2008年12月10日


主要論文15編の要約と被引用回数(2008年11月25日現在)

 

札幌医科大学 分子医学研究部門 教授 

濱田洋文

 

1. 腫瘍の特異的標的化を目指した新規治療法の開発(1984-現在)

        A)抗癌剤耐性の分子機構と診断治療(1984-1990)

        B)癌に対する免疫遺伝子治療(1990-現在)

        C)標的化を目指した基盤技術の開発(1992-現在)

2. 再生医学の基礎研究と臨床応用(1999-現在)

        D)血管新生・心臓保護

        E)骨髄幹細胞・造血幹細胞を用いた細胞療法

 

 

 

A)抗癌剤耐性の分子機構と診断治療への応用

 

1.  Hamada H and Tsuruo T.  Functional role for the 170- to 180-kDa glycoprotein specific to drug-resistant tumor cells as revealed by monoclonal antibodies.  Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83: 7785-7789, 1986.

 

要約:抗癌剤に対する多剤耐性の機構を解明することを目的として、多剤耐性となったヒト癌細胞の機能を修飾する単クローン抗体MRK16とMRK17を作製した。MRK16は耐性細胞で亢進している薬剤の能動的排出を特異的に阻害した。一方、MRK17は耐性細胞の増殖を特異的に抑制した。2つの抗体はともに多剤耐性細胞に特異的に発現する170?180kDaの糖タンパク(P-糖タンパク)を抗原としており、P-糖タンパクが多剤耐性細胞における薬剤輸送と増殖の機構に重要な役割を担うことが明らかとなった。

被引用回数: 614

 

2.  Hamada H and Tsuruo T.  Purification of the 170- to 180 kilodalton membrane glycoprotein associated with multidrug resistance: The 170- to 180-kilodalton membrane glycoprotein is an ATPase.  J. Biol. Chem., 263: 1454-1458, 1988.

 

要約: 私たちは単クローン抗体を用いたアフィニティー・クロマトグラフィーによって、多剤耐性に関与するP糖タンパクを精製することに成功した。酵素活性の検討により、精製P糖タンパクはATPaseであることを見出した。このATP加水分解が、抗癌剤の能動的汲み出しと共役していることが示唆された。さらにP糖タンパクの酵素活性について詳しく解析を行った。

被引用回数: 336

  

3. Hamada H, Miura K, Ariyoshi K, Heike Y, Sato S, Kameyama K, Kurosawa Y and Tsuruo T.  Mouse-human chimeric antibody against the multidrug transporter P-glycoprotein.  Cancer Res., 50: 3167-3171, 1990.

 

要約:P糖タンパクを高発現する多剤耐性細胞を標的とした免疫治療法を開発するため、単クローン抗体MRK16のV領域をヒトIgG1とつないだキメラ抗体を遺伝子工学的手法を用いて作製した。ヒトのエフェクター細胞を用いた場合、このキメラ抗体(MH162)は、もとのマウス単クローン抗体MRK16より効率よく耐性細胞を殺すことが出来た。薬剤耐性癌に対する特異的な免疫療法が、新しい治療のアプローチと考えられ、私たちの作製したマウス・ヒトのキメラ・モノクローナル抗体については臨床治験へ向けて用意が進められた。

被引用回数:33

 

 

B)癌に対する免疫遺伝子治療

 

4. Nakamura Y, Wakimoto H, Abe J, Kanegae Y, Saito I, Aoyagi M, Hirakawa K and Hamada H.  Adoptive immunotherapy with murine tumor-specific T lymphocytes engineered to secrete interleukin-2.  Cancer Res., 54: 5757-5760, 1994.

 

要約:養子免疫遺伝子治療の開発: 腫瘍細胞を見分けて特異的に殺すことの出来るエフェクターT細胞への遺伝子導入は、抗腫瘍免疫強化のための強力な手法と考えられるが、今まであまり多くの研究がなされていなかった。これは、T細胞への効率のよい遺伝子導入が困難であったことが大きな要因であろう。私たちはアデノウイルスベクターの使用により、マウスのCD8+CTLに100%に近い高効率で遺伝子導入が可能であることを見出した。さらにCTLのin vivo での抗腫瘍効果を増強させるサイトカインを選択するために動物実験を行い、IL2 や?IFN遺伝子導入によって強い抗腫瘍効果増強が得られることがわかった。

被引用回数:77

 

5.  Wakimoto H, Abe J, Tsunoda R, Aoyagi M, Hirakawa K and Hamada H.  Intensified antitumor immunity by a cancer vaccine that produces granulocyte-macrophage colony-stimulating factor plus interleukin 4.  Cancer Res., 56: 1828-1833, 1996.

