解かれたものであり、、分子全体が馬蹄形をしていることが明らかにされた。馬蹄形の内側はβ -シート(青色)が積み重なり、一方外側はα-へリックス(赤色)が積み重なっている(右図)。

Leucine-rich Repeat(LRR))の構造、機能、分子進化を明らかにすべく研究を進めている。これまで、Bioinfornmaticsのアプローチにより、LRRの超周期の解析、LRR蛋白質の既知構造の定量的解析、Toll-like receptor ファミリーのLRR解析を行っている。最近LRRアイランドドメインの解析を進めている。

Non-globular Structuresの蛋白質タンデムリピートの研究

多くのタンデムリピートの立体構造が、X線結晶構造解析やNMR解析により明らかにされてきている。それらは亜鉛フィンガー、EFハンド、WDリピートなどのようにそれぞれが安定な球状構造をとる場合と、ロイシンリッチリピート(LRR)、アンキリン、HEAT、armadilloなどのようにラセン構造がコイルしたスーパーヘリックス構造(ソレノイド構造)をとる場合がある。一方、これらの構造クラスとは異なる構造をとる一群のタンデムリピートが存在する。これらのタンデムリピートは、生理学的条件下でフレキシブルな構造あるいはランダムな構造をとる。また、銅イオンやカルシウムイオンなどの無機イオン、蛋白質とも相互作用する。

これまで、コンピュータグラフィックスを利用したタンデムリピートのモデリング研究、、NMR、SAXS、CDなどの分光測定によるタンデムリピートの合成ペプチドを用いた立体構造、銅イオンとの相互作用の研究を研究を進めている。

蛋白質タンデムリピートの構造研究

氷核蛋白質タンデムリピートの立体構造:農産物に被害を与える天災の一つとしての霜害は、地表温度が-2℃前後といった温和な条件下で凍結してしまうことにより起こる。この霜は、氷核活性細菌によるものであることが明らかにされている。この氷核活性細菌の表面には、水が凍ることを促進する氷核蛋白質が存在し、この氷核蛋白質により、細胞外での水の凍結を促進し、細菌は自らの細胞内での致命的な凍結を防いでいる。この氷核蛋白質は、オクタペプチド、Ala-Xaa-Xaa-Xaa-Ser-Xaa-Xaa-Xaa (Xaa は任意のアミノ酸)が、100回以上も連続して繰り返すタンデムリピートを含む。24残基からなる塩基性のペプチドのNMR解析を行い、LTAGYがループ構造をとることを明らかにした。さらに、チロシンの芳香環側鎖がアルギニン側鎖と互いに近いことが示された。

植物グリシンリッチ蛋白質に存在するタンデムピートと銅イオンとの結合、プリオン蛋白質のオクタペプチドリピートの立体構造、植物貯蔵蛋白質グルテンおよびα-zeinのよう溶液X線小角散乱(SAXS)により構造研究も行っている。

カルモジュリンの溶液構造, 構造変化の研究

骨微細組織の研究

合成ポリペプチドの固体物性