舌骨下筋群を胸骨から剥がす(Fig.706)。開胸していればすでに剥がれている。支配神経を付けたまま舌骨下筋群を上方に反転し、甲状腺 を露出させて輪郭を明らかにする。この際、甲状腺の後外側方で反回神経 の末梢を損傷しないよう注意する(Fig.715)。甲状腺の手術では、反回神経との近接関係が常に問題になる。手術時に反回神経を損傷すると著しくQOL を損ねる。甲状腺に錐体葉 はあるだろうか(Fig.163,715)。さらに甲状舌管 の遺残を思わせる索状物はないか(ラングマン p.295-296)。甲状腺の辺縁から周囲に向けて上・下・最下(変異)の甲状腺動脈 、上・中・下の甲状腺静脈 を同定して知識を整理する(Fig.710,715)。中甲状腺静脈は半数程度に存在し、内頚静脈に直接注ぐ。すでに切れているので断端を確認する。
最後に、甲状腺を気管から剥離して上方へ反転し、裏面でアズキ大のリンパ節のような副甲状腺 を探す(Fig.713)。甲状腺の左右の葉はどちらが大きいか、どちらが後方まで広がるか、さらに一部で断面を観察し、濾胞 の巨大化したものがないか確認する。褐色に凝固したサイログロブリン (濾胞上皮細胞 からの分泌物の主成分)が分かるだろうか(標準組織学各論 p.303-305)。
Thyroid gland | 甲状腺 | 712 | Schilddrüse | |
Left/Right lobe | 左/右葉 | 712 | ||
Thyroid follicle | 濾胞 | |||
Pyramidal lobe | 錐体葉 | 715 | ||
Thyroglossal duct | 甲状舌管 | |||
Recurrent laryngeal nerve | 反回神経 | 715 | ||
Superior/Inferior thyroid artery | 上/下甲状腺動脈 | 715 | ||
Thyroid ima artery | 最下甲状腺動脈 | 715 ![]() | ||
Superior/Middle/Inferior thyroid vein | 上/中/下甲状腺静脈 | 710 | ||
Trachea | 気管 | 715 | ||
Parathyroid gland | 副甲状腺 | 713 |
開胸を行ない(p.)、上縦隔の解剖が終了してから(p.
)咽頭、・喉頭 の解剖にはいること。左右の反回神経が、甲状腺周囲できちんと剖出されていなければならない。
Pharynx | 咽頭 | 890 ![]() | ||
Larynx | 喉頭 | 890 ![]() |
咽頭・喉頭の区分について知識が整理されているだろうか。咽頭 は頭蓋底 (蝶形骨の前下方)から第6頚椎付近まで上下に延びる管である(Fig.890,893)。下方は食道に続く。前方3か所に窓があり、鼻腔 、口腔 、喉頭 にそれぞれ続く。鼻腔の後方を上咽頭 、口腔の後方を中咽頭 、喉頭の後方を下咽頭 と呼ぶ。
喉頭 の骨格を作る軟骨 を理解する。外面から甲状軟骨 、輪状軟骨 (Fig.899)、そして輪状甲状筋(臨床名:前筋) の輪郭を明らかにする(Fig.712)。気道確保の一つ、気管切開 tracheotomy の場所を確かめよ。この際に反回神経と上喉頭神経を再確認し(Fig.896)、さらに喉頭に出入りする血管を剖出する。喉頭5筋の中で輪状甲状筋だけは上喉頭神経支配 であり、現状で観察できる。残り4筋については p. を見よ。鰓弓由来 の軟骨(骨格)、筋、及びその支配神経についてはラングマン p.283 の表、p.288 の図を参照せよ。
Thyroid cartilage | 甲状軟骨 | 899 | ||
Cricoid cartilage | 輪状軟骨 | 899 | ||
*Cricothyroid muscle | 輪状甲状筋(前筋) | 712 | ||
Recurrent laryngeal nerve | 反回神経 | 896 | ||
Superior laryngeal nerve | 上喉頭神経 | 896 |
以下、頭部離断(p.)の準備作業 を兼ねて以下のように解剖を進める。
気管・咽頭 を切断して持ち上げたら、最初に後方(脊柱側)から咽頭を観察する。まだ咽頭筋膜に覆われているので咽頭縫線は不明瞭かも知れない(Fig.891)。
Common carotid artery | 総頚動脈 | 892 | Arteria carotis communis | |
