脳を取り出した縫合があれば、それを切断して頭蓋冠 をはずす。すでに脳出しの際に、皮下組織と頭蓋冠外面の骨膜 の間にある程度メスがはいっている。脳出ししていないライヘであればメスで皮膚の厚さを探る。頭皮 の皮下組織には、帽状腱膜 という芯があるので他部位の皮膚とは感触が違う。帽状腱膜は後頭前頭筋 の付着になる(Fig.728,729)。毛根はできるだけ皮膚側に付くようにする。頭部外傷 の際にすぐ分かるように頭皮下は血管が密である。しかし血管・神経に注意すべき範囲は、眼窩のすぐ上方と後頭部に限りたい。
Skull | 頭蓋 | 752 ![]() ![]() | Cranium | |
*Calvaria | *頭蓋冠 | 756 ![]() ![]() | ||
Periosteum | 骨膜 | 731,733 | ||
Scalp | 頭皮 | 729 ![]() | ||
*Galea aponeurotica | *帽状腱膜 | 729 | ||
*Occipitofrontalis muscle | *後頭前頭筋 | 729 | ||
Orbita | 眼窩 | 753 ![]() |
後頭部から項・肩にかけては、皮膚を弁状に剥がしにくいことが多いので、断片的に除去する。皮膚を剥がしたら外後頭隆起 を触診し、その左右やや下方で大後頭神経 と後頭動脈 を捉える(Fig.634)。大後頭神経 は頭痛 の一因になる神経で、皮神経としては例外的に、しばしば麻酔科における神経ブロックの対象になる。大後頭神経ブロック は後頭動脈のすぐ内側で穿刺する(付図p.)。 かなり深いが、できるだけメスを用いずに剖出する。血管と伴走することが手がかりになる。余裕があれば小後頭神経 と第3後頭神経 も皮下で見つけ出す(Fig.634)。以上の神経の正確な同定は、頚部および背部の解剖が進んでからになる。(p.
)
External occipital protuberance | 外後頭隆起 | 635,691 | ||
Greater occipital nerve | 大後頭神経 | 634 | Nervus occipitalis major | |
*Lesser occipital nerve | *小後頭神経 | 634 | Nervus occipitalis minor | |
Occipital artery | 後頭動脈 | 634 | ||
Third occipital nerve | 第3後頭神経 | 637 ![]() |
眼窩 のすぐ上方で、眼窩から上方に出てくる皮神経と血管を捉える(Fig.736,791)。後に眼窩の解剖の際に同定する(p.)。脳出し時の縫合を開いて前頭部の皮膚をめくりおろすと、眼窩上の骨面に皮神経が容易に見つかる。
表情筋 は皮膚に停止している。表情筋の輪郭を彫り出すつもりで皮膚を剥がす(Fig.728)。血管・神経の末梢を損傷するが時間的にやむをえない。後に、表情筋を剥がしながら血管・神経を剖出する。皮膚は断片的に除去していい。広いシート状の皮弁にする必要はない。眼輪筋 と口輪筋 は機能的に重要であるし、特に薄いので注意して温存する。眼輪筋と口輪筋だけは、どの哺乳類でもよく発達している。諸君の中に、口輪筋の律動だけで乳を吸う吸啜反射ができる者がいたら報告せよ。
下顎底では顔面動脈 が浅く走るので注意する(Fig.726,746)。自分で脈を触れて位置を確認してみる。鼻根部でも顔面動脈の末梢が浅く走行する。大頬骨筋 、口角下制筋 、上唇鼻翼挙筋 など主な筋を同定する(Fig.728)。美容外科の皺のばしの際に重要な皺眉筋 は、前頭筋 の深側にある(Fig.728)。哺乳類の特徴である頬筋は深いので、側頭下窩の剖出の折でよい(p.)。
Facial muscles | 表情筋(顔面筋) | 728 ![]() | ||
