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縦隔

大動脈弓  (Fig.233,710,ラングマン p.193-195)

縦隔 の定義は p.gif を参照。

すでに肺は摘出されている。縦隔胸膜 肋骨胸膜 横隔胸膜  を完全に剥がす(Fig.233)。縦隔胸膜に、横隔神経 迷走神経 右気管傍リンパ節  等が密着していることに注目する(Fig.193)。頚胸移行部 から縦隔にかけて、大血管と神経を徹底的に剖出する(Fig.710)。まず、左右迷走神経反回神経 を再確認し、剖出されていなければ追及する。特に左反回神経の起始部で、ボタロ管索(動脈管索)  を確認する(Fig.199,200)。ボタロ管索は無思慮に剖出すると消えてしまう。腕頭動脈 左総頚動脈 左鎖骨下動脈 、さらに左右椎骨動脈 の起始部を確認する(Fig.720)。椎骨動脈が大動脈から直接起始することがある。これら大血管の知識は国試問題に頻出される。ボタロ管左第6鰓弓 動脈由来(ラングマン p.195-196,205)。胎児循環 を図譜と胎児示説標本で確認する(Fig.223,224,ラングマン p.204-206)。動脈管開存症 PDA  ではどのように血液が流れるか考えよ(ラングマン p.197)。椎骨静脈 もわりと太いが、胸管や反回神経の剖出の際に切れてしまっただろうか。 

Mediastinal/Costal/ 縦隔/肋骨/横隔胸膜 165
    Diaphragmatic Pleura
Phrenic nerve 横隔神経 193
Vagus nerve 迷走神経 193
Right paratracheal (lymph) nodes 右気管傍リンパ節 193
Root of the neck 頚胸移行部(下頚部+上縦隔) 717
Recurrent laryngeal nerve 反回神経 194
Ligamentum arteriosum (Botallo's) ボタロ管索(動脈管索) 194
Brachiocephalic artery 腕頭動脈 710
Left common carotid artery 左総頚動脈 710
Left subclavian artery 左鎖骨下動脈 710
Vertebral artery/vein 椎骨動脈/静脈 711

後縦隔  (Fig.234,236,238)

  

すでに心・肺もはずれて、胸腔 を囲んでいた胸壁 が桶のように見える。肋骨胸膜を剥がした後の後胸壁では、肋間神経血管 交感神経幹 を剖出する(Fig.238,239)。交感神経幹から椎体 前面に向けて下行する大小内臓神経 を見つける。これら内臓神経 の神経線維については付図参照(p.gif)。すでに頚部から上端を確認した星状神経節  を、今度は直視下に剖出する(Fig.238)。麻酔科がブロックの練習を行なっていたら、ゴム液の入り具合について所見を記載して欲しい(p.gif)。 星状神経節は第1肋骨頚に密着しており、上下よりむしろ前後方向に長軸がある。星状神経節ブロックは頭頚部及び上肢の血管障害の治療法として頻用される。鎖骨下動脈 の周囲を交感神経幹の分枝が囲んで鎖骨下ワナ を形成する(Fig.237)。近傍では、鎖骨下動脈枝の肋頚動脈 、その枝の深頚動脈 が見つかる(Fig.721)。  

Intercostal nerve/artery/vein 肋間神経/動脈/静脈 233
   Sympathetic trunk 交感神経幹 233
Body of vertebra 椎体 234 tex2html_wrap_inline9403
Greater/*Lesser splanchnic nerve 大/*小内臓神経 233
Stellate ganglion (Cervicothoracic ggl.) 星状神経節(頚胸神経節) 238
Subclavian artery 鎖骨下動脈 237
   Ansa subclavia 鎖骨下ワナ 238
*Costocervical trunk *肋頚動脈 721
*Deep cervical artery *深頚動脈 721

心臓ないし肺のスケッチ課題が一段落したら、気管 ・食道 の前方に残る壁側心膜 を除去して、正面から後縦隔 に進入する。ただし食道前面を一気に剖出する前に、いったん上縦隔にもどって復習する。

食道 には3(4)つの狭窄部がある(Fig.229,230)。 

)食道入口部(輪状軟骨後方)
)大動脈弓(上)
)気管分岐部(下)
,3はごく近接している
)横隔膜の食道裂孔

Esophagus 食道 229
Aortic arch 大動脈弓 229
Bifurcation of trachea 気管分岐部 229
Esophageal hiatus 食道裂孔 229

食道は臨床では次のごとく区分され、例えばIm癌というように用いる。         

1)

左静脈角 でまだ胸管  が見つかっていなければ、食道下行大動脈の間で胸管を真っ先に見つけて(Fig.235)今後温存に努める。胸管は上方に左静脈角まで確認すると同時に、最終的には、横隔膜脚 の後方から腎動脈 後方の起始部まで追及する(Fig.242,p.gif)。

