直腸 は病変の多い部位であるから、きちんと勉強したい。直腸内にKot(便) がたまっていれば処置する。Sigma (sigmoid colon)-Rs境界 で切断してKotをしぼり出す。この際に骨盤内をよごさないように注意する。Kotは汚物流しに捨てる(通常の流しではない)。肛門 に綿が詰めてあれば除去し、直腸指診 を行なってみる。明らかな痔核 があれば報告する。綿とKotのために直腸の粘膜面はしばしば平滑になっている(Fig.450)。Rs は岬角 からS2下縁までの範囲、Ra はS2下縁から腹膜反転部 までの範囲である。腹膜反転部から肛門挙筋付着部 までの範囲をRb と呼ぶ。生体の直腸指診は、トイレで自分で是非やってもらいたい。指がスポッと入る部位が肛門挙筋付着部 、つまりRb-P境界 である。指がスポッと入る手前では、指の周囲に筋の圧力を感じる。そこが肛門管(P) である。小児用の坐薬を配るので、各自で体験してみよう。
Rectum | 直腸(Rs,Ra,Rb,P) | 450 | ||
Anus | 肛門 | 426 | ||
Promontory | 岬角 | 441 | ||
Levator ani muscle | 肛門挙筋 | 426,450 |
すでに坐骨直腸窩 の解剖は終わっているだろうか(Fig.426,457,464,p.)。皮下肛門括約筋 は皮膚を剥がしながら切断面を観察する。まだ坐骨直腸窩に脂肪が残っていれば、できるだけ除去して下方から骨盤隔膜 を露出させる(Fig.461)。切半する前に、仙結節靭帯 と仙棘靭帯 を確認しておく。仙棘靭帯の内面に尾骨筋 がある(Fig.392,428)。
Ischiorectal fossa | 坐骨直腸窩 | 426,457 | ||
Anal sphincter muscle | 肛門括約筋 | 426,450 | ||
Pelvic diaphragm | 骨盤隔膜 | 461 | ||
Sacrotuberous ligament | 仙結節靭帯 | 392 | ||
Sacrospinous ligament | 仙棘靭帯 | 391 | ||
*Coccygeus muscle | *尾骨筋 | 428 |
膀胱の上方・腹壁内面にわずかに残る腹膜面 で、正中臍ヒダ(正中臍索=尿膜管の遺残) と内側臍ヒダ(臍動脈索) を確認する(Fig.368,ラングマン p.196,255)。膀胱頂に接して尿膜管 の遺残腔を認めることがある。臍動脈索は下方で上膀胱動脈 に続く(Fig.441)。上膀胱動脈はしばしば小骨盤腔の上に凸の腹膜ヒダを形成する。この腹膜ヒダ を膀胱下腹筋膜 と呼ぶ。その下方には、この腹膜ヒダとほぼ同じ面をなして骨盤神経叢 がある。
Median/Medial/Lateral umbilical fold | 正中/内側/外側臍ヒダ | 368 | ||
Urachus | 尿膜管 | 443 | ||
Ligament of umbilical artery | 臍動脈索 | 441 | ||
Superior vesical artery | 上膀胱動脈 | 441 |
すでに糸でラベリングしてある下腹神経 (p.)を、大動脈分岐部から下方にたどる。下腹神経は腹膜のすぐ外面に張りついて下行する。骨盤神経叢 の位置はすでにわかっているだろうか。腹膜をなるべく1枚のまま剥がして断片化しないことが、オリエンテーションを付ける上で重要だ。視野が狭いので、詳細は骨盤切半後に解剖する(p.
