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後腹膜臓器

 

正しくは腹膜後器官 腹膜腔の後壁を作る壁側腹膜、そこから立上がる腸間膜という腹膜腔の構成を復習する(Fig.288,289)。これから腹膜腔の後方、つまり後腹膜腔(腹膜後隙)  を剖出する。

Peritoneal cavity 腹膜腔 289
Parietal peritoneum 壁側腹膜 289
Mesentery 腸間膜 291 Mesenterium

腎臓・副腎・尿管  (Fig.343,348,355)

壁側腹膜の後方にゲロータ腎筋膜   がある(Fig.372)。この腎筋膜は腎と尿管を前後から包んで小骨盤腔まで続いている。壁側腹膜の後方で体壁までの範囲のゆるい結合組織層を、腹膜後隙 とか後腹膜腔 と呼ぶ(腎筋膜に包まれた空間を含む)。以下、必要に応じて、腹部消化管を左右に寄せながら作業する。まだ、摘出しない。 

Renal fascia (Gerota's) 腎筋膜 372
Pelvic cavity 小骨盤腔 387 tex2html_wrap_inline9403
Retroperitoneal space 後腹膜腔(腹膜後隙)343 tex2html_wrap_inline9403

1)

まず尿管 精巣(卵巣)動脈  を剖出する(Fig.343,344) 。この過程で、腎筋膜 の下方に続く部分が崩れていく。腎前面に腎筋膜が残っていれば剥がし、腎筋膜と腎の間にある厚い脂肪被膜 を除去する。ライヘの副腎はぼろぼろとくずれやすく、また近接する腹腔神経節と似ている。副腎 や腹腔神経節 を損傷しないよう注意する。

Ureter 尿管 343
Testicular (Spermatic) artery 精巣動脈 343
Ovarian artery 卵巣動脈 344
Perirenal fat (Adipose capsule of kidney) 腎脂肪被膜 344
Adrenal (Suprarenal) gland 副腎 344
Celiac ganglia 腹腔神経節 344

2)

副腎血管  を確認する(Fig.348)。動脈3本・静脈1本が教科書的だが、変異に富む。動脈の1本は下横隔動脈 から来る。静脈の一部は肝摘出時に切断したかも知れない。副腎皮質髄質の区別はライヘではむずかしいかもしれない。

3)

さらに尿管を剖出をする。尿管の動脈を探しながら尿管を後体壁から剥離する。尿管をむき出しにして血管を切断してしまうと、後で尿管が壊死 して苦労する。代表的な術中副損傷である。膀胱 に至るまで、 尿管を丁寧に追及する(Fig.368)。尿管狭窄部(3カ所)について参考書を調べる。卵巣ないし精巣の血管は温存されているか。

Sup./Middle/Inf. suprarenal a. 上/中/下副腎動脈 348
Inferior phrenic artery 下横隔動脈 345
(Urinary)Bladder 膀胱368Harnblase,Vesica urinaria

4)

尿管を下方にたどるが、小骨盤腔の腹膜はまだできるだけ残しておく。剥がすときも断片化せずに1枚としてめくる。

5)

 腎の厚さの中央に外側から内側に向けてメスを一気に入れ、前頭断して腎盤 を前後に開く。メスがジグザグに入らないように注意する。2枚に割れた腎は、腎門 腎血管  によってつながる(Fig.352,353)。腎の断面で、腎錐体皮質髄質腎乳頭腎杯 などを観察する(Fig.355,356)。状態がよければ副腎 の断面でも皮質髄質を区別できる(Fig.355)。余裕があれば、腎動脈分岐から腎の5領域(上区、前上区、前下区、後区、下区)を区別する。

Kidney 腎臓 349 Niere,Ren
Renal pelvis 腎盤(腎盂) 356
Renal hilum 腎門 353 Hilus renalis
Renal pyramid 腎錐体 355
Cortex/Medulla 皮質/髄質 355
Renal papilla 腎乳頭 356(エコーでもここまで確認してみよう)
Renal calyx 腎杯 356
Renal artery/vein 腎動/静脈 352

横隔膜起始と裂孔  (Fig.229,360,365,369)

 

1)