 

要約:私たちは各種サイトカインのレトロウイルス発現ベクターのパネルを作成し、腫瘍細胞に対して遺伝子導入を行い、これらのワクチンとしての治療効果を検討した。マウス皮下及び脳内移植腫瘍モデルでの検討により、単独ではGM-CSFが最も有効であったが、IL-6、LT、MIF、IL-3、IL-10でも予防効果が得られた。本研究で作成した30数種のサイトカインベクターのパネルを用いることによって、各臓器由来の腫瘍についてどのサイトカインが最も有効であるかを系統的に検討することが可能となった。私たちがこれまでに得た動物実験結果により、GM-CSFとIL-4の両方を発現する腫瘍ワクチンにより顕著な治療効果が得られることが明らかとなった。

被引用回数:99

 

6.  Shibagaki N, Hanada K, Yamashita H, Shimada S and Hamada H.  Overexpression of CD82 on human T cells enhances LFA1/ICAM1-mediated cell-cell adhesion: functional association between CD82 and LFA1 in T cell activation.  Eur. J. Immunol., 29(12): 4081-4091, 1999.

 

要約:私たちはB7/CD28 系の分子以外に必須な共刺激分子並びにT細胞側のレセプターについて詳しく解析することを目的に、単クローン抗体を用いた cDNA の発現クローニングを行った。今までに、CD82、PSGL1 (Selectin ligand)、 OX40 などの cDNA を得て、解析を進めている。このような共刺激分子は、腫瘍ワクチンに導入すべき遺伝子として有力な候補となるであろう。私たちの前の論文(Shibagaki et al. Eur. J. Immunol., 28(4): 1125-1133, 1998)では、CD82 蛋白の発現量によって、T細胞の初期の活性化がコントロールされることを見出し、詳しい免疫学的解析を行った。この論文では、さらに詳細な分子メカニズムの検討を行い、CD82 蛋白の発現量によるT細胞の初期の活性化は、CD82と結合するLFA1を介してコントロールされていることを明らかとした。

被引用回数:27

 

 

C)標的化療法を目指した基盤技術の開発

 

7.  Shinoura N, Muramatsu Y, Nishimura M, Yoshida Y, Saito A, Yokoyama T, Furukawa T, Horii H, Hashimoto M, Asai A, Kirino T  and Hamada H.  Adenovirus-mediated transfer of p33(ING1) with p53 drastically augments apoptosis in gliomas.  Cancer Res., 59(21): 5521-5528, 1999.

 

要約: アデノウイルスを用いてp53とp33ING1を同時に導入することにより、グリオーマ細胞(U251、U373MG)においてアポトーシスの誘導を増強するかどうか調べた。p33ING1を導入可能なアデノウイルス(Adv-p33)、並びに、myelin basic protein(MBP)のプロモーターでp53をドライブすることでグリオーマ組織特異的なp53遺伝子発現が可能なアデノウイルス(Adv-MBP-p53)を作製した。これらをそれぞれ単独でグリオーマ細胞に感染させてもアポトーシスを導入しなかったが、Adv-p33と Adv-MBP-p53をグリオーマ細胞に同時に感染させると極めて強いアポトーシスを誘導した。一方、正常神経細胞においては、アポトーシスは誘導されなかった。Adv-p33と Adv-MBP-p53の同時感染は、神経細胞を傷めずにグリオーマ細胞に対して選択的な殺細胞効果のある遺伝子治療として有用な手段となりうる。

被引用回数:53

 

8.  Shinoura N, Yoshida Y, Tsunoda R, Ohashi M, Zhang W, Asai A, Kirino T and Hamada H.  Highly augmented cytopathic effect of a fiber-mutant E1B-defective adenovirus for gene therapy of gliomas.  Cancer Res., 59(14): 3411-3416, 1999.