)。
Hypogastric nerve | 下腹神経 | 456 ![]() ![]() | ||
Pelvic plexus | 骨盤神経叢 | 456 ![]() ![]() | ||
(Inderior hypogastric plexus) | (下-下腹神経叢) | 456,344 |
小骨盤腔に残る壁側腹膜を断片化しないようにできるだけ1枚としてめくる(Fig.394)。特に膀胱・子宮・直腸 の間の陥凹から慎重に剥がし、どこか1点だけで付着させておく。子宮広間膜 の前後の腹膜もそれぞれ1枚として剥がす(Fig.399,401)。
小骨盤内 の内臓と、脈管神経路(導通路)の配置を知るため、フィンガーディセクション(指先による解剖)を行なう。前後に並ぶ膀胱・子宮・直腸の間と、3臓器の外側に、最初は慎重に次第に大胆に指を入れる。3臓器の外側にやや固い索状物を求める。それが脈管神経路、すなわち基靭帯(中部子宮支帯) と直腸外側靭帯 である。内側ー外側方向に走る索状の脈管神経路と直交するように、骨盤神経叢 を含む層(シヒト)がある。
Parietal peritoneum | 壁側腹膜 | 394 | ||
(Urinary)Bladder | 膀胱 | 394 | ||
Uterus | 子宮 | 394 | ||
Rectum | 直腸(Rs,Ra,Rb,P) | 394 | ||
Broad ligament of uterus | 子宮広間膜 | 399 | Lig. latum uteri | |
Cardinal ligament of uterus | 基靭帯 | 491 ![]() | ||
Lateral ligament of the rectum | 直腸外側靭帯 | 419 ![]() |
腹膜実習の時に観察した項目を再確認する。そのためにはライヘを選ばなくてはならない。衝立状の子宮広間膜 の上縁には卵管 があり、下縁には基靭帯 がある(Fig.401,419)(C.D.Clemente のAnatomy の図は今1つ分かりにくい、付図参照)。
Uterus | 子宮 | 401 | ||
Broad ligament of uterus | 子宮広間膜 | 399 | Lig. latum uteri | |
Round ligament of uterus | 子宮円靭帯 | 399 | Lig. teres uteri | |
Ovary | 卵巣 | 401 | Ovarium | |
*Fimbriae of uterine tube | *卵管采 | 401 | ||
Uterine tube | 卵管 | 401 |
すでに腹膜を剥がしている。解剖開始前にまず子宮支帯 の配置を知識として整理する。「子宮支帯」は日本で頻用されるノミナである。まず、前部子宮支帯 を切断して子宮 と膀胱 を大きく引き離す。やや不明瞭な後部子宮支帯を切断して子宮と直腸 を引き離すと、 ディノビエ筋膜 という疎性結合組織層が下方に展開する。子宮広間膜 の基部を指で探って、静脈にうっ滞した血液でコリコリした基靭帯(中部子宮支帯) を同定し、ヒモか糸でラベリングして温存する。これが広範子宮全摘術 ならば尿管トンネル作成という作業が続く。
*(Mesometrium) | *子宮支帯 | 419 ![]() | ||
*Vesico-uterine lig.(Ant. lig.) | *前部子宮支帯 | 419 ![]() | ||
Cardinal lig. | 基靭帯 | 419 ![]() | ||
*Recto-vaginal lig.(Post. lig.) | *後部子宮支帯 | 419 ![]() |
骨盤神経叢 や上膀胱動脈 を温存しながら、尿管 を膀胱 につなげる(Fig.397)。蔓状に発達した静脈は、視野を塞ぐようならある程度刈り詰めていい。詳細は切半してから十分にできるから、今は無理しないこと。ここでは位置関係の把握に重点を置く。
Pelvic plexus | 骨盤神経叢 | 456 ![]() ![]() | ||
(Inderior hypogastric plexus) | (下-下腹神経叢) | 456,344 | ||
Superior vesical artery | 上膀胱動脈 | 414 | ||
Ureter | 尿管 | 397 | ||
(Urinary)Bladder | 膀胱 | 397 |