横隔膜 は平らな隔壁ではなくてドームである。開胸する時に横隔膜の前方起始を観察したことを覚えているだろうか(Fig.162,p.gif)。横隔膜後部脊柱 後体壁から起始する(Fig.360)。脊柱に沿って横隔膜脚 を剖出する。後体壁では、大腰筋 腰方形筋 をまたいで第11,12肋骨に付く弓状靭帯 から、横隔膜が起始している(Fig.360,362)。この弓状靭帯起始部横隔膜脚の間は腰肋三角 と呼ばれ、ボホダレック孔ヘルニア   が起こる部位として知られる(p.gif,ラングマン p.160-163)。横隔膜に分布する下横隔動脈 の全体像を確認する(Fig.364)。胃C領域 副腎にも枝を出していることを忘れずに(Fig.293,345)。

ここで重要な作業を行う。右側で肋骨と弓状靭帯から横隔膜を剥がし取り、正中線に向けてめくり上げる。この結果、胸腔と腹腔がひと続きになり、胸管 や大内臓神経 を剖出する視野ができる。 

Diaphragm 横隔膜 245
*Left/Right crus *横隔膜脚 360
Psoas major muscle 大腰筋 362
*Quadratus lumborum muscle *腰方形筋 362
*Arcuate ligament *弓状靭帯 363
Lumbocostal triangle (Bochdalec hiatus) 腰肋三角 (ボホダレック孔)363
Inferior phrenic artery 下横隔動脈 364

2)

胸管 腎動脈 後方まで追求する最後のチャンスである。食道と大動脈の間で確認した胸管 をたどって、乳び槽 (胸管起始部の膨大部) を確認する(Fig.242,344)。ここまで慎重にやっていれば、数本の腸リンパ本幹 腰リンパ本幹 を胸管につなげることができる。多くの教科書では胸管大動脈裂孔  を通過すると記載されているが、必ずしもそうではない。胸管の剖出過程で、副腎 周囲や横隔膜 食道裂孔 大静脈孔 なども剖出されていく(Fig.362)。

大小内臓神経 を胸部で確認し(Fig.233,237)、下方に追及して腹腔神経節 につないでいく(Fig.365)。大動脈分岐部で下腹神経 を再確認する。これに続く腹大動脈 周囲の自律神経叢 を剖出する(Fig.344)。同時に、大動脈周囲リンパ節  (胃癌 16番、解剖で言う腰リンパ節)と太い腰リンパ本幹を確認する(Fig.369)。太いリンパ管 がきれいに剖出できたら、供覧するので報告すること。胃のリンパ管系が、いったん腎血管の高さまで下がってから胸管として上行することを復習する。この10年、全国の腹部外科医が16番の郭清にしのぎをけずってきた。しかし、必ずしも生存率の改善にはつながらず、むしろ離床を遅らせて患者をベットに縛り付けた。現在は反省期にはいっている。

Thoracic duct 胸管 242
Cisterna chyli 乳び槽 242
Intestinal lymph trunk 腸リンパ本幹344
Lumbar lymphatic trunk 腰リンパ本幹 344
Aortic hiatus 大動脈裂孔 362,229
Esophageal hiatus 食道裂孔 362,229
Inferior vena cava foramen 大静脈孔 362,229
Greater/*Lesser splanchnic nerve 大/*小内臓神経 233
Celiac ganglia 腹腔神経節 365
Hypogastric nerve 下腹神経 456 tex2html_wrap_inline9403 ,344 tex2html_wrap_inline9403
Para-aortic lymph nodes 大動脈周囲リンパ節 344 tex2html_wrap_inline9403

3)

噴門 の括約作用については検討しているだろうか。横隔膜 に前から割を入れて、食道裂孔 を慎重に開放する(Fig.229,362)。ピンチコックアクション (内視鏡の用語)が起こるだけに、横隔膜は食道 に密着して狭めている。3(4)か所食道狭窄部を復習する(p.gif)。噴門周囲の鞘状の結合組織が食道裂孔を通って上方にドーム状に突出している。胃食道接合部 EC junction  胃窮隆(噴門部) にはさまれたヒス角(噴門切痕) はライヘでは明瞭ではない。(Fig.295)。胃噴門部が上方に脱出した食道裂孔ヘルニア  の例があれば、みなで観察するので報告すること。最後に大静脈孔 食道裂孔 大動脈裂孔 の高さを椎体と対応させて確認する。参考書のごとくTh8, 10, 12だろうか(Fig.227)。