2)

迷走神経 は肺根後方まで剖出されているだろうか。さらに下方に追及して、食道壁に形成する神経叢 を剖出していく(Fig.236,237)。その過程で食道の血管 も出てくる(Fig.236)。

3)

気道異物 は右に落ちると言う。気管分岐部を露出させて、主気管支 の分岐角度を目測で調べる(気管の延長線からの鋭角 左:  度、右:  度)(Fig.180,181)。分岐部前面ではしばしば太い集合リンパ管 が観察できる。左肺から右気管傍リンパ節 に向かうリンパ路と考えられている。大きな分岐下リンパ節 を食道から浮かしていく。左気管食道溝を走る左反回神経 を確認し、上方に追及しながら左気管傍リンパ節 を除去する。左右の気管傍リンパ節の発達の違いに注意する。右気管傍リンパ節 は、胸部で最も発達したリンパ節群でアンテラ(p.gif)が顕著だ(Fig.192)。

Thoracic duct 胸管 242
Esophagus 食道 235
Descending aortic 下行大動脈 235
Crus of diaphragm 横隔膜脚 363
Renal artery 腎動脈 369
Vagus nerve 迷走神経 236
Esophageal plexus 食道神経叢 237
Esophageal artery and vein 食道の血管 236
Primary bronchus 主気管支 180
Paratracheal lymph node 気管傍リンパ節 193
Left recurrent laryngeal nerve 左反回神経 236,715

4)

交感神経幹 迷走神経 から心臓 や肺 に至る神経(Fig.189,190)が多数見つかる(心臓神経 肺枝)。特に気管 の後方で太い(Fig.236)。反回神経 と様々に交通している。できるだけ温存したい。交感神経幹神経節 脊髄神経根 を結ぶ交通枝を剖出して、節前・節後線維の走行を復習する(付図p.gif)。ただし、白交通枝と灰白交通枝を肉眼的に区別することは困難。

5)

脊柱前面 を横断している静脈を剖出する。左後胸壁から右の本幹に注ぐ奇静脈系 の静脈である。右気管支 に接していた奇静脈弓は残っているだろうか(Fig.187)。動脈に伴走しない奇妙な静脈の形成については、ラングマン p.199-203 参照。奇静脈 半奇静脈 副半奇静脈 など奇静脈系の全体像を剖出する(Fig.187,234)。

Sympathetic trunk 交感神経幹 187
Cardiac nerves 心臓神経 187
Plmonary plexus 肺神経叢 236
Sympathetic ganglion 交感神経幹神経節 13
Root of spinal nerve 脊髄神経根 13
Ramus communicans 交通枝 13
Vertebral column 脊柱 187 tex2html_wrap_inline9403
Arch of the azygos vein 奇静脈弓 187 tex2html_wrap_inline9403
Azygos vein 奇静脈 187
Hemiazygos vein 半奇静脈 234
*Accessory hemiazygos vein *副半奇静脈 234

6)

脊柱で椎体 椎間円板 の区別をつけ、前縦靭帯 および肋骨頭椎体関節(Fig.152)を確認する。肋骨頭関節 を中心にして胸郭の運動が起こる(Fig.184,185)。横隔膜の大静脈孔食道裂孔大動脈裂孔の高さを椎骨を数えて確認する(Fig.245,362)。

7)

下行大動脈の枝にも注意する。肺根の断端でラベリングしてある気管支動脈 を、大動脈側に追及する。時間の許す範囲で、肋間動脈 を大動脈につなぐ(Fig.233)。医師がアダムキービッツ動脈(大前根動脈)  (Fig.683)の検索をしていると思う。下位肋間動脈の枝で脊髄を栄養する、細いが重要な動脈だ。

を本体側にもどして位置関係をトコトン復習する。系統解剖学の古典的テーマである肋間筋3層 構成も見て欲しい(p.gif)。また、後胸壁 を p.gif に従い観察・確認する。

Body of vertebra 椎体 669
Intervertebral disc 椎間円板 674
Anterior longitudinal ligament 前縦靭帯 666
Joints of costal heads / Capitular joint 肋骨頭関節 662 tex2html_wrap_inline9403
Diaphragm 横隔膜 362
Inferior vena cava foramen 大静脈孔 229
Esophageal hiatus 食道裂孔 229
Aortic hiatus 大動脈裂孔 229
Descending aortic 下行大動脈 235
Bronchial artery 気管支動脈 233
Posterior intercostal artery 肋間動脈 233
Artery of Adamkiewicz アダムキービッツ動脈 683
(Great radicular artery) (大前根動脈)

--memo--

■付図(縦隔のCT図:今日の診断指針から) 

figure6822

■付図(交感神経)   

figure6832


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