総腸骨動脈 を確認し、さらに外・内腸骨動脈 を剖出する(Fig.410)。周囲のリンパ節 は子宮癌 取扱い規約で重要なもので、可能な範囲で残しておく(Fig.414)。特に閉鎖動脈根部 で発達する。内腸骨動脈の枝をたどり、基靭帯 の中に入る血管を確認する(Fig.405)。膀胱 に至る血管も剖出する。視野が狭いので、できる範囲で行ない無理はしない。診断や手術の場合と同じように、原位置でオリエンテーションを付けるのが目的である。
以下の項目で、確認できたものをチェックせよ。残りは骨盤を切半してからでよい。
Common iliac artery | 総腸骨動脈 | 410 | ||
Int./Ext. iliac artery | 内/外腸骨動脈 | 410 | ||
Obturator artery | 閉鎖動脈 | 410 | ||
Vagina | 腟 | 405 | Sheide | |
Rectouterine pouch | 直腸子宮窩 | 394 | Excavatio rectouterina | |
(Douglas') | (ダグラス窩) | |||
*Greater vestibular gl. | *大前庭腺(バルトリン腺) | 430 |
腟内 に綿が詰めてあれば除去し、指で内診してダグラス窩 Douglas' の位置を腟から確認してみる。外陰部では慎重に皮膚ないし粘膜を剥がして、大前庭腺(バルトリン腺 Bartholin's) を探してみる(Fig.430)。綿で圧迫されて原型を留めていないことが多い。腟の内診で、子宮腟部の突出が確認できる場合は、供覧するので報告する。
分娩時 に、子供が頭から出ていく通路(産道)の中で、どこが広いか狭いかを考えてみる(Fig.382-389)。児頭は前後に長い。骨盤 の前後径と横径を比較して、長い方に児頭の前後径を合せて移動するしかない。だから児頭は回旋する。 産道としての骨盤:みなさんに比べて数値が小さ過ぎる?(82年のデータ)
前後径 | 横径 | |||
骨盤入口部 | 岬角中央-恥骨結合後面中央上縁 | 11cm | 13cm | 左右最大距離 |
骨盤潤部 | 2-3仙椎間-恥骨結合後面中央 | 13.5 | 12.5 | 寛骨臼内面中央間 |
骨盤峡部 | 仙骨下端-恥骨結合下縁中央 | 11.5 | 10.5 | 坐骨棘間 |
骨盤出口部 | 尾骨先端-恥骨結合下縁中央 | 11.5 | 11 | 坐骨結節間 |
女性同様、現位置でオリエンテーションをつける。
鼡径部で解剖した精索 (p.)を骨盤内に追及して尿道 につなぐ(Fig.254,448,468)。精索内の精管はすでに剖出しているだろうか(Fig.271)。膀胱 を骨盤壁から後方に剥がしながら下方に剖出を進める。発達した蔓状の静脈叢があり、サントリーニ静脈叢 と呼ばれる(Fig.441)。内腸骨動脈 の本幹から枝をたどり、上下の膀胱動脈 を剖出する。以上の作業は視野が狭いので、できる範囲で行なう(Fig.368,441)。詳細は骨盤を切半してからでいい。メスを多用してはいけない。
Spermatic cord | 精索 | 254 | ||
Urethra | 尿道 | 468 | ||
Ductus/Vas deferens | 精管 | 448 | ||
Internal iliac artery | 内腸骨動脈 | 441 | ||
Superior/Inferior vesical artery | 上/下膀胱動脈 | 441 |
陰茎 では、陰茎海綿体 と尿道海綿体 を分離する(Fig.468)。海綿体に分布する血管・神経を温存する。陰茎脚 で尿道は屈曲している(Fig.445)。導尿手技 を考えてみよ(付図p.)。クーパー腺(尿道球腺) を含めて海綿体の基部の詳細な観察は骨盤を切半してからの方がいい。陰嚢 の解剖は、筋膜を剥がして精巣を分離し、精巣 と精巣上体 を露出させる(Fig.272)。
一側で割を入れて精巣と精巣上体の内景を観察する(Fig.276,278)。精巣は丈夫な 白膜 Tunica albuginea に包まれている(Fig.276)。海綿体を包む強靱な膜も白膜と呼ぶ。水の中に精細管を一続きでほぐし出すことができれば、みなで観察するので報告する。
Penis | 陰茎 | 468 | ||
Corpus cavernosum penis | 陰茎海綿体 | 468 | ||
Corpus spongiosum penis | 尿道海綿体 | 468 | ||
Crus penis | 陰茎脚 | 468 | ||
