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札幌医科大学医学部

分子医学研究部門
  実験ノート記載の指針

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***このページは2001年3月12日に更新しました***

札幌医科大学大学院医学研究科 博士課程 

実験ノート記載の指針  

2001年3月12日 分子医学研究部門 濱田洋文(HH)

 

実験ノート記載の原則:ある程度分子生物学的、細胞生物学的に習熟した第三者が読んだときに、どんな実験がなされたか、理解可能な程度の情報を充分に記載しておくことが、最低必要なことです。

 

 この指針は、研究の各プロセスが正しく進められていることを示し、得られた成果についてプライオリティーを証明できるように記録する、という観点から、WTO (World Trade Organization) の基準をみたすように作りました。新しい診断や治療(遺伝子診断、遺伝子治療など)の臨床研究を行ってゆく場合にも、基礎データには厳密な記録が要求されます。正しい実験ノートの記録が、私たちの研究の基盤です。(以下は、2001年4月27日付け 札幌医科大学大学院医学研究科の講義でも概要説明をいたします。)

 

A.     一般的な指針、つまり、どの研究室でも行うべきこと。(レファレンス:Garabedian (1997) Nature Biotech. 15: 799-8001

 

a  使用するノートは、ルーズリーフでなく、背を綴じた実験用ノートを用い、使用した順に通し番号をつける。

 

b  記載には、ボールペン、顔料インク、万年筆、など、消えないインクを用いる。鉛筆、その他、消去可能な筆記具を使わないように。インクは、単色の方がよい。

 

c  記入した内容を変更したり、追加記入する場合には、必ず、日付と記入者名を書き添える。たとえば、970818HH、など。

 

d  略語や、略号は、独りよがりにならないこと。その文脈の中で、一回は正規に記載した後、使用する。

 

2    一つのアイディアが、固まった日(A)、そのアイディアについて実験を開始した日(B)、完成した日(C)、のそれぞれの日付と内容を明瞭に記載しておくこと。着想の日(A)と実行に移した日(B)をそれぞれはっきりさせておくことは、プライオリティが問題になる際、重要となる。

 

3    それぞれの実験の記録の始めに、その実験の目的を明確に述べておく。発案者(実験者)が、何を考えてその実験を始めたのか、他の人、つまり、ある程度分子生物学的、細胞生物学的に習熟した第三者に、充分にわかるように書く。

 

4    実験ノートにはページをふり、実験を行った日付順に、時間経過に従って記載してゆくこと。実験記録を改竄したと疑われないように、不要にページに空白を作ったり、ページをとばしたり、日付が前後したりしないようにする。

 

5    必要なことは漏れなく記載する。たとえば、使用した機器、実験室の備品、実験条件、回数、温度、pH、実験材料 (source and quality ) 、生じた結果、結果の意味するところ、など。プロトコール、実験計画、計算、なども記載しておく。

       HH注:たとえば、薬剤の効果を希釈系列を作って調べる場合、その希釈系列の具体的な作り方を記載しましょう。また、希釈に用いた液の組成なども記載します。たとえば、タンパクやDNAなどを含まない液で高倍率で希釈すると、チューブへの吸着などのためうまく希釈液を調製できない場合があります。組成をきちんと記載しておくと、他の人が追試するとき、失敗しないでしょう。一方、自分の失敗の原因が発見できるかもしれません。

       HH注:データとしては、実験から直接に得られる「一次資料」が、一番大切です。第三者が見て実験がきちんと行われたことが明らかにわかるように、ノートに記載したり貼付したりして記録に残しましょう。たとえば、電気泳動の写真、細胞やマウスの形態観察のスケッチ(肉眼、顕微鏡)、FACSのプリントアウト、ELISAリーダーの打ち出し、ODメーターの打ち出し、液体シンチレーションカウンターやガンマカウンターのプリントアウト、タイターチェックのプレートの図や写真、など。

       HH注:一次資料から、二次的なデータ(図や表など)にしていきますが、実験ノートには、このプロセスがすべて、第三者から見てどういうことが行われたかはっきりわかるように記載します。計算式、補正の式などの記載と、その意味付けに関する議論は、必須です。補正式や統計処理に関して、第三者から見て自明ではない場合は、充分にディスカッションして、正しいことを確信しておく必要があります。自分だけでなく、第三者を、100%納得させる必要があります。間違った「補正」は、データの改竄、つまり「Fraud」となります。必ず、教授(研究責任者)と充分に相談してください。

 