 

要約: E1B欠損アデノウイルス(Adv-E1AdB)はp53遺伝子異常などのある癌細胞に強い殺細胞効果を示す制限増殖型ウイルスである。私たちは増殖型アデノウイルスの治療効果と細胞選択性を増強するため、Adv-E1AdBのファイバーにリジンを20個導入したファイバー変異型ウイルス(Adv-E1AdB-F/K20)を作製し、グリオーマ細胞に対する感染効率と殺細胞効果を、野生型ファイバーのウイルス(Adv-E1AdB-F/wt)と比較した。グリオーマ細胞において、Adv-E1AdB-F/K20 はAdv-E1AdB-F/wtの9倍の導入効率、11倍の増殖効率を示した。また、殺細胞効果では、50%の細胞が死ぬ効率(ED50)で32倍の高値を示した。グリオーマ皮下腫瘍治療の動物モデルでもAdv-E1AdB-F/K20は腫瘍細胞の増殖を効果的に抑制した。F/K20などのファイバー変異型の利用は制限増殖型アデノウイルスの殺細胞効果をさらに増強する有望な治療手段となる。

被引用回数:71

 

C)標的化療法を目指した基盤技術の開発 アデノウイルス感染特異性の強化:

 

9.  Nakamura T, Sato K and Hamada H.  Reduction of natural adenovirus tropism to the liver by both ablation of fiber-Coxsackievirus and adenovirus receptor interaction and use of replaceable short fiber.  J. Virol., 77(4): 2512-2521, 2003.

 

要約: ヒト5型Adv(Ad5)の受容体CARは肝臓をはじめ多くの正常細胞で大量に発現しているため、正常細胞にも高い感染を示す。私たちはAd5のファイバーのみを40型の短ファイバーに置き換えたAdv-F40Sを作製した。これは、Ad5のファイバーの受容体CARと結合しない。マウス静脈内投与によるウイルスの取り込みを調べたところ、Ad5は肝臓にきわめて高い取り込みを示すのに対して、Adv-F40Sは肝臓への取り込みは従来型の50分の1以下と低かった。さらに、Ad5やAd40(SないしL)ファイバーのシャフトやノブで構成されたさまざまのキメラ変異型を検討した結果、アデノウイルスの肝臓への取り込みは、ファイバーシャフトの性質にも依存することが明らかとなった。F40Sは、ノブがCAR受容体に結合しないことに加え、さらにF40Sのシャフトが肝臓に取り込まれやすいペプチドモチーフKKTKを欠如するために、肝臓への遺伝子導入(バックグラウンド)が少ないベクターになったのである。

被引用回数:46

 

10. Tanaka T, Huang J, Hirai S, Kuroki M, Kuroki M, Watanabe N, Tomihara K, Kato K and Hamada H.  Carcinoembryonic antigen targeted selective genetherapy for gastric cancer through FZ33 fiber-modified adenovirus vectors.  Clinical Cancer Research, 12(12): 3803-3813, 2006.

 

要約: 通常のウイルスベクターによる癌の遺伝子治療の問題点は、感染選択性に欠けるため標的細胞への導入効率が上がらないことである。私たちはアデノウイルスファイバーにプロテインA由来のIgG結合Z33ドメインを挿入することで、抗体と架橋できる改変型ベクター(Adv-FZ33)を作製し、CEA産生胃癌細胞株への遺伝子導入を試みた。抗CEA抗体C2-45と結合したAdv-FZ33を感染させると、コントロールに比べ20倍高い遺伝子発現が得られた。大腸菌UPRT遺伝子を組み込んだAdvUP-FZ33を作製し、C2-45を介しUPRT遺伝子導入行うと、5-FUの感受性が100倍増加した。さらに、胃癌腹膜播種の動物治療モデルで、C2-45を介したAdvUP-FZ33感染プラス5-FU投与により優れた抗腫瘍効果が得られた。抗CEA抗体を介した選択的遺伝子導入はCEA産生癌の治療に有望である。次いで、私たちは、上記論文で実証されたAdv-FZ33の強力な抗体結合力と選択的遺伝子導入の特性に注目し、新規抗体のスクリーニングに活用した。得られた抗CEA抗体は抗原とのアフィニティーがきわめて高い抗体であった。この方法が臨床応用に有用な抗体スクリーニング技術へと発展した。

被引用回数:9 

 

 

D)血管新生と心臓保護

 

11. Takahashi K, Ito Y, Morikawa M, Kobune M, Huang J, Tsukamoto M, Sasaki K, Nakamura K, Dehari H, Ikeda K, Uchida H, Hirai S, Abe T and Hamada H.  Adenoviral delivered angiopoietin-1 reduces the infarction and attenuates the progression of cardiac dysfunction in the rat model of acute myocardial infarction.  Mol. Ther. 8(4):584-592, 2003.