*Bulbourethral gland (Cowper) | *尿道球腺(クーパー腺) | 468 | ||
Scrotum | 陰嚢 | 271 | ||
Testis | 精巣 | 272 | Hoden | |
Epididymis | 精巣上体 | 272 | ||
Tunica albuginea of testis | 白膜(精巣の) | 276 |
内景観察を再度行なった後(p.)、以下の手順で消化管の摘出を行う。
大腰筋と腰神経叢(p.)の剖出が終わってから行なう。次のいずれの方法で行ってもよい。保健医療学部の学生とも相談してほしい。
上述の1)、2)いずれにしても、腰部離断後はすべての骨盤構造を完全に正中で切半する。陰茎もきちんと正中で切半する。断面で、骨盤内臓の配置を再確認する。RsからPにかけての内景は保存されているだろうか(Fig.450,451)。まだKotがあれば汚物流しで洗う。
* 骨盤内臓を切半せずに左右どちらか一側に付ける場合
希望する班は申し出る。一側に寄せる場合、注意して行なわないと反対側の血管・神経を完全にこわしてしまう。反対側の血管・神経をきちんと剖出し、坐骨直腸窩(Fig.427,465)の清掃を終えてから内臓を処理する。
脊柱の断面で、椎間円板 を観察し、線維輪 と髄核 を区別する(Fig.674)。内面から脊髄神経根 と椎間孔 を確認する。髄核が後縦靭帯 を破って脊柱管 に突出する椎間板ヘルニア はないか。
Intervertebral discs | 椎間円板 | 674 | ||
*Anulus fibrosus | *線維輪 | 674 | ||
*Nucleus pulposus | *髄核 | 674 | ||
Root of spinal nerve | 脊髄神経根 | 687,688 | ||
Intervertebral foramen | 椎間孔 | 674 | ||
Posterior longitudinal ligament | 後縦靭帯 | 674 | ||
Ventral canal | 脊柱管 | 687 ![]() |
下肢の解剖は進んでいるだろうか。もう一側の下肢の進行はどうか。進行にアンバランスがあれば遅れている方は大腿部か膝関節で下肢を切断してもいい。
男女それぞれのライヘを観察すること。最初に下腹神経 と骨盤内臓神経 と共に骨盤神経叢 を剖出して温存する(Fig.456)。さらに精嚢 と前立腺 、腟 など、今まで見えにくかった構造を同定・剖出する(Fig.409,439)。
Hypogastric nerve | 下腹神経 | 456 ![]() ![]() | ||
Pelvic splanchnic nerves | 骨盤内臓神経 | 456 | ||
Pelvic plexus | 骨盤神経叢 | 456 ![]() ![]() | ||
(Inderior hypogastric plexus) | (下-下腹神経叢) | 456,344 | ||
Seminal vesicle | 精嚢 | 439 | ||
Prostate gland | 前立腺 | 439 | Prostata | |
Vagina | 腟 | 409 | Sheide |
女性のライヘでは以下の順に確認せよ。
1)子宮 の前傾前屈 Anteversio-anteflexio を確認する(Fig.394)。
子宮がいかに固定されているか、つまり子宮支帯 (Fig.419)を改めて復習する。
2)骨盤壁と子宮頚部を結ぶ基靭帯(中部子宮支帯)を確認する。
すでに内部の血管・神経が剖出されているかも知れない。まだならば、基靭帯を剖出して子宮の血管・神経を露出させる(Fig.405)。
3)ダグラス窩 に接する後腟円蓋 を確認する(Fig.394)。
後腟円蓋は前腟円蓋より高いはずだ。
4)卵管 ・卵巣 を原位置で切開し、内景を観察する(Fig.400)。
子宮腔の観察は萎縮のためむずかしい。大きな子宮筋腫 があれば報告する。 子宮底・子宮体・子宮頚部(子宮頚管) を区別する(Fig.404)。子宮頚部は腟内に突出して子宮腟部を形成し、開口部を外子宮口 と呼ぶ。生体では外子宮口に前唇と後唇が区別できる(Fig.402)。子宮腔の中で子宮体・子宮頚部の境界を解剖学的内子宮口と呼ぶ。組織学的に粘膜を見ると、多少下方まで子宮体の内膜が張り出しており、粘膜の境界を組織学的内子宮口と呼ぶ。子宮頚管と腟 は分娩時に太い一連の管になり、通過管 と呼ばれる。若き日に活躍した子宮を思う。
