医療における3Dプリンターの利用

基礎編

FDM方式の基本特許が切れたのを契機として、クラウドファンディング等で資金調達したベンチャー企業を中心に様々な3Dプリンタ-が発売されています。
医療分野でも数年前から「実物大臓器立体模型による支援」という名目で一部保険適用が認められています。
ここではメディア等で取り上げられている、「人工骨の作成(東大)」や「柔らかい材料で肝臓等の臓器を作成(神戸大)」といった利用法ではなく、ごく一般的な病院での利用について解説します。
ちなみに上記人工骨や臓器模型に使用しているプリンターは数千万円もするもので、一般的な医療機関ではなかなか買えません。札幌医大でもこんな高価なプリンターは買えるわけもなく、、、、
 

1. 印刷方式

立体を作る方式はいくつかありますが、共通するのは「材料(樹脂)を1層1層積み重ねる」というものです。
印刷方法としては、針金状のプラスチック材料(フィラメント)を溶解して連続的押し出し積層する熱溶解積層方式(FDM, FFF)、光硬化樹脂を紫外線で固める光造形方式(SLA, DLP, インクジェット)、素材粉末を層状に敷き詰め、接着剤や高出力のレーザーで焼結して固めて造形する粉末方式(粉末焼結, バインダジェット)、紙・紙状樹脂を重ねて造形するシート積層方式等があります。
低価格(数万~数十万円)で購入できる製品の殆どが熱溶解積層方式です。(低価格な光造形方式のものは、造形サイズが小さい)

2. 保険適用

実物大臓器立体モデルによる支援を行った場合に2,000点算定されます。
適応部位は以下の通り

K055-2    大腿骨頭回転骨切り術
K055-3    大腿骨近位部骨切り術
K136        脊椎骨盤悪性腫瘍手術
K142の6    椎弓形成
K142-2    脊椎側彎症手術 
K151-2    広範囲頭蓋底腫瘍切除・再建術 
K162        頭皮頭蓋骨悪性腫瘍手術 
K180        頭蓋骨形成手術 
K228        眼窩骨折整復術
K236        眼窩悪性腫瘍手術 
K237        眼窩縁形成手術
K313        中耳側頭骨腫瘍摘出術
K314の2    側頭骨摘出術
K406の2    口蓋骨に及ぶもの 
K427-2    頬骨変形治癒骨折矯正術 
K434        顔面多発骨折観血的手術
K436-K444    上下顎骨
<現在のところ保険の算定は2,000点なので、FDM以外の方法ではコストがかかりすぎ、一般の施設で導入するのは難しいと思われます。当院では、FDM方式の3Dプリンタ-を採用しています。

3. 処理の流れ

1) 検査
 通常の3D-CTのための撮像法で検査します。

2) 3次元画像の作成
 ZIO Station, AZE BirtualPlace, FMS Vincent等のワークステーションで作成し、STL形式でモデルデータをエクスポートします(ソフトが古い場合、対応していない可能性があります。)

3) 印刷
 必要に応じてデータを修正後、印刷を行います。

4.  印刷

3Dプリンタ-による印刷は専用のソフトを用いて行います。3Dプリンタ-事態はNC工作機械の一種なので、G-CODEという言語で制御されます。印刷ソフトは3STLファイルに記述された3次元の形状データを一層一層薄い層(01~0.4mm)に分解し(スライス)し、G-CODEを生成しプリンターに送ります。印刷ソフトは「スライサー」とも呼ばれてます。メーカー製の3Dプリンタ-は専用のソフトが付属していますが、reprap プロジェクト(オープンソースの3Dプリンタ-)を基にしたものでは、様々なオープンソースのスライサーが利用できます。

5.  印刷コスト(FDM方式)

FDM方式で一般的に使用されるPLAフィラメントは 1kg あたり3000~5000円ぅ来です。
下顎骨 下顎骨 約60グラム   300円
 上顎骨 約210グラム        1250円
 胸腰椎 約300グラム        1500円
※充填率15%で印刷した場合。フィラメントは5000円/kgとして計算。
上記の金額はあくまでも目安です