6    ノートの各ページに必ずわかりやすい見出しを付ける。同じ実験は同じ見出しで、つづき、010427の続き、などと書いて続ける。一つの実験の記録が、複数のページにわたる場合は、どこからどこまでが一つの実験かわかるように、前のページと次に続くページを明らかにしておく。たとえば、「7ページに続く」「15ページからの続き」「4枚中の第2ページ」など。

 

7    標準的またはルーティーンの手順については、いちいち記載する必要はないが、その実験手順を全部記してあるレファレンスを同定できるように記入しておく。たとえば、「DNA塩基配列は、Maxam and Gilbert (1977) PNAS USA 74: 560-564 に従って決定した。」など。

 

8    分析結果やその他プリントアウトされた結果は、日付を記入して、ノートに貼付するか、写しておく。貼付した紙とノートの両方に日付を記入しておく。時間がたつと退色したりするもの (colored reagent のはいったゲルなど)は、コピーや写真にとるかコンピュータ解析して、そのコピー、写真、コンピュータ解析結果などをノートに貼る。HH注:SDS-PAGEのゲルなどのデータの保存は、コピーか、写真などで、長期保存できるよう工夫しましょう。オートラジオグラフィーのフィルムなどのノートに貼るわけにはいかないものに関しては、日付と署名をして、穴あきファイルに日付順にファイルしていつでも対照できるようにしておきましょう。ノートにもその記載をしておきます。たとえば、「オートラジオグラフィーのフィルム3枚は、データファイルNo.23にファイル。HH010427」など。

9    各実験の最後に、実験結果の結論を出し、評価づけておくこと。特に新しい条件を検討したり、新しい材料を使用したりした時は、必ず、結論と評価づけを書くこと。一つの着想を実行に移してゆく過程の中で、成功したとわかったかどうかは、この結論と評価づけの項目で示されることになる。HH注:可能な場合は必ず、supervisor とディスカッションして、その内容もノートに記載します。大事な結果の結論と評価付けに関しては、このとき、次項のように、教授(研究責任者)以外の第三者の確証もついでに済ませるとよいでしょう。

 

10   発案者(実験者)は、実験ノートのすべての実験のすべてのページと、他の実験記録に、日付とサインの記入を行うこと。大事な結果の結論と評価付けに関しては、更に、実験者以外に少なくとも一人に証人としてその記録を読んでもらい、証人の日付とサインを入れることにより記録を確証してもらうこと。証人となる人は、記録が、記載されたらなるべく早く確証する。このとき、どこからどこまでについて確証したか、明確にわかるように記載する。HH注:実験者の日付とサインの記入は、必須です。確証に関しては、特に、特許が絡むような大切な発見では、教授(研究責任者)以外の第三者の確証の日付が重要です。ただ、普通は、 B項に書いたようにグループミーティングのときにプリントにまとめて、研究室内で発表するということをもって、確証の日とすればよいと思います。別に定める管理者が、充分理解した上で、プリントにサインします。発案者(実験者)によって何が行われ、その時点までに何が発見され理解されたか、第三者にわかるようなプリントを作って記録としましょう。

 

11   保管者を選定し、実験ノートの番号付けと実験者への割り当てをしてもらう。(ページのふってないノートの場合は、新しいノートの実験者への割り当ての時点で、全部のページにスタンプでページ番号を付けます。) 後に、目録を作って保存する。B項を参照。

 

 

 

 

.    特殊な指針、各研究室での約束事。

以下は、札幌医科大学医学部 分子医学研究部門での約束事を記載してあります。これを参考にして、各研究室でそれぞれの研究室の実状に合った方法を採用して下さい。特に**印を付けたところは、各研究室の実状に合わせて下さい。

 

1.   実験ノートの保管管理: 実験ノートの保管管理については、秘書**に担当してもらいます。当研究部門の研究者、共同研究者は、前のノートが終わった時点で、管理者から、当研究部全体の通し番号により番号付けされた新しい実験ノートの割り当てをしてもらい、ノートの使用を開始します。具体的には、1997年10月1日**以降のノートについて、順次始めてゆきます。これ以外のノートは実験ノートとして使用しないこと。部員は、自分の作成したノートの目次(インデックス)を作って管理者に保管を依頼します。管理者は、実験のインデックスとともに、実験ノートを保管します。ノートの情報が個人的に必要な場合には、各自、コピーをとってください。ノートは、準公文書として、保管しますので、各部員は、必ず所定の場所にノートを置くようにします。自宅や他大学・他機関などよそに持ち出したりしないように。特別の事情の場合は、教授(研究責任者)に相談してから。(持ち出しを一度許すと、返ってこない事例が高い確率で発生します。そのため持ち出しはよほどの理由でない限り、原則的に許可しません。)