*(Mesometrium) | *子宮支帯 | 419 ![]() | ||
Cardinal ligament of uterus | 基靭帯 | 419 ![]() | ||
Recto uterine | 直腸子宮窩 | 394 | Excavatio rectouterina | |
(Douglas') | (ダグラス窩) | |||
(Ant./Post.) Fornix of vagina | (前/後)腟円蓋 | 402 | ||
Ovary | 卵巣 | 401 | Ovarium | |
Uterine tube | 卵管 | 401 | ||
Fundus of uterus | 子宮底 | 404 | ||
Body of uterus | 子宮体 | 404 | ||
Cervix of uterus | 子宮頚部 | 404 | ||
Cervical canal | 子宮頚管 | 404 |
男性のライヘでは、まず、前立腺 を恥骨 に固定する強靭な恥骨前立腺靭帯 を切断し授動する(Fig.439)。サントリーニ静脈叢 が発達しているかもしれない(Fig.441)。前立腺の下方で精管 を尿道 につなげ、開口部を確認する(Fig.444)。前立腺 は少なくとも外・中間・内の3葉(腺)から構成されるが、解剖体の断面で確認するのは困難だ(Fig.444,449)。男性の宿命である前立腺肥大 BPH (BPHは内腺由来、癌は外腺由来)の典型例があれば供覧する。男性では精嚢 周辺で骨盤神経叢 が最も発達している。
膀胱 の中で尿道口 と尿管口 を見つけ、それらに囲まれたやや平滑な膀胱三角 を確認する(Fig.442,446)。この部分は、他の膀胱壁と異なり中腎管 に由来する(ラングマン p.258-262)。粘膜ヒダの違いに注目したい。
Prostate gland | 前立腺 | 439 | Prostata | |
Pubis | 恥骨 | 439 | ||
Puboprostatic ligament | 恥骨前立腺靭帯 | 439 | ||
Ductus/Vas deferens | 精管 | 444 | ||
Urethra | 尿道 | 444 | ||
Pelvic plexus | 骨盤神経叢 | 456 ![]() ![]() | ||
(Inderior hypogastric plexus) | (下-下腹神経叢) | 456,344 | ||
(Urinary) Bladder | 膀胱 | 442 | ||
Orifice of ureter | 尿管口 | 444 | ||
(Ext./Int.) Urethral orifice | (外/内)尿道口 | 446 | ||
Trigone of bladder | 膀胱三角 | 442 |
内腸骨動脈 の内臓枝を確認・整理する。動脈を確認する過程で骨盤神経叢 が壊れて行く(Fig.441,409)。こういう手術は患者のQOL を損なう。子宮動脈 と下膀胱動脈 は太い。中直腸動脈(中痔動脈) は有名だが、実は半数近くで欠如する。一般に骨盤内臓の静脈は、蔓状静脈叢 と呼ばれる特殊な形態を示す。下直腸動脈 (Fig.453,454)は内陰部動脈 の枝である。子宮(癌) の所属リンパ節 は、正常なライヘでは閉鎖動脈根部 に多い(Fig.414)。閉鎖動脈は閉鎖神経 と共に閉鎖管 にはいる(Fig.418,420,500)。大腿の内転筋群(p.)の間で血管・神経を再確認しておく。
Internal iliac artery | 内腸骨動脈 | 441 | ||
Uterine artery | 子宮動脈 | 409 | ||
Inferior vesical artery | 下膀胱動脈 | 441 | ||
Middle/Inferior rectal artery | 中/下直腸動脈 | 441,453 | ||
Internal pudendal artery | 内陰部動脈 | 453 | ||
Obturator artery/nerve | 閉鎖動脈/神経 | 418 | ||
Obturator canal | 閉鎖管 | 420 |
坐骨直腸窩 (Fig.427,465)の脂肪は、残っていれば完全に除去し、骨盤隔膜 を骨盤腔の内外から確認する(Fig.461)。口腔底や横隔膜同様に筋である。内面から支配神経を受ける。骨盤隔膜は肛門挙筋 と尾骨筋 から構成され、肛門 を頂点とする下向きのドームを作る。肛門挙筋の中では恥骨 に付着する部分が最も強く、恥骨直腸筋 と呼ばれる(Fig.420)。日頃、最後に便を「切る」時に使っている。尾骨筋は仙棘靭帯 の内面に密着する(Fig.421)。