 

要約: アンジオポエチン(Ang1)は、壁細胞の血管内皮細胞への接着による血管構造安定化をはじめ血管リモデリングに重要な働きを担う。私たちは、ウサギの大腿動脈結紮切離モデルを用いて、VEGFにAng-1プラスミドDNA遺伝子導入を併用し、Ang-1前投与群では、壁細胞により支持された太い血管が多く作られ、浮腫の副作用も認められないことを報告した(Yamauchi et al. J. Gene Med. 2003)。当論文では、ラットの冠動脈結紮による心筋梗塞モデルを用いて、虚血性心疾患に対するAng1遺伝子導入治療の有効性について検討した。アデノウイルスを用いてAng1遺伝子導入発現を行ったラット群では、明らかな毛細血管密度の増加・梗塞サイズの縮小、さらに高い心機能温存を認めた。急性期にAng1遺伝子投与を行うことが、心筋梗塞による心機能不全の進行を押し止める効果的な治療になることが示された。

被引用回数:23

 

12. Huang J, Nakamura K, Ito Y, Uzuka T, Morikawa M, Hirai S, Tomihara K, Tanaka T, Masuta Y, Ishii K, Kato K, Hamada H.  Bcl-xL gene transfer inhibits Bax translocation and prolongs cardiac cold preservation time in rat.  Circulation, 112(1): 76-83, 2005.

 

要約: 心臓移植治療が広く施行されるに至らない理由として、ドナー心臓の不足が挙げられる。その要因の一つとして、摘出した心臓を保存できるのが、臨床実地上4から6時間までに限られることがある。さまざまな動物実験でも、移植心の保存はせいぜい18時間以内でなければ心機能回復は望めなかった。この論文で、私たちはBcl-XLの抗アポトーシス作用を利用し、長時間の冷保存虚血後の再灌流障害をくい止めることを試みた。ラット心にアデノウイルスBcl-XL遺伝子導入の前処置を施し、4日後に心を摘出し、摂氏4度で24時間延長冷保存したのち、再灌流・異所性移植を行った。24時間延長冷保存した後の心筋細胞のアポトーシス・再灌流障害は、Bcl-XL前処置群では明らかに抑制された。異所移植した心臓は、コントロール群では90%が2日以内に心停止するのに対し、Bcl-XL前処置群では90%が14日を超えても拍動を続けていた。Bcl-XLなどの抗アポトーシス遺伝子発現による心保護を行うことによって、冷保存時間の延長を可能にしたことは、心臓移植臨床の現実的な可能性を広げることにつながるであろう。また、この論文で示したような心筋のアポトーシス機序の詳細とそこに介入する手段は、今後の、より簡便なアプローチによる前処置法の工夫にも糸口を示したものといえよう。

被引用回数:11

 

 

E)造血幹細胞増殖を目指した基盤技術

 

13. Kawano Y, Kobune M, Yamaguchi M, Nakamura K, Ito Y, Sasaki K, Takahashi S, Nakamura T, Chiba H, Sato T, Matsunaga T, Azuma H, Ikebuchi K, Ikeda H, Kato J, Niitsu Y and Hamada H.  Ex vivo expansion of human umbilical cord hematopoietic progenitor cells using a coculture system with human telomerase catalytic subnit (hTERT)-transfected human stromal cells. Blood, 101(2): 532-540, 2003.