Orbicularis oculi muscle | 眼輪筋 | 728 | ||
Orbicularis oris muscle | 口輪筋 | 728 | ||
Base of mandible | 下顎底 | 754 | ||
Facial artery | 顔面動脈 | 735,736,746 | ||
*Zygomaticus major muscle | *大頬骨筋 | 728,729 | ||
*Depressor anguli oris muscle | *口角下制筋 | 728,729 | ||
*Levator labii superioris alaeque nasi muscle | *上唇鼻翼挙筋 | 728,729 | ||
*Corrugator supercilii muscle | *皺眉筋 | 728 | ||
*Occipitofrontalis muscle | *前頭筋 | 728 | ||
Buccinator muscle | 頬筋 | 728,733 |
広頚筋 が皮下組織内に広がる(Fig.696,698)。最初は鎖骨の高さで皮膚を剥がして筋の深さを確認し、広頚筋の表面からメスで皮膚を剥がす。広頚筋を貫いて出てくる末梢の血管・神経を損傷するがやむをえない。皮膚には適当に横方向の割を入れて、ベルト状に外側ないし上方にめくり上げて行く。頚部の外側から後方にかけては、皮膚を厚く剥がしやすいから注意する。だからと言って真皮を本体側に残してはいけない。皮弁状に剥がすのが困難ならば断片的に除去する。皮下組織を剖出すると、鎖骨の前面で鎖骨上神経 が数本見つかる(Fig.699)。鎖骨上神経を中枢側に追及して、深側にはいる手がかりにする。前頚部と側頚部に皮静脈 が見つかるが、外頚静脈 だけはきちんと温存する(Fig.699)。最後に、広頚筋を上方に反転しながら鎖骨上神経と大耳介神経 を深側に向けて剖出する(Fig.699)。
Platysma muscle | 広頚筋 | 696 | Platysma | |
Clavicle | 鎖骨 | 700 | Clavicula | |
Supraclavicular nerves | 鎖骨上神経 | 699 | ||
External jugular vein | 外頚静脈 | 699 | Vena jugularis externa | |
Great auricular nerve | 大耳介神経 | 699 |
前正中線に入れる割が深くならないように注意する。一度に長い割を入れようとしないこと。皮膚はベルト状に外側に向けて剥がす。外側後方に行くにつれて、剥がす皮膚が厚くなりがちである。厚くなったと思ったら、そこで皮弁を一度落としてしまう。落とした部位から、もう一度正しい厚さで剥がし始める。
第2肋間胸骨縁2-5cm位の範囲で、皮下組織をピンセット2本だけで剖出し、最初に肋間神経前皮枝 とその伴走血管を見つける(Fig.15)。有名なDP フラップ (delto-pectoral flap,頭頚部悪性腫瘍摘出術後の再建術の一つ )は、この伴走血管で移植皮弁を養う(ビデオ供覧)。皮下の剖出の際に深側の筋をあまり損傷しないようにする。以後、同様に下位肋間で剖出する。外側皮枝 が出現するラインと深さは示説を受けないとむずかしい(Fig.15,18)。脊髄神経前枝 (例えば肋間神経)(Fig.13)の外側皮枝は、あらゆる脊椎動物に存在すると考えられる。
乳房 の主体は皮下組織である。乳房が発達している場合は、乳輪部 をくりぬくように残して皮膚を剥がす。乳房の mass も本体側に残す。乳房に分布する血管は大切だから、残しておく(p.)。腋窩の皮膚は薄い。深部にメスがはいらないように注意しながら、しかしきれいに剥がし取る。いずれ腋窩の解剖が進んでから(p.