Ischiorectal fossa | 坐骨直腸窩 | 464 | ||
Pelvic diaphragm | 骨盤隔膜 | 461 | ||
Levator ani muscle | 肛門挙筋 | 461 | ||
*Coccygeus muscle | *尾骨筋 | 461 | ||
Pubis | 恥骨 | 420 | ||
Puborectalis muscle | 恥骨直腸筋 | 420 | ||
Sacrospinous ligament | 仙棘靭帯 | 421 |
骨盤隔膜 の上外側縁は、腱弓 を作って骨盤壁の内閉鎖筋 (の筋膜)に付着する(Fig.461)。ここを破ってしまって、坐骨直腸窩 からなぜか小骨盤腔が見えるライヘはないか。恥骨直腸筋 が直腸壁に合流する部分(連合縦走筋)を丁寧に剖出し、浅深(あるいは内外)の肛門括約筋 を確認する(Fig.420)。非常に病気の多い部位だが解剖はおろそかになりやすい。坐骨結節 に触れて位置を再確認する(Fig.421)。坐骨直腸窩にポケットを作る尿生殖隔膜(深会陰横筋) を確かめる。陰部神経 ・内陰部動脈 を殿部で再確認し(Fig.427,465)、内閉鎖筋に付着するアルコック管 Alcock(陰部神経管) を開放しながら尿生殖隔膜 に進入するまで追及する(Fig.429,462)。男性で球海綿体筋 ・坐骨海綿体筋 を剖出しよう(Fig.464)。分娩時の会陰切開 で太い血管・神経を損傷しないように(付図p.)、坐骨結節との近接関係を頭に入れる(Fig.427,428)。女性外陰部の剖出がまだならば、大前庭腺(バルトリン腺) を探してみる(Fig.430)。余裕があれば、さらに神経・動脈を陰茎 ないし陰核 まで完全に追及する(Fig.427,465)。
*Obturator internus muscle | *内閉鎖筋 | 461 | ||
Anal sphincter muscle | 肛門括約筋 | 420 | ||
Ischial tuberosity | 坐骨結節 | 421 | ||
*Urogenital diaphragm | *尿生殖隔膜 | 429,462 | ||
Pudendal nerve | 陰部神経 | 427,465 | ||
Internal pudendal artery | 内陰部動脈 | 427,465 | ||
Pudendal canal | 陰部神経管 | 426,464 | ||
*Bulbospongiosus muscle | *球海綿体筋 | 464 | ||
*Ischiocavernosus muscle | *坐骨海綿体筋 | 464 | ||
*Greater vestibular gland | *大前庭腺(バルトリン腺) | 430 | ||
Penis | 陰茎 | 465 | ||
Clitoris | 陰核 | 430 |
骨盤壁 は下肢帯だが、進行の都合ここで扱う。骨盤壁を貫通する仙骨神経叢 と内腸骨動脈壁側枝 を剖出する(Fig.410)。骨盤隔膜が張る骨盤底 は、体壁として扱われる(Fig.420)。肛門よりも尾側にも体壁があることは、胚子の解剖で示説する。
1)腰神経叢 (p.)から下行してくる腰仙骨神経幹 (Fig.364-367)を再確認する。
2)内腸骨動脈枝の中で、すでに剖出されている内臓への枝を同定する(Fig.409,441)。
3)殿部で坐骨神経 ・上下の殿筋神経・陰部神経 などを再確認し(Fig.507)、梨状筋 の上下から骨盤内に向けて剖出する。仙骨前面を剖出して交感神経幹(仙骨内臓神経) を確認する。
4)仙骨を前後から触れて前仙骨孔 の位置と梨状筋の起始を確認する(Fig.418)。
5)骨盤内から観察しながら、殿部で坐骨神経 を動かして位置を確認する。
6)骨盤神経叢 ・骨盤内臓神経 を温存しながら、仙骨神経 の根部を剖出する(Fig.456)。
Sacral/Lumbar plexus | 仙骨/腰神経叢 | 367 | ||
Internal iliac artery | 内腸骨動脈 | 410 | ||
Lumbosacral trunk | 腰仙骨神経幹 | 365 | ||
Sciatic nerve | 坐骨神経 | 507 | ||