 

要約: 我々は血液幹細胞の体外増幅を試みるべく、ヒト骨髄中の血液支持細胞(以下ストローマ)と共培養実験を行った。ヒト初代ストローマはin vitroでは細胞分裂回数が限られていた。これを克服するためにテロメラーゼ触媒サブユニットであるhTERT遺伝子を導入したところ、ヒト初代ストローマの不死化に成功した(以下hTERTストローマ)。このhTERTストローマは腫瘍化することなく600日にもわたる長期間の培養が可能であった。このhTERTストローマと共培養することにより、造血幹細胞を非常に効果的に増幅できることを、コロニーアッセイと免疫不全マウスへの移植実験によって証明した。ヒト造血幹細胞との共培養実験に今まで用いられていたストローマはマウスなど異種の細胞株であったが、本研究成果によって安定して大量のヒトストローマ細胞を供給できるようになり、培養増幅させた造血幹細胞の移植治療への臨床応用への適用に可能性が開けてきた。次いで私たちは、hTERTストローマを用いて増幅された造血幹細胞をさらにin vitroで分化させることにより、赤血球や血小板を大量調製することにも成功し、将来の人工骨髄実用化へ向けての基盤技術を作ってゆくことができた。

被引用回数:51

 

14. Kobune M, Ito Y, Kawano Y, Sasaki K, Uchida H, Nakamura K, Dehari H, Chiba H, Takimoto R, Matsunaga T, Terui T, Kato J, Niitsu Y, Hamada H.  Indian hedgehog gene transfer augments hematopoietic support of human stromal cells including NOD/SCID-beta-2m-/- repopulating cells.  Blood, 104(4): 1002-1009, 2004.

 

要約: 本研究は、骨髄間質細胞からindian hedgehogという液性因子が産生され、造血幹細胞に発現するレセプター分子Patched/Smoothened複合体を介して、造血前駆幹細胞の増殖が誘導されることを示したものである。さらに、増殖する幹細胞分画を詳細に解析した結果、indian hedgehogは生体内において短期間(2-3ヶ月)の造血を支持する造血幹細胞分画(化学療法後の血球回復に貢献する幹細胞)の増殖を刺激する一方で、生涯にわたって造血を支持する長期造血再建能を示す真の造血幹細胞には影響を与えないことを報告した。

この結果は、当時カナダのBhatiaのグループがNature Cell Biologyで発表したhedgehogが真の造血幹細胞を増やすという結果と相反するものであった。しかし、2007年にBhatia自身が自分たちの研究結果が再現されないことを公表したことから、私たちの論文結果の方が支持されている。その後、Hedgehogシグナルは、骨髄性白血病幹細胞および骨髄腫幹細胞の増殖因子および薬剤耐性因子であることが示された。私たちの研究結果を合わせて考えると、Hedgehogシグナルを遮断することにより、長期造血再建能を示す真の正常造血幹細胞に障害を与えることなく、血液腫瘍の幹細胞の増殖や薬剤耐性を抑制できると推測された。現在、世界中で多数のhedgehogシグナル分子標的薬の開発が進められ、臨床試験も始まっている。

被引用回数:16

 

E)骨髄幹細胞を用いた細胞療法

 

15. Nakamura K, Ito Y, Kawano Y, Kurozumi K, Kobune M, Tsuda H, Bizen A, Honmou O, Niitsu Y and Hamada H.   Anti-tumor effect of genetically engineered mesenchymal stem cells in a rat glioma model.  Gene Ther., 11(14): 1155-1164, 2004.

 

要約: グリオーマは高浸潤性の為に外科的全摘出が困難である。私たちは神経幹細胞(NSC)と性質が類似しながらも患者からの採取・増殖が容易で倫理的に問題のない間葉系幹細胞(MSC)に注目した。IL-2を導入したMSCを浸潤グリオーマが存在する場所へのIL-2の運び屋として利用することにより、抗腫瘍免疫増強を試みた。MSCにはグリオーマに対して親和性・走化性があり、腫瘍増殖抑制効果も示した。ラット・グリオーマ脳内移植モデルにおいて、移植MSCは、対側に植え付けられた腫瘍の周囲と中心部に広く分布するばかりでなく、さらに正常脳組織へと浸潤転移していく腫瘍細胞を追いかけるようにして共に移動してゆく性質を示した。IL-2発現MSC投与による細胞治療はグリオーマの増殖を抑制し担癌ラットの生存期間を明らかに延長した。本論文によってMSCを利用した癌標的化治療が有望であることが明らかとなった。一方、IL-2発現MSCだけでは、ラット脳腫瘍を完治させるほどの効果は得られず、さらに効果的な標的化治療法の開発を試みてゆかなくてはならないことも示された。

被引用回数:54