)、乳房の mass を腋窩に向けて胸壁から剥がす(Fig.6,8)。今の段階で 乳房の mass を除去してしまうと復習の機会を失う。腋窩から側胸部では、胸腹壁静脈 他の皮静脈 が剖出される(Fig.18,19)。
Sternum | 胸骨 | 147 | ||
Intercostal nerve | 肋間神経 | 13 | Nervus intercostalis | |
Anterior/Lateral cutaneous branch | 前/外側皮枝 | 13,15 | ||
Spinal nerves | 脊髄神経 | 13 ![]() | ||
Breast | 乳房 | 9 | Mamma | |
Areola | 乳輪 | 8 | ||
Axilla | 腋窩 | 19 ![]() | ||
Thoracoepigastric vein | 胸腹壁静脈 | 19 |
皮膚の剥がし方は胸部に準じる。臍 はくりぬくように残しておく。皮下組織が厚いライヘでは臍が茎のように立上がる。下腹部の皮下組織内で、膜状の脂肪層であるカンパー筋膜 と、同じく膜状の結合組織であるスカルパ筋膜 の、以上2層を区別することがあるが(Fig.267,268)、日本人ではむずかしいことが多い(付録「筋膜総論」p. 参照)。皮神経探しは、白い腱膜様の腹直筋鞘 前面と外腹斜筋腱膜 を露出させながら行なう(Fig.15,248)。肋間神経 およびその類似神経の前皮枝が見つかる。外側皮枝は急がなくていい。側腹部で脂肪が厚い場合はできるだけ除去しておく。
Camper's fatty layer | カンパー筋膜 | 267 ![]() | ||
Scarpa's fibrous layer | スカルパ筋膜 | 268 ![]() | ||
Umbilicus | 臍 | 247,248 | ||
Rectus sheath | 腹直筋鞘 | 249 | ||
*Aponeurosis of external oblique m. | *外腹斜筋腱膜 | 248 | ||
Intercostal nerve | 肋間神経 | 13 | N. intercostalis | |
Anterior/Lateral cutaneous branch | 前/外側皮枝 | 248 |
外陰部・鼡径部の皮膚は、脂肪組織をできるだけ本体側に残して薄く剥がす。男性鼡径部では、皮下に精管 が走る。精管は血管・神経と共に束ねられ、精索 という小指ほどの太さの索状物を作る(Fig.248)。女性では子宮円索がある(Fig.265)。精索と子宮円索は後日きちんと解剖するので(p.)、皮下組織を残しておく。陰茎 と陰嚢 の皮膚は薄く剥がす(Fig.267)。陰嚢縫線 を確認する。陰嚢の皮下には肉様膜 という皮膚をよじらせる赤い平滑筋組織(Fig.271)がある。一側で精巣 を包む外精筋膜 を剥がして、精巣を陰茎から分離し、精索でぶらさげる。この状態では、精巣は内精筋膜 に、陰茎は深陰茎筋膜 に覆われている(Fig.269)。
側腹部から鼡径部には浅腹壁動静脈 が出てくる(Fig.248)。臍 の周囲に皮静脈 が累々と浮き出ていれば、メズサの頭 と呼ばれる門脈側副路 の1つである(p.)。
Ductus/Vas deferens | 精管 | 271 | ||
Spermatic cord | 精索 | 247,248 | ||
Round ligament of uterus | 子宮円索 | 265 | Ligamentum teres uteri | |
Penis | 陰茎 | 466 | ||
Scrotum | 陰嚢 | 466 | ||
Raphe of scrotum | 陰嚢縫線 | 463 | ||
Dartos layer | 肉様膜 | 267,268 | Tunica dartos | |
External/Internal spermatic fascia | 外/内精筋膜 | 182 | ||
Testis | 精巣 | 267 | ||
Fascia penis (Buck's deep fascia) | 深陰茎筋膜 | 269 | ||
Superficial epigastric artery/vein | 浅腹壁動/静脈 | 248 | ||
Caput Medusae | メズサの頭 | 248 ![]() |
背部 の皮膚は厚い。しかし、後正中線に入れるメスが深くならないように注意する。筋の発達が悪いライヘでは、皮下組織と僧帽筋 ・広背筋 の区別がつきにくい。皮膚と一緒に筋を剥がすことがないようにする。脊髄神経後枝は外側枝 と内側枝 に分れるが(Fig.626)、例外的神経を除くと肩甲骨より下方では後枝外側枝が、上方では内側枝が皮下に分布している。ここではまず、肩甲骨の下方で後枝外側枝とその伴走血管を見つける(Fig.628,634)。
Trapezius muscle | 僧帽筋 | 629 | ||