Cardiac orifice 噴門 296
Esophagus 食道 229
*Cardiac notch *噴門切痕(ヒス角) 295

4)

後縦隔 の復習をするいい機会でもある(p.gif)。左反回神経の全経過が剖出されているかどうか確認する(Fig.715)。食道前面に心膜の残りがあれば除去し、食道迷走神経を全長にわたって明らかにする(Fig.237)。奇静脈系 交感神経幹肋間動静脈神経を剖出する(Fig.234,237)。胸部交感神経幹を頚部と連続させ、星状神経節を剖出してその位置を理解する(第1肋骨との関係、胸膜頂がどこにあったか思い出せ)(Fig.164)。椎骨動脈も再確認の上、適宜横突孔 を開いて上方に剖出してみる(Fig.721)。

Posterior mediastinum 後縦隔 148 tex2html_wrap_inline9405
Recurrent laryngeal nerve 反回神経 237
Vagus nerve 迷走神経 237
Azygos vein 奇静脈 234
Sympathetic trunk 交感神経幹 237
Intercostal artery/nerve 肋間動脈/神経 234
  Stellate ganglion (Cervicothoracic ggl.) 星状神経節(頚胸神経節) 238
Capula of pleura 胸膜頂 164
Vertebral artery 椎骨動脈 721
Transverse foramen 横突孔 643

大動脈枝  (Fig.365,367)

1)

大腰筋 をほぐして腰神経叢 (Fig.367)を剖出する作業は終えているだろうか(p.gif)。腹部消化管に至る3本の太い動脈を再確認する。これら3本の動脈がどの椎骨の高さで腹大動脈 から起こるかを確認するため、大動脈 を脊柱から浮かすように剖出を進める。その過程で腰動脈 腰部交感神経幹 が見つかる(Fig.364,365)。椎間孔 に入るアダムキービッツ動脈 Adamkiewicz(大前根動脈)   が見つかるかもしれない(Fig.683)。 

2)

交感神経幹は仙骨前面の仙骨内臓神経 (p.gif)までつなげたい(Fig.365)。仙骨内臓神経は細いが固く、神経節も明瞭である。骨盤神経叢 への交感神経入力としては腰内臓神経  -下腹神経 の経路がメジャーだが、仙骨内臓神経から後部子宮支帯  (p.gif)を通る線維なども少なからぬ役割がありそうだ。 小骨盤の腹膜はまだできるだけ残す。

Psoas major muscle 大腰筋 362
Lumbar plexus 腰神経叢 367
Abdominal aorta 腹大動脈 364
Lumbar artery 腰動脈 364
Lumbar sympathtic trunk 腰部交感神経肝365
Intervertebral foramen 椎間孔 674
Artery of Adamkiewicz アダムキービッツ動脈 683
(Great radicular artery) (大前根動脈)
Sympathetic trunk 交感神経幹 365
Sacral splanchnic nerve 仙骨内臓神経 456 tex2html_wrap_inline9403
  Pelvic plexus 骨盤神経叢 456 tex2html_wrap_inline9403 ,344 tex2html_wrap_inline9403
  (Inderior hypogastric plexus) (下-下腹神経叢) 456,344
Lumbar splanchnic nerve 腰内臓神経 328
Hypogastric nerve 下腹神経 456 tex2html_wrap_inline9403 ,344 tex2html_wrap_inline9403

3)

胸腹部の大動脈を部分的に開けて、内景と壁の厚さを観察する。典型的なアテロatherosclerosis  (動脈硬化 の1つ)やアノイリスマaneurysm(動脈瘤)  は報告すること。

ここで再び、腹部断面のイメージができるかどうか、繰返し頭の中で再現する(p.gif)。

■付図(基靭帯と骨盤神経叢)  

figure8670

■付図(骨盤内蔵と骨盤神経叢) 

figure8679


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