 

2.   グループミーティング: 実験ノートの記載(結果、結論、評価付け、など)を基にして、グループミーティングで、研究室内での公式発表となります。グループミーティングは、毎週**曜日の午前**時から行います。変更もありますので掲示を見てください。部員は、グループミーティングには、必ず参加します。特別な事情の場合は、あらかじめ教授に連絡しておきます。発表者は、A4の紙**に(片面のみプリント、ファイルしやすくするために左側に余白を2cm程度とって下さい)、実験ノートの記載(結果、結論、評価付け、など)を、要領よくまとめて発表してください。結果、結論、評価付け、などについては、あらかじめ充分に教授(研究責任者)・教官らと相談してからまとめるようにしましょう。データの処理に関して、とくに、平均を採ったり、補正式で補正したりする場合、独りよがりのやり方は、大変危険です。前もって、生データを基に、教授・教官らと充分にディスカッションしておきましょう。

       プリントでは、グループミーティングで発表したデータが、ノートのどの部分に基づいたものであるかをわかるような書き方をします。たとえば、グラフのレジェンドに、「実験は、970820ノートHH53の23ページ参照」、などと書き添えます。グループミーティングでの発表のプリントは、教官**にまとめて保管してもらいます。当日、誰が参加したかを、記録に残して置きます。一方、発表者は、グループミーティングで話し合われた内容のうち、結果、結論、評価付け、あるいは、今後の計画、方向付け、新しいアイディア、などについて大事なものに関しては、ミーティング終了後すぐに実験ノートに漏れなく記載しておきます。

 

3.   発表の記録**: 実験ノートの記載(結果、結論、評価付け、など)を基にして、学会や論文での発表を行います。部外での公式発表となります。学会発表や論文の図や表が、「ノートのどの部分に基づいたものであるか」をわかるようにまとめておき、教授・教官にプリントを渡して、説明してください。その際のプリントは、グループミーティングのプリントに準じます(A4片面、ファイル用の余白付き)。「発表のためのプリント」も、やはり教官**にまとめて保管してもらいます。日付、サイン、など、重要なのは、同様です。発表の抄録とスライドの原稿、口演の原稿、ポスターの原稿、などもファイルしますので、コピーを一部、教授に提出してください。論文の投稿原稿は、投稿の日付つきで1冊余分に教授に渡してください。教官**にまとめて保管してもらいます。

       「発表のためのプリント」**: 学会発表や論文の図や表が、ノートのどの部分に基づいたものであるかを記録するためのプリントです。具体的には、たとえば、グラフのレジェンドのコピーに、「実験は、970820ノートHH53の25ページ参照」、などと書き添えて提出してください。実験を繰り返した場合には、各実験がすぐにノートで対照できるようにまとめてください。たとえば、グラフのレジェンドに、「実験は、970820ノートHH53の17ページ、970825ノートHH53の25ページ、970830ノートHH54の3ページ、計三回行い、すべて同様の結果。図(スライド)は、970825のデータで、作成したもの。」などと書き添えます。各点は、何を意味するか、たとえば、「each point represents the mean of triplicate determinations; the bar represents the standard deviation of quadruplicate determinations.」などと書きます。日本語でも可。データがあやふやなことの決してないようにするために、このような「発表のためのプリント」を作って保管します。学会発表の場合は発表に出発する前日までに、論文の場合は投稿の前日までに、それぞれ最終版を完成させて、教授(研究責任者)に提出します。学会発表や論文の図や表が、ノートのどの部分に基づいたものであるかを示す「発表のためのプリント」が、提出できない、あるいは、記載が杜撰で誤りを含む、などの場合は、当研究室から公的な発表をすることは許されません。

 

4.   データの処理に関して、平均を採ったり、自分なりの補正式で補正したりする場合に、科学的に正しい場合と、誤ったデータ操作をしている場合とがあります。少しでも不明確なとき、あるいは、判断が難しいと感じたときは、必ず教授(研究責任者)に相談してください。独りだけでやっているために、結果的に不正なデータ操作をして、なおかつ、それを隠しておく、などということがないように。データの評価付けに関して、コントロールが、省略されているために、データが全く評価できない場合もあります。実験を必要な回数繰り返していないために、自信を持って発表することが不可能な場合もあります。独りよがりにならないように、厳密なサイエンスを行うことにしましょう。

 

以上の内容については、2001年4月27日 金曜日、札幌医科大学大学院医学研究科講義でも説明いたします。   

札幌医科大学医学部 分子医学研究部門 教授 濱田洋文


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