Latissimus dorsi muscle | 広背筋 | 629 | ||
Spinal nerves | 脊髄神経 | 626 | ||
Lat./Med. cutaneous br. of posterior ramus | 後枝外側/内側枝 | 626 | ||
Scapula | 肩甲骨 | 41 |
殿部では時間の都合、ある程度厚く皮下脂肪を皮膚側に付けて剥がしていい(Fig.504)。股に隠れる部位も忘れずに皮膚を剥がしておく。肛門 のすぐ周囲だけは、皮下にも括約筋 があるので薄く剥がす(Fig.426)。陰嚢後面の皮膚もできる限り剥がす。殿部では、腸骨稜を乗り越えるように下方に向かう上殿皮神経 を見つける。上殿皮神経は後枝外側枝の末梢である。できれば仙骨後面で中殿皮神経 も見つけたい(Fig.504,628)。仙骨後面は褥創 Decubitus (いわゆる床ずれ)のできやすい部位だ。例があれば供覧するので報告すること。
External anal sphincter muscle | 肛門括約筋 | 426 | ||
Anus | 肛門 | 426 | ||
Iliac crest | 腸骨稜 | 376,377,628,629 | ||
Sacrum | 仙骨 | 283 | ||
Superior/Medial cluneal nerve | 上/中殿皮神経 | 504 |
後頭部から項部については前述の頭部参照。肩甲上部から項部にかけては非常に皮静脈 の多い部位だが、前腕のように外からは見えない。皮下組織が固いので皮膚を剥がしながら静脈を観察する。その血液うっ滞が肩凝り の原因だったかも知れない。
上肢の皮静脈は、ライン確保(静脈穿刺) の場所として長いつきあいになる(Fig.44,45,58,59)。まず、外側筋間中隔 で橈側皮静脈 、内側筋間中隔 で尺側皮静脈 、肘窩 で肘正中皮静脈 を確認する(Fig.37)。手背静脈網 に始まり前腕 の皮静脈を経て肘正中皮静脈が形成される経過を観察する。これらの静脈はいずれ除去せざるを得ないので、内腔を開いて弁も観察しておきたい(Fig.25)。
Lateral intermuscular septum | 外側筋間中隔 | 42 | ||
Cephalic vein | 橈側皮静脈 | 37 | Vena cephalica | |
Medial intermuscular septum | 内側筋間中隔 | 46 | ||
Basilic vein | 尺側皮静脈 | 37 | Vena basilica | |
Cubital fossa | 肘窩 | 40 | ||
Median antebrachial vein | 肘正中皮静脈 | 37 | ||
Dorsal venous network of the hand | 手背静脈網 | 76 |
肘 がまっすぐ伸びていれば、外側前腕皮神経 (Fig.44,58)が上肢の皮神経 の中で最も見つけやすい。上腕二頭筋停止腱 のすぐ外側から肘窩 に出現する。さらに末梢まで追求して、手に至ることを確認する。この過程で前腕尺側 に内側前腕皮神経 も見つかる(Fig.44,58)。
内側上腕皮神経 と後上腕皮神経 はどの教科書にも出ている有名な神経で、比較解剖学的にも興味深い内容を持つ(Fig.44,45,58,59)。これらの神経は上腕内側 と言うよりも腋窩から上腕伸側 にかけて分布するため、時間をかけないと腋窩の剖出中に切れたり剥がれたりすることが多い。これに対して、内側前腕皮神経 は誰でもきちんと温存できるから、その根部で内側上腕皮神経の痕跡を探すことになるかも知れない。肩甲部から上肢伸側の皮神経 は、腋窩の剖出が進んでから行なった方が分かりやすいが(p.)、もちろん今調べても差し支えない。前腕伸側 では肘頭に近く後前腕皮神経 が見つかるだろう(Fig.59)。
手の皮膚を剥がしたら、帰る前に乾燥防止のため、5%フェノールで十分湿らした軍足を2枚重ねで手にかぶせる。
Biceps brachii muscle | 上腕二頭筋 | 46,48 | M. biceps brachii | |
Lat./Med. antebrachial cutan. n. | 外側/内側前腕皮神経 | 44 | ||
Post. antebrachial cutan. n. | 後前腕皮神経 | 45,59 | ||
Med./Post. brachial cutan. n. | 内側/後上腕皮神経 | 44,45 | ||
Axilla | 腋窩 | 19 ![]() | ||
Olecranon | 肘頭 | 45,59 |
大腿前面の大腿三角 (縫工筋 、鼡径靭帯 、長内転筋 で囲まれた場所)(Fig.494)の皮下には、リンパ節 とリンパ管 がよく発達している。浅鼡径リンパ節群 とこれらを連絡するリンパ管(Fig.369,490)を丁寧に剖出して、リンパ管網 とはどのようなものか確認せよ。リンパ管系はどの科に進んでも重要だ(付録「リンパ管系総論」p. 参照)。いずれ除去しなくてはならないので、今のうちにじっくり観察すること。
