この先、心臓は繰返しもとの位置にもどして復習するので、心・肺のスケッチ課題を描いている間、心臓摘出後の大血管の切断端を動かしてはいけない。
Pericardial cavity | 心膜腔 | 170 | ||
Pericardial sac | 心嚢 | 189 ![]() | ||
Phrenic nerve | 横隔神経 | 190 | ||
Pericardium | 心膜 | 170 | ||
Parietal pericardium | 壁側心膜 | 170 | ||
Visceral pericardium(=Epicardium) | 臓側心膜(心外膜) | 170 | ||
Inferior/Superior vena cava (IVC/SVC) | 下/上大静脈 | 194 | ||
*Transverse pericardial sinus | *心膜横洞 | 194 | ||
*Oblique pericardial sinus | *心膜斜洞 | 194 | ||
(Right/Left) Superior/Inferior pulmonary vein | (左/右)上/下肺静脈 | 194 |
心臓外面 の心外膜 を剥がして、心筋層 との間に蓄積している脂肪をある程度除去する。冠状動脈の剖出は、内腔を見て全体のオリエンテーションが付いてから存分にやってもらう。
摘出した心臓 に、割を入れて内腔を開く。本学では中隔の温存を重視した切り方を行なう。まず左右の心房 を開放し、内面を観察する。心耳 (Fig.195,199)は発生過程で最初にできる心房の遺残であり、抗利尿ホルモンを出す内分泌器官と言われている。新しくできた心房洞部内面は平滑だが、心耳内面には櫛状筋 がある(Fig.207,ラングマン p.179)。
次いで心室 にはいる。肺動脈 から右室に向けてまっすぐに前壁をハサミで切り下ろす。できれば、肺動脈弁 の弁尖 と弁尖の間をねらいたい。大動脈 から左室に向けて一気にハサミで切り下ろすにはコツがある。左心耳を寄せて、左心耳と肺動脈の間にハサミが通ること。この際、左冠状動脈本幹(LMT) を肺動脈側に付けたい。いずれにしても直線的にハサミを入れて壁を一割する。乳頭筋 や腱索 は切れてもかまわない。弁尖と弁尖の間にハサミを入れたい。割線が小刻みにジグザグするのが一番よくない。少しでもわからなかったらスタッフに訊く。
開いたら心腔内のクロット(凝血) をピンセットできれいに除去して組織片の容器へ入れる。さらに心腔内を汚物流しで洗う(通常の流しでは詰まる)。血管内にある細長く白っぽいゴムのような塊は、死後分離した血中の蛋白成分がホルマリンで凝固したものである。
Epicardium | 心外膜 | 207 | ||
Myocardium | 心筋層 | 207 | ||
Coronary artery | 冠状動脈 | 201 | ||
Septum | 中隔 | 206 | ||
Atrium | 心房 | 206 | ||
Auricle | 心耳 | 199 | ||
*Pectinate muscles | *櫛状筋 | 207 | ||
Ventricle | 心室 | 206 | Ventriculus sinister (左室) / dexter (右室) | |
Pulmonary artery | 肺動脈 | 208 | ||
Pulmonary valve | 肺動脈弁 | 208 | ||
Left main trunk (LMT) | 左冠状動脈本幹 | 201 ![]() | ||
Papillary muscles | 乳頭筋 | 206 | ||
*Chordae tendinae | *腱索 | 206 |
Aortic valve | 大動脈弁 | 210 | Valva aortae | |
Left/Right/Posterior semilunar cusp | 左/右/後半月弁尖 | |||
Pulmonary valve | 肺動脈弁 | 208 | ||
Left/Right/Anterior semilunar cusp | 左/右/前半月弁尖 | |||
Atrioventricular valves | 房室弁 | |||
Tricuspid valve | 三尖弁 | 207 | ||
Ventral/Dorsal/Septal cusp | 前尖/後尖/中隔尖 | |||
Mitral(Bicuspid) valve | 僧帽弁(二尖弁) | 209 | ||
Ventral/Dorsal cusp | 前尖/後尖 | |||
*Trabeculae carneae | *肉柱 | 206 |