Superior/Inferior gluteal nerve | 上/下殿筋神経 | 507 | ||
Pudendal nerve | 陰部神経 | 465 | ||
*Piriform muscle | *梨状筋 | 418 | ||
Sacrum | 仙骨 | 675 | ||
Sacral/Pelvic splanchnic nerve | 仙骨/骨盤内臓神経 | 456 | ||
Pelvic plexus | 骨盤神経叢 | 456 ![]() ![]() | ||
(Inderior hypogastric plexus) | (下-下腹神経叢) | 456,344 | ||
*Pelvic sacral foramen | *前仙骨孔 | 675 | ||
Sacral nerves | 仙骨神経 | 456 | ||
次第に、骨盤内から大坐骨孔 を通して殿部の神経が見えるようにする(Fig.420,513)。その過程で梨状筋がくずれてもやむをえない。坐骨神経の中の腓骨神経 部分はしばしば梨状筋を貫通する。仙骨神経叢 の全体が見えたらFig.366と合せて確認する。仙結節靭帯と仙棘靭帯は残してあるだろうか(Fig.421)。梨状筋と内外の閉鎖筋は位置関係が分かりにくい。閉鎖神経 の前後枝を短内転筋の前後で確認し(Fig.501,p.)、外閉鎖筋を貫いて閉鎖孔 の内側まで追求する(Fig.500)。
*Greater sciatic foramen | *大坐骨孔 | 420 | ||
Fibular nerve | 腓骨神経 | 513 | ||
Sacrotuberous ligament | 仙結節靭帯 | 421 | ||
Sacrospinous ligament | 仙棘靭帯 | 421 | ||
*Obturator internus/externus muscle | *内/外閉鎖筋 | 418,500 | ||
Obturator nerve | 閉鎖神経 | 501 | ||
Adductor brevis muscle | 短内転筋 | 501 | ||
Obturator foramen | 閉鎖孔 | 500 |
以上の過程で内腸骨動脈 から骨盤壁に向かう枝(壁側枝)も確認される(Fig.410)。上殿動脈 と下殿動脈 が圧倒的に太い。内陰部動脈と閉鎖動脈 はすでに末梢が剖出されている。太い閉鎖動脈枝が恥骨内面を上行して深鼡径輪 に接して冠状に走行し、大腿動脈 や下腹壁動脈 に続くことがある。昔はヘルニア手術 の際に損傷することがあり、死冠 と呼ばれた。閉鎖動脈から寛骨臼 (Fig.568)に入り、大腿骨頭靭帯から骨頭 に至る枝はあるか。大腿の解剖では見にくかった内側大腿回旋動脈 は大腿骨上部の栄養動脈を出す(Fig.513)。その温存に頚部骨折 の予後がかかっている。調べるなら今が好機だ。腸腰動脈 、外側仙骨動脈 などから、前仙骨孔 ないし腰椎椎間孔 にはいる枝はないだろうか。脊髄(馬尾、p.)に至る可能性がある。さらに上方で各高さの腰動脈 から腰椎椎間孔にはいる枝がないか、最後のこの機会に確認したい。損傷すれば大きな障害を残す動脈である。
Internal iliac artery | 内腸骨動脈 | 410 | ||
Superior/Inferior gluteal artery | 上/下殿筋動脈 | 410 | ||
Internal pudendal artery | 内陰部動脈 | 410 | ||
Obturator artery | 閉鎖動脈 | 410 | ||
Deep inguinal ring | 深鼡径輪 | 410 | ||
Femoral artery | 大腿動脈 | 501 | ||
Inferior epigastric artery | 下腹壁動脈 | 410 | ||
Acetabulum | 寛骨臼 | 278 | ||
*Ligament of head of femur | *大腿骨頭靭帯 | 567 | ||
Medial circumflex femoral artery | 内側大腿回旋動脈 | 513 | ||
*Iliolumbar artery | *腸腰動脈 | 410 | ||
Lateral sacral artery | 外側仙骨動脈 | 410 | ||
Inter vertebral foramen | 椎間孔 | 674 | ||
Lumbar artery | 腰動脈 | 364 |
- memo -