Femoral triangle | 大腿三角 | 494 ![]() | ||
Sartorius muscle | 縫工筋 | 494 | ||
Inguinal ligament | 鼡径靭帯 | 494 | ||
Adductor longus muscle | 長内転筋 | 494 | ||
Lymph nodes/vessels | リンパ節/管 | 369,490 | ||
Superficial inguinal (lymph) nodes | 浅鼡径リンパ節 | 369,490 |
丈夫な大腿筋膜 を損傷しないように皮下組織を除去して、皮下の血管と神経を剖出する(Fig.489,492)。鼡径靭帯 を確認する。大腿内側で太い大伏在静脈 を見つけ、上方に追求して伏在裂孔 という大腿筋膜の弱い部分を確認する。そこには、浅腹壁静脈 ・外陰部静脈 なども流入する(Fig.489)。皮神経 は大腿神経の前皮枝(多数)の他に、上前腸骨棘 に近接して太い外側大腿皮神経 が出現する(Fig.489)。大腿神経の前皮枝を内側に向けて丁寧にたどると、閉鎖神経の皮枝に吻合するが、そこまでの剖出には時間が足りないかも知れない。
Fascia lata | 大腿筋膜 | 492 | ||
Great saphenous vein | 大伏在静脈 | 492,520 | V. saphena magna | |
Saphenous opening | 伏在裂孔 | 489 ![]() | Hiatus saphenus | |
Superficial epigastric artery/vein | 浅腹壁動/静脈 | 489 | ||
External pudendal artery/vein | 外陰部動/静脈 | 489 | ||
Ant. cutan. br. of the femoral n. | 大腿神経の前皮枝 | 489 | ||
Inguinal ligament | 鼡径靭帯 | 492 | ||
Anterior superior iliac spine | 上前腸骨棘 | 499 | ||
Lateral femoral cutaneous nerve | 外側大腿皮神経 | 489 | ||
Cutan. br. of the obturator nerve | 閉鎖神経の皮枝 | 501 |
大腿後面では、ちょうど中央に浅くメスで割を入れて大腿筋膜 をめくり、後大腿皮神経 を剖出する(Fig.504)。大腿後面下部では、ピンセットで腓腹神経が容易に剖出できる。腓腹神経の命名法には系統解剖学上の約束があるが、ここでは総腓骨神経から来ても脛骨神経から来ても、総称で腓腹神経と呼んでおく(Fig.538)。剖出しながら、両神経に由来する枝(現段階では確定できない)が様々な変異を示して合流し、腓腹神経を形成することに気付くだろうか。小伏在静脈 がしばしば伴走する。この静脈を静脈瘤 を含めて引抜く抜去術 stripping をすると末梢神経障害が起こることがあるのも分かるだろう。伏在神経は、大腿三角と内転筋管の解剖を終えて本幹をつかまえてからの方が分かりやすい(p.)。その時に備えて、膝蓋骨下方の皮下はあまり破壊しないでおく。
Posterior femoral cutaneous nerve | 後大腿皮神経 | 504 | ||
Sural nerve | 腓腹神経 | 538 | ||
Common fibular(peroneal) nerve | 総腓骨神経 | 525 | ||
Tibial nerve | 脛骨神経 | 544 | ||
Small saphenous vein | 小伏在静脈 | 538 | ||
Saphenous nerve | 伏在神経 | 538 | ||
Adductor canal | 内転筋管 | 498 | ||
Patella | 膝蓋骨 | 520 |
足背皮下では浅腓骨神経 の末梢が見つかる(Fig.531)。第1-2指の間付近には深腓骨神経の末梢が分布するが(Fig.531)、下腿の筋を剖出してからの方が時間の節約になる。これら腓骨神経枝については、現段階では腓骨頭直下でいきなり総腓骨神経 を捉えるだけに留めておいてもよい(Fig.527)。ぶつけて痛い部位である。
足の皮膚を剥がしたら、帰る前に乾燥防止のため、5%フェノールで十分湿らした軍足を2枚重ねで足にかぶせる。
Superficial/Deep fibular(peroneal) nerve | 浅/深腓骨神経 | 531 | ||
Fibula | 腓骨 | |||
Head of the fibula | 腓骨頭 | 527 | Caput fibulae | |
Common fibular nerve | 総腓骨神経 | 527 |