Internal carotid artery | 内頚動脈 | 892 | Arteria carotis interna | |
Vagus nerve | 迷走神経(X) | 892 | Nervus vagus | |
Inferior thyroid artery | 下甲状腺動脈 | 892 | ||
Esophagus | 食道 | 890 | ||
Pharynx | 咽頭 | 890 | ||
*Retropharyngeal space | *咽頭後隙 | 890 | ||
*Longus colli muscle | *頚長筋 | 717 | ||
Vertebral body | 椎体 | 646 | ||
Accessory nerve | 副神経(XI) | 892 | Nervus accessorius | |
Sympathetic trunk | 交感神経幹 | 892 | Truncus symphaticus | |
Recurrent laryngeal nerve | 反回神経 | 898 | ||
Cricoid cartilage | 輪状軟骨 | 898 | ||
Trachea | 気管 | 890 | ||
*Pharyngeal raphé | *咽頭縫線 | 891 |
また、頭部正中切半()の際に頭部だけをまず切半して喉頭を残し、喉頭を下咽頭と共に摘出して剖出する方法もある。いかにも「のど笛」を解剖している感じがする(Fig.898)。この方法では、まず舌下神経と上喉頭動脈・神経を確認、舌下神経は口側(舌側)に、上喉頭動脈・神経は摘出喉頭に付ける。甲状舌骨膜を横断し、喉頭蓋を摘出喉頭に付けるように注意しながら舌骨下方で咽頭を切断する。このため梨状陥凹 が破損する。上喉頭動脈・神経は色糸を2か所に付けて間を切断。摘出後は、喉頭に後方から切開を入れ、下咽頭をはずしながら解剖を進める。甲状軟骨などの処理は上述参照。
Temporomandibular joint | 顎関節 | 740 ![]() | ||
Epiglottis | 喉頭蓋 | 893 | ||
Hypoglossal nerve | 舌下神経(XII) | 897 | Nervus hypoglossus | |
Superior laryngeal artery/nerve | 上喉頭動脈/神経 | 898 | ||
Piriform recess | 梨状陥凹 | 893 |
一側の喉頭 の解剖と観察に入る(Fig.897-914)。以下の手順で行う。
外側輪状披裂筋 (臨床名:側筋) 、横披裂筋 (横筋) 、後輪状披裂筋(後筋) 、甲状披裂筋 と声帯筋 (内筋) の中で、声門の開大筋は後筋だけである。これらの筋には、反回神経に続く下喉頭神経 から筋枝が来る(Fig.898)。今日剖出している一側では、甲状軟骨の外側部を必要に応じて切除してもいい。これで視野が広がる。支配神経の剖出は、頭部を離断して完全に正中切半してからでいい。下喉頭神経 と上喉頭神経 の吻合も剖出したい(Fig.898)。
喉頭の解剖は、後日さらに予習復習した上で残る一側を用いて行なう。
Epiglottis | 喉頭蓋 | 908 | ||
Vestibular fold | 仮声帯(前庭ヒダ) | 908 | ||
Vocal fold | 声帯(室ヒダ) | 908 | ||
Glottis | 声門 | |||
Rima glottidis | 声門裂(膜間部、軟骨間部) | 908 | ||
Piriform recess | 梨状陥凹 | 893 | ||
Arytenoid cartilage | 披裂軟骨 | 901 |
喉頭5筋 | 906 | |||
*Cricothyroid muscle | *輪状甲状筋(前筋) | |||
*Lateral cricoarytenoid muscle | *外側輪状披裂筋(側筋) | |||
*Transverse arytenoid muscle | *横披裂筋(横筋) | |||
*Posterior cricoarytenoid muscle | *後輪状披裂筋(後筋) | |||
*Thyroarytenoid muscle/Vocalis muscle | *甲状披裂筋/声帯筋(内筋) |
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