Interventricular septum | 心室中隔(室中隔) | 216 | ||
Muscular part | 筋性部 | |||
Membranous part | 膜性部 | |||
*Conus arteriosus | *漏斗部 | 208 | ||
Interatrial septum | 心房中隔 | 207 | ||
Fossa ovalis | 卵円窩 | 207 |
Aortic sinus (Valsalva's) | ヴァルサルバ洞(大動脈洞) | 210 | ||
Septal cusp, tricuspid valve | 三尖弁中隔尖 | 207 | ||
Atrioventricular bundle | ヒス束 | 216 | ||
Atrioventricular node(AV node) | 房室結節 | 218 | ||
Endocardium | 心内膜 | 211 | ||
Sinoatrial node(SA node) | 洞房結節 | 218 |
4室・4弁・4中隔の立体的な構成については、心エコー と関係して何度も復習する。膜性部 は、左ヴァルサルバ洞・無冠ヴァルサルバ洞および三尖弁中隔尖 ・前尖のいずれに近接しているだろうか。ヴァルサルバ洞動脈瘤破裂 が右房(ないし右室)に連続して左-右シャント(シャント =短絡路 )を作るというのは納得できるか。筋性部 と漏斗部(流出路) の境界が稜をなしており、両者の平面は90-120度の角度で交わるだろうか。卵円窩 は心房中隔欠損ASD(atrial septal defect) の、膜性部 は心室中隔欠損VSD(ventricular septal defect) の、それぞれ好発部位だ(ラングマンp.182,189)。
Interventricular septum | 心室中隔(室中隔) | 216 | ||
Muscular part | 筋性部 | |||
Membranous part | 膜性部 | |||
*Conus arteriosus | *漏斗部 | 208 | ||
Fossa ovalis | 卵円窩 | 207 |
その他、以下の項目を確認せよ。
Apex/Basis of the heart | 心尖/心底 | 193 | Apex cordis, Basis cordis | |
Opening of coronary sinus | 冠状静脈洞開口部 | 207 | ||
Ascending aorta | 上行大動脈 | 193 | ||
Pulmonary trunk | 肺動脈幹 | 193 |
右室 | 左室 | |
漏斗部 | あり | なし |
拡張期形態 | 丸いおむすび型 | しっぽ(尾)型 |
収縮期形態 | 三角おむすび型 | 足型 |
肉柱全般 | 粗大で互いに直交 | 微細で斜走 |
中隔面の肉柱 | 発達 | 上方1/2-2/3で欠如(平滑な面) |
乳頭筋 | 主:1、小:複数 | 主:2、小:1 |
乳頭筋の中隔起始 | 複数 | 欠如 |
房室弁 | 三尖弁 | 二尖弁(僧帽弁) |
半月弁 | 肺動脈弁 | 大動脈弁 |
刺激伝導系 | 1本 | 2本 |
*心奇形では右室が左側にあり、左室が右側に位置することがある。
左房: 櫛状筋が心耳内に限局して心房洞部の内面は平滑
右房: 密な櫛状筋が心耳内に限らず心房洞部後面まで十分に進展(Fig.206)
--memo--
この時期にステート(聴診器)を用いて心音聴診 の課題を出す。心音と音源の位置は必ずしも一致しない(Fig.182,183)。
☆担当者指定課題 心音聴診に関するレポート(詳細は配布プリント参照)
ステート(聴診器)は窓側にぶら下げてある。心音は『タッ-トン』(あるいはトン-タン)という感じの2音に分解できる。第1音『タッ』は心室壁の収縮と房室弁の閉鎖により、第2音『トン』は動脈弁(半月弁)の閉鎖によると考えられている。1音と2音の間を収縮期と呼ぶ。
聴診対象は男子3名。各音が最も大きく聞こえる部位(聴診部位)を、『左第4肋間で胸骨縁から2横指左方』のごとく記載する。
心臓の各部を前胸壁に投影させる。前胸壁のどの位置に心臓のどの部位が対応するかは、シリンジに付けたカテラン針を用いて刺しながら検索する。はずした前胸壁 をかぶせ、ボスミン(アドレナリン)の左室内注入 を模して行なう(p.)。 第○肋間の胸骨○縁○横指から刺すと、4室のどこに刺さるか。シリンジに付けたカテラン針でボスミンを左室内注入する行為は、今も死亡確認の一種の儀式として行なわれている。この機会に前胸壁の肋間筋と血管・神経(Fig.162,234)を剖出してもいい(p.
)。
心外膜 を完全に剥がし、心外膜と心筋層 の間の脂肪を丁寧に除去して、動脈を細かく剖出する。静脈はごく太いところだけを残せばいい。左の大静脈の遺残として、左房外面に比較的太い静脈があるかも知れない(ラングマン p.202-204)。
冠状動脈名は、臨床で日常的に用いられているAHA規約 (アメリカ心臓病学会規約)に従う。国内で用いられる略語にもある程度慣れて欲しい。動脈は心筋に埋没していることがある(muscular bridge という)。心筋梗塞AMI(acute myocardial infarction) の成立と関係があるらしい。その部位ではピンセットを用いて心筋 を少々削る必要がある。中隔枝・房室結節枝などは、その親動脈を少し持上げて浮して剖出する。
心臓 の外面で、心房 と心室 の境の溝を冠状溝 、心室の間の溝を前後の室間溝という(Fig.197)。冠状溝と後室間溝が交差する部位をクラックス(Crux、十字) と呼ぶ。クラックスに、左冠状動脈 が分布する場合を左優位(Fig.203)、右冠状動脈 が分布すれば右優位(Fig.204)、左右から枝が来ればバランス型という。以下、後述のスケッチ課題を参照。クラックスには静脈が集まって冠状静脈洞 をつくる(Fig.197)。図を見て左前からの大心静脈、後ろからの中心静脈、右前からの小心静脈 を区別する。クラックスの奥(前方)から僧帽弁と三尖弁の間にかけての領域は、心房側(例えば SA node)から心室側(AVとは限らない)への様々な伝導路(刺激伝導系)が通る(Fig.218)。その中で副伝導路と呼ばれる経路が発達して重篤な不整脈を起こすことがあり、その際はクラックスの奥を冷凍凝固して治療する。
解剖学で用いる心臓 の壁の名称(胸肋面 、横隔面 、肺面 )は一応確認しておく。一方、心電図EKG、ECG による心筋梗塞 の部位診断では、前壁梗塞、下壁梗塞、後壁梗塞、側壁梗塞、中隔梗塞と言うように左室に5壁を区分する。境界は不明確だが、この5壁を区別してみる。各壁へ分布する冠状動脈は、教科書的に言うと、前壁と中隔前2/3にはLAD 、側壁にはCx 、RCA 、後壁と下壁と中隔後1/3にはRCA とされる。中隔には刺激伝導系 が走るから、中隔の血行障害は様々な形のブロック (左脚ブロック、右脚ブロックetc.)として心電図上に出現する。
Epicardium | 心外膜 | 207 | ||
Coronary sulcus | 冠状溝 | 197 | ||
Interventricular sulcus | 室間溝 | 197 | ||
Coronary sinus | 冠状静脈洞 | 197 | ||
Greater/Middle/Small cardiac vein | 大/中/小心静脈 | 198 | ||
Sternocostal surface | 胸肋面 | 193 | ||
Diaphragmatic surface | 横隔面 | 197 ![]() | ||
Pulmonary surface | 肺面 |
冠状動脈の名称
Right coronary artery(RCA) | 右冠状動脈 | 201 | ||
Left main trunk(LMT) | 左(冠状動脈)主幹部 | 201 ![]() | ||
(left/right) Circumflex branch(LCx/RCx) | 回旋枝 | 201 | ||
*Diagonal branch(D1,D2,-) | *対角枝 | 201 | ||
*Obtuse marginal branch(OM) | *鈍縁枝 | |||
*Postero-lateral branch(PL) | *後側壁枝 | 203 | ||
*Left atrial circumflex branch(AC) | *左房回旋枝 | 201 ![]() | ||
*Conus branch(CB/CN) | *円錐枝 | |||
SA node artery(SA) | 洞房結節枝 | 201 ![]() | ||
*Anterior right ventricular branch(RV) | *前右室枝 | 201 ![]() | ||
*Acute marginal branch(AM) | *鋭縁枝 | 201 ![]() | ||
(left) Anterior descending branch(LAD) | 前下行枝(前室間枝) | 201 ![]() | ||
Posterior descending branch(PD) | 後下行枝(後室間枝) | 201 ![]() | ||
*AV node artery(AV) | *房室結節枝 | 201 | ||
*Posterior left ventricular branch(PLV) | *後左室枝 | |||
*Septal branch(es)(S) | *中隔枝 | 202 |
■上記略語に加えて、さらに1から15までの番号による記載も臨床ではしばしば用いられる。
心臓 の形は簡単なようで実は非常に分かりにくい。傾き、ねじれている(p. 備考参照)。しかも、臨床では妙な角度から画像化するので、解剖で見る心臓とのギャップが大きい。しかし、実習を工夫すればギャップが埋められる。
最初に、心臓を左右斜め前から見た外景2図を1枚のケント紙にできるだけ大きく描く。左右斜め前(LAO/RAO) いう意味は、右冠状動脈 の走行が付図のようにL字型に見え、左冠状動脈 の走行がドーム型に見える角度を言う。その2図に冠状動脈 を剖出・観察して書込み、AHA名称を付ける(和訳でいい)。左優位・右優位・バランスのいずれか判断してスケッチの右上に記入する。次に筋性部 に分布する中隔枝(S)の太さについて太いものから5本までを調べ、下記に示すようにスケッチの右上に記載する。
太いものから順に、後S1-後S2-後S4-前S1-後S7。
後S*:PDから出る*番目のS、
前S*:LADから出る*番目のSと仮に定義する。
最後に、筋性部 ・膜性部 ・漏斗部 ・僧帽弁 ・三尖弁 ・大動脈弁 ・肺動脈弁 それぞれの位置を、2図それぞれに立体的に記入して引出し線で説明する。中隔を含む面は大きく分けて2面からなる。4弁の向きは異なるから、アサガオが皆こちらを向いたような図はウソである。その傾きが分かるように工夫して描く。工夫して描く苦労を通じて立体的構成を理解するのだから、他人のマネをしてはいけない。なお、課題作業中に小グループで心エコー